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相談……?

「えっと、それで俺に相談をかい……?」

「はい。どうすればサヤは、私のお願いを聞いてくれると思うかなって……」


 あの後私はサヤと別れて活動していたが、どうすれば聞いてもらえるかをずっと考えている。別れる前に何度か繰り返し同じ要求をしたもののサヤは聞き入れてくれず、ただ毎回「出来ないわ」と言って断られてしまった。なので考えるといっても、その方法を具体的に思い浮かべるのが難しく感じていた。


 正直途方に暮れそうだったそんな時、ケイスケさんを見かける。飛び降りた時の着地で左腕の橈骨を骨折したため、片手だけで出来る作業を探していたという。


 しかしまあ当然というか、あれだけ体を使った反動で全身筋肉痛に見舞われてしまい簡単な肉体労働すら出来なかった。で、今出来ることは休むことしかないと思っていた時、ヨウジさんというご老人に呼ばれ、話し相手になっていたとか。

 避難生活でずっとストレスを抱えているだろうから、話に付き合うことで少しでも解消してあげようとしたのだろう。


「そんなもん決まっとるだろう。聞いてくれるまで何度でもやればええんじゃ」


 私は当初、サヤとのことをお兄さんである彼に相談しようと思ったけど、この状況だと2人の邪魔になると思い、相談は後にしようと考えた。そしたらヨウジさんから、悩み事があるなら付き合うぞとグイグイ来られてしまい、逃げるに逃げられず3人で話し合うことになってしまった。


 そしてヨウジさん、それは多分効かないと思う気がする。


「ヨウジさん、多分ツカサさんはもう何度も言っていると思うよ」

「一度やったくらいで諦めるのか? 1時間でダメなら1日、1日でダメなら1週間。時間をかけて説得する。それが王道にして唯一の道であろうに!」

「やり方が古いですって。今の俺たちくらいの世代でそこまでやるのは、逆に引かれますよ。いくらツカサさんとサヤが友達の間柄でも……」


 ケイスケさんがフォローしようとすると、諦めるのが早い! とヨウジさんは言い出してから、儂がまだ若かった頃は〜と言い始めたので、慌てて私も止めにかかり、なんとか落ち着いてもらえた。どうやらヨウジさん、誰にでもいいので何かと話したい気分のようである。


 この調子だと相談も上手くいかないかもしれない。一先ず、ヨウジさんとの話に付き合って彼のストレスを解消してあげることを優先しよう。でも何を聞けばいいか。とりあえず話したいことを話させて聞けばいいのだろうけど、うーん……何から聞けばいいかなあ。向こうから話題を振ってもらえると合わせやすいのだけど。


「ところでヨウジさんは、何か困っていることはありませんか? 良かったら私達で手伝いますよ」

「あー? そんなことないない。第一、その腕の怪我で手伝わせる訳にいかんだろが」


 至極正しい発言で返されたが、そこは乗ってきて欲しかった。

 ……いやいや、たったこれしきで諦めたらいけない。もっと粘って見せなきゃ!


「いえいえ大丈夫です。私これでも魔法士ですから。魔法なら別に両手が塞がっていても出来ますよ」

「魔法……あー、そういえばそんなものが最近広まったっけな」

「魔法士はまだ新しい方ですけど、魔法は最近というほどじゃないですよ!」

「儂からすれば、5年前も10年前も20年前も最近だわ。大した差なんてない」


 お爺さん、自身の年齢比で『最近』の範囲を増やさないでください。

 私からすれば10年前とか子供で、20年前なら生まれていないか母親のお腹の中です。お爺さんからすれば大差なくてもこっちには0と1くらいの差があります。


「しかし魔法を使うのに手は要らんのか。アニメとかだと腕を前に出したり杖を持ったりと何かしらのセオリーがあるもんだが……」

「魔力を操作しやすい姿勢とか、構えは人それぞれにあったりしますけど、こうしないと魔法が使えないってポーズはないと思います」


 基本的に、体の動作は魔力を操る際に必須なものではない。魔法士にとってポーズというのは魔力の操作に集中しやすい体勢、集中力を高められる『かもしれない』行為であって、多くの魔法士はそんなことはやらずに魔法を使う。意図的にやるのは大道芸の一種か、「これから魔法を使いますよー」と相手に教える時くらいである。


 寝っ転がりながらや逆立ちしながら、それこそ踊りながらだろうと魔法は出来る。ただそんな風にやるのは面倒だし、やる価値が今言った目的以外だとまずないからやらない。それだけなのだ。


 魔法士が魔法をどう使うか知らない人は意外と勘違いしているのだが、よく分からない身振り手振りをしなくともノーモーションで魔法は発動出来てしまう。だからか風の噂では、軍事に関わった場合恐ろしいことになるだろうと、各国が魔法の規制をしながら水面下ではそれへの対策を進めていると聞くことも。攻撃用の魔法の研究までもやっていそう。


 ちなみにそう言うと、ならどうやって魔力を操っているの? と一部の人に聞かれるけれど、これに関しては最近になって、人に魔力を操れる能力が備わったから、それで操れるんですよとしか答えられない。今のを聞いて「はあ?」と思ったうちの1人が私。だけどそう感じた人はこの世に沢山いる。


 魔力操作が出来る人が現れてからというもの、その原因について各国で研究が行われたし、最新のコンピューターやAIなどを駆使して調べようとしてきた。だが導き出せた結果はこうだった。


 ——魔力のある環境だと人間の脳は特殊な変化を受け、それが魔力操作能力を獲得することに繋がっている。しかしどの部位がどう変化したのかは不明。


 魔力が新たな環境因子として人間に影響を及ぼすようになった。そしたら脳が魔力を使えるよう変化し出した。何かしら因果関係があるはずだけど、肝心の因果関係がありそうな部位は分かりません。つまりそういうこと。


 この変化については、詳しいところは今も未解明。一説には及ぶ影響の大きさは高齢の人より若い人の方が大きいと言われてて、それを裏付けるように若年層の方が高齢層よりも魔力操作が上手くなるという検証結果も出ている。

 これがただの偶然の一致か、それとも明確に因果関係があるための一致なのか、単にマジックネイティブ世代がおかしいのか、もう少し変わらぬ日常が続いていれば、答えを知ることが出来たのかな。


 ……まあ、私の知り合いに1人、聞けば教えてくれそうな人もいるけど。

 話が大分脱線してしまったけれど、どうやって操っているのかについては脳が関わっている以上の話から発展出来ない、ということで納得してほしい。


「やる必要がない、か。夢も何もあったもんじゃないの。今時そんなんだと子供にウケんだろ。広告とかでどう宣伝するんじゃ」

「いえ別に子供受けを狙ってる訳じゃないので……それに子供と直接関わるようなことはまずないと思います」

「あれ……でもツカサさん、この前どこかの中学校で起きた虐めで、それを調べるために1級魔法士が派遣されたって話を聞いたんだけど」


 待ってケイスケさん、その情報私知らないです。

 なんで数も少ない1級魔法士が一時とはいえ学校に赴任しているの? まず事実かどうかあとで確認させて……って、こんな時にバッテリーを無駄遣いする真似出来ない。そもそもネットに繋がるかなー……。


「それでツカサちゃんは、儂にその魔法とかを使って手助けがしたいのか?」

「あ、はい。そうです」

「……どんな手助けでもいいのか?」


 何だか不穏な雰囲気がする言い方をするヨウジさん。私は一瞬怯んだが、ここで退いては最初の状態へ戻ってしまう。黙って頷き返す。


「……そんじゃあ、隣にいるお婆さんのとこへ行ってくれんか」


 私が了承したのを確認すると、ヨウジさんはここから数メートルほど離れた場所、ダンボールで仕切られたスペースを指差した。


「隣のお婆さんのところに、ですか?」


 話の繋がりが読めなくて首を傾げる。なぜヨウジさんの手助けをしたいと申し出たら、お婆さんのところへ行くことになるのだろう?


「あっちのお婆さんとはご近所さんでな。儂の名前を付けて用件を言えば、分かってくれると思うぞ」


 正直どうしてこうなってしまったのか私でも理解が追いつていないが、それが要望であるなら、とりあえず行ってみよう。


 ということでお婆さんのところへ来た私は、ヨウジさんの名前を出してここに来た理由を伝えた。お婆さんはヨウジさんと同じくらい高齢に見える人だったが、物腰は穏やか。区切られたスペース内にある私物はきちんと整理されており、スペース内の物が散らかり気味であったヨウジさんよりしっかりしていそうな人だった。


「あらあら、ヨウジさんったら。じゃあツカサちゃんには『ただ行ってこい』としか伝えてないの?」

「えっと、そうなります……」

「そうなの……だったら私から1つお願いしていいかしら。ツカサさんに頼みたいことがあるのだけど」


 そう言ってお婆さんは私に、自分の隣——ヨウジさんとは逆の方向——にいる人へこれを渡して欲しいと頼んだ。頼まれたのは丁寧に折り畳まれた紙。


 え、これを渡すの……? 

 渡された物の予想外さに、チラリとお婆さんの顔を見るが、


「お願いね」


 ……渡すしかなさそう。まあ歩いて3秒くらいの距離だし、別にいいか。

 さてそういう流れで次のところへ来た私は、隣のお婆さんからこれを渡して欲しいと言われた旨を伝えて、その紙を相手に渡す。


「ジジ……お婆さんから? はあ…………面倒だな」


 渡された中年男性の人はため息を交え、訝しむような目でこちらを見つつ、折り畳まれた紙を開いて確認する。


「えっと、では私は渡したのでこれで——」

「待て」


 用件が終わったのでその場を去ろうとした私だが、相手が紙を読むのをやめて呼び止めてきたので、すぐ立ち止まる。


「……よし。これをあっちの人に持っていってくれ」

「あの……これって」

「紙だ。中は見るなよ」


 紙を渡したら紙を渡され、また他の人へ渡しにいくことに。

 その後3人目のところへ行った私は説明したあと紙を渡すと、


「こいつをあっちの方に持っていってくれるかい?」


 そして4人目のところへ行き私は説明をして……


「2つ向こうにいる私の知り合いへ——」


 更に5人目のところへ行って、


「待っていたぞい。次はこれをあっちの爺さんにだな……」


 6、7、8と繰り返し、


「おう、お疲れさん」


 ヨウジさんのところまで一周し、一枚の折り畳まれた紙を持って戻ってきた。


「あの……さっきからずっと紙を渡したら紙を貰って、他の人へ渡しに行くって流れを繰り返してたんですけど、何なんですか?」

「手元に儂宛に持ってきた紙が残っているじゃろ? 開けて中を見てみ。なに、見られて困るようなことなら書いておらんから」


 ニカっと笑いながら、私が手に持っている紙を指差すヨウジさん。

 ……内心で嫌な予感を覚える。けれど、どうしてこんなことをしたのか、その理由に繋がるものが書かれてあるのなら、念のため知りたい。私は折り畳まれたA4サイズの紙を丁寧に開いて、内容を見たらそこにはこう書かれていた。


 “この紙を渡された人は内容を他の紙に書き写して渡すように。なお下の文字はでっかく”


 一番上にそう書かれた文を読んだら、その下へと視線をゆっくり下げつつ、指示通りに特大サイズで書かれたその文字を読む。


 “たらい回し成功! ひゃっほーーい”


「——なんですかこれ!?」


 私は思いっきりヨウジさんに向かって口走っていた。


 あまりの内容に頭が理解を拒むとともに大量の疑問符が浮かんでは消えたが、数秒の沈黙と思考の整理時間を経てから理解すると、膨張する気持ちを抑えられなかった。


「読んで字の如くたらい回しじゃ! 無駄にグルグルさせられた気持ちはどうじゃった!」

「どうじゃった……じゃないですよ! 人で遊ばないでください!」

「どんな手助けでもいいって頷いたぞ! これは儂の心を豊かにするための手助けじゃ!」


 するとヨウジさんは負けじと言わんばかりに私の顔を見返し、そう反論してきた。


「頷いたけど! これは悪戯じゃないですか! というか単に騙しただけでしょ!?」

「ツカサちゃんが儂を除け者にしようとするから、やり返してやったんじゃ。ふはは」

「大人気ない!! いつから仕込んでたんですか!」

「3日前じゃ!」


 自白が早い! そして割と新鮮な計画!


 ぶっちゃけ特大に書かれてある内容とこれまでさせられた行動から察するに、遊ばれていたという可能性にはすぐ辿り着けたが、まさかこんな避難所で、しかもいい年したお爺ちゃんお婆ちゃんにやられるだなんて予想していなくて、まさかねと思いつつも従っていた。そしたらこれである。


 騙されました。大人って酷い。


 私がキッと睨むと、ヨウジさんはけろりとした表情をこっちに見せびらかす。密かにムカついた。


「ツカサさん落ち着いて。というかヨウジさん達はなんでこんなことを……」

「いやの、最近サヤちゃんが頑張りすぎている気がするから、何か息抜きになるようなことでもしてリラックスさせてあげようかと儂が考えたんじゃけど、全く引っ掛からなくてな……だったらこの際ツカサちゃんでもいいかなって」


 計画を立てた経緯を語っていくヨウジさん。

 え、サヤ用? これでサヤを引っ掛けるつもりだったの?


「でもまさか最後まで行ってしまうとはなあ。ツカサちゃんは鈍いのう! 悪い大人に騙されないようにするのだぞ!」

「……もう騙されましたよ、もう!」


 半ばポカーンとしたまま聞いていたけれど、話を聞くに連れて段々と悔しさが出てきた。だって、サヤなら避けられた罠にまんまと引っかかった間抜けと言われているみたいだから。


「あー久々に楽しい時間を過ごせたわ。ありがとうなツカサちゃん。ここまで引っ掛かってくれると逆に楽しい、童心に帰った気分になれるわい。ほいじゃーの」


 一連の流れでヨウジさんは相当気分が良くなったのか、笑顔を振りまきながら隣のお婆さんのとこへと歩いていき、向こうで楽しげに話し出した。


 その場に残される私と、言葉に詰まっていそうな感じのケイスケさん。あんなことがあったせいで、何もせずとも微妙な雰囲気に包まれていく。


「……えっと、相談の続き、する?」

「今はそんな気分じゃないです……」


 せっかく一対一でサヤのお兄さんと相談出来るようになったのに、あのお爺さんのせいで台無しにされた気分であり、私はガックリと肩を落とすのだった。

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