表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/128

O系魔力

 サヤとの会話の一件が私の中で解決せぬまま日が経ち、学校に生えてきている雑草がまた刈り頃になってきた。あの巨大植物が出現した日より2日後の話である。


「前に駆除したばかりのところが、もうこんなに伸びている……」


 極大繁茂の予兆現象により、校舎以外はもう完全に草原と化した。少し前に私とケイスケさんで刈り取ったはずのところですら、膝と踝の中間くらいの高さにまで伸びていた。


「これを完全に駆除するのは無理そうだね」


 本日私とケイスケさんは、再び茂ってきた雑草どもを駆除するべく出てきたのだが、2人ともまだ骨折した腕は安静にしろということと、ケイスケさんが全身筋肉痛だったので暫く雑草駆除が滞っていた。


 草を駆除するには手で持って根から引っこ抜くか、根本らへんを鎌で刈り取ると思うけれど、片手だけだとやりにくいのなんので、やってもやっても間に合わない。こちらの効率が落ちているからただでさえ高い雑草の異常成長に追いつかないのである。


 そういうこともあってサヤの方も、暇を見つけては通り道として使う場所の草だけを駆除しているらしい。それでも雀の涙程度の助力にしかなってないみたいだが、私達も今やれる範囲で皆のためになることをしようと、同じように対応しているところだ。


「必要最低限なところだけやって、建物への出入りが邪魔されないようにやるだけですね……今はそれ以上の余裕がないです」

「除草剤って試したかな? まだならやってみる価値はあるかもしれないよ」

「確か前に試したんですけど、全く効いていませんでした」

「そっかー……」


 除草剤が効けば多少はマシになるのではと考えていたのだろう。ケイスケさんは残念そうに呟くと中腰の姿勢になり、雑草から魔力の分離を始める。そして雑草が柔らかくなってきたら根っこを掴んで、ズボッ。


「わっ! ケイスケさん凄い」

「いや、これくらい普通だよ」


 結構大きく育った草でも片手でヒョイっと抜いて見せるので、思わず声を上げてしまった。雑草のくせにネギくらい長くて太いものだから、今の私だと魔力の分離までは出来るが、そこから片手で草を抜くことなんて無理なんだよね。正直ケイスケさんがいると頼もしかった。


 あの巨大植物の壁を腕と足だけで上り下り出来ていたのだから、寧ろ出来て当たり前なのかもしれないが、やっぱり凄いなー……筋肉の付いている量が違う。


「十分凄いですよ。腕のところとか、筋肉が引き締まっています」

「それは雑草取りの最中に見るところかい? けど、俺としてはあんまり自信がないんだよね」


 褒められたものの、あんまり心から喜べないなとケイスケさんは顔に出した。

 まあ彼の筋肉は、ロクトさんみたいに服の上からでもハッキリする程ではない。だから本人はあまり大したものではないと思っている様子だが、しかしそこから引き出される力は目を見張るものがあり、見た目以上の力強さを秘めている。そして私はそれに命を助けられた。決して過小評価などしていない。


 自信を持っていいよケイスケさん。他の誰かがその筋肉をバカにしてきても、私はケイスケさんの味方だからね!


「……ところでツカサさん。そんなに見られていると、あの、気になるんだけど」

「ご、ごめんなさい!」


 いけないいけない、つい眺めてしまっていた。私も魔力の分離をパパッとやって、あとは抜くだけの雑草にしていかないと……パパッとパパッと。


「なんだかツカサさん、前よりも魔力の分離が早く出来るようになってない?」

「気付きました? 実はあの後から何だか魔力の操作が上手くなったというか、急に上がったみたいな感じになってて……」


 元々私は1級魔法士になるに当たって、魔力を操る技術をそのラインに求められているだけ身につけている。魔法の成功率を測られて基準に達していないと不合格になるし、魔法士にとって魔力の制御は必須技能。そのため魔力の扱いは資格が示す通り上手な方だ。


 そういった魔力の操作技術だが、あの後……巨大植物との一件から上達しているみたいなのだ。まるで壁を乗り越えたかの如く、10秒ほどかかっていたのが5秒かそこらで分離しきってしまえるほど。


 何ということでしょう。雑草一つあたりにかかる時間が2分の1になりました。凄い凄い!

 いや……なんで? 急なことすぎて素直に喜べない。


「魔力の分離に慣れてきたのかな。それで一気に作業が高速化出来るように……いやでも、1週間経っていないうちにそれは早すぎるか。ツカサさんはどう考えているか、聞いてもいい?」

「私も、作業に慣れてきたのかなって考えてはいますけど、流石に完了するまでに早くなりすぎているので、何か別の要因もありそうな気がしそうだなー……と」

「別の要因か……すぐに思いつきそうなのは」

「あの白い場所でのことですよね」


 白い空間内で私とケイスケさんは一緒にいた。これもまた同じ日のこと。


 あの時のことは今も鮮明に覚えているよ。なにせ目が覚めたかと思ったら白い空間にいて、目の前には何故かケイスケさんもいる。それだけで十分驚いたのに、続いて「このままだと死にます」って例の本から具体的な症状名で告げられてさあ。


 寝起きドッキリ企画に出演しているゲストじゃないんだよ! なのにモーニングコールにバズーカ級の衝撃を食らったんだからね! っと……話がズレた。


「考えられるのは……あの子のこと、かな」


 私の中で不足していたO系魔力(オド)をケイスケさんから受け取った際、壁際に見えた女の子。


 確かその時の私は、彼から貰ったオドに私の中のオドが反応していたんだっけ。多分本が教えてくれた知識で言うところの【O系魔力の免疫作用】……それが起きていた。慣れない感覚や痛みが結構キツかったなあ。


 でもその痛みや感覚があの子の言う通りにした途端まるっと消えて、気付いたら現実でしっかり目覚めていた。後はケイスケさんも知っている話。


「あの子って誰だい?」

「白い場所の中で見かけた子です。ケイスケさんからオドを貰っている時に、壁の方にちょっといたんですけど、すぐに消えちゃって……」

「そうなのか。俺は気付かなかったけど……どんな子だったか覚えている?」

「髪を伸ばしている女の子。赤い瞳で、明るい色の髪色をしていた、かな」


 私は覚えている範囲で特徴を挙げてみる。するとケイスケさんは雑草を抜く手を止め、真面目に考え始めた。


「ひょっとして何か心当たりがあるんですか?」

「ああ。白い場所でさ、あの本の持ち主がツカサさんだと聞いたって話はしたよね」

「はい」


 コクリと頷き返す私。


「その話を聞いた相手とはなんていうか、文だけで会話しててさ。直接姿を見れなかったんだけど……どこか子供のようだと感じていたんだ。特に、俺のことを“お兄さん”、ツカサさんのことを自分より“年上の女の人”って言ってたから」


 話を聞きながら情報を精査する。私が見たの間違いなく少女と呼べる姿の子だった。ケイスケさんの見た相手と同一人物である可能性は否定出来ない。寧ろ一致している点しかないように思われる。


「ツカサさんはその子を見てから、魔力の操作が上手くなったって考えているのかい?」


 ケイスケさんの問いかけに、私は頭を縦に振った。


「正確には、その子が言っていた言葉なんですが」


 あの少女の言葉を聞いてから、私はオドというものを意識している。それはオドに向けて心を向けるようになって以降、魔力を動かす時の目標とのズレが減ったから。

 今までだと「こう動いて欲しい」という理想を頭の中で描き、それをなぞるようにやったとして、理想からズレてしまうことが普通だった。自分自身では上手くやろうとしているつもりでも、実際にやろうとすると中々上手くいかない。こういう経験をしたことのない人は、まずいないと思う。


 それもそのはずである。頭の中で理想を想像出来ても、現実には理想通り出来る訳ではない。


 遠くの的へボールを当てるという目標を、無作為に選ばれた人にやらせてみるとしよう。

 そういうのが苦手な人なら的に当てるのに苦戦するだろうし、上手な人なら数回で的に当てられるだろう。特に上手な人であれば1回、もしかしたら的の中心にさえ当てられるかもしれない。

 結果は人それぞれになるだろうが、初めから当てる気がない人でもいなければ、誰もが的を狙って投げたはずだ。ではなぜ、人によってここまで差が出るのか。それは現実的な答えで述べるなら各々の肉体を動かす練習の差である。言い換えるなら、与えられた目標に対して想像した『理想の動き』と『実際にとった動き』のズレだ。


 理想の動きからのズレが大きいほど、投げる方向はブレる。力の調節がズレていれば、手前に落ちてしまうか的を通り越してしまう。的に当てられない人は大体どっちかがズレているため当てられず、両方ズレていると変に噛み合いでもしない限りまず当たりっこない。


 練習とは、この『実際にとった動き』を『理想の動き』に近づけるための行動である。練習もなしに理想の動きなんて出来る人なんていない。そんなことが出来る人はとんでもなく奇跡的な存在か、奇跡に操られている人だけ。


 私だって、魔法士を目指すようになった当初なんか魔法の成功率は全然高くなかった。世間ではマジックネイティブと呼ばれる世代の癖に、ちょっと先に生まれた大人達……その中にいる3級魔法士にも劣っているのを感じて、苦々しい思いをしたくらいである。


 1級魔法士となってからも、魔力の操作に理想の動きとのズレは残った。しかしそれははじめたての頃に比べればずっと少なく控えめで、許容範囲といえるもの。完璧ではないが概ね良し、これで問題になることはまずないというズレしかない。


 ——それが、O系魔力(オド)というものを意識してから一気に小さくなった。1のズレが10分の1のズレになったくらい、精密で綺麗に映る理想的な動かし方を出来るようになったのである。それは常識的に考えて、技量の上達なんて表現では到底収まらないレベルの上がり方だった。


 “だから、自分の中のオドに伝えてあげて”


 あの少女が言っていたことを思い出す。


「もしかして私達が魔力を操る時、オドはそれを助けているんじゃないでしょうか……」

「オドが……魔法を?」


 オドというものがずっと私の中にいて、それが私を守ろうとしたり、私の気持ちに応えてくれていた。少女はそう述べていたけど、だったら当然私が魔法を発動しようとする時にも、働いてくれていたのではないだろうか。


 信じるのが難しそうという様子のケイスケさんに、私は続ける。


「実は今まで存在に気付いていなかっただけで、オドはずっと魔法を使う度に助けてくれていた。仮にそう言うことだとして、もしケイスケさんが今まで自分だけでやろうとしていたのを、オドへ具体的にこうして欲しい、ああして欲しいと伝えられるようになったら……どうなると思いますか?」


 それまではただ単に向こうが勝手に手伝ってくれていただけだが、オドを認識して手伝って欲しいと直接言えるようになったら。私はその時に起こることを想像する。


「待ってくれツカサさん。もしそれが仮に本当だったら、俺達が今までやってきた魔力の操作っていうのは下手すると……」


 ある可能性に思い至ったケイスケさんが私に聞くが、私は答えられなかった。

 だって、それに答えてしまったら私自身、自分が学んできた知識がある根底から覆されることになりかねなかったから。そんな事実を受け止め切れるか、今の自分には不安だったから。


 だから、この話は一旦保留にしておくことにする。今遠くへ行っている彼、イグノーツが戻ってくるまでは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ