逃避と急襲(4)
私は拗ねかけた。
けれど大人としてわがままな気持ちを一旦押さえ、話を続ける。
「それで、時間は稼いだと思うんだけど、どう?」
『……色々考えたけど、今使える魔法でどうにかするのは難しいわ。私の考えた罠は空を飛べるやつにはほぼ効かないし。羽を切れば飛べなく出来るかもしれないけど、上手く当てられる?』
「ううん、無理」
動かない的を狙うならまだしも、自由に飛び回る鳥を狙うのは難しいと思う。先程の攻撃が不意をつけたやつしか当たらなかったのを踏まえると、回避能力もそれなりに高い。飛行を制限するような何かを準備しないと、狙っての命中は運任せになるだろう。それは得策とは思えない。
あの鳥も鹿のように学習能力が高い魔物なら、2度目は通用しなくなる恐れがあるからだ。
『強い風を正面からぶつければ、空中で止まっているように出来ないか?』
『前に進めないほどの強風を当てるの? 多分効くと思うけど、動きを拘束するって意味だと半端になりそうね。相手は空を飛べる訳だから、止まった瞬間に狙うくらいじゃないと避けられるかもしれない。保険として動きに制限をかけられるような地形があれば或いはだけど』
『地形……。ダメだ、調べたけど良さそうな場所は近くには……』
ここは海が近い住宅街のど真ん中であり、鳥の魔物から自由を奪えそうな場所はそうない。多少の壁なら速度を乗せた突撃でぶち抜いてくることを最初に確認してあるので、普通の家では隠れ蓑にはなっても動きの制約としては今ひとつだ。ケイスケさんは周囲の地形を調べ、それに適した場所はないと答えを出す。
(障壁系の魔法を空中に出せば動きを制限出来るとは思うけれど、私が同時発動出来る数は片手の指以下。周囲の地形に恵まれないと失敗する確率は高いかも……)
私も魔法で動きを制限出来ないか考えるが、現状の魔力制御技能では数段ハードルの高いものを要求されていると感じ、難しいと思った。
『逃げましょう。確実に倒す方法が今の状況だと思いつかない。相手する方が危険よ』
「うん……」
サヤはあれとやり合うより逃げに徹した方がマシだと結論付ける。私達へ戦うのを避け、船が来る地点の近くで隠れるように言うと、私はサヤの判断を信頼して従う。
『魔物の位置と動きには常に注意しておいて。鳥の魔物は全部で何体?』
「えっと、1、2…………2体は確認出来た。他は全部地上にいるやつ」
3Dで表示される市街地図には、空中をぐるぐると大きく旋回する点が2つ。1つは私のいる地点上空で旋回、もう1つはより大きな円を描くように陸側の方を旋回している。他は地上の市街地の中を微動だにせぬ様子の沢山の点で、鳥の魔物から隠れているのか、どの点もずっと動きを見せない。
(あの魔物にとって、隠れてやり過ごさないといけない魔物なんだろうな)
『ただ逃げるだけだと向かってきている船が巻き込まれる気もするが……そのあたりはどうする?』
『イグノーツに頼るのが一番ね。あの人なら魔物相手に負けるとは思えないし、巻き込みにいった方がまだ良い。後で色々と言われそうで気乗りしないけど』
まあイグノーツのことだし、もっと良いやり方としてこんなのが〜……くらいは挙げるかもと思う私。その時ふと思った。
「ねえ、イグノーツさんに鳥の魔物について聞けば方法とか教えてもらえるんじゃない? もしかしたら私達でも何とか出来るかも……」
彼が私達の前で見せた実力からして、鹿の魔物は楽々で倒せる腕前は保証済み。加えて彼が攻撃に使う魔法は『物を飛ばす魔法』。効果から見るに放射系だ。恐らく空中にいる目標を狙うことも出来る。イグノーツに任せれば鳥の魔物もなんとかしてくれるとは思うが、彼に任せっきりなのはおんぶに抱っこみたいで嫌になる。どうせ頼るなら自分たちで出来ることがないかという形で頼ってからにしたい。
そう思う私に対し、ケイスケさんは、
『確かに、あの人なら知っているかもしれないね』
と返してくれた。するとそれに反応したサヤが、
『安全を考えるなら、私達だけでやらない方がいいわよ。前知識があるのは良いことだけど、実際にそれを、しかも最初から活かすのは難しい。初めて見る魔物の対応をするなら側に経験者がいた方がいい。船が来るまで隠れる以外の行動はしないべき』
「え、じゃあ……」
『話は聞くけど、3人で仕掛けるのはなしよ。いいわね?』
「……うん」
『まあ、安全策の方がいいよな』
若干項垂れながら答えたあと、海の方を目指しながらゆっくりと前進していった。サヤ達とは居場所を地図の表示で確認しながら、巨大な植物の陰や家の中を通り、時折魔物の動きを見る。そうして周囲の状況を把握しながら二軒ほど先へ進んだ時、ケイスケさんからメッセージが来た。
『鳥の魔物が地上のやつらを襲い始めた』
ターゲットを見失いしばらく経ち、魔物は狙いを変えたらしい。私を見失った地点から離れ、別の獲物を探し出したようだ。それを見たサヤから『今のうちに行くわよ。ツカサはイグノーツに鳥の魔物について聞いといて』との言葉。狙いがこちらに向いてない間に、障壁を出しながらその上を移動していく。
移動の途中、お邪魔した家の2階で植物に侵食されきってない床を発見した私は、小休憩を兼ねそこで足を止めると連絡を取った。
『イグノーツさん、聞こえる?』
『聞こえますよ。どうされましたか?』
『いま予定の場所へ向かってる途中なんだけど、鳥の魔物が現れて空からこっちを探しているの。私達はどうすればいい? サヤはイグノーツさんに任せた方が安全って言ってるけど……』
話を伝えるとイグノーツは「ふむ」と、ワンテンポ置いたあとでそれに答える。
『実際、私が対処した方が確実でしょうね』
『………………』
イグノーツは恐らくサヤの判断を妥当と思っただけだろう。しかしそれを肯定する口ぶりがなんとなく、私では力不足と言っているみたいに受け取れ、それに気持ちが沈む。認めたくない。本当に自分では出来ないのか? 私はもう魔物と戦った経験がある。全くの初心者ではないのだから、何か出来ることはないのか? そう考え出しそうになった時。
『もしや自分で何とかしようとしていませんか? 止めた方が良いです』
私の気持ちを読んだイグノーツから忠告を入れられる。私はすぐにそれへ反応した。
『どうして? イグノーツさんと比べればずっと経験が足りないだろうけど、私も前に魔物を倒したことがあるよ。倒すってことが難しいとしても、弱らせるくらいなら……』
いくらなんでも自分だけで倒せるなどとは思っていない。実力を厳しく見積もって考えるなら、倒すなんて目標は傲慢だと自覚している。今日初めてみる魔物というのに加え、鳥の姿という空を飛ぶことに優れた形をしたものが相手だ。無茶はしない。ただ弱らせるだけ。
私はそういう風に意思を伝えようとする。しかし、それを聞いたイグノーツからの返事は……
『ツカサさん。少々厳しい言い方をさせてもらいますが、相手の体力を消耗させ弱らせることを、ただ倒すのより簡単なことだと思われていませんか? 自分の実力では倒すことは無理だが、弱らせることは出来る、と。でしたら尚のこと認められません』
『そんな……なんで?』
現実を突きつけようとする彼の言葉に、思わず聞き返して知ろうとした。
理由を聞きたがる私へイグノーツは続けて言う。
『魔物との戦いは一方的な狩りとは違うからです。魔物というものは賢く、追い詰めていると思った側が、一転して追い詰められる側へ回ることもある。戦う技術や知識を持つことは当然ながら、狩る・狩られる立場が容易に逆転しうる相手であるという認識がなければならない、危険という言葉を形にした存在なのです。対峙するならどんな形であれ油断は禁物。そんな相手に貴方は「弱らせるくらいなら出来る」と言いました。魔物との戦いで弱らせた経験もないツカサさんが、なぜ弱らせるくらいなら出来ると断言出来るのです? その根拠がもし、過去に魔物を倒せたことからくるなら、危険な慣れでしかない。ゆえに、その自覚すらない貴方が戦う行為は、「弱らせることも倒すことも出来ないかもしれない」と考える人より、認められないのです』
そう告げる強い言い方は真剣さを帯びたものに聞こえ、正直な声のようにも感じられた。それは私の、「なんで」という気持ちの上から押し入ってきて、反論し難い気持ちを心の奥に植えつけてくるほど、力のこもったものだった。
(危険な慣れって……倒すのよりも弱らせる方が難しいの? 分からない。どうして? 弱らせていけば動きは鈍くなるだろうし、反撃されても交わしやすくなる。それに深追いしなくて済むから、無茶なことはしない。なのになんでダメなの? それが分からないくらいなら何もしない方がいいの……?)
言葉と共に魔法で送られてくる感情を受け取ると、分からないから納得いかないという気持ちと、理解が追いつかないが危険は避けるべきだという理性が、正面からぶつかり合って心がぐちゃぐちゃになった。
『……どうかご理解ください。そして色々思うことはあるでしょうが、自分の安全を第一に。出来るだけ早くそちらへ向かいますので』
先程までとは違い、優しくお願いするような声でイグノーツは言った後、こちらからの返事を待たずに会話が切られる。本の上で鳥の魔物を示す点が動き、点が1つ消える中、私は自分が今一度冷静なのかどうか思考を巡らしたあと、本に映し出される情報へ目を向けた。
(今は、イグノーツさんが言ってたことをサヤに伝えるだけにしよう……)
彼は自分が対処した方が確実だと言った。そして私には自分で何とかしようとするなとも。自身で対処するからという意思表示だろう。そう解釈した私はサヤへと伝える。
彼との会話からをサヤに伝えるまでの時間、2羽の鳥は隠れている地上の魔物を次から次へと襲っていき、マップ内の魔物は数を大きく減らしていく。あまりの減りの速さに途中でケイスケさんは『……変だ』と喋ると、それに話を聞き終えたサヤが反応した。
『変ってなによ。兄さん、もっと詳しく』
『いや、なんていうか、鳥のやつ魔物を狩ってはいるが取った獲物の扱いがなんか……雑なんだよ』
『どんな風に雑なの?』
『えーっとだな……普通、獲物を狩るのって腹を満たすためだろ? 獲物が小さいとか持ち運び出来るサイズじゃなければ、狩った側は暫くそこへ留まるはず。あのサイズだとどうなのかは分からないけど、狩ったあとすぐに離れては飛び立ってを繰り返していて……獲物を一口も食ってない動きなんだ。おかしいだろ?』
言わんとしていることは伝わる。
野生動物が他の動物の命を奪う際、どういう理由からそれを行うか。まず考えられるのは食糧こと肉の調達である。一般的に自然界の肉食動物は、狩りで得た肉を食べる際、その場で食べるか他の動物に横取りされにくい位置まで持っていってから食べるかする。どちらにせよ狩った獲物からはすぐに離れない。苦労してとったものを奪われるのは嫌だから。
しかし鳥の魔物はどういう訳か狩った獲物を、興味が失せたみたいに放置している。ケイスケさんの疑問を示すかの如く、表示されている点を減らす動きを地図上の鳥は行っていた。
確かに不可解な動きだ。一羽の鳥が既に何体もの鹿の魔物をこの短時間のうちに狩って回って…………二羽で十数頭分に達している。もう彼らのお腹に収まる量じゃない。備蓄なら生かしていた方が日持ちすると思われるが、巣に連れ帰るとかそういうのも見られない。
『おかしいのはそうね。でも、こっちに目が向いてなければ今はなんだっていいわ。行きましょ』
謎だが、サヤは気にしないことにした。行動の理由をいちいち考えてたら動くのに時間を取られすぎると思ったのかもしれない。実際、それは正しい思考だった。
——発生まで40分。
本からのメッセージが警告を鳴らす。考えているだけで20分近く費やしていたことを知り、口よりも前に足を動かさなければならないと歩き出した。兎にも角にも目的地のすぐ側まで行き、細かいことはその後である。でないと極大繁茂に巻き込まれて死だ。
住宅地を抜けると海岸はもうすぐ。海岸の手前で防壁の如く広がる公園が見えてくるが、そこは今や森林化著しい森も同然。下手に進めば大怪我間違いなしの領域であるものの、迷う時間すら残されていない私達は、それぞれ別のタイミングで、けれどさっさと公園内に突入する。
『海岸の様子は? 何か待ち伏せたりとか』
『今のところは何も。鳥の魔物が飛んでいるからそっちには見えるかもしれないけど、鹿の魔物は1体もいない』
ケイスケさんの質問に一番に着いたサヤが状況を答え、次いで私達がサヤのもとへ集まる。着くとサヤの周りは雑草がみな横倒しになっており、周囲を魔法で整地したあとだった。
「鹿の魔物、結局かなり狩られたみたいだね……」
「マップから確認出来るので残っているのは数体ね。どんだけ狩れば気が済むのかしら。魔物の考えは読めないわ」
サヤの位置から最寄りの砂浜には、彼女の兄が魔法で作っておいた石の船乗り場が海へと直角に切り込んでおり、船が着いた時最短距離で向かえる位置にある。サヤは周りの魔物の動きを観察しつつ、最適のタイミングを待っているようだ。
「イグノーツさんが来るまでここで待つ、でいいんだよね?」
「そうよ。まあ鳥の方がどこかへ行ってくれたりした後なら出てもいいけど」
「様子を見て待つしかないか」
お互いに動くことが得策でないと共有した後、私達はじっと隠れ、時が経つのを待つ。
暫くして、空中を飛んでいたやつの片方が離れていくが、もう片方は旋回飛行して留まっていた。
「ツカサさん、船はあとどれくらいで着くか分かる?」
「えーっと、あと5分以内には来れるって……」
そうケイスケさんが聞いてきた頃、再び本からの警告が出される。残り20分。
表示を見たサヤは苦い顔を浮かべる。
「空に残っている片方もどっかいってくれないかしら。というかイグノーツも速度飛ばしている割には遅いわね」
「何かトラブルとかがあったのかな」
「かもしれない。はあ……厄介事がこれ以上増えないことを祈るわ」
「……あ!」
本から鳥の動きを追ってた私は、残った1羽も離れる動きをしたのを見て、思わず声を出す。
サヤ達もまた確認すると、空を見上げてその鳥を探し出し、見つけたと同時に「あっ」っと言いながら、その方向を指差した。木と木の間だったから見えにくかったけれど、遠くの空に翼を広げて飛んでいる物が確認出来、肩の力を抜くように息を吐くサヤ達。
(良かった……)
もし留まられていれば見つかるのを覚悟で船まで走らねばいけなかっただろう。
そう思うと体にこもっていた緊張の糸が解け、私も同じように息を吐くのだった。
「これで何とか避難出来そうね」
「ああ……けど、念のため船の姿が見えるまではここにいよう。もしかしたらまた戻ってくるかもしれない」
「良い考えだと思うわ。ツカサもそれでいい?」
「うん、良いと思う」
気まぐれでも起こして鳥が戻ってきた際、見つかるような位置にいたらまずい。私とサヤはケイスケさんの意見に同意し、木の影に隠れて船を待っていると、海の向こうから段々と大きくなる船影が見えてきた。それはあの時私が港で見たクルーズ船であり、近づくにつれその姿形を明瞭にしていく。
(早く、早く……!)
クルーズ船が船乗り場の近くまで来ると、私達は飛び出すように船へ走り出す。警戒のために途中で空を見渡したが、飛んでくる魔物は見当たらない。それで行けると思って無事接岸した船のところまで走り抜けると、甲板よりロープが垂れ下がってきて上から声がした。
「早く乗りなさい! 陸の様子がとても変だ!」
乗組員ではない。船に避難していた客らしき私服姿の人が、そう真剣な顔で急かしてくる。
その時立ち止まったから気付いたが、地面の奥深くよりズズズ……と、蠢くような音がしていた。
(これは、『極大繁茂』の音……!?)
走っていれば気付かない程度の、僅かな揺れと音が周囲の大地どこからでも感じられる状況。今まで一度も経験したことのない大災害の確かな前触れに、鼓動が速くなる。全身から冷や汗が吹き出るような錯覚に襲われる。すぐ逃げろと。早くその大地から離れろと、無意識が急かしていた。
「……兄さん、魔法でこの地面上に伸ばせる!? もしくはロープより早く上がれる魔法!」
「やってみる!」
サヤは垂らされたロープを見るや否や、ケイスケさんに向けそう確認した。ロープ1本で3人上がるのにかかる時間を想像してのことだろう。言われて即座にケイスケさんは魔法を発動にかかり、私達の足元を魔法で複製し伸ばそうとする。しかし、
「ちょっと兄さん、足元が埋まってきてるわ!」
「え!?」
水嵩を増すように伸びていく地面が、私達を持ち上げずにその周りへ地面を積み重ねていく想定外の現象が発生。思わずケイスケさんの方へ振り向き「なにやってるの!?」と見るサヤだが、彼も目の前の事象に驚き混乱した様子だった。
私も足元から埋まっていく感覚に驚いて何が起きたのか理解が進まなかったけれど、靴底から伝わる感じと足回りの地面が伸びていく感覚の差に気付く。
(まさか、地面スレスレから伸ばそうとしているから? だったらもう少し下の方から伸ばせば……)
「ケイスケさん! 足元からじゃなく、そこより少し深いところの地中から伸ばしてみて!」
「わ、分かった!」
こちらの言葉にケイスケさんが魔法の発生地点を変更した直後、足元を埋めるように増えていたのがピタッと止まって、代わりに今度こそ、私達を持ち上げるように足場が上へと伸び始めた。これでなんとか船内へ歩いて入れる高さまで……そう思った時、懸念していた事態を告げる声が。
「遠くから大きな鳥がこっちに来ている! なんだあの大きさ!? 乗客の皆さん、急いで中へ! 君達も早く入るんだ!」
甲板で待っていた乗組員の人が、鳥の魔物がこちらへ飛んできているのを目撃し、そう叫んだ。やっぱり、という風な顔になる私とサヤ。
飛んできたのは一羽。地図の範囲には二羽移っているが、片方はより遠くでここからだと影も形も見えない。明確に接近してくる一羽に対し、私達は足元が地面に埋まっていて半歩すら移動出来ない状況。鳥のいる方を確認したあと、互いを見合ってすぐに行動を決める。
「ツカサはあの鳥が来ないよう魔法で追い払って! 兄さんは魔法で防御! 私は足のこれをなんとかする!」
かくして役割が決まり、各々がそれぞれの役目に専念し出す。
鳥の魔物は真っ直ぐに私達のいる方目掛け飛ぶ。私が切断系魔法を放つと避けるように斜め上へ羽ばたき、再び接近を試んでくるが、それを拒むように私が魔法で追撃すると、一旦頭上を通り過ぎていった。直後、誰かの魔法が鳥のいる位置で起こり、爆破したような衝撃が生まれた。
(イグノーツさんのだ)
誰の魔法かはすぐに理解した。衝撃を受け、よろける鳥の魔物。だが魔物は落ちる前に体勢を立て直すと、天高くグンと昇る。そしてこちらの頭上を取り真っ逆さまに急降下してきた。凡そ鳥のする動きではなく、真上という見にくい方向からの降下。加えて錐揉み落下みたいな動きをしてるせいで、狙いが定めにくく魔法が当たらない。
(ぶつかる!)
「——くっ!!」
反射的に目を閉じる私達。その中でケイスケさんが口を開き、直撃だけは防ごうと上に障壁系魔法を発動する。
ぶつかるのを覚悟したその瞬間、身体に受ける衝撃はなく、ほんの数瞬だけ周りから音が聞こえなくなったかと思うと、目を開きかけたタイミングで足元から激しい揺れが襲ってきた。
(えっ!?)
僅かな間に連続して起こったことが、一体何だったのか分からなかった。
鳥の魔物がとった軌道が、私達の想像を逸したものだったから。
鳥の魔物は、頭上から襲うような動きを取りながらすぐ横を降下していった。海面にぶつかる寸前に急停止すると、すぐに私達の方へ方向転換。その狙う先は私達……の立つ足場の方。それを船ごと貫こうとしたのだろう。どうやってかその場で急加速し突撃、貫いたのである。
船はイグノーツの魔法で保護されていたらしく鳥の突撃を受け流した。
だが足場の方は貫通されてしまう。
ケイスケさんも足場の方までは防御を……攻撃を受けることを想像してなかったらしい。崩れゆく足場に落ちる未来が脳裏を過ぎる。
(落ちる——!)
……かに思われた。
壊された直後、すぐにケイスケさんは障壁魔法を足元に出し、代わりとなる足場を生み出す。崩れる足元へと差し込むように。そうして出来た障壁に私達を着地させる。
更にそのタイミングで、足回りを固めていた地面をサヤが剥がすことに成功。溶けるように剥がれ出したのを見るや否や、私とケイスケさんに伝える。
「よし、動けるようになった! 船に乗るわよ!」
ハッとするとすぐさま甲板へ飛び乗った。
船には乗れたがまだ安穏と出来る状況ではない。
空にはまだ鳥の魔物が1体、こちらを狙って飛び回っている。
「どっかへ飛んでいってくれる気はなさそうね」
上空を旋回する魔物に去る気がないと察し、サヤは顔を歪める。それと同時に、船の操縦をしているイグノーツからの声が魔法越しに聞こえ出す。
『ツカサさん聞こえますか? そちらの乗船を確認したので船を出しますが、空の魔物がこちらを狙っておりこのままでは追ってこられるでしょう。私が倒しますからその間、船内へ避難をお願いします』
「う、うん! サヤ、ケイスケさん!」
私はイグノーツから言われたことを2人へ伝えると、外に出てきた彼と入れ替わる形で、中へ入って行った。




