逃避と急襲(3)
私達が近くの魔物を倒したあと、罠にかかって誘導された個体が倒されたことにより、近い方にいる魔物も異変に気付いて動き出すかと思われた。しかし、私の予想に反するように魔物の位置に変化は見られない。
(気付いていない? それとも……)
一箇所に集まって警戒するかと思ったけれど、そんな様子が見られず動きすらしなかったことが不可解でならない。このままでいてくれるなら楽が出来るので有り難くはあるが……魔力の動きが見える魔物が先程の戦闘を全く知覚してなかったとは考えにくい。
気になる。けれどそれが何なのか頭の中でハッキリさせられない。
私は気のせいであることを願い疑問を頭の隅に追いやり、表示されている地図と、そこに出ている会話へ視線を落とす。
『向こうは動いていないわね。今のうちに数を減らしておきましょう』
『……大丈夫かな?』
『何が?』
『目に見える範囲で一体魔物の姿が消えたのに、残っている連中が動かない。アレが俺の知っている魔物なら、こっちで何かあったくらいは気付きそうだけど』
一度戦闘で対峙したことがある分、ケイスケさんは相手の動きに何らかの違和感を覚えたのだろう。地図上の魔物が全く動いていないのに気付き、変だと言う風に感想を述べる。
『鹿の目なら今の誘導が1体も見えてなかったってことはないはずだ。なんかおかしい』
『それはそうね。けれど理由が分からないんじゃ対策のしようもないわ。何より今は時間が惜しい状況。悪いけれど兄さん、各個撃破のチャンスだと思って仕掛けてくれる?』
サヤは一定の共感を示しつつ、けれどどうしようもないことだと語り攻めるよう頼んだ。長々と思考に時間を費やしていれば、逃げなければならない大災害に巻き込まれる可能性が高まる。そうなっては元も子もないとの考えなのか。
魔物の動きに懸念はあるが、それと同時に1体ずつ倒すチャンスでもあるというこの状況。しっかり取りに行くべきだと言われれば、間違っていないように私にも聞こえた。
『……分かった。ツカサさん、俺のいる場所から一番近いやつへ行く。サポートを頼めるかな?』
「うん、任せて!」
ケイスケさんは衝撃吸収魔法の発動率が安定していない。彼だけに任せるのは私としては避けるべき判断であり、もし2体以上から同時に追いかけられるような状況になったら、怪我のリスクはより高まってくる。なのでそうならないために助けられる位置へ移動しておいた。
「ここら辺なら……よし! ケイスケさん、いつでも大丈夫ですよ!」
展望の良さそうな4階建てのマンションに登り、ケイスケさんへ連絡する。こちらからの連絡を受け動き出した彼は、魔物のいる方へ向かった。一番近くの1体が反応し、彼の方へ動き出す。
『罠の方へ引っ張るよ』
ケイスケさんからのメッセージのあと、罠を示すピンが一箇所地図上に強調された。
ここまで連れてくるからすぐ動けるようにというサインだろう。私から見て一番近い罠、家四軒ほど挟んだ交差点上なので、いつでも大丈夫。
それから1分ほど経ち、前方に見える片側二車線の道路上、そこを埋め尽くしている巨大植物の上を跳び移っていくケイスケさんの姿が見えた。その後ろには鹿の魔物が草を分け入り彼を追いかけている。二者の間にある距離は目測で50メートルかそこら。
平地ならあっという間に詰められてしまう距離である。しかし植物に脚を絡め取られているのか、不慣れな足場を跳び移っているケイスケさんより、魔物は僅かに速い程度。罠までに追いつかれることはないと判断し、罠にかかるその瞬間まで身を潜めた。
(——今!)
追いかけてきた魔物が罠の上へ踏み入れ、その脚が地面に吸い込まれるのを目視した瞬間、私はマンションから飛び降りた。溶けた地面の上で沈みながらもがく魔物の首を狙い、魔法で刈り取る。危なげなく2体目も倒してホッとする私のところへ、2人からメッセージが届く。
『良い調子よ。このまま残りのやつも倒しきりましょう』
『いいね。残っている魔物も頼むよ』
(二人とも同じようなこと言っているなあ。ふふ)
兄妹なんだなあと同時に来たメッセージへ微笑みつつ視線は地図へ。
残っている近場の魔物のうち、道路上の2体はまだ動かない。周囲から2体も姿が消えたのに、ジッと動きを止めたまま。一方で砂浜にいた2体は市街地へと移動し、目的地近辺の砂浜から魔物がいなくなるという事態になる。
「目的地の周り、魔物がいなくなったね」
『うん、今なら移動出来なくもなさそうだ。でも……』
『油断は禁物。極大繁茂が発生するまでの猶予があるなら、念のため倒しておきたいところだけど』
「……ちょっと待ってて」
『ツカサ?』
私は手元の収集録へ、災害本格発生までの残された時間を計算するよう命令する。どれくらいの精度で答えてくれるかは不明だが、判断の参考になるようなものなら有り難いけれど……。不安を感じつつ返答を待つと、本からのメッセージが表示された。
――発生まで残り1時間。
「1時間、だって」
表示された時間を伝えると、サヤは「1時間、か」と復唱。
『それなら倒しておくべきか……いえ、まずはアイツが海上のどこら辺にいるか確認するのが先ね。これで調べられるかしら……あ、いたわ』
「どこどこ?」
次いで私も確認すると、ここより東南方向の海、沿岸から離れた方を進んでいる船のデータが表示された。時速30ノットくらいのスピードで海上を動いているらしい。船の移動速度を見たサヤの、呟きみたいなメッセージが表示される。
『どうやらかなり飛ばしてきているみたいね』
「そうなの?」
『クルーズ船の出す速度が一般的に15〜20ノットらしいから、私の知っている情報が間違ってたり古くなければ、最低でも普通の1.5〜2倍以上の速さで急行してることになる』
「うーん……えっと?」
ピンと来なくて曖昧な返事をする。計算自体は小学生暗算レベルだったが、船のことについては素人レベルで詳しくなかったので、30ノットというのがどれほど飛ばしているのかを上手くイメージ出来なかった。
そんな思考を察したのか、数字で言うより例え話にした方が伝わるとサヤに判断される。
『……要するにクルーズ船としてはアレなくらい急いで来ているの。例えるなら平日の朝、寝坊したことに気付いたみたいなスピードよ』
「お、おお……それはすごい特急だね!」
『そうね。でもこの速度でもここまで来るのには距離があるし、さっき決めたとおり、魔物の排除を進めるわよ』
『ああ、なら任せておいてくれ。いい加減あの魔物にも慣れてきたところ——』
そうしてケイスケさんが移動し出そうとした、まさにその時。
私は全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。
(——えっ!?)
何事かと思う前に思考が凍りつく。
急激に周囲の空気が冷えていくみたいな何かを感じ、身体が動きを止めた。
動くなと無意識から訴えかけられ、指先まで麻痺したように錯覚する。
思考が再開される直前、前方に見える建物へ何かが真っ逆さまに降ってきて、盛大に瓦礫を撒き散らす。一瞬のことに何が起こったか反応が追いつかず、けれどこちらまで飛んでくる瓦礫に止まっていた身体は無意識に動き出す。
私は飛来物を避け、何かが落ちてきた方へと目を向けると、建物を貫いて落下したそれが、ばさっと羽を動かし、残った天井へ鋭い爪をかけ顔を覗かせた。
(まさか——あれって)
それは鳥。巨鳥とでも言うべきもの。翼を広げた大きさにして8メートル以上。全身が黒白の体毛に覆われ、先端にかけて鋭く尖った長い爪と黄色い嘴を持つ、猛禽類を思わせる姿の動物だった。
(鳥の魔物……?)
あんな大きさの鳥は現生種にいない。あれは古代に繁栄して滅んだ鳥くらいの大きさだ。ゆえに私は見たこともないそれを魔物だと判断する。
そんな状態で見つめる中、その魔物の頭がグルッと動く。視線の先には鹿の魔物がいて逃げ出そうとしていた。しかし逃げ出す魔物を見た途端、鳥の魔物は羽ばたいてあっという間に距離を詰め、その鋭い爪で地面に押さえ込んでしまう。
捕らえられた方はジタバタと脚や身体を動かし抵抗を試みているが、鳥の魔物は脚の爪で胴を挟み、逃す気はない。抵抗するのを見て嘴を何度も突き刺し、首を啄むとそれを潰しにかかる。やがて鹿の魔物はピクリともしなくなった。
『何あれ……あれも魔物? 一体どこから飛んできたの? マップの範囲に反応はなかったわよ』
『……多分、ずっと空にいたんだと思う。さっきから魔物の様子が変だった。あれが空にいるのに気付いて、動きが鈍くなってたんじゃないか。見つかりやすくなるとか、そういう理由で』
(ずっと空に? でも地図には映って……あ)
そういえば私はマップ表示機能を3Dの状態で固定していた。3Dモードは地形や市街地の輪郭などを感覚的に把握しやすく、自分達と魔物達との間にある様々な情報を見やすいがため。私がその状態で2人にも見せたから、多分2人も同じように周囲の地図を表示させている。
もしかしてと思い、表示を3Dモードから2Dモードに、空中にいる魔物も追加で出させる命令をした。直後、表示範囲内に複数の点が出現し、それらは地上の障害物を無視した動きをし始めた。それを見て私は愕然とする。
(こんなに……!?)
仕様を完全に把握し切ってないとはいえ、元々は俯瞰視点のものだった。2D表示であれば『高さ』の情報は圧縮され、空から接近している魔物にもいち早く気付けたはず。加えて表示範囲外の魔物を追跡するような表示もなく、文字通り3Dで見下ろしていたから、それより高いところを飛ぶ魔物に気付けなかったのだろう。けれどそうであったことを知っているのは私だけ。
恐らくこの魔物は後から接近してきた奴で、作戦を始めたあとに地図の表示範囲へ進入してきたものだ。私がそのことを思い出して一言言っていれば……。
『まずいな。これじゃあ海に逃げようにもあの魔物をどうにかしないと。安全を確保出来ない』
『罠はまだ残っているけれど、空を飛ぶのが相手じゃ効果が期待出来ないわね。作戦変更、鳥の魔物に注意しながら目的地の海岸まで移動よ。鹿の魔物は無視していい。ツカサ、イグノーツに連絡を……ツカサ? 聞こえてる?』
「え? あ……うん、聞こえてる」
動揺のあまり反応が遅れるが、サヤのメッセージに気付いて答える。
『イグノーツに連絡しといて。鳥の魔物が現れたから出来ればその注意喚起、あとどれくらいでこっちへ着きそうかを』
「う、うん。分かっ……」
返事する直前、視界に収めていたあの鳥の魔物が飛び立ち、こちらへ飛んでくるのが見えた。
目が合ったように感じた私は急ぎ建物の陰から飛び降りると、すぐに自分へ衝撃吸収の魔法をかける。それで魔法がしっかり効くよう、着地の瞬間まで減速しないよう枝葉を避けて落ちた。そのお陰で、刃の草原は私を貫くことなく服の上を撫でながら着地に成功する。
私は深い傷を負ってないことだけ確認すると、さっきまでいた場所を見上げる。するとそれが魔物が突っ込んだ瞬間と同じだったらしく、構造物の破片が四方に飛び散り、遅れて爆ぜる音が聞こえてきた。
(こっちを狙ってきた……!?)
鳥の魔物はあれほどのエネルギーで突っ込みながらケロッとしていた。キョロキョロと周囲を見渡す様子からこちらを見失っているのだと考えられる。私はすぐさま近くの巨大植物の陰に隠れ、2人へ連絡する。
『どうしたのツカサ、何があったの!?』
「鳥の魔物が私のいるところへ飛んできた! 多分狙われている!」
『何ですって!?』
魔物の動向を見ながら伝えるが、その間に鳥の魔物はまた飛び立つ。
(こっちの位置を探っているのかも……)
「ごめん、話している時間はなさそう。どうにか引きつけるから、サヤは今のうちに隠れて!」
相手がこちらを見失っていることは私にとっては有り難くもあり、放って置けないことでもある。もし私を探す過程でケイスケさんかサヤのどちらかを見つければ、あの魔物はどう動くか。想像するに難くない。
「私なら魔法で防ぐのに慣れてる。暫くはやり過ごせるからその間にあれをどうにかする方法を考えて! サヤお願い!」
こういう方面で頭を使うのはサヤの方が向いている。私でも一応出来なくはないが、そういう思考の慣れ具合とか得意な考え方の違いとか、一分一秒でも無駄に出来ない状況だとサヤに任せた方が確実だと判断し、攻撃用の魔法を放ち始めた。
使うのは、幻覚の私と戦った時に覚えたもの。
放射系、2族に属している光線を放つ魔法は私の狙い通りに曲線の軌道を描き、巨大植物を避けつつ狙いである鳥の魔物へと飛んでいく。魔物は自らの側面下方より飛んできたそれを認識すると、翼をはためかせて回避機動を取り、直撃コースから外れた。
(当たらない。でも、問題ない)
攻撃が当たればこの上ない結果だったが、今はこれだけで十分。魔物は今ので飛んできた魔法とその方向に気を取られる。必然として他の場所への注意や警戒は疎かになるだろう。その間にサヤとケイスケさんが隠れる。攻撃の目的はすでに達成していた。だから私は、相手の目につくように同じ魔法を繰り返す。
二射目、三射目。繰り返される光線に空を飛ぶ魔物は回避行動を取りつつ、高度を上げ始める。そして私の直上あたりまで来ると、周りは静かになった。
(音が消えた……)
羽ばたく音が聞こえなくなって2D表示の地図を見るが、自分と魔物の位置を示す点は重なっている。
音がしなくなったということはずっと上空へ飛んで行ったのか? そう思った矢先、本にケイスケさんのメッセージが。
『急降下してきてる! そこから逃げて!』
切迫した内容に反して、空は静かなまま。だから一瞬……ほんの僅かな間、反応が遅れた。「えっ」という声を出してすぐにハッとなり、慌てて駆け出す私の後ろから、大きな何かが勢いよく降ってきたの如く、ぶわっとした風圧が背中を押す。
(まさか!?)
そして耳に入る猛烈な衝突音と、ひび割れた地面。振り向くと地面へ降り立った鳥の魔物が、真っ直ぐこちらを睨んでいる。直上にあったはずの巨大植物の葉には大きな穴が開いて、足元の草は全て踏み潰されていた。
(やられた……)
音がしなかったから、まだずっと上方にいると思い込んでしまった。加えて地図表示を俯瞰図にしてたのも、位置の誤認を促してしまったのだろう。間違った認識をしたせいで目の前まで接近を許したのだ。
やらかしたと思う前に、足から痛みが上ってくる。足元も見ず動いたせいで葉に切られたらしい。履いているズボンの上から肌が傷つき、多少の出血も窺える状態だ。幸いなことに表面を少し切ったくらいで済んでいるけれど、切りどころが悪かったらザックリ行ってたかもしれない。
(あっちの魔物は、平気なんだ……)
私の体が草で傷ついているのとは対照的に、魔物は文字通り草を蹂躙している。頑丈化して刃物に近い状態のそれがバキボキと根本から折れ、横たわっているのが何よりの証。もしかしたら、魔物の体は人間の体よりずっと硬く、この程度の刃物ならば通さないのかも。そんな風に考えていると、サヤからのメッセージが本に浮かび上がった。
『ツカサ、ツカサ! 生きてるなら返事して!』
「……まだ生きているよ。生きた心地はしないけれど」
『今そっちに向かってるわ! 兄さんも急いで向かってる! だからツカサは逃げて!』
「ダメ、今身動きが取れない。こっちに来ちゃダメ。逃げて」
草に気をつけながら後退りつつ、そう伝える。魔物も一歩ずつ、雑草を踏みながら距離を合わせる。逃がすつもりなどないという意思が伝わってきた。飛べばすぐに襲える距離なのに襲ってこないのは、遊びのつもりか。はたまたは別の理由か。
私は距離を詰められないようにしつつ考えてみた。その時ふと思い出す。
(そういえば、空を飛ぶのが得意な鳥って走る映像を見た覚えがない……)
ふとした気付きであったが、ふとした疑問を浮かび上がらせた。
一般的に鳥は飛べない鳥と飛べる鳥の2種類がいて、飛べない鳥は走って移動するのが得意である。ダチョウやエミューなどがそうだ。
一方で飛べる鳥は当然ながら翼を羽ばたかせたり風を掴んで滑空などして空を移動するのが得意。こちらの鳥は種が多いので省略するが、それと引き換えに走るのが不得意なのだろうか。
「ねえサヤ、鳥って飛べる種は走るのが苦手なの?」
自分の知識だとこれ以上は記憶にないので、他の人に聞くしかない。私はサヤに尋ねてみた。いきなり飛び出した質問の内容に、サヤからの返事は『急になに?』と戸惑いが見える。今の状況に関係ある質問なのか区別しかねているのかもしれない。時間がないので私は多少強引でも急かす。
「お願い、教えて」
『……鳥の種類にもよるけど、飛べる鳥は体重が軽くて飛ぶことに最適な体になってるのが普通。当然軽い方が有利だから、余計なものはつけない方が良い。そうなると飛ぶのに特化した鳥ほど陸を走るための筋肉みたいな、無駄なものは捨てるわね。同じ距離を移動したければ飛んだ方が効率良いんだから』
「じゃあ基本的には走らない、走るのは苦手ってことでいい?」
『種類にもよるけどね。フラミンゴとかは飛ぶ前に助走を挟むし、キジなんかだと飛べなくもないけど走る方が楽な鳥。そういうのもいるわ』
「なら……猛禽類とかは?」
『フクロウならちょっとの距離は走ったりするのを動画で見たことがあるわ。ワシやタカ? とかだと見た記憶がないけど。飛翔能力が高くて走る必要がなかったりするかもね』
「分かった、ありがとね」
目の前にいる魔物の外見はちょうどワシかタカみたいな見た目をしている。確かにそれが走るような映像は見た記憶がない。もしかして飛ぶことに対し走るのは苦手なのだろうか。ただ単にそういう映像が撮られていない、出回っていないという線も考えられるけれど、どうだろう。
しかしこうして一歩ずつ距離を詰めるに留まり、襲ってこようとしないのは他にどんな理由がある。
(実は今の距離が飛ぶのには近過ぎで歩いて詰めるには遠い絶妙な距離……って予想は都合良すぎだよね)
普通に考えて小ジャンプして近づけばさっと詰め寄れる距離でそうしないのはわざとだろう。私は頭の中からその可能性を除外し、より思考を深めていく。
(私が弱るのを待ってるとか? なくはないけど、災害の起こる寸前でそんな時間のかかるやり方を取る気はしない。なら私を囮にサヤ達を誘き出そうと? でも2人の存在はまだ気付かれてないはず。ならどうして…………せめて魔物の思考が読めたら……)
何を考えているか分からない魔物に思わず愚痴を漏らした。
とにかく逃げる算段を立てよう。少しなら策を考える余裕はある。距離を保ったままこちらを視界に収める魔物を見返す。そして十分な時間を経て臨時の対処法を思いついた後、私は行動に出た。
(まずはこれ!)
最初に魔法で光線を放ち、相手に避けさせる。その間に障壁を草むらの上へ発動させ、そこに飛び乗った私が全速力で駆け出すと、背を向けたこちらに翼を広げて追いかけようとしてくる。
三方向へ伸びる爪が後ろから迫ってきたのを確認し、タイミングを合わせて伏せる私。その時、傾斜をつけた透明な障壁を自分へ被せるように発動した。
(よしっ!)
狙い通り、頭上でガキィィン! と甲高い音が鳴り、爪と障壁が衝突する。すかさず渦を起こす魔法を放ち、頭上を過ぎ去る魔物を腹から押し上げるようにぶつけた。飛んでいた魔物はその勢いを受け、グンと高度を上げていく。
今だと思い、距離が離れた隙をつく形で足場の壁を伸ばした私。建物の二階まで駆け込むと、そこに隠れて魔物の視界から逃れた。
『ツカサ!』
「大丈夫、何とか逃げられたよ。そっちは?」
『俺とサヤも無事だよ。今は近くの家の中にお邪魔して隠れている。けれど無茶し過ぎだよツカサさん』
『そうよ。一人で何とかするなんて……心臓が止まるかと思ったわ』
「……ごめんね?」
私は謝るがサヤ達は『こっちがどれくらい心配したと思って……』、『二度目は勘弁だよ』と不安を解放するように言ってくる。
まあ心配するよね。魔物と一対一で戦うとか。でももう少し信頼してくれても良くないかな。
これでも戦いの経験は2人より上なのだから。そして頑張ったのだからちょっとは褒めてほしい。
私は拗ねかけた。




