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第5フェーズ

 目を覚ましてから暫く経ち、周囲を覆っていた青いバリアが消えていくのを見た私は、早速魔法の発動を試してみる。効果はまあ、小さい光をポワッと浮かべるだけのやつ。するとそれまで上手くいっていなかったのが嘘のようにあっさりと発動出来た。


「よし、これなら……!」


 私は自分の腰辺りから下、拘束されて圧迫されているところに魔法を発動させる。


 活性系。イグノーツが教えてくれたものでいうと【3族】と定義される魔法のことで、元々あるエネルギーを増幅したり、O系魔力(オド)の働きを強くするような効果が共通する。この中には私の知る魔法のうち治癒魔法や回復魔法と言われるものも含まれる。


 確か、魔法でクラッシュ症候群に対処する場合の方法:3は、“活性系魔法による破壊された細胞内への流出物質の再吸収、並びに回復魔法による破壊された細胞の再生”……ここでいう再吸収を実行するには、治癒魔法の方を使えばいいのだろう。そしてO系魔力という物質を知った今、私は自分に治癒魔法をかけながら、体の中にあるそれへと向け最大限メッセージを放った。


 壊れた細胞から血の中に出て行ってしまった余計な物質を、もう一度その細胞の中にしまって、と。


 効果が出ているのかはいまいち分からない。もしこの状況で分かる時が来るとしたら、回復魔法を使った後か、圧迫から解放された後になる。


 とにかく、まずやるべきことは終わった。次はこれと並行して、回復魔法も使えばいいんだっけ……


 理屈としては多分、強い圧迫によって死んでしまった細胞とその構成物質をO系魔力を利用して集め直してから、細胞単位でそれらを生き返らせることで発症原因を回避する……ということだろうけれど、よく思いつくよこんなやり方。


 魔法を並行発動しながら体の感覚に神経を研ぎ澄ませる私。うん、少しずつだけど足の方の感覚が戻ってきている。これを続けていればきっと大丈夫になるだろう。ただ圧迫状態がどうにかならないことには治してもまた戻ってしまうから、この植物の拘束を少しでも緩めたいところ。


 何か良い方法はないものか……恐らく植物の方はいま私からO系魔力を吸い取ろうとした影響で盛大に拒絶反応を受けているみたいだし、この機を活かすべきだ。何か手はないのか、考えろ私。


「…………うん?」


 閃くようにふと気付いた。もしこの植物が私の体からO系魔力を吸い取った結果、私がO系魔力欠乏症になってこいつが拒絶反応を起こしているのだとする。そうすると私が急に意識を失った理由が説明出来るから、その予想が多分当たっているとして私は考えた。なら、そこには2つの疑問点が出てくる。


 1つ、こいつはなんでO系魔力を吸い始めた時、拒絶反応を起こさなかったのか。

 2つ、こいつはどうやって私の体から吸い取ったのか。


 確かさっき本が見せてきた内容に「強引に奪い取った魔力は〜」的な文があったので、相手の意思を問わずに奪う方法があると思われる。そしてこの植物は吸い取っている最中に拒絶反応を起こしていたようには見えなかった。私がケイスケさんからO系魔力を受け取ろうとした時だと、少しの間だけだけどすぐに拒絶反応が起きたのにである。

 どう考えても理屈が合わない。同じ人間同士のやり取りでこっちは起きた現象が、異種族、そもそも動物ですらない植物による奪取で発生しない? 本に書かれてある内容が間違っている、そういう可能性を敢えて考えない以外に、もしそんなことを説明出来る事象があるとすれば……


 何らかの方法で、強引に奪っても拒絶反応を起こさないようにする方法がある?


 なるほど、そんな方法があるなら説明出来ない話ではない。では今になって急に拒絶反応が起こったのは……欠乏症の回復のためにした行為が、まあ何か影響を与えたのかな。詳しくは分からないけれど、タイミング的にそれらしいのがあれしかないので。


 なら1つ目は一旦置いておいて、2つ目。私の体から吸い取った方法。


『さっき、魔力の譲渡は物理的な距離が近くないと出来ないって説明したよね。それってどの生物の間でも同じなの?』


 私が傍に浮く本に向けて問いかけると、本はパラパラっとページを捲り、そこに回答を出した。


『物理的な距離が近いほど、魔力の行き来は簡単になります。吸収率という問題を除いてそれ以外に相関関係を有する要素は、魔法の効果によって阻害されている場合や、生物種の違いによる魔力制御能力の差異から生ずる距離の変化が観測されています』


 ——ということらしい。いずれにしろ、魔力の受け渡しは近い方が良いということ。丁度私は巨大植物に捕まっているのでこの場合はゼロ、密着距離に当たるのかな。なら、逆にそれを利用しよう。なぜ私の魔力を吸っているのとか、なぜ今になって拒絶反応を起こしているのとか、そんな細かいことはどうでもいい。

 それを利用してこの状況をこちらの望む方向へ動かす。植物にとって私の魔力が自身を害する毒になるなら、いつまでもそんなもの持っていたくないはずだ。


 私は自分の回復がある程度出来たと判断した直後、締め付けて離さない巨大植物の体内に向けて、自分のO系魔力を放出する。すると固まっていた植物がぐぐ……と少し動き出した。

 これは苦しんでいるのかな? ほらほら、早く離さないともっと辛い目に遭うよ、と私は放出を続けると、少しお腹の辺りの拘束が緩んだ気がする。良い感じかも。


 しかしここでO系魔力の放出をやり過ぎてしまわないかと予測されたのか、


『過度な放出は再度のO系魔力欠乏症になる恐れがあります』


 などという文字が聞いてもいないのに本へ浮き出てきた。


 分かっているよ。イグノーツさんみたいに心で考えていること全部答えなくていいから。でももう少し緩められるなら、そっちの方がいいの。O系魔力欠乏症になりたい訳じゃないけど、だからといってクラッシュ症候群とかいう危ないやつも無視できないから。

 本からの忠告に耳を傾けつつ、私はもう少し緩められないかと放出量を調整しながら探り続けた。そして「これくらいでいいかな」と思えるくらいに抜けやすくなったのと同時に、放出を止めることにする。


 幸いなことに、魔力の放出をやめても拘束が元に戻る様子はなかった。私自身の体にも、欠乏症の症状が現れている感じはしない。私はホッと息を吐く。


 一応これで、避けられないような命の危機は回避出来たはず。あとはどうやって地上まで降りるか。ケイスケさんは茎から生えている毛状突起を伝って上り下りしたみたいだけど、そんな芸当しろと言われても私には真似出来ない。


「飛び降りる……?」


 下を見る。無理だ。

 選択肢として言ってみたけど、この高さからだと生きて着地出来る気がしない。なら魔法でもと考えたが、こういう時に使えそうな魔法あったっけ?


 ないかも。一か八かケイスケさんの真似をするべきか? だけど……


「——ツカサさん!」


 その時、私の耳に少し前に降りていったケイスケさんの声が聞こえ、そちらへと首を動かすと彼がまた植物の壁を登って私の方へ向かっていた。相当急いで来たのであろう。傍まで戻ってきた頃にはもう、見るからに息を整えるので精一杯という様子に見えるほど疲労しているのが分かる。


「えっと……いま魔法は使えるようになっていると思うけど、もう1つの方は何とかなった?」

「あ、はい……さっき気付いた時に治したので、暫くは大丈夫だと思います……」


 暫くと言ったのは、このままでいれば当然また同じ状態になるだろうと予想したから。そのことを私の言葉より理解したケイスケさんは「良かった」と頷きつつ、「なら急がないとね」とそれに答える。


「早く地面まで降りよう。なんとか抜け出せる?」

「実はこっちももう抜け出せるんですけど、その後をどうすればいいか……」

「あっちの方を下りていこう」

「無理です、無理! 絶対に渡ってる途中で落ちます!」


 ケイスケさんがさも当然のようにあの足場を渡ることを提案したので、私は首を全力で横に振る。運動は出来る方だけど、あの植物の突起を足場に渡るのは無理だ。高いところをミスなく飛び移っていくなんて出来ない。間違いなく足が竦んで悪い方へ転ぶ。


「となると……ここから飛び降りるか」


 ふむ、と下を見て考えるケイスケさん。


「絶対に死にますよ!?」


 私の本心からの叫びに、彼は「だよね」と笑いながら受け流し、そして手を差し伸ばした。


「なら、行くしかないよツカサさん。どの道落ちたら死ぬんなら、助かる確率が少しでも高い方を選ぶしかない。もし落ちそうになっても俺が支えるから」

「む、無理ですよ。私はケイスケさんと同じように動けません。それにケイスケさんも、体力が限界なんじゃ…………」


 既に最低2回は上り下りをしている彼は、かなり疲弊しているはず。そんな彼に私を気遣いながら下りる余力なんて残っているだろうか。私はケイスケさんのことを心配してそう言う。


「いやまあ、確かにもうヘトヘトではあるけれど……でも、だからといってここで諦める訳にもいかないしね。それにサヤにもさ、ツカサさんを助けるって言ったから」

「サヤに…………そういえば、サヤはどこに?」

「今休ませている。ずっとあの魔法を維持して植物をどうにかしようとしていたから、もう動けないんだ」


 私がサヤらしき人影を探すと、ケイスケさんはそう説明した。サヤは私を助けるため、あの植物魔法、変質系の効果を持つ魔法を解除するべく、それが可能な魔法を実行したらしい。ケイスケさんから一通りの話を聞く。


「……」


 そこで私は、話の中に何か妙な違和感を感じた。聞いている話に欠けている要素があるような、大切な情報が抜けているような気が。


「……その魔法はどんな効果の魔法なんですか?」

「えっと確か、この植物が魔法で大きくなっているみたいだから、それを打ち消すような魔法をかけるって」


 打ち消すような魔法……確か青いバリアみたいなのが出てきた後、魔法を使おうとしても上手く使えなかったはずだから、使っていたのが魔法を打ち消すような魔法、というのは分かる。ただ、そんな都合の良い魔法なんて発見されてあったか? 魔法を消す魔法なんて、とっくに発見されていれば絶対に習っているはずだし、それを1級魔法士が全く知らないなんてことあり得ない。

 少なくとも私が欠片も知らないのは変だ。


 サヤだけが知っている非公認魔法を使った? 可能性はある。けど、あれほど大規模なものを維持するには1人では到底無理。何か……私の知らない方法を使ってそれを成し遂げたの?


 私の知らない魔法で、単独で発動可能なように出来る人。そしてサヤにそれを教えられる人。考えられる中で、それに該当しそうな人は1人。


 イグノーツ。

 その人が脳裏に思い浮かんだ瞬間、私の中で何かが繋がったような感じがした。


「ケイスケさん、手伝ってください!」

「へ? て、手伝うって何を?」

「サヤが使っていた魔法を私が使います!」


 私がそう言った途端、彼は驚いて目を丸くした。魔法に関してはサヤから教わったこともあるケイスケさんだ。きっと相当な無茶を言っているように聞こえたのだろう。


「いや、あんな大きいの1人じゃ出来ないって! サヤだって、何か変わった魔法紋を使っていたくらいだよ!?」

「大丈夫です! 範囲を絞れば、私でも使えます。それにこれが上手くいけば、多分もっと安全に降りられると思うんです」


 初めてみた魔法を使おうとするだなんて、自分でも大概なことを言っている自覚はある。でも、それでもやろうとする理由はあった。


 まず、その魔法はイグノーツがサヤに聞かれた結果答えたものであろうということ。彼は今起きているこの災害について本に残すほど詳しく、それへの有効な対処法を知っているはず。こんな形で無効化されることなど想定していないとは思えない。故に「使ったけど無駄だった」ってなる魔法を教えるなんて考えられない。そして、私はこの魔法をどう使えばいいか今、きっと理解した。


 問題は教わったわけでもない魔法を見よう見真似で使うため、失敗のリスクが普通よりずっと高いということ。ただ私にはサヤが使い続けていた間中、その魔法を観察する時間があった。完成した形を知っているだけ、全くの無知からやるより成功する可能性がある。


 それにこの魔法を使って植物全てを覆う気なんてない。効果を及ぼすのはほんの一部だけ。だからその変わった魔法紋というのがなくても発動出来ると判断した。


 唯一の懸念点は、やはり魔法の成功率。はじめての魔法なんて失敗してもおかしくないのが常識。だからこそ、ケイスケさんに手伝ってもらう必要が出てくる。


「ケイスケさんは近くでサヤの魔法を見る機会がありましたよね? だったらその時、サヤがどういう風に魔力を操っていたか覚えていますか!」

「あ、ああ……近くで見たから完璧とは言えないけれど、大体なら…………」


 ケイスケさんにはあまり自信がなさそうなものの、私からすれば間近で見て覚えているというだけで十分。そしてケイスケさん、サヤから魔力の扱い方を教えられたというだけあって、今日初めて見ただけの魔法を真似しろなんて無茶振りにも然程驚いていない感じ。


「正直、私は遠くから見ていただけだから、私だけであの魔法を上手く発動出来る自信はありません。けどケイスケさんが手伝ってくれれば、ちゃんと発動する確率が上がると思うんです……だから、お願いします!」


 戸惑う彼の顔を真っ直ぐに見て、訴える。


「……本当にそれで助かるんだね。この状況から確実に」

「信じてください!」

「……分かった、信じるよ! 頑張ろうツカサさん!」


 一緒に協力して魔法を成功させよう。

 きっと、そういう意味での頑張ろうという彼の言葉と覚悟を決めた表情に、私は大きく頷き返すと、魔法を発動するべく魔力へ意識を傾けた。

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