10話 山菜採り
もみかちゃんが元気になりつつあることを感じたからだろう。
「武咲、行く?」
電撃モリを持った優兄が僕にそう聞いてきた。
「まだ身体が冷えてて
・・・えっと、山菜採りしない?」
「んー。 そうするか!」
冷えた手を握ったり開いたりすると違和感があり、さすがにこの手ではできないなと感じたので、もう一つのクエスト〈山菜採り〉を行うことにした。
「よし、行こう」
「うん!」
「あ! その前に。」
そういってスマホを取り出す優兄。
「パーティーリンク、しようぜ?
そうだなー。俺と武咲は500m。
みっちゃんたちは2キロにしよう!」
「うん。 分かった!」
パーティーリンクとは、パーティーメンバーが持つスマホと自分のスマホとの距離が設定した距離以上に離れるとアラートが鳴り、位置情報を示してくれる機能で、今のように距離を離れて行動するときに便利な機能だ。
さっそく僕もスマホを取り出し、パティチャを開いてパーティーリンクを設定。
その後、二人で山菜採りを開始する。
今の時期だとウワバミソウ、イワタバコ、フキ、シソ、キイチゴ、ヤマモモなどが採れるらしい。
「優兄。植物採取のレベルいくつ?」
「最近、レベル3になったよ!武咲は?」
「僕は2!」
スマホの画面と植物を交互に見ながらそう答える優兄。
僕も返事をして植物採取に集中する。
ちなみにレベルとはスキルレベルのことで、スキルは関連するクエストの達成により獲得できる。
例えば、採取系クエスト〈野草採り〉を初めて達成したとすると、クエストクリアとともにスキル〈植物採取 Lv.1〉を獲得する。
また、クエスト達成数を増やすなどの条件を満たすとスキルレベルが上がり、最大レベル10まで上がるそうだ。
((お、これは?))
植物採取はスマホの植物図鑑と自動判別機能を使いこなして行う。
特に自動判別機能は、機能を有効にして植物を撮影するだけで候補となる植物を表示してくれる便利な機能である。
とはいえ、いちいち機能を使うのは面倒なので、新しい植物は自動、覚えた植物は自力で判別している―――と、ウワバミソウと思われる植物を発見した。
単体で生えているものは必ず根を残し、群生しているものは多くても3割までしか採取してはいけない。それが採取系クエストの基本的なルール。
今回見つけたウワバミソウは、単体だったので茎をちぎって採取する。
「そろそろ戻らない?」
「おう! そうするか。」
鞄が程よく一杯になったので、優兄にそう提案するとすぐさま賛同してくれた。
採取はウワバミソウ、イワタバコ、フキ。特にフキが大量だ。
「根っこついてるよ?」
滝を目指して歩いていると、優兄の鞄からチラッと根っこつきの植物が見えた。
根っこには土や虫が付いているため鞄が汚れるだけで良いことはない。
そう思い優兄に聞くと、根っこつきで採った方が高く売れるらしく、あえて根っこつきで採取したと教えてくれた。
((根っこ付きかー、高く売れるなら。
・・・やっぱり、嫌かな。))
そんなことを思ったり、もみかちゃんの体調を気にしながら滝が見える位置まで戻って来る。
「あれ? 居ないね」
滝の辺りをぐるっと見渡しても美騎姉ともみかちゃんの姿は見当たらない。
僕はそう呟いて立ち止まるが、優兄は足を止めることなく歩いていく。
「モリがないから、岩魚クエじゃない?」
なるほど!そうかもしれないと思い、滝の方をみる―――と、頭が2つ並んで見えた。しかも、手を振っているようだ。
「岩魚獲ったよぉ! やったぁ!!
ね、美騎姉」
めっちゃ嬉しそうなもみかちゃんの声。
水から上がってきた美騎姉ともみかちゃん。その手には、30センチほどの岩魚がピチピチと跳ねている。
「すご!めっちゃ立派な岩魚じゃん!」
「おぉー!! これが天然の岩魚か!
綺麗だ!」
全体的に白い斑点があり、背びれあたりは黒く艷やかで、おなかにかけて色が薄くなっている。
印象としてはマスより好きな顔立ちだ。
「でっしょ!二人で協力したんだよ。
ね、美騎姉!」
「そうね!でも、もっちゃんの的確な指示のおかげだよ! 私も初めて獲ったから」
お互い褒め合いながらはしゃぐ姿がとても可愛い。
((良かった!))
ついさっき溺れたことはすっかり忘れているのか、克服したのか、いつも通りの元気なもみかちゃんの姿にホッとしたのであった。
僕たちも山菜採りの成果を見せる。
「草。草。草だね!
あ。フキ!・・・量やばっ」
率直なもみかちゃんの反応に、僕たちは笑う。
そして、帰り支度。
美騎姉たちの着替えを待つ間、優兄と一緒に持ってきた袋へ水と岩魚を入れたり、持ち物の分担を決めたりする。
「さて、下りよっか!」
「うん!」
帰りは道ができているので、枝や草を切る必要は無い。そのため早く下りられるのだが、ある意味危険だった。
刈った草で滑ったり、思わぬ段差に躓いたり。。。それでもコケず怪我せず下りられて、ユルガンドに戻ってきた。
今回の採取物は天然物。
なので、クエストクリアの判定をスキル〈植物鑑定〉がレベル5以上の人に行ってもらう必要がある。
また、植物の判別と採取量の計測も同様にスキル〈植物鑑定〉がレベル5以上の人に行ってもらう必要があり、判別と計測の後は冒険者ギルドの〈買い取り価格表〉に掲載された価格で買い取られる。
また買取対象は〈特別クエスト一覧〉に掲載されているモノもあるらしく、高い方の値段で買い取ってもらえる。
ユルガンドの中に入ると和兄が待っていた。
「おつかれ!
岩魚獲ったんだって?すごいなぁ!」
和兄の植物鑑定Lv.5を持っているようで、優兄はいつも和兄に植物鑑定をお願いしているらしい。
だから鑑定を依頼するため、優兄は山を下りながら和兄に連絡を入れたそうだ。
早速、岩魚と採取した植物を見てもらう。
採った植物はウワバミソウ、イワタバコ、フキで合っていたようで、似た植物との違いやこの時期に食べられるその他の植物などの豆知識を交えながら採ってきた全ての植物を鑑定してくれた。
鑑定後。
買い取り価格表と特別クエスト一覧を和兄と一緒に見る。―――と、思いもよらないことが起きた。
なんと、天然岩魚が特別クエストに掲載されているのだ。
〈天然岩魚捕り 10万リグ(先着1匹)〉
「10、10万リグだって!!」
「え、ウソ。まじか!」
通常価格は一匹100リグのため、千倍の値段がついている。
これには驚き、みんなで大いに喜んだ。
「お! なぁ、力斗―――」
ちょうど通りかかった和兄のパーティーメンバー力斗君に聞くと、特別クエスト〈天然岩魚捕り〉は、冒険者ギルドが深く関わるゲーム〈十王〉のトップ報酬として注文があったらしい。
本来は天然と養殖で価格差を付ける依頼は掲載できないルールなのだが、特別に許可が下りたそうだ。
和兄が現物の写真を撮り、クエストクリア申請を行ってくれた。
クリアが確定したことを冒険者ギルドアプリ〈ルークス〉で確認。その後、採取物をユルガンドの中にある引渡場へ持ち込む。
「鑑定ありがと!和兄」
「おう! いや、こっちこそだな。
儲けさせてもらったわ」
鑑定の手数料は2割。それが共通ルールだ。
和兄と笑顔で別れた僕たちは、エレベーターで二階へ上がり、昨日学習クエストをやった机と椅子が置かれた場所にやってきた。
理由は思わぬ大金をどう分配するか話し合うためだ。
僕たちは椅子に座って報酬額を確認する。
〈本日の報酬 84,400リグ〉
「おー!! 8万四千四百。
・・・俺たちの採取が安く思えるな、武咲」
「そだね!」
複雑な心境を表わすような表情で僕にそう言う優兄。報酬の詳細はこんな感じだ。
クエストクリア報酬
・岩魚捕り 1200リグ
・山菜採り 400リグ
採取物報酬
・岩魚 1匹 80000リグ
・ウワバミソウ 10束 600リグ
(食用)
・ウワバミソウ 3束 480リグ
(生産用)
・イワタバコ 7束 560リグ
(食用)
・イワタバコ 4束 640リグ
(生産用)
・フキ 20束 500リグ
(食用)
・フキ 1束 20リグ
(生産用)
クエストクリア報酬は一人で受けても四人で受けても同じ値段のため、1600リグが合計額。岩魚を除く採取物報酬は2800リグが合計額のようだ。
((生産用ってのは優兄が採った土付きのことかな?))
そんなことを思いながら眺めていると、優兄が口を開いた。
「美騎姉ともみかちゃんが獲った岩魚だし、岩魚報酬は二人で分けていいよ!」
「そだね!
初記念が良い思い出になったじゃん!」
優兄と同じ意見だったので、合わせて賛同すると、美騎姉がもみかちゃんの顔をちらっと見る。
「えっと、、、、お金のことはパーティーを組んだら必ずあがる話題で・・・毎回配分を考えるのはめんどうだよね? だから、、、全部均等割にしない?」
「うん、和多志もそっちが良いな!
お金が欲しくて頑張った訳じゃなくて・・・その・・・迷惑かけちゃったから・・・。それに、楽しい思い出にしたくて頑張ったら獲れたの。だから、みんなで分けたいなぁ!喜びもお金も!」
美騎姉の後にもみかちゃんがそう続けた。
優兄は美騎姉ともみかちゃんの顔を見たあと、僕に向かって「じゃーそうするかな。いい?武咲」と聞く。
「うん!いいよ」
僕がそう返事をしたことで意見がまとまる。
優兄が代表してパティチャを操作し〈均等配分〉の設定を行うと、僕たちのパティチャ画面には、〈21100リグを獲得しました〉というチャットがシステムから送れてきた。
「高額報酬ゲット!!
美騎姉、何か買う?服はユルで選べるもの可愛いから要らないよねー・・・んーあ!ブラとか!!」
「ふへっ!?」
もみかちゃんの急な発言に美騎姉は慌てた反応をして目をパチクリさせ、顔がみるみる赤くなる。
「ちょ、ゆーくんがいる前でそうゆうこと言わないで!」
小悪魔のような笑顔のもみかちゃん。
その背中をポコポコ叩きながらそういう美騎姉。
((もみじ笑笑笑 そりゃそーなるよね笑・・・ん?優兄だけ?僕もいるんだけど・・・))
そんなことを思いながら、優兄を見ると呆れたような苦笑いを浮かていた。




