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12話 少女との出会い

 

「ご飯できてるよ。

 手、洗ってきなさーい」


 家に入るとお母さんの声が聞こえた。


「はーい!」


 そう返事はしたものの、3時にお弁当を食べたからか、お腹は空いていない。


 そのことを伝えてご飯の量を減らしてもらう。



「おやすみー」


 寝る準備を終え、布団へ。

 目を(つむ)ると、悲しい夢が2日続いたことを思い出す。


((・・・今日もかな。嫌だな。))


 そんな不安を抱きながら眠りについた。


 ーーーーー

 ーーー

 ー


 心地良い風が肌に触れる。

 いつの間にか、()(がき)の一部のような高さ50センチ、横1メートルくらいの真四角の植物が目の前にある。


 周りにはそれ以外何も見当たらない。だだっ広い平原と、どこまでも続く青空。

 そんな景色のため、とても(さわ)やかな気持ちになる。


 が、()()()()()()()()()()()


((これはなんだ?))


 植物に触れてみる―――と、〈肉食植物 ドラグレド〉という文字が視界に浮かんだ。


((ん? 肉食???))


 そう思った瞬間、真四角の植物が動き出し、枝なのか(つる)なのか分からないものが無数に()え始めた。


((おー!!))


 珍しい生き物と出会ったら、誰もがそんな反応になるだろう。


 呑気(のんき)に見ていると、(つる)のように細い枝は俺を捕まえるよう素早く伸び、太い枝は後ろへ(しな)り、加速した状態で向かってきた。


((げっ))


 まさかの敵対行動。

 危険を感じ、軽く一歩後ろへ。

そのはずが、5メートル近くドラグレドから離れた。


((え!?))


 身体能力に驚きつつ植物を見る―――と、大きな赤い花が2つ咲いており、その中央にある目玉みたいなもので俺を見ている。  


「きもっ!!」


 ドラグレドは無数の枝を地面に突き刺し、地を()蜘蛛(くも)のような動きで向かってくる。

 見た目のキモさに動きのキモさが合わさり、思わず口からそんな言葉が漏れた。

 

 そのとき、1つの言葉を思い出す。


「エスク アラ トール。炎璧(えんぺき)。」


 言葉を口にすると、ドラグレドと俺の間の地面が盛り上がり、俺の背丈より高い壁が現れた。

 その壁は、赤色とオレンジ色が混じり合い、揺らめいている。


((温かい。いや、熱い!))


 壁とは二メートルほど離れている。

だが、熱気がものすごい。火傷はしないと思うが、熱気にあたり続けるのは不快のため、また一歩後ろへ下がる。


((勝った?))


 ドラグレドは、燃える壁に突っ込んだようで、壁の外側から見える枝は燃えてちぎれ、燃えカスと化していく。

 その状況からそんなことを思った直後、壁の左右から無数の枝が急激に伸び、俺の方へ向かってきた。


 危険を感じ後ろへ下がろうと足に力を込める―――と、また言葉を思い出す。


「エスク アラ ファグ ザクス。追火弾(ついびだん)。」


 即座に発すると、無数の火の球が俺の前で円上に出現。迫りくる枝や壁の反対側へ次々と飛んで行く。


シュシュシュ。ドガ。ドガ。ドガ。


 何十発もの火球が飛んでいくと、襲ってくる枝の動きが止まり、炭化した部分を残して霧散(むさん)した。


((倒した、、、か))


 姿が一切見えないので、壁の反対側を見に行きたくなる、、、が。ここは慎重に。

 もう一歩後ろへ下がり、壁が消えるのを待った。



 ほんの数秒で跡形もなく壁が消失。

そこには〈肉食植物 ドラグレド〉の姿も無かった。


((何だったのだろう))


 今の出来事を不思議に思いつつ、辺りを見渡す。


((おー!! めっちゃ見える))


 遠くまで見える自分の視界。

 それに気づいて驚きつつ、なにもない平原をあちこち眺める―――と、一人の少女が数十もの何かに追われる光景が目に(うつ)った。


((・・・どー考えても、追っかけてる奴が悪いよな!))


 少し悩んでそう結論づけ、少女の助けになるべく、(あし)に力を込めて走り出す。

・・・はずが、踏み出すことさえできず、その場で(ひざ)をついた。


 コケたらしい。


「あれ?」


 踏み足を見ると、地面がごっそり削られている。

 俺の力に地面が負けた。そんな感じだ。


((だっせー))


 自虐的(じぎゃくてき)なことを思いなが立ち上がり、作戦を考える。


「徐々に加速してみようか。」


 そう呟いて歩くことから始めた。



「よし! いい感じ。」


 脚に力を込めても体制を崩すことなく走れるようになったタイミングで、コケそうな少女に追いつき、抱き上げる。


 いきなりで驚いたらしく身体をビクッとさせる少女。


「助けて・・・」


 その表情に恐れはなく、聞こえるか聞こえないか微妙なほど小さな声でそう言った。


「ああ、もちろん!」


 足を止めずそう応え、振り返る―――と、追っかけて来る生物が得体の知れない奴だと分かった。

 数は30。全ての個体が二足歩行で体型は人間に近いが顔は獣や魚類のようだ。


 少女を見ると、服は汚れ、袖や膝が何箇所も破れている。胸下くらいまでありそうな長い金髪の少女は、年齢が7才くらいで身長は110センチくらいだろう。

 よく分からないが頭に薄っすらと雲がかかったようなモヤが見える。


((さて、どうしようか。

 逃げるだけってのも、な))


 ただ逃げるのは情けないように思い、倒すことを試みる。


炎璧(えんぺき)。」


 走りながら後ろをチラッと見てそう唱えると〈肉食動物 ドラグレド〉と戦ったときのように地面が盛り上がり炎の壁が出現。


 だが、敵への効果はほとんど無い。


((うわ、避けられた!))


 壁を左右に避けて追いかけてくるため、少しだけ遠回りさせる程度の効果しか発揮しなかった。


((ダメか))


 追っかけてくる奴を改めて見つつ、そう思ったとき、さっきと似た言葉を思い出す。


「エスク アラ グラ トール。長炎璧(ちょうえんぺき)。」


 無意識で発した直後、ゴゴゴゴっという盛大な音ともに地面が盛り上がり、高さ10mくらいで、長さは分からないほど大きな燃える壁が出現した。


((ま。まじか!?))


 思わず立ち止まって壁を眺めると少女が袖を引っ張った。


「わぁー、すごいねおじさん!」


 その言葉に違和感を持つ俺。


((え、おじさん? いやいやいや。))


 否定したい気持ちに一瞬なったが、そうかもしれないと何となく思い、笑って返す。




((さて、どうするか))


 燃える壁を立ち止まって見ていたが、〈肉食植物 ドラグレド〉との戦いで《炎の壁の持続時間が短かった》ことを思い出し、改めて走り出す。


 次の一手を考えながら走っていると、木が生い茂る雑木林(ぞうきばやし)が見えてきた。


((あそこに隠れるか))


 そんな考えに至ったとき。


「あ。壁が」


 少女の呟きが耳に届き、すかさず振り返る―――と、壁が上から徐々に消え、奴らが追っかけて来る様子が見えた。


 距離を離したとはいえ、隠れる場所を見られるのは良くない。


 そう思い、さらに加速するため少女を抱っこからおんぶに切り替える。

 その時、また言葉を思い出す。


「アス キル エビス。疾走(しっそう)。」


 唱えた瞬間、身体が急激に軽くなるのを感じ。


 コケかけた。


「わ。わぁ。

 ・・・おじさん、大丈夫?」

 

 乱れた走りの影響(せい)で危うく少女を落としそうに。


「あ。あぁ・・・ごめん。大丈夫だ」


 詠唱前でさえ、時速50キロは出ており、さらに速度が上がった今、落ちたら大変な目に()うこと間違いない。

 それにも関わらず、少女は俺を心配をしてくれた。


 少女の優しさに心を(なご)ませつつ、余裕の笑みを作ってそう答えた。




 詠唱の効果だろう。

比較にならないほど速く走れたため、遠くに見えていた雑木林があっという間に近づく。


((あ。やばい。。。))


 止まれない。

 速度もやばい、木にぶつかると危険、出っ張った木の根でコケるかもしれない。


 そんな考えが頭をよぎったとき、新たな言葉を思い出す。


「 ルーフ ラル レドン。」


咄嗟(とっさ)に唱える。が、


(( やば! ぶつか))


 木に激突しかけ、気持ちより先。

 反射的に地面を強く蹴る。


(え!? 飛んでる!?)


 地面を強く蹴ったからか詠唱の効果なのかは分からない。

 ただ、木々が米粒に見えるほど空高く上昇。

 

 落下。


「きゃぁぁぁぁ。」


 少女が悲鳴を上げる。

 俺も恐怖を感じるが、少女を護るため抱っこに持ち替え、ギュッと抱え―――着地。


 足を木に引っ()け、ぶっ倒れるイメージを持っていた。が、現実は木々を気にすることなく、平原と同じように進めている。


((んん、なぜだ?))


 少女も一向(いっこう)に衝撃が無いことを不思議に思ったのだろう。顔を上げてキョロキョロし始めた。


「おじさん・・・えっと・・・これは?」


 俺にも分からない。


「さぁ、分からん」


 歩きながらそう答える。と、何が可笑(おか)しかったのか笑い出した。


「あっはっは。う ふははは。 はふ」


 苦しそうに思えるほど、爆笑。

その様子を見て俺も微笑む。


((緊張が解けたようだな! 良かった。

 んで、この状況はいったい。))


 理由を探るため、左膝(ひだりひざ)で木に(ふれ)る。

 すると木の感触が伝わり、枝が揺れた。


(((さわ)れたか))


 率直にそう思った直後、バランスを崩し倒れそうになった。


((おっと))


 慌てて左足を地面につけ、体勢を立て直す。

 そこで、ふとももに木がぶっ刺さっている。いや、()り抜けていることに気づく。


((なるほど。透明になっているのか!))


 何となく分かり笑みが漏れる。しかし、効果の持続時間が不明だと気づき、慌てて足をずらした。

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