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逃避と急襲(2)

『——多数の魔物が海辺に集まっている状況ですか。そうなると迂闊に船を接近させられませんね。沈められては元も子もないです』


 事態の説明を私から詳しく聞いたイグノーツはそう答えた。魔物がすぐ近くにいる状態で船を接近させれば、中にいる人を殺そうと魔物が船に攻撃し、船体へ損傷……穴を開けられるかもしれない。最悪開けられた穴から水が入って沈没する可能性があると、イグノーツは判断したのだろう。


 船を近づけさせるには周囲の魔物を倒す必要があると私は理解する。ただ、地図に映った魔物の数はざっと見て50以上。予定地点に向かうとすれば戦いの避けられなさそうな魔物は少なくとも5、6体。付近にもその倍近い魔物の点が地図上に映っている。


『接岸地点の近くの魔物を倒してもらうことは出来る? 魔物の数が多くて、私達だけだと対処が……』


 私は数を減らしてもらえないかイグノーツに聞いてみた。


『数はどれくらいか分かりますか?』

『50以上。でも戦いになりそうなのは近くの6体から……17体くらい』

『ふむ……多少の援護は捻出しますが、あまり期待しないでください。こちらも船の操縦と船に近づこうとする魔物への対処に集中している最中でして』


 淡々と語っているが、それは今船が魔物に襲われているということではないのか。


『まさか今魔物に襲われているの?』

『魔化した蜂の群れに襲われているだけです。船へ損傷が出るほどの相手ではありませんから、心配いりませんよ』

『そ、そっか……いや蜂って! 平気なの? 刺されてたりしないよね?』


 私の不安を読んでか懸念していることは問題ないと、明るい声で答えた。

 実際イグノーツには大したことないのだろう。魔法で伝わる内心からも、動揺のかけら一つとして見られない平静さが彼の中に感じられた。なんだそんなことかとでも言うような態度に、私だけ取り乱しているような気分になる。


『皆さん船内へおられますから。けれどこの状態ですと蜂の魔物を全て駆除してからでないと、船を向かわせられません。すみませんがそちらの対処はそちらへお願いせざるを得ないでしょう』


 蜂の魔物を引き連れてきてしまったら、船に乗ろうとする私達が巻き込まれるかもしれない。そうならないようする必要があると語ったイグノーツは、こちら側の対処はこちらで何とかしてもらう他ないとも言って、実質こちらの魔物には対処出来ないと告げた。


(私達だけでなんとかするしか、ないんだ……)


 申し訳ありませんという彼の言葉と共に、罪悪感らしき気持ちが私の方へ流れ込んでくる。こんな気持ちが伝わってきては、私から強く求めることは出来ない。例えそれが、失敗すれば死を意味するくらい怖いことでも。


『……そうすれば、船を間に合わせることは出来るの?』

『勿論です。極大繁茂が手遅れになる前に、必ず間に合わせます』

『分かった。…………待ってるからね』


 そう伝えて私は、腕に付けていたリストバンドを外した。

 相手の声が伝わらなくなり、頭の中が静かになる。それと同時に抑えていた気持ちが溢れて、握った手を胸に当てる。


(怖い)


 2回も戦って、少しは慣れたと思っていたもの。それが、彼が近くにいないだけで、助けが得られないかもしれないと感じるだけで、そんな中であの数を相手に戦わなければならないと思うだけで、あそこへ向かいたくないと、全身が訴えているようだった。


 案外、彼という存在に心強さと安心感を覚えるくらいには一緒にいたんだと、今更ながら意識する。


 私はちゃんと気持ちを伝えられただろうか。待ってると言ったけど、必ず間に合わせると言ってもらえたけど、それでこの不安を誤魔化せただろうか。その答えは、彼以外知らないだろう。


 不安を感じながらも、私はチラリと2人の方を見た。


(…………魔物がなんだ。倒さなきゃ、私達はここで終わりなんだから。やるしかない!)


 気持ちを奮い立たせると、思考をリセットした。

 極大繁茂の本格発生まであとどれくらい時間がある?

 今から船に乗る地点を変えてそこまで向かう?

 魔物を出来るだけ倒して道を確保する?

 事態は刻々と変化していく中、私は最も確実な方法がないかを考える。


(最大の問題は本格発生までの時間。その次に問題なのが、向かおうとしている方に行った魔物の対処……)


 この数との戦闘、そのまま行けば数の差で押されて間違いなく10分と保たない可能性が高い。


(強引に突っ込んでいくのはダメ、結果が見えている)


 ならば少しずつ魔物を釣っていって、目的地付近の魔物を減らしていく方法ではどうか。遠くから2体くらいを誘き寄せ、それを確固撃破して削っていくのであれば周囲の安全を確保出来るのではないか。そう思う私だけど、


(……都合の良い想定が混じっている気がする)


 冷静に見て、ちょっとずつ相手なんて可能なのだろう?

 これまでの魔物との戦いで感じた高い知能、アレがこちらの意図に気付いたり察したりして、その作戦を崩すような行動を突然取ったりする可能性を除外出来ない。もしやるなら懸念に備えた方法も考えた上で万全の状態で踏み切るくらいでないと。何の備えもせずやれば、強引に突っ込んだとき同じ形で押される未来が最悪有り得る。


 備えとなる方法を思いつけば行けるかもしれない。だけど普通の家に生まれてこの方、狩りどころか動物と命を懸けた戦いをする経験がなかった私である(そんなものがあってたまるか)。策を講じようにも、あらゆる面で脳に蓄えられている知識・経験の不足から、『己の判断がまず理に適っているかどうか』の判断にさえ苦労する状態。泥沼に沈むように、ダメな方へと嵌っている気がした。


(ああもう! こんなんじゃあダメ!)


 悪い状態を振り払うように頭を振って、思考を切り替える。『どうすれば目的地の安全を確保しつつ船を待てるか』かが纏まらないなら、別方面……『どうすれば船に乗って陸から離れられるか』を考えよう。


 即座に思いつくのは当初の地点を諦めて、私達が船に乗りやすく船が近づきやすい場所を選定すること。目的地に拘らないなら船に乗る地点は別のところでも構わないはずである。詳細に条件を詰めるなら船が身動きの取れる水深が陸近くまであり、魔物の数が少なめで安全の確保しやすい地形が最良。最低でも今目指している場所より、私達と船両方の安全を確保出来るところが望ましい。


(……そんな条件のいいところあるわけないじゃん!)


 地図機能で一応確認するが、何処もかしこも海岸に集まっている魔物の密度は大差なかった。焦りが大きくなる。これでは船に乗る地点を変えたところで変える前と相手する魔物の数は殆ど同じじゃないか。


 それ以前に大型客船の深い喫水で近づけるような場所というものが大きな港でもないと見られない。頭を抱える私に対し、地図を表示している本側から海底地図らしきものが表示される。どうやら私が探している水中のデータを提供してくれているようだ。


(有り難いけれど、海底図の読み方なんて知らないよ……素人の私には3D表示機能が欲しい…………え?)


 せめて感覚的に慣れた表示が欲しいと思った矢先、地図表示が俯瞰図のような2Dタイプから、斜め上より見下ろす感じの3Dタイプへと滑らかに移行し、目を丸くした。特に操作をした覚えもああしろこうしろと命令を出した覚えもないはず。


 勝手に表示が2回連続で切り替わったため、なぜそうなったのか疑問に思った私は一つの可能性に思い至った。前に本の中で自分の情報を表示させることをサヤ達と共にしたことがあるけれど、確かその時に「口頭で言わずとも伝わるが」とアーノルドが言っていた。まさか本の中に意識が飛んでおらずとも、こちらの思考を読むことが出来るのか?


(でもこのマップなら私でも分かるかも!)


 表示された立体図から水中の地形を確認していき、イグノーツの乗っている船が来れそうな海岸部を調べていった。残念ながら既存の地形で適した深さのある場所はなく、船が来れる喫水の場所まで陸地を伸ばす以外にはなさそうだと認識する。


(乗る場所を変えてもあまり変わらない、か……)


 私は落胆の気持ちから息を漏らすと、その時サヤが聞いてきた。


「ねえツカサ、私達はこのまま進んで良いの?」


 サヤの顔には予定通りに進んでいいのかという懸念が現れていた。

 実際このまま行っても良くない。ただそんなこと言ったって代わりの案を探している今の状況、ただ良くないと言うのも気持ちに抵抗があった。私は代案を探す時間を稼ぐように黙り込んで、目を逸らしてしまう。


(——どこへ行けばいいの?)


 目的地まで向かっても予想される未来を防ぐ手立てが浮かんでいない。かといって他の場所を目的地にし直してもリスクが減るどころかやることが増えるばかり。安全な海の上へ出るために、水辺に集まる沢山の魔物を無力化しつつ、船に乗って離れる方法。そんな方法が現状不明のまま思いつかない。


(魔物と戦うリスク。私一人でなら多少は粘れるけれど……)


 衝撃吸収の魔法を覚えているので、本来は致命的となる攻撃の多くに耐えられる。私だけで相手する分には、逃げに徹しさえすれば辛うじて耐久出来るという予測はあった。


 私が囮となって注意を引き付け、目的地付近にいる魔物を誘導すればサヤとケイスケさんはきっと安全に船へ乗せられる。でもそれをサヤやケイスケさんが認めてくれるのか? きっと無理だ。サヤを納得させられる言葉が思いつかないし、ケイスケさんも私一人に危険な役目を任せるのも拒むと思う。


 分かっていたことだ。結局、私がサヤ達と合意出来る選択は1つしかないのだと。


「魔物がいない海岸はない。どこから船に乗ろうとしても戦うのは避けられないと思う。私達は予定通り事前にケイスケさんが作っておいた道から、船に乗る。近くにいる魔物を全部倒した上で」


 合流地点を変えたところで安全面に大きな差がないのであれば、当初の合流地点からどう魔物を倒すかを考える他にない。地図上の範囲では魔物が必ず最後の障害になる。地図に映されていない範囲よりも遠くへ行くなら、倒すために残っている時間を割きたい。


 私の言葉を聞いたサヤは、それにすぐさま頷いた。そうなることを選択肢として初めから考えていた、あるいはそれ以外にないと思っていたような反応だった。


「となると、どれくらいの数を相手にしなきゃならないかよね……それ見せてくれる?」

「いいよ。あ、ちょっと待ってて」


 開いているページ上の地図を3Dモードにしてから見せる。地図上には海岸の地形や家の場所、道がどう通っていてどれくらいの植物に侵食されているか、魔物が何処にいるかを3Dで見られるようになった。俯瞰視点で見る方が地図っぽくはあるが、この方が周囲の建物を立体的に把握出来る。


「砂浜にいるのが2体、海沿いを通る国道に3体、海に注ぐ川を挟んで1体。他には………………」


 それを見ながらサヤは魔物の現在位置を把握していき、やがて必要な確認が終わったらしいサヤは、本を私に返した。


「ありがとう。それでだけどツカサ、どうやってこの数を倒すか、作戦はある?」

「ううん。作戦とかゲームでもあまり考えたことないから……上手く考えられなくて」


 テ◯リスやらチェスみたいなのは普通に出来るけれど、特徴のある駒やキャラ、スキルなんかを違うステージごとに最適解を見出して攻略するゲームは、考えるのが大変だし駒ごとの相性とか全部覚えるのも難しいしで、基本手を出す気になれない・やっても詰まると高い確率で誰かの示した攻略法に手を伸ばす癖がついていた。


 なのでそういう思考をするのに慣れていなかったのである。そもそもそういうジャンルに興味が薄かったというのもあるが、作戦とかは考えられる人が考えてくれればいいじゃん派だった。お陰でいま頭が上手く回らず困っているのは自業自得かもしれないけれど。


「なら私から一つ作戦があるんだけど、いい?」

「全然いいよ。どんな作戦?」


 私が承諾すると、サヤは作戦を説明し出す。全ての説明を聞き終えるには5分とかからなかった。


「……どうかしら? 正面切ってぶつかるよりは良いと思うんだけれど」

「うん、いけると思う」


 概要を聞いた私はそう評価する。

 サヤが提案した方法は、実行のために準備に時間がかかるものの、あの素早い魔物の動きを制限出来るだろう。魔物側に考える頭がある以上、こちらの仕掛けたものに気付けば容易には近づけられないはずだ。上手くすれば全部の魔物を相手にせず済むどころか、6体も倒す必要もないかもしれない。


 勿論、運も絡むしこちらが予定通りに作戦を進められるとも限らないため、あくまでも最良のパターンと考えるべき。だが明確に形となった突破法だ。私だけが囮になる必要もなく、3人で辿り着ける可能性の高い、現状一番の方法と言える。


「兄さんも良いわね?」

「まあ、代案もないからな」


 ケイスケさんは困り顔になりつつ頷き返す。それを見てサヤは作戦の実行が確定したと判断し、今一度内容を伝えた。


「兄さんが魔物を誘導、私が罠を作っておいた場所へ引き込んで、ツカサが仕留める。そのうち私とツカサが担当するもの、これは役割を担うための魔法の習得具合から代行出来る人がいない。よって、誰も怪我したりする余裕なんてないから、皮膚1ミリでも怪我するんじゃないわよ」

「無茶言うなよ……」

「あはは……」


 それくらいの気持ちでいろという意味なのはお互い理解してたとは思う。けれどもあの大きさの獣相手にその要求は無茶だと思い、私とケイスケさんは苦笑した。


「それで、別行動するにあたってどうやってお互いの位置を確認するんだ? ツカサさんはあの本があるからともかく、俺達は位置を知らせる方法がないぞ」

「それについては問題ないと思うわ。ツカサ、前にアーノルドが使ってみせたコピー本。あれをここで出してみて」

「え? いいけど……出来るかな」


 以前本の機能説明の際利用したやつ。それを出してみてと言われた私は「あの時はあの空間内でやったことだから……」と、可能かどうか疑った状態で本に命じてみる。すると私の命令を受け取った本は自己と外見そっくりな本を、サヤとケイスケさん、2人の前に出現させた。

 現実に出すことが出来るのかと驚きを露わにする私。その手元にある本へ、『完了:入出力端末簡易版✕2』の文字が表示され、サヤが笑みを浮かべた。


「異世界も侮れるものじゃないだろう……なんてアレは言ってたけど。こんなことはまだ私達の世界では当たり前じゃないわね。イラつくけど侮れないわ」

「で、出来るって分かってたのか?」

「なんとなく。あの時使ったコピー、あの空間でだけ使えるものなら本の形って変だと思わない? あそこが肉体から意識だけを繋げた空間なら、操作端末の形が『本』でなきゃいけない理由はないでしょ?」


 本よりも操作に特化したコンソールを用意すればいい。ではなぜと思ったサヤは、もしかしたらそれが現実でも使えるのではないか? と考えたらしい。本の形状で操作するメリットが、『実際に現実で使うことが可能だから』、操作システムを合わせている可能性に思い至ったからだという。


「端末の形状に拘りがあるとかなら理由になるけど、そういう拘りがあるなら図書館みたいな本のある空間を用意しそうなもの。けどあそこはまっさらな空間で、拘りみたいなのは感じられなかった。だったら端末が本の形をしている理由は、作った人が何も考えていないか実はそれが実益を兼ねた形状かの2択に絞れる。そしてこの本についてアーノルドは、『私達イグノーツはこの本の著者だ』と言っていた」


 その本を書いた、と言いながら私の持っている本を指差す。段々とサヤの考えていることが分かってきた。

 最初にイグノーツと会った際、彼が言ったことの中で本についてこう言っていたはず。


“どれだけ杜撰に扱われようと質が落ちない、落とせない。そういうものを目指して作りましたので”


「そっか……この本はイグノーツ達が作ったもの。イグノーツ達がそういう風に作ったから」

「そしてアイツの嫌な性格から考えて、何も考えていないってことはない。だから出来ると思ったのよ。さあ、これでいつでもお互いの位置は確認出来るわ。動きましょ」

「ああ。お互い気をつけよう」


 ケイスケさんがそう応えてから、バラバラに私達は動き出す。手持ちの本には地図を表示し、魔物とお互いの位置をリアルタイムで追跡出来るようにしている。

 位置確認に支障はない。2人の方も問題ないようだ。【所有者】でなくとも操作出来る権限を与えてあるから、知らず知らずのうちに魔物へ近づき過ぎてしまう、なんてことも起こらない。


『罠一つ目設置完了。ピン付けておいたけれど、見れるかどうか確認して』


 サヤからの言葉がページ端っこの方に表示される。少ししてから地図上にピコーンという音と波紋エフェクトが出て、波紋の中心に二重丸の記号が表示された。


「大丈夫、見れてるよー」

『問題ないみたいね』


 私が返事すると、それもテキストになって端っこに表示された。音声認識なのか相手からの返事が早い割りに入力パネルなどは表示されていない。


(音声文字起こし機能のチャットって感じかな)


 相手の声は聞こえないが、認識精度が高く素早く変換出力されログでいつでも会話を見直せるチャットと考えれば、作戦に有用だろう。

 暫くしてケイスケさんとサヤからの返事がくる。ケイスケさんの方でもちゃんと表示されたらしいという内容と、サヤからどんどん罠を設置していくという内容であり、実際に1分間隔くらいでピコーンピコーンとマークが増えていく。いい感じだ。


 私が増えていく罠の位置を確認しながら待っていると、その時ピコーンと、さっきまでの音とはなんか違うピコーンが聞こえた。


『システムメッセージ:使用中の機能に不満点を感じた場合、ご気軽に報告を行ってください。管理システムが貴方の要望に寄り添い、ご期待に応えたオーダーブックを提供致します』


(何のメッセージ?)


 今の状況にはあまりにも合ってなさそうな内容。まるで広告のようなメッセージが暫く表示されたかと思うと消えた。一体何だったんだろうと思考の一部を占有される。


『準備完了。兄さんお願い! ツカサも兄さんの動きから目を離さないように!』

『OK。行ってくる』

「わ、分かった!」


(やばっ、よく分からないメッセージのことなんて考えている場合じゃない!)


 慌ただしく思考を切り替えた私は地図に映るケイスケさんの動きへと注目する。


 ケイスケさんはまず孤立気味の1体の方へ向かっていった。屋根、或いは巨大植物の上を伝って移動しているのが動きから分かる。魔物の点へケイスケさんの点が近づくと、魔物の方から彼の方へと接近し出した。人間が整備した区画や道を無視するように、貫通するような動きで突き進んでくる。


 それを受けてケイスケさんも、魔物から距離を取るように動き出す。私もフォロー出来るような位置へ移動し、罠の近くにある民家の屋根で身を潜めていると、ドドドドと獣が疾走する音が聞こえてきた。


(こっちへ来た!)


 彼の誘導してきた魔物がすぐ側まで迫ってきて、私は魔物の動きに注目する。

 ひたすらに彼を追いかけてくる魔物は愚直に走り続け、ケイスケさんが誘導している罠の方へと向かっていき、そのまま罠の設置された地点を通過しようとした————直後、魔物は罠の上で動かなくなった。


『かかった!』

『今よツカサ!』


 ほぼ同時に合図が来て、私は罠にかかっている魔物の様子を確認しに行くと、ドロドロに溶けた道路の中心部、必死にもがいてそこから抜け出そうとする魔物がいた。激しい脚の動きでビチャビチャと溶けたものが周囲に飛び散るが、底なし沼にハマったかの如く体は無常に沈んでいく。


(ごめんね)


 その姿に少しの憐憫を感じながら、切断系(4ぞく)魔法を放ってトドメを刺した。地図に映っている魔物の点が1つ消える。


「倒したよ」

『ナイスよツカサ。怪我はしてない?』

「全然。ケイスケさんは?」

『俺も平気だよ』

「良かった。じゃあ、次行こう次!」


 1体目は無事上手く行った。この調子であと5体も上手くいけば。

 互いの無事を確認しつつ、沈んでいく魔物を見ながらそう思う私。そのとき、街の遥か上の方で、翼を持った何かが通り過ぎていった。

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