表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/130

想いの正体

 呼ばれた用が済み、私とサヤは部屋を出た。


 とりあえず、ステートクラスからムーンスイートクラスにランクアップすることは確定した。

 ついでにお風呂や食事などの生活面における優遇措置も受けられるようになり、船長へ要望を通す際に必要だからと、面会する際に他の人と被った時使える優先権なども貰った。


(最後のは特にありがたみはない、なあ)


 今のところこっちから面会を求めに行くより向こうから呼ばれて行くことの方が多い。

 この優先権、果たして使う機会が来るのだろうか。

 貰えるものは受け取っておく派だけど、一回だけ使って机の奥にしまい忘れる物になりそうな気がする。


(別にいいか。一回でも用があるなら)


 私は持っている誓約書へ目を向ける。

 話し合いの中で、船長が私に提案した権利を約束するものだ。


(まだ使い道は決まっていないけど)


 紙面をチラッと見るが、内容はごく単純。

 形式ばった書式で、船長は次に示す条件を受け入れます的なことが書いてあるだけ。

 条件を記入する欄は空白のままだ。


 その後に船長と私の名前が来て、今日の日付を記した後、赤い印鑑がポンと押されている。

 欄が空白なのは、私が記入する用に空けてあるからだが。


「はぁ……」

「珍しいわね、ツカサがため息なんて」


 ため息を吐いたらサヤが意外そうな顔を向けた。


「扱いに困るなあって思って。大事なものだし、失くさないよう保管しないといけないし、一回きりの権利だしで。見た目以上に重いよ……」


 そう言いながら紙を両手に持つ。

 一般論だけど、こういう約束事で肝心の部分を白紙のまま渡す行為は推奨されるものではない。

 相手の考え次第で、白紙の欄になんでも記入出来てしまうから。

 どんな契約にされてもおかしくないのである。


(極端だけど、『船を渡して』とか書いたら、その通りに契約が結ばれちゃうってことだし)


 白紙の小切手とか、白紙の委任状とか、無条件降伏とか。

 全部相手から言われた通りにしますと、そういう宣言代わりで使うような方法である。

 受け取る側に断る理由がないレベルで、出す側は一生に一度でも出さないで済ましたいレベルの、そういうもの。


 もちろん無茶な要望を書くつもりはない。

 今でさえ頭を抱える状況なんだから。

 ふざけた要望を書いたら、その結果が自分に跳ね返ってくるだけ。


「ねえサヤ。これって本当に使えると思う? 契約を保証する第三者がいる訳でもないし、実はただの紙切れなんじゃって……船長さんには悪いけどさ」


 私はサヤに聞いてみる。

 こんなものを渡されたという事実。

 そこに法的な効力があったとして、今の世の中でどれくらい法というものは発揮されるだろう。

 素直な気持ちで言えば、遵守されるような契約なの? と疑っていた。


 そんな理由から意見を求めると、「大丈夫よ」とサヤは口にし出す。


「いざって時不履行にしたいなら口約束で留めればいい。紙なんて燃やせばなくなるもの。守る気がないならいらないし、不義理を働くつもりならザガムなんて側におくのは間抜けすぎるでしょ」

「ああー……」


 そうなのかな?

 いや、そうなのかも……


「ザガムさんなら心を読んで嘘かどうか調べられるから、的な?」

「そうよ」


 彼は心が読める魔法を使えるし、あの場でしれっと読んでいる可能性はある。

 ザガム的にもやらないメリットがないだろう。

 あの人、気持ちを読まれるとかほぼ気にしない環境にいたようなので。


 こちらの世界じゃ使う人はごく限られた魔法だが、そういう魔法があるということは知っている人もまばらにいる。

 故に、そういう魔法を知らないまま、船長が同席させたとは考えにくいだろう。


 ザガムと私達は知り合いだし、仲違いを起こしている最中などでもない。

 私達が聞けば、彼伝いに嘘をついていたか伝わってしまう。

 そう思えばあそこに同席させるのは十分なリスクだ。


「そもそも私達は魔法士なんだから。対面で吐かれる嘘なんて見破れる。向こうもそう知ってるわよ」

「そういえばそっか」

「……もしかして忘れてたの?」

「いや忘れてない、ないよ!?」


 ジト目で見つめられた私は否定するように両手を振った。


「ほら、やっぱ相手の心を勝手に覗くのは抵抗があるというか……誰にでもほいほい使うのは、精神衛生上良くないなーって」


 向こうからガンガン読んでくるイグノーツ相手ならともかく、一般人や魔法を使えない人達へ向けてまで気軽に使うのは、ね。


 あと単純に心身ともに疲れやすい。

 私は仕事で散々、口から出ていない他人の不満、愚痴、罵詈雑言を読んできた。

 そうした経験から赤の他人の内心など、好き好んで読む気になれないのである。


「……私も、必要な時だけ使ってそれ以外では使わずに済むのが一番だけどね。でも自己防衛の範囲なら使ってもいいと思うわよ。ツカサなら間違った使い方しないだろうし。というか、もっと使ってくれた方が私は安心する」

「サヤがそういうなら……」


 気乗りはしないが、友達を心配させずに済むならと思い、私は承諾した。


「とりあえず、その白紙の契約書は船長なりに誠意を示そうとしたものと思って大丈夫よ。だから失くさないようにね」

「うん」


 その言葉にハッキリと頷いた。

 紛失なんて嫌だから、もちろんそうするつもりだ。


「あと、何を書くかも吟味した方がいい。そして、出来ることなら何も書かずに、そのまま持ち続けなさい」

「何も書かない方がいいの?」


 首を傾げる。

 白紙のまま持っていてもしょうがないだろうに。

 使い道が決まったら使ってしまった方が楽になれそう。


 私はそう思っていたけれど、サヤは違った。


「その紙はツカサが記入するまでは価値が決まっていないの。休みが欲しいみたいなささやかな要求に使うことも出来れば、船長は私達の言いなりになれとか、危ない要求を突きつけるのにも使える。一円くらいの価値にも、一万円以上のものにでもかえられるのよ。でも一度決めたら変更出来ない。その紙の価値はそれ以上でもそれ以下でもなくなる」

「へえー、なんだか小切手みたい」

「小切手のこと知ってるの?」

「うん」


 紙の小切手は、私が生まれてくる数年前だったか。

 紛失のリスクとか、管理のコストとか、諸々の事情につき電子決済へ移行する流れで廃止されている。

 だから現実だともう使われていない。


 でも小学生の頃に昔の映画を見る機会があって、その時にチラッと映ったのを覚えている。

 書いた額面だけ価値があることになるのが不思議で、マジックネイティブの記憶力もあり、ずっと覚えていた。


「そう……なら想像してみて。金額の決まっていない小切手を持っている私達か、金額の決まっている小切手を持っている私達か。どっちの方が、相手にとっては厄介だと思う?」

「えっと、決まっていない方?」

「そうよ」


 あまり自信がなかったけれど良かった、合っていた。


「使うために内容を決めれば、この紙はどんな要望でも通すことの出来る『強み』を失う。逆に使わずにいる間は、その『強み』を失わずに済むの。これは私達が要求を通す時の矛になるし、嫌なことを強制されないための盾にだってなるわ」

「なるほど……」


 いい要望を思いついたら記入してみようかなと考えていたけれど、改めよう。

 この白紙の契約書は私達に何かあったとき、交渉の切り札になる。

 使い方だけでなく、タイミングなども慎重に考えた方が良さそうだ。


「幸いその紙にはこの日までに使わないといけない期限もない。これは本当に大事な、譲れないものを守るために取っておきなさい」


(大切なものを守るために、か)


 貴重なものを肌身離さずにいられない人がいたりするけど、その気持ちが分かった気がする。

 私は胸に契約書を抱えると、保管方法について真剣に考えるのだった。






 その日の午後。

 昼食を終え休憩を取っていた私達の元へ、吉野さんがやってきた。

 たまには別の場所で食べたいからと、メインデッキにあるダイニングエリア、パーティー会場みたいなレストランにいた時のことである。


(またぁ……?)


 姿が見えてこちらと目が合った途端に面倒くささに包まれた。

 午前中会ったばかりなのにまた顔を見ることになるなんて。

 今度は何の用事だと身構える。


「失礼いたします。先ほど来てもらっていた際に、お伝えし忘れていたことがございまして、改めて私からお伝えに参りました」

「あ、はい。何かありましたか?」


 立ち上がって彼の方へ向き直る。

 聞く姿勢を取ったのを見た吉野さんは、話を続ける。


「一昨日にツカサさんとサヤさんに狩ってもらった食料について、当初見積もりを出した時点より、食事が必要な乗客の方が増えました。これにより計算が合わなくなり、再度計算したところ、今の量では二日で食べ切ってしまうことになりました」

「えっと確か、狩った日の時点だと三日分になるって言ってましたよね? ということはそれが二日分に減ったということですか?」


 すぐに理解出来なかったので認識を擦り合わせるような質問をしてみる。

 すると吉野さんは「はい」と肯定した。


 マジかあ。

 沢山救助したのだから、そりゃそうなるだろうけど。


「そんなに人が増えたんですか?」

「43人の名前が名簿に加わっていますよ」


 具体的な数字を聞きもっと驚く。

 思わず「そんなに?」と口に出てしまった。

 それまで座って聞いていたサヤも立ち上がり、彼の方を見やる。


「落ち着いて言ってるけれど、食べ物が尽きかけてるってことじゃない。どう対処するの?」

「それなんですが、私共から依頼するより先にザガムさんの申し出がありまして。あの方が追加の食料を得るため採取・狩猟に向かってくれています」


 私はサヤと目を合わせる。

 とりあえず今知ったことを順に確認しよう。


 一、食い扶持が増えたので船にある食糧の消費ペースが上がった。

 二、このままだと明日あたりから配られる食事に影響が出る。

 三、それをどうにかするためザガムが一人で出て行った。


(ということは……)


 しばらく見つめ合ったあと、お互いに結論へ至る。


「なら、大丈夫そうかな」

「あの人のことなんて心配するだけ無駄中の無駄よ。もっと有意義なこと考えましょ」


 不安にもなっていない私と、関心が失せたみたく別のことを思考し出すサヤ。

 そんな私達の反応に、吉野さんが困惑を隠せずにいる。


「お二人の知り合いなんですよね? 一人で行ったことなどに不安はないんですか……?」


 他人の心配もしないおかしな人とでも思われているのだろうか。

 別にそんなことはないのだけど。

 ただその必要がまるでない相手だから、そうしているだけである。


「ザガムさんは、普通の基準で心配しても意味ない人だから」


 誤解されても困るので、そう思ってる旨を伝えておいた。

 サヤもその言葉に頷きながら言う。


「仮にお墓を用意しないといけない状況でもあいつの分だけはしなくていい。それくらい出来る奴なのは保証出来る」

「そ、そこまで……?」

「悔しいけどね」


 口をあんぐりと開け、言葉を失う吉野さん。


 彼にはまだ分かるまい。

 普通なら心配するかもしれないが、ザガムに限っては無縁な話なのだと。

 ザガムがいかに普通でないかを骨の髄まで染みれば、この反応も理解出来るようになるはずだ。


(不安で目が離せないような人なら、他にいるし)


 ふとケイスケさんの顔が思い浮かんだ。


(ザガムさんは、私達がいなくてもなんでも出来る。すごい人だけど、近くにいるほど自分の存在がちっぽけに感じるんだ。傍で私がいないと出来ることなんてないんだ)


 そんな人のことを私が気にかけたって、しょうがないのである。

 却って邪魔になるかもしれない。

 鳥の魔物を倒した時のように。


 だったらザガムのことを邪魔せず、私の力を活かせる方向で動いた方がいい。


(そういえば今ケイスケさんはザガムさんに教えてもらっているんだっけ)


 前に盗み聞いてしまった内容を思い出し、ひょっとしたら今もあそこで練習を続けているのでは……と思った。


(ザガムさんがしばらく戻らないなら、様子見に行ってこようかな)


 午後の予定は特に決まってない。

 ケイスケさんのことで確かめたいこともある。

 行きたいという気持ちが、自然と膨らんできた。


 私は吉野さんに確認を取る。


「ザガムさんが帰ってくるまでどれくらいかかりそうですか?」

「申し訳ありません、特には……。ですが、かなりの量を夕日が沈むまでには持ってくるつもりであると伺っています」


 夕日が沈むまでに。

 うんうんと頷きながら、凡その検討を立てた。


(なら、すぐには戻ってこないかも)


「ごめんサヤ、ちょっと行きたいところが出来たの。悪いけど……」

「一人で行くの?」

「え? う、うん」


 彼と話す機会があるなら、周りに誰もいないタイミングで会いたい。

 だから一人で行きたいと思っていたけれど、それを先読みするかの如く聞かれた。

 思わずテンパった受け答えをしてしまう。


(ま、まさか読まれてる?)


 午前中に交わした話もあり、サヤも心を読んでいるのかと疑ってしまう。

 が、それにしてはサヤに変化が見られない。

 仮に読んでいるならば、可能性を疑われたことに今気付いたはず。


 もしや、勘でそう思っただけなのだろうか。


「どこへ行くか聞いてもいいかしら?」

「お、屋上にある……露天風呂?」


 まずい、誤魔化すのが急に下手になった。

 心が読まれてるかも!? って思った時の動揺が収まってない。

 それにこんな理由で一人になろうとすることがなかったから、良さげな理由もパッと浮かばない。


(やらかしたー!)


 こんなふわふわな答え方だと隠しごとがあるって言っているようなもの。

 サヤ相手にこんな誤魔化し通じるわけない。

 終わった。


「そう。気をつけていきなさいよ」

「……え?」

「なに? 一人で行きたいんじゃないの?」

「あ、ううん……。行ってくるね」


 けれど予想に反して、サヤは何の反応も示さなかった。

 てっきり問いつめられると予想していた私は、何も聞かれなかったことに拍子抜け。


(な、なんでだろう)


 理由は分からない。

 だけどこれはチャンスである。


 サヤの気が変わらないうちにその場を去り、走って向かった。

 そうして最上階へとやって来た私は、ケイスケさんの姿を探して回る。


(いないのかな?)


 静かな空気に包まれているその場所。

 魔法の練習をしているんじゃないかと思っていたが、そういった様子は見られない。

 なんでだろうと少し考える。


(そっか……ケイスケさんの練習している魔法、一人だと厳しいから)


 攻撃に使う魔法に比べて防御に使う魔法は、攻撃役と防御役に分かれないと練習が難しい。

 一人で出来ないわけではないが、二人でやる方が圧倒的に効率的だ。

 今はザガムが出かけているので、ケイスケさんも練習が進まないのかも。


 そんな風に考えつつ探していけば、船尾の方で遠くを眺めている彼を見つけた。

 声をかけにいくと、足音に気付いた彼が振り返った。


「あ……こんにちは、ケイスケさん」

「こんにちは、ツカサさん」


 丁寧にそう返したケイスケさんは、どうしたのかなという風に、首を傾げる。

 話しかけにきた理由を知りたがっているようだった。


(なに話そう……)


 ここに来る前に色々、話すネタを考えてきた。

 私が彼に抱いている気持ち。

 それがどういうものなのか、確かめるためのもの。


 何個も考えておいた。

 でも彼を前にした途端、それらの話題が思い出せなくなる。


(あ、あれ……?)


 びゅうっと流れる風の音。

 冷たい空気が合間を通り抜けていく。


 何も言葉に出せないでいた私に、見かねたように話が振られる。


「こんなところに一人で来るの、珍しいね」


 私が一人でいるの、そんなに珍しいだろうか。

 確かに今までサヤとかザガムさんとかとよく一緒にいたけど。

 とりあえず、いつまでも固まったままというのは良くないと思い、話に乗ることにした。


「風に当たろうかなって思って。でも、寒いですね」

「冷えてくる季節だからね。今は暖かい方にいるからマシだけど、長いこと風に当たらない方がいいよ」

「そう、かも」


 びゅおっと吹いた風には、冷たさもある。

 耳がかじかむほどではないが、冬の訪れを告げるには十分な冷たさだ。


(マフラーとか持ってくれば良かったかな)


 両脇に腕を挟んで、ケイスケさんの格好へ目をやった。

 生地の厚さはこちらと変わらない、若干私の着ているものの方が暖かくありそうなんだけど。

 私と比べて彼は平然としていた。


「でもケイスケさんは平気そうですよね。なんで?」

「俺はツカサさんより筋肉があるから、その分寒さに強いんじゃないかな」

「ええっ?」


 そんなのあり?

 筋肉があるから寒さに強いなんて、自前でちょっとした防寒具を着ているようなものじゃん。

 こっちが震えてしまうような気温の中でも、ケイスケさんはへっちゃらだなんて。


 寒さをあまり感じてなさそうなケイスケさんに、思わず不満を漏らした。


「なんかずるーい……」


 その筋肉を、いや温かさを私にも分けてほしいと、ジト目で訴えかける。


「いや、ズルいって言われてもなぁ……」


 困り顔を浮かべるケイスケさん。

 私も筋トレをすればいいのだろうか。

 でも筋肉ってつくまでに時間が掛かるから、欲しいと思った時すぐつかないんだよね。


 マジックネイティブだと身体の成長が早くなるとか、筋トレの効果が出やすくなるとか、そういうこともないし。


(ちょっとイタズラしてやろう)


 彼の言い分の方が正しいのは分かっていたが。

 私の中に芽生えた悪戯心が、からかってやれと囁いてきた。


 それはケイスケさんから感じる人柄への信用。

 妹のサヤが兄に見せる態度。

 そうした条件が重なって、イタズラしても大丈夫そうだと思ったから。


 私は自分の手がまだ冷えていることを確認。

 彼が隙を見せた瞬間を狙い、手を伸ばして「えいっ」と、彼の頬に押し当てた。


「冷たーっ!?」

「わ〜、あったかーい」


 私の手から逃れようとするケイスケさん。

 しかしここは船尾の方。

 後ろに退がれるスペースはもうない。

 手すりに行く手を阻まれる形で終わりである。


 イタズラ成功。

 思わず笑いがこぼれた。


「いやツカサさん、ほっぺなんて筋トレで鍛えないから! 触っても確認にならないって!」

「あ、バレちゃいました?」

「わざとかー!」


 ノリツッコミしてくれて楽しい。

 手のひらだけじゃなく、体の芯もぽかぽかになってきた。


「えへへ、ごめんなさい。ついやり返したくなっちゃって」

「ツカサさんの先制攻撃なんだけど……?」

「違います〜反撃です〜」

「嘘をついてもためにならないぞ。大人しく白状するんだ!」

「黙秘権を行使します!」


 それは他愛もない会話の応酬で、私が先か彼が先かと、くだらないことを決めるためにしばらく続いた。

 客観的に見るならすごくどうでもいいのに、お互いに一歩も譲らない。


 とても無駄な時間で。

 でもすごく楽しかった。


 ちょっと話して確認しただけど。

 なんとなく、私が抱いているこの気持ちは、イツテルさんへ感じたものと近い。


 そんな予感がする。

 けどまだ確信はない。

 これが思い込みによるものか本物なのか、断定する材料にはならない。


(まだ、色々やってみないと)


 もっとハッキリと言い切れる体験が必要。

 そう思った私はもう少し、ケイスケさんと一緒にいることを決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ