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交渉

「サヤっ!!?」

「いや、会社では捌ける人がいたわけだけど、災害救助のスタッフなんてただのボランティアみたいなところあるし、そういう能力を求められる相手じゃないと思わない? ハッキリ言ってメンタルチェックの情報を満足に活かせられるか疑問よ。力不足じゃないかしら」


 最初からそう思っていたが今まで黙っていたのか、サヤはペラペラと自身の本音らしきものを語り始めた。

 サヤ、もっと言葉を包むことを覚えよう? 言いたいことは分かるけれど、棘のある言い方だと正しくても相手が納得したがらなくなることがあるし。いや、周りに私しかいないから遠慮なく言っているのか? 恐ろしい……。


 まあ、言いたいことはあるけれど、まずは。


「力不足と役不足ってどっちがどっちの意味だっけ?」

「……力不足が能力不足、役不足が役目不足。能力と役目を比較して劣っている方を指して言うわ。力不足ってのは例えば、赤ちゃんに社長をやらせようとするようなことよ」

「あ、そういうことか。ありがと」

「そこは覚えておきなさい……」


 頭に手を当ててサヤが言う。

 いやね、言葉の意味って結構世代ごとに違うんだよ。私達がそうだと思っていた言葉の意味が、20くらい年上の方だと微妙に違う意味使われてたり、定義の範囲が狭かったり。


 学生の頃は当たり前のように使ってた言葉がさ、上司の前で使ったら「そういう意味だっけ?」って聞かれるの、割とショックだよ? サヤにはそういう経験ない?


 などと申し開きをしてみる。


「そんなのいつの時代の人も経験しているわよ。私達だってあと20年か30年も生きてれば、子供が使う言葉のニュアンスがなんか違う、って感じる時がくるわ」

「うそ!?」

「本当。言葉の意味なんて秋の空よりやや固い程度なんだから、時代の変わる頃には変わってるわよ。せいぜい長生きすることね」


 悪役のようなセリフを放ちながら、フッと笑みを浮かべるのだった。

 場所が幕裏で影が濃いだけに、一層悪役感が増して映る。ちょっと似合ってるなとか思っちゃったけど、言わない方がいいよね。


「それはそうとメンタルチェックのことだけれど、止めるならスタッフの人には言っておいた方がいいわ。これで仕事に協力している都合上、断りもなく止められると困るだろうし」

「そうだね。後でタイミングを見て言いに行くよ」

 

 メンタルチェックをしなければ、避難者達に私達から与えるストレスは軽減出来る。現状メンタルチェックをして問題点を洗っても出来ることが少ないので、判明させても対処出来ないことが多い今、無理に実行するのはデメリットの方が勝るとの考えで私の中で纏まった。


 ついでに私達を見る目もマシになってくれればいいけれど、そこは分からないから期待しない。

 ただスタッフの人達が納得してくれるかなあ。






 スタッフ達に大事な話があると言い、私とサヤは集まってくれたスタッフ達へ、メンタルチェックを打ち切りたいという提案を伝えた。

 理由としては既に述べたように、現状では問題を洗い出せても出来ることが少なく、問題を把握しているのに宙ぶらりんにして放置せざるを得ないものが多いこと。メンタルチェックは対象者へ常に心を読まれているかもしれないというストレスがあり、この生活環境では十分なケアがしにくいということ。それらを理由に利益よりも不利益が大きいとしてやるメリットがないと述べた。


 半数以上のスタッフは、提案に合意寄りの姿勢を取った。避難生活開始からずっと行政の動きが鈍く、上の方では対応らしい対応をしているのか不明瞭な状態が続いていて、それをカバーするように現場での物資融通や相互扶助が始まっている。ゆえに不和の理由になるものや、集団の協調性にヒビを入れかねない行動を避けるような傾向が強まってきていて、メンタルチェックにも内心懐疑寄りだったのだろう。


 残りのスタッフは、半分が「やってもやらなくても構わない」というスタンス。もう半分がメンタルチェックを止めることに反対……というより、私達が魔法士でありながら大した協力をしないことを問題だと考えているみたいだ。


「今は一人でも動ける奴には仕事を割り振って、やれることをやってもらわなければならないんだ。せっかく1級魔法士とかいう凄いのがいるなら、それを活かさない理由がないだろ」


 という具合に。


 現在、避難所で存在する仕事は届いてくる配給食糧などの管理・分配に、生活必需品を始めとする消耗品の在庫管理、発生する生活ゴミの処理に清掃、街に残っている食糧の回収、近辺にある死体の処理など。配給もいつ尽きるか、来なくなるか分からない現状、避難所では街中のコンビニやスーパーに残存する食糧も回収して、予備として貯蔵しておきたがっている。

 また、放たれる悪臭の原因である死体も、出来る範囲で埋葬・火にくべるなどして対処しておきたい。平時ならそういうのは専門の業者とかがやってくれそうだけど、今それを他人に求めるのは酷な判断。

 なにせ最低でも、日本にいた人の10人に9人は死んだと予想されるデータがある。あくまでも私達がいる市のみのデータだが、このデータが他の地域と違って特別死者が多いのかと考えると、恐らくそうではない。データを見たサヤは、


「原因となる魔力嵐の威力からすれば、平均からそう外れた数値ではなさそう」


 と予測しており、イグノーツに至っては、


「1割も残っているのですね」


 と不思議そうに語っていた。


 イグノーツは魔力嵐の被害にもずっと詳しいだろうし、通過後の損害などもよく知っていると思う。そこからあの言葉と共に推測して、この市の被害は軽い方だったのではないのか? と私は考える。


 ともかくだ。単純計算で今生き延びている人の9倍以上の数の死体が、国内に溢れていると予測が立てられた。この市だけでも数十万の死体が処分されずに放置されているかも……なんて考えたら、自分で処理した方が早いかもと気付く。

 それでも実際は、死体からのバイ菌感染や死体そのものへ触れる作業をしたくない。清潔で潔癖(と思われる)生活を送ってきた現代日本人にとって、死体と関わるのは圧倒的に慣れないこと。なので出来れば避けていたかった。


「遺体の土葬・火葬処理を私達が請け負うということで、代わりとなりませんか?」

「火葬……魔法士は火が出せるのか?」

「禁止された魔法以外なら全ての公認魔法を使用可能です」


 私はスタッフの質問に、拡大した答えを返した。

 法的に使っちゃダメなやつと、非公認魔法などの公認ではない魔法以外は全部出来ますよ。使えるってだけで、規制があるやつも多いんだけど、1級魔法士だからこの点は割と万能である。


「法律的に、魔法士が遺体を処理することは問題ないのかい?」

「本来は色々と許可や確認が必要でしょうけれど、全部守ろうとしたらいつまで経っても街から遺体は消えないわ。でも偉い人と連絡が取れない以上、普通にやろうとしたらいつ出来るか見当もつかない。対応するにはそちらの協力が不可欠になる。了承が得られないなら諦めるけれど、どうする?」


 今度はサヤが答えて、スタッフ達へ視線を向けた。メンタルチェックをやめます、代わりに問題となっている悪臭の原因である死体処理のために働きますと言われ、スタッフ達はどうすべきか各自話し合い出した。あーでもない、こーでもない。受けるべき、他の仕事もあるだろ、などの声が聞こえてくる。


 話し合いがまとまるまで、どれくらいの時間がかかっただろう。


「決まったかしら?」

「……前例のない非常時だからね。火葬は本来火葬場で行うべきものだし、土葬も指定された場所以外ではしちゃいけない決まりだが、私達は忙しくて何も見なかったし知らなかった。遠くで火が起こっても、なぜ起きたかなんて知らない。きっと何処かから()()()()()()火災が起きたんだろう」

「そういうことにする、と。まあいいわ」


 暗黙の了解を取ったと判断したサヤは、それ以上の確認はしなかった。本当は指定の場所以外でやるのはしちゃいけないことだけど、何があったかなんて知りませんので何も証言しませんと言ったも同然。味方は出来ないが、可能な限り情報は伏せますという言質を得られたと見ていいのかな。


 許可を出すとまでは行かないが、話を合わせるくらいの意思。うーん微妙……ないよりはマシだけど、これだと確認された時に責任を全部擦りつけられたりしないか不安がなくも——。


「ああ、そうそう。もしこの行為が問い詰められて問題にされた時、不利な証言をしないことを確約してくれるなら、魔法での回復や治癒をしてもいいわ」

「——!? そ、それは本当か?」


 ええっ!?


 あまりの発言を聞いてサヤ以外の全員が目を丸くした。だってそれは、私が魔法士だと判明して最初に求められたことであり、その時は法律的に問題があるから無理と断った内容だから。


「誰だって別に好きで苦しみたい訳じゃない。避けられるものなら避けたいし、癒せるなら癒したい。けど色々と規制が……そういうことでしょ。なら、ここにいる全員が黙ってくれれば問題はないわ。成功率に関しては1級魔法士でも99%しか保証出来ないけれど」

「い、いや、99%で『しか』はおかしくないか?」

「ガチャを回すゲームとかやったことある? 1%なんて大して低い確率じゃないわよ。この状況では怪我なんてする機会いくらでもあるし、何回も行えばいつか失敗を引く可能性はあるの。無論やらなくてもいいわ。失敗したら私だって怖いもの。どうする?」


 サヤは再びスタッフ達に尋ねるが、答えは決まったも同然だっただろう。医者はおらず医薬品もいつかは尽きる。そうなった時に治療出来ずに弱っていくよりは、失敗する確率があっても治療が出来る選択肢はあって欲しいと考えるのは、自然なことだった。


 その後、スタッフ達は全員魔法士の治療を受ける代わりに、この後それによって起こる可能性のある問題と責任を治療を施した魔法士へ追及しないことに合意する。書面に残すと不味いらしいから口約束でしかないが、向こうに破る気はなさそうだった。


 いつの間にか私も回復魔法を使ってあげることになっていたが、この流れに逆らえる理由も反対する鋼のメンタルもない。

 私は大人しく諦めた。魔法による資格なき治療行為に、火葬のため火をつける放火。死体を動かして葬儀場以外で処理するなら死体遺棄? うう……犯罪者になるのかあ……色々罪が重なりそう。


「そういうことだから、行くわよツカサ」

「もう行くの? 何か準備とかは必要ないの?」

「出来るだけ一気にやっておきたいからね。災害後の火災なんてそう何度も起こせないし、死体自体、いつまでも放っておけない」

「あ、だったら俺もついていきたいんだが」


 とっとと済ませてしまいたいと出かけようとする彼女に、ムキムキな男性スタッフが声をかける。皆の視線がそのスタッフへ集まった。


「俺は魔法士ってやつがどういうのか詳しく知らないが、街に出るなら体力があって力仕事が出来るやつはいた方がいいだろ。何かと出番があると思うんだ」

「ふむ……確かに。私やツカサの魔法も万能という訳じゃないからね」


 魔法は色々なことが出来て便利ではある。だが使用する度に魔力と共に体力も消耗するので、何回も連続で使用すれば疲れてくる。サヤも学生の頃は運動部系の人じゃなかったから、体力に関しては多くなかった方と記憶にあった。


「いいわ、貴方も一緒に来て。名前は?」

「ロクトだ」

「私はサヤ。そっちはツカサよ、覚えておいて」

「……魔法士ってのはみんなこういう話し方をするのか?」


 あまりにもアッサリした会話に、ロクトという人が私の方を見ながら尋ねた。

 違います。サヤが周りよりちょっと浮いているだけです。魔法士をそんな変な生物みたいに思わないでください。


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