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十桁の数字

 6,401,997,569。


 異世界災害収集録に出てきた10桁の数字。

 数日経っても定期的にその数字が気になってしまい、学校の外へ出掛けている今も、つい考えていた。


(減ってる……)


 今確認するとその数字は『6,401,583,265』に変わっていた。ざっと40万くらい値が下がっている。じーっと数分間数値の動きを見たり、朝起きた時にチラッと見たりしているが、基本的にこの数字は減っていくばかり。


(64億158万……)


 どんな意味がある数字なんだろう。数字である以上何かを数えている、もしくは数値化したものの現れであるのだろうが、数字の説明が一切入ってないので、これという正解が不明な状態でモヤモヤする。


 一応分かっていることは基本的に減るタイミングは不規則で、一度に減る量も違うから、そこに法則性はあまり見られないということ。もしこれが何かの時間を示しているのなら1秒に1ずつ減っていくと思われるので、となるとやはり……


(何かをカウントしている?)


 数字を眺めていると、10増えたかと思えば200くらい減った。主に動きがある下の桁に対し、全く動きがない上の桁を見るに、やはりカウンターの類ではないかと予想する。


 ではカウントしているものは何かと考えるが、億単位で主に減っていく数字、それに加えてこの本が数えるような何かが判断材料になりそう。でも異世界の災害を記した、無駄に高性能で多機能な本がカウントする数値……?


「うーん」


 この本の全容はまだ知らないけど、増えるだけなら災害の被害量を数値化してカウントしているとか、本に保存されているデータの量が増えているとか考えられなくもない。でもこれはずっと減っていっているからそれは多分違う。


(魔力の量……とか)


 自分でその可能性を挙げておいてなんだが、これは合っているのかな? うんうん考えながら1人で悩んでいたが、大したヒントもなしにそんなのが分かるはずもなく、私は歩き出した。


(こういうのはイグノーツさんに聞くのが一番か)


 結局、この本については彼以上に詳しそうな人を私は知らない。

 最終的に聞くことになるなら最初からそうすれば良かったかな。でもイグノーツはこないだの本に保存されている意識のことと言い、私が聞いてくるまで多くは何も言わないでいるような気がするんだよね。でもって、聞かれたからと言って素直に答える訳でもない。


 その態度が不自然と感じないことはない。もしかしたら彼は私に言ってない秘密があって、それを本の中に隠しているのかも。でも人というのは誰しも他人に言えないことの1つや2つは抱えているもの。気にはなるが、だからといって軽々しく尋ねたところであしらわれたり誤魔化されるだけだし、私がそれに踏み込むのは許される行為なのか。


(こういうのは本人から明かしてもらえるのが一番丸く収まりそうなんだけどなあ)


 さて、そんなイグノーツは今何をやっているかな。

 一緒に出掛けている彼の方へ向かった私は、魔法のせいで異常成長した果物のなる木の下、ボウリングの球くらい大きな果実を取っているイグノーツを視界に入れる。


「……それ何の実?」

「色的には青リンゴじゃないでしょうか」


 あまりのデカさに聞いてみたが、大して意味のない質問だった。

 片手で持ちながら私へ見せられたそれは確かに、青リンゴの特徴を押さえた形状と色をしている。唯一違うのはサイズだけ。リンゴなのにスイカ並みの大きさ。


「青リンゴ……?」


 目の疲れを疑って目元を擦ってからまた見るけど、目に映る物体は変わらない。


「中身も詰まっていますよ。ほら、叩くとキンキンって鳴ります」

「それ、食べ物が出していい音じゃないよ」


 なんで裏拳で叩いて金属音みたいなのが鳴るのさ。常識的に考えておかしい。


「歯応えがありそうでいいじゃないですか」


 私の指摘にイグノーツは無理のある回答を返す。

 絶対に歯応えなどという問題ではないし、それで誤魔化される人はいないぞ。


「まあまあ、とりあえず持ってみてくださいよ。人間は雑食性でなんでも食べるものでしょ?」

「雑食でも例外はあるしなんでも食いたがる好奇心旺盛な人ばかりじゃ……って、おもっ!?」


 恐る恐る両手で受け止めると、ずっしりとのしかかってくる重量の大きさに、受け止めた手のひらから肩まで力が入った。

 ボウリングで使ったことのある10ポンド(4.5kg)よりも重く感じる。


「これを何個か持ち帰りましょうか。避難所にいる人数を考えるなら、それぞれ5個ずつは持っていきたいところですね」

「これを一度に5個……4個でも大概でギリギリ3個なら何とかなるかもってサイズじゃないかな。せめて持ち運びに使えるような袋がいるよ」

「この重さで複数個は大体の袋が破けてしまいませんか?」


 なるほど、だから素手で運びましょう……とはならないでしょ。そういう時こそ魔法でどうにかならないの?

 同じ変質系魔法で生物を頑丈にするやつがあるんだから、無機物に使えるものだってあっていい筈だ。私は心の中で本に向けてここへ来い電波を発信する。そしてそれを受信して目の前に現れた本に命令。


「入れ物を頑丈に出来るような5族魔法を検索して」


 無駄と思えるほど多機能なこの本であるが、最近になって検索機能があるのが分かった。

 本内部に保存している情報から一致するものを探し出して表示する優れもの……というかページ数の多いデジタル冊子なら必要不可欠と思う機能だけど。異世界の魔法の検索とか出来るため非常に役立っている。


 私のその声に応じて、本がパラパラっとページを捲り出す。開かれた白紙のページに浮かび上がる文字。その内容は。


『条件に一致する魔法はありません』

「…………」


 一件も出てこないのは予想外だった。

 もしや未発見の魔法だったのか。

 きょとんと私がしていると、横で見ていたイグノーツが口を開く。


「……該当する魔法が未発見である場合や、存在するかも不明なことがありますので。身も蓋もないことを言ってしまいますと、そんな便利な魔法があるならあの時シェルターの魔法を使わずとも魔力嵐を凌げたと思いませんか?」


 やや容赦のないイグノーツの言葉が刺さる。

 いやその通りではあるけど、そうですねと素直に受け入れられるかと言われれば別。


「……だったら先に教えてよ。検索する意味なかったじゃん」

「実際にやらせて身をもって分からせた方が、飲み込みが早く済むと思いました」

「私そんなに頑固に見える?」

「見えますね」


 満面の笑顔でやや棘のある言い方であったが、別にイラッとはしない。

 この程度の言葉なら社会に出て割と聞いてきたし、それ以上の悪口だって耳にしたことはある。それに比べたらイグノーツの言い方は可愛い方。


 それに彼の話すスタイルは初対面の時から分かっている。彼は「自分の考えていることが知りたければどうぞ覗いてみろ(意訳)」と言ってのける人。何考えているんだと思ったら魔法で直に見ればいいだろと平然と言い放つ。特に私は魔法士として魔法を扱い働く者。


 気になるなら口から出た言葉でなく頭の中を見ればいい。そうイグノーツは考えているはず。けど、私はそれをすんなり受け入れられる価値観を持ち合わせていない。だから結局こういうことがあっても見たことは未だ一度もなかった。


「ツカサさん。この前のことを覚えていますか」

「この前の? 魔物の時のこと?」

「その時と、学校の中に現れた巨大な植物の時のです。私は疑問に思っているのですよ」


 イグノーツは私の横から前に立ち、こちらの目を見る。

 そして興味を抱いた目で聞いてきた。


「なぜ、私が渡したリストバンドを使わなかったのか」

「——っ!」


 その言葉で私は質問の意図を理解し、胸がキュッと締め付けられるような感覚になる。


「どちらの時においても、貴方は自分や他の人の命を左右する場面にいた。それなのに貴方は私に連絡を取らなかった。最初はお一人で解決出来る自信があったのかと考えましたが、貴方は私を頼って、異世界の魔法を教わりたいと言いました。そしてこうも言いましたよね。“自分のせいで招いたことを、自分の力だけで解決出来るようになりたい”……と。これまで見てきた貴方の言動から察するに、他人を頼ることを知らない人ではない」


 イグノーツから見て少なくとも私は、自分だけでどうにもならない時は他人を頼ることが出来る人。そう認識されているのが分かった。


 実際、この世界の魔法知識だけであれに対応することは極めて難しいと思えるので、頼ることが間違いではないだろうと。魔法を聞いてきた時の行動を肯定するような発言している。


 私は無意識に逸れていく自分の目線を彼の方に強引に戻し、そしてその目を見て確信する。


「合理的でない行動には、エゴが必ず絡みます。そこにその人のわがままな部分や、頑固さというものが見て取れる。ツカサさんの頑固なところは、『自分の迷惑に誰かを巻き込みたくない』。或いは『1人で自分に関連する問題を全て解決したい』。そこら辺ではないでしょうか」


 彼は多分、大体の予想はついてしまっているのだろう。

 私があの時どうしてたかは知らずとも、リストバンドを使わなかった……いや、使えなかった理由を。


「……イグノーツさんはもう知っているはずだよ。あの時、勝手に心を読んだはずだから」

「デパートで私が述べたことを、ずっと気にされていたのでしたよね」

「……そうだよ」


 認める。あの時リストバンドを持とうとして出来なかったのは、心のせい。

 私はイグノーツに頼ることを嫌がったのである。あの日からずっと何かある度に彼に頼っていく自分を、変えたかった。

 

「デパートでは自分のせいで一度友達を危険に巻き込んでしまったから、私を頼ろうとする前に何とか自力で解決したかった……そんなところですか」

「…………」

「頑固ですねえ」


 頑固で、どうしようもなく愚かだ。自分でも分かっている。

 自分の命だけじゃなく他人の命まで危険に晒しておきながら。下らないわがままと後ろめたさから連絡を無意識に取りたがらないでいたのだ。私自身その時の行為を振り返ればそれを気にせずにはおられず、やり直したいとも思える程度に。

 苦笑しているイグノーツより目を逸らし、悔いる気持ちから私は徐々に俯く。


「成果は出ましたか?」

「何の」

「エゴを押し通して得られた成果」

「……意地悪な言い方」


 成果なんて大層なものじゃない。得られたのはハッキリとした結果。

 私が自力でなんとかしようとしても結局上手くいかず、イグノーツの知恵を借りたサヤのお陰で何とかなった。前回の時も、イグノーツから教えられていた魔法がなければ私は大したことも出来ないでいたか、見ているしかなかった。


 結論として、私がエゴを押さえられずに動いた時ほど碌なことが出来なかったのである。


「自分が思っていたより、まだ子供だったってことを感じただけ。成果なんてなかったよ」


 それを再認識したということを告げ、遠くを見た。




 それからまた時間が経ち、あの青リンゴを引っ下げて学校へ帰ってきた私は、自分のスペースに戻って休むと、頭を抱える。その理由は、現代日本人には到底打ち明けられない秘密を抱えてしまったから。


(まさか結界系の魔法に入れて運ぶなんて……)


 こんな重たくて両手では持ちきれない果物をどうやって複数個運ぶつもりか。その答えとしてイグノーツが出したのは『結界を袋代わりにして持ち運ぶ』であった。


 まあ、分かるよ。中のものを閉じ込める効果の魔法で果物を包んでしまえば、袋と大して変わらないだろっていう発想は。実際にそれで引き摺っても中身は結界に守られて傷どころか土一つつかないし、運び難いか易いかと感想を問われたら易い方だろう。


 でも仮にも最終的には口へ運ぶものを引き摺って持ち帰るのは、絵面がよろしくない。避難所の人達は持って帰ってきた青リンゴの大きさに驚いていたが、それは途中まで引き摺られて持ってきていたものだ。食事の衛生面を大事にする現代人として、そっちばかり注目が集まっていいのか。いや、聞かれても応対に困るから言えないんだけど。


(かといって、他にまともな手段で人力輸送出来るものが思いつかなかったしなあ)


 唯一言い訳出来そうなことといえば、持って帰った果物に虫食いの痕跡は見られず、一応の洗浄をして殺菌はやっているから食べても特に問題はなさそうということ。


 イグノーツ曰く、発動していた魔法が過剰な成長を促し果皮を厚く硬くしていたことで、果物外からの虫などの侵入が抑えられている。ゆえに虫などが入っている心配はない。


 それが本当かどうかに関しては、私は本当だと思う。持って帰る前にやった『物を探す魔法』で虫の反応が見られなかったし、持ち帰らないやつを石で引っかいても傷は残らなかった。

 叩くと金属音が出るのに相応しい硬度を見せつけてくれたので、魔力分離をするなり柔らかくしてからじゃないと歯が折れるのは確実。まあ既に柔らかくしてスイカくらいには硬さがマシにしてあるから、大丈夫だろう。


(でもイグノーツさんにあの数字のこと、聞き損ねちゃった……)


 しばらく休もうと布団の上で横になり、例の本の機能でも調べてみようとする。

 だが、すぐに眠気に襲われてしまい瞼を開いている気力も失せる。


(なんだか急に眠くなってきた……)


 もしかして、知らないうちに疲れていたのだろうか。

 そう考えながらそのまま眠ってしまった私は。


『こっちに来て』


 その直前に本に浮かびあがった言葉を、一瞬だけ目にした。

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