湾岸の目撃情報
推進器の問題から一時航行が止まっていた船は、ザガムが話していた通り当日中に修理を終えた。
……しかし、日没までにやり終えるのは流石に無理だったようである。船を動かしても良さそうになった頃、辺りは完全に暗くなっていた。
今、この夜を照らすのは空の星々と月の光だけ。
陸地からの明かりなどはなくGPSも使えない。
そんな中を進むのは危ないのは誰の目にも明らかである。
クルーズ船『本月晶』は、船長の判断で明朝まで停泊することになった。
そうして日付が変わり、乗ってから3日目の朝。寒い空気が染みる時刻、船は静かに動き出した。
凡そ午前9時くらいか。今更ながら収集録で調べられるんじゃないかと思って確認すると、8時半だった。
(う〜寒い〜〜…………)
もうとっくに寒くておかしくない季節だが、今年は比較的暖かい傾向にあって、前日までそんな気温が続いていた。それが豹変したかのように今日一気に冷え込んでいる。
(辛いよぉ)
こうなると暖房が使えないのも困りもの。
この船は燃料不足の問題を解決出来ていないので、発電機を動かす分は貴重なままだ。残り少ない燃料を無駄にしないためにも節電しており、暖房に回す余裕はない。ほっとくと足が早い肉などの食材のため冷蔵庫が稼働中だから、機関部を動かす電力の余りからその分をさらに差し引いただけの電気しか使えない。
つまり私達のせいか。いや、そんなことはない。
食べ物がなくなれば人は長く生きられない。食べ物なしでも綺麗な水があれば一ヶ月くらい生き続けられるというけど、あれは『すぐ死なない』というだけの話で、それ以外の余裕や元気はゴリゴリ削られていくという。
生きている限り減っていくものだしいつかはやらねばならないことだった。それに比べれば布に包まれば取れる暖など優先度が低いのも、まあ頷ける。頷きたくないけど。
(でも寒いものは寒い……)
そんなわけで起きてからずっと布団にくるまっている私。
(いつまでもこうしていることは出来ないしなあ……)
一体いつ出ようか。
あまり考える気の進まないことが頭をよぎり出した時、廊下と部屋を区切る扉が開いて、サヤが入ってきた。
先に起きて朝ごはんを取りに行っていたのだろう。
その手にはソーセージを挟めそうな細長いパンと、肉を入れられた袋が二つ。もう片手には野菜が入っていそうなパックと、フルーツがプリントされた缶詰。
持ってきたそれらを机に置くと、布団の中にいる私を見て呆れた目を向けた。
「でっかい幼虫がいるわね。良い加減起きなさい」
「やだ〜〜! あと五分〜〜」
「守らない約束の定番みたいなことを言わない! さっさと羽化しろ!」
布団を死守しようともがく私だったけど、抵抗空しく奪われてしまった。
どうやら私が一番起きるのが遅かったようである。大人しく芋虫から卒業してベッドから離れると、ツェレンもラシェルもとっくに現れてて、部屋の中で寛いでいた。
「とりあえず身だしなみ整えなさい。顔に髪かかってるわよ」
「はーい……」
起こされた以上、やることやって髪も整えてしまおう。
生返事をした私はバスルームに入ると湯船に水を出して魔法で温める。そして身体を洗った後、手早く、丁寧に髪を整え、昨日のうちに洗濯し終えていた服に着替えた。
(大きなクルーズ船でランドリー設備があるのは助かった。避難先の学校にはそういうのなかったし、洗うのはともかく乾かすのが大変だったんだよね)
あそこだとザガムのお陰で水は困らないほど使えたけれど、普段電気やガスでやっていたことが出来なかったので服を乾かすのに自然乾燥か魔法で水分を蒸発させる以外なかった。特に自然乾燥の場合、毎日洗いたいが人目が気になって干しにくいものもあった。そういうものは人目のつかない場所で、魔法で熱気を当て乾燥させるのが日常の一部に組み込まれていたといっても過言ではない。
(もしかしたら魔力の活性率が下がっていた原因の一つかもしれないなあ……)
活性率が回復するまで魔法の使用は必要な場面だけに抑えたい。
ランドリーがあるとそういう面で助かる。
あと集団生活という都合から服の取り違えなども何度か起きかけていたし、他の人のと混ざる機会が減らせるのも有り難かった。
「完了しましたー」
「よしよし。はい、朝ごはんよ」
「わーい、ありがとー」
サヤから朝ごはんを受け取り、窓辺から外の景色を見る。
クルーズ船は三河湾から隣接する知多湾へ、海から生存者の捜索をするべくゆっくりと移動中だ。
接岸することもする必要もない状況だったのか、陸で人が見つかったという話は聞かず、代わりに聞こえてくるのは船長からのお知らせ。
これから伊勢湾へ向かい、捜索を続けますとの内容。
それが放送で船内に伝わったことで、部屋から出なくともある程度のことは察せられた。
海には魔力嵐で飛ばされたと思しき、建物の断片や看板、その他ゴミなど様々なものがぷかぷかと浮いている。
都心部に近づくほどその数は増える一方である。
そうして部屋の窓から船の行く先を雑談の合間に眺めていると、大きく平べったい人工島が見えてきた。
「空港だ。この辺りにあったやつだとえーっと……」
「中部国際空港ね」
現在地から考えて、中部国際空港であるとサヤが教えてくれた。
遠目なら多少判別の効く形をしていた空港。
けれど近づくにつれその姿はヒビだらけのボロボロ、天井や床も骨組みを残して崩れかけたままの有様であることが確認出来る。
当然、窓ガラスなど一つも綺麗に残ってない。
管制塔こそ比較的まともな外観を残していたけれど、発生した森に近かったためか根本周囲は植物に侵食され、有名な斜塔のように傾いていた。
島の奥側については森林にほぼ置き換わっているので、どういう場所だったかなど記憶や画像を頼りに思い出すしかない状態。唯一長い滑走路だけがまともに近い形で、コンクリートが雑草の隙間から覗いている。
(飛行機は見当たらない。全部飛んでいっちゃったんだろうなあ……。残していたかは微妙だけど、あの魔力嵐の中ならどこかへ吹き飛んだって不思議じゃないし……)
「魔物がいるわ」
風景ばかりに目を向けていた私だけど、そのときサヤが魔物を発見した。
「え、どこ」
サヤが指差して示す方をじっと目を凝らして見れば、奥の森林や空港の建物の中に、毛の生えた四つ足の獣がちらっと、こちらを凝視するような姿勢で固まっている。
全身のフォルムから、鹿とは別の動物が魔化した魔物だろう。
オオカミを連想する骨格に、鹿には見られなかった長い尻尾。大きさ以外はとても見覚えのある輪郭が、元となった動物が何かを暗示する。
「ねえサヤ、日本にオオカミっていた……?」
「日本のオオカミならとっくに絶滅していて、一体も残っていない。あれは恐らく犬が魔化したやつでしょうね。誰かの飼い犬だったのかは知らないけど、鹿や鳥のやつと同じ原因で魔物になったのかもしれない」
「じゃあ飼い主とかは……」
「逸れたのか、捨てられたのかは知らないけど、魔物の特徴は見かけた生物を攻撃するだったわよね? なら……」
サヤはそこから先を言わなかった。
口に出そうとして、言うのを自制したように窺えた。
彼女はその代わりの行動として、ラシェルの方へ振り返って尋ねる。
「魔物になる前は飼い主だった相手でも、攻撃される可能性は高いのかしら?」
「恐らく。魔化現象は『疫病帯』の魔力を吸収したあと、O系魔力が暴走してしまうことで起きるから。テストゥブで判明している部分だと、暴走したオドが己の主人……つまりオドを持っている生物の意思を、歪んで受け取る。そして主人の身体を変えたり操って、自分に害を為すと判断したものを攻撃する。当然、その判断も暴走したオドが決める訳だから、周囲の生物が全部攻撃の相手になる」
ラシェルが言うには、暴走したオドは主人が望んでいることを正確に解することが出来ず、ゆえに主人が「やめて」と命じても従わないという。その上、主人の防衛のために見境なく攻撃対象を定めてしまう。例え攻撃対象の中に主人にとって特別な相手がいたとしても、万が一、億が一の可能性から必ず攻撃すると。
(なにそれ、言うことを聞かない状態ってこと……?)
望んでもいないのに身体を変えられ、その身体を勝手に動かされ、周囲の存在を傷つけるかもしれない。
そして一度その状態になってしまうと、元に戻す術はない。
そもそも術が存在するのかさえ不明。
それが魔化という現象。
改めて、目の前で見てきたその現象を恐ろしく感じる。
「なんで貴方の世界じゃなく、テストゥブでの話をしたの?」
「あそこの世界が一番、魔力や魔法の研究が進んでいるから。それ以外の理由はないです」
「ふうん……あいつのいたところが一番進歩しているのね」
「魔力に関してなら二百年以上、それ以外でも同じくらいにかけ離れた技術を有した文明でした」
イグノーツのいた世界でも最も発展した文明がある世界なのだろう。
私達の世界と比べたらどれほど差があるのか、興味が湧かなくもない。そう思いつつ私も話題に加わる。
「そこまで進んだ世界でも、治す方法は見つかってないんですか?」
「残念だけどそう。発症する前なら止める方法はあるけれど、発症した後だとどうしようもないのはテストゥブでも同じです」
「二百年以上も先の技術があるのに?」
「当然。ツカサさんたちがいるこのウチュウも、二百年前と比べればかなり発展してますけど、治せない病気はありますよね? そういうのって、その時々にある技術や物に詳しくないと中々分からないものなのよ」
「あー……確かに」
こうして会話を弾ませている間に、船は少しずつ空港を通り過ぎる方へ舵を取っていった。
空港の横を通過してしばらく経った頃、リーンという部屋のインターホンが鳴る音がして、全員そちらへ振り向いた。
(誰だろう?)
扉へ最も近いイスに座ってた私が立ち上がり、覗き穴より相手を確認すると、女性の乗組員がいた。後ろへ振り返ってツェレン達の方を見やる。
開けないといけなさそうな相手だけど、彼女達がいるのを知られると何か問題が起こるかもしれない。私が「ラシェルさん……」と名前を呼ぶと、すぐにそれを察してくれた彼女がツェレンを抱き抱えた。
「私達は隠れておくわね。さ、ツェレン」
「うん」
ツェレンとラシェル、二人の実体が紙吹雪のように吹かれて散って、本へと吸い込まれていく。そして彼女達のいた痕跡は消え去った。それを見届けてから「はい」と答えて扉を開ける。
今度はサヤも横へ来て、応対する準備を整えた。
「こちら、ツカサ様とサヤ様のいるお部屋で合っていますか?」
「そうですけれど……どうしかしましたか?」
「金本船長から緊急の言伝を預かってきています。相談したいことがあるので、お二人へ船長室に来てもらいたいと」
私はサヤの方へ振り返った。すると首を縦に振って応じられる。
(また何か問題が起きたのかな……)
わざわざ私達を呼ぶということは、魔法でないと解決しにくいことなのかもしれない。なんだろうか。
船長室の場所を知らないので案内してもらい、用件を予想しつつ船長室へ向かった。
「ああ、来てくれましたか。急がせてしまってすみません」
船長室に着くと、奥の椅子に座ってた金本船長が待ってたとばかりに立ち上がり、こちらへ歩いてきた。その動きは冷静だけれど、『緊急』とのこともありどこか急ぐ気持ちが漏れているようにも感じられる。
「おはようございます。緊急のご相談があると聞いたのですが……」
「はい。その前に、礼儀作法などは必要最低限で構いませんよ。このような状況です。心身への負担や苦労は日頃のそれより重たく感じられるかと思います。減らせる苦労はなるべく減らしておきましょう」
それは私としては助かる提案だった。
社会では何かとマナーや礼儀、細かい言い方や目上・目下への呼び方を気にしないといけなかったので、それらを必要最低限で済ませていいというなら、気苦労が減る。
「いいんですか?」
「絶対に守らなければならないことは守り、そうでないことは大目に見る。それが船の中という閉ざされた空間で、上手くやっていくコツですから」
念入りに確認する私へ、にっこりと朗らかに笑い答えてくれる船長。
いいのかと聞かれた上で大丈夫と言うなら、多少言葉を崩しても恐らく平気だろう。最低限のラインは弁えないといけないが、いくらか緊張は解れた。
「……そういうことなら、少し楽にさせてもらいます」
「では本題に入りましょう。少し長くなると思うので、こちらにおかけください」
入り口にほど近いところ、机を挟んで置かれてある椅子へ彼が座ると、その反対、室内角側にあったL字の長ソファへ私達は座った。
私達の動きを確認して聞く体勢が整ったのを見計らうと、船長は机に地図を広げ話を始める。
「今から8分ほど前、複数の人影らしきものが陸を移動していたのを目撃しました。場所は沿岸部からほど遠くない地点、この辺りに」
そう言って船長は地図の該当箇所を指でなぞる。だがこの地域に詳しくない私にとってはどれだけ海から距離があるか程度しか分からない。分かるのは何か大きめの道路が通っているくらいだ。
「この辺って、何があったっけ」
「高速道路じゃないかしら。近くにかかっている橋の名前は知らないけど」
名港東大橋。
この場の三人ともその名称について出すことは出来なかったけれど、その橋を東に二つくらい増やした距離の場所を、船長は指差していた。
「こんなところに人影を見たんですか? あの森……の向こうに?」
サヤが地図上で指された位置を見て、疑問視する目で見つめる。
極大繁茂によって生えてきた木、その平均的な高さは10階建てマンションの三倍以上。幹の太さもそれに見合うだけのものがあって、鬱蒼と陸を占めている。
当然、地上から百メートルくらいまでの視界は木々が遮って空は見えず、この時間帯では考えられないほど日陰が濃い。
そんな中で人影なんて見つけられるとは思えない……という疑念がサヤにもあるのだろう。見間違いではないのかという視線を船長に向けていた。それでも、船長は自らの出した言葉を否定せず続ける。
「私共としても信じがたいのですが、ブリッジのクルーが双眼鏡で捜索している折に見たということです。見間違いの可能性があることはもちろん、人そのものではない可能性も考慮しています。その上で、僅かな可能性も捨てることは出来ない」
「言いたいことは分かります。それで、私とツカサに何を相談…………いえ、して欲しいんでしょうか?」
「…………この地点に見えた人影について、現地へ赴いての調査を」
耳を疑う発言だった。私とサヤは一瞬何を言っているのか理解を拒んだかの如く固まって、やがてそれが嘘ではないと察するや、表情の変化を隠せなくなる。
「言っている意味が分かっているんですか、船長さん?」
「……もちろんです。ツカサさん、私としてもこれが非常識な発言であることは重々承知しております。しかし、見たものの正体を確かめる必要があり、それが人であるか人でないかを調べないと、対処の方針が定まらないのです」
船長の言いたいことを私なりに解釈するなら、目撃したという人影が本当に人かは定かになっていない。もし人であるなら救助する必要がある。だが人でないなら何を見間違えたのかを知っておかなくてはならない。そんなところだろう。
「もしかしたらあの鹿や鳥みたいな魔物かもしれないから、ってこと?」
「あの異様に大きな動物は魔物というのですか? サヤさん」
「はい。よく一緒にいるザガムという人が教えてくれたことですけど、あれは……魔力の影響を受けて大きくなった生物らしいです」
「なんと……!」
息を呑むようなリアクションをし驚く船長。
「それは、大丈夫なのですかな? 魔力の影響を受ける全ての生物がそうなりうる可能性があるなどは……」
「私の聞いた限りだと、魔物に変える魔力というのはごく一部であって、全ての魔力にそういったことを促す作用がある訳ではありません。原因となるのも、空に発生する黒い帯状の魔力だと言います。それも頻繁に発生するものではないみたいなので、今すぐに危険だという話にはならないかと。ね、ツカサ」
「う、うん。私も大丈夫だと思います」
動物達の何割が魔物になったかは不明だけど、問題となる『疫病帯』は直接見たことはないし、見える距離にないなら慌てる必要はないだろう。もし危険になるなら一番詳しそうなザガムやイグノーツ達が動くのは想像出来るので、下手に不安がって空回るよりも冷静に努めた方がマシだと考える。
だから魔物については今まで通りの対処でいけるはず。『暫く』という但し書きは付くけれども、その間になんとかなるよう出来ることを望みたい。
大丈夫と聞いて少し安堵したらしき船長。
とはいえ、この頼みは難しい。
私は船長に向かって伝える。
「ただ……魔物はなんとか出来ると思うんですけど、あの巨大な木々に接近するというのは戻って来れる保証がありません。出来れば別の方法か代わりの案を出して欲しいんですけど」
極大繁茂で発生した植物は危険である。そのことを避難所にいた頃からの経験で覚えている私にしてみれば、そんな中に飛び込んでいくなど自殺行為に近い。
最悪調べに行って捕まってしまい、それが最後なんてことも。
……考えるだけで背筋が凍りそうだ。
「この相談はザガムにはしたの? 私達よりあっちの方が適任者として能力があるけれど」
「すでにそういう話は持ち上がっていました。ですが彼の能力はこの船には欠かせないということで、私自ら却下しています。そしてその代わりとして次の候補に選んだのが、貴方方お二人です」
「……目の前でそれを正直に言えるのは評価するわ。さすが船長ね」
「うん?」
口元で笑うサヤだけど目元は笑っていない。
私はちょっと会話の流れが読めておらず、置いてけぼりをくらう。
どういうこと? という風にサヤの方を見やると、こちらの顔色を見たサヤが説明を始めてくれる。
「要するにねツカサ、船長はこの船に乗っている人の中で、魔法が使えて役に立つ人材をランク付けしていたの。そしてその中で、今の船にとって必要不可欠な存在としてザガムは位置付けられている。ここまでは分かる?」
「うん」
彼女の確認に首を縦に振って応えると、サヤは言葉を繋げる。
「私達はその中で多分、魔物と戦うことも可能な人材。だけど、喪ったとしても他の人を納得させられるし、ザガムを出すよりはマシだったって言い訳が出来る相手。だから選ばれたのよ」
「えっ……!?」
思わず前へ向き直ったが、そこには黙ってこちらを向いた船長。
困惑と驚愕が入り混じっていた私は、船長の目をじっと見つめる。
「……最悪のケースは、ザガムさんに向かってもらったあと、そのまま帰って来ない状況です。そうなればこの船に取り付けた推進用魔法具の点検や調整に支障が出て、魔物が現れた場合にも彼なしでやっていかねばなりません。この船には大勢の乗客、避難客の方がいます。彼らの命も預かる身として、出来うる限りの安全を確保し、危険を取り除かなくてならない。どうか、ご理解ください」
頭を下げてそう告げられる。
私は、なにか言いたい気持ちがあった。
納得出来ない、そんな判断。その理由、その扱い。
この船が航行出来ているのはザガムのおかげである。
そのことが揺るがない事実だとしても。
私は自分のそんな気持ちを言おうとして——
「……先ほどの、代わりの案はないのかという話ですが、一つだけあります」
「っ!? どんな方法ですか!?」
船長の口から漏れた言葉に前のめりになって問う。
一体どんな代替案があるのだ。それを知りたかったから。サヤも「早く言いなさい!」といつもの口調でそれを吐き出させようと詰めていた。
やがて、私達からの要求に観念した船長が口を開く。
「……違う人に変わってもらうのです。他に、この役目が出来る方に」
違う人。
それは確かに、一番確実で簡単な手。言われてみればそうである。
私達が嫌だというなら、それを受けられる人に任せ、頼むのが最も早い。
(でも、誰に?)
極大繁茂の木々の中に飛び込んでいけるなんて人は限られる。
ただ魔法が使えるだけじゃダメだ。襲ってくるかもしれない木々の枝葉を躱し、潜んでいるかもしれない魔物を退けられるだけのことが出来る人じゃないと務まらない。
その条件すら満たせない人だと死ぬ可能性が高く、現実的じゃないからだ。
一体誰が? 私はそれを考えて、頭の中に一人の人物を思い浮かべる。
——まさか。
「待って船長さん。まさか……」
「……はい。お察しの通りだと、思います」
私が震えそうな声を抑えながら尋ねる。もしかしてと。それに船長は首肯する。
「魔法が使えて、あの魔物というものとも戦える。そして、お二人と同じかそれに近いくらいの能力がある方は、ザガムさんを除けば一人しか知りません」
やっぱりだ。
船長は私の想像通りのことを、私達に向かって言っているのだ。
「……彼に頼みますか? ケイスケさんに」
私達が行くか、ケイスケさんに行かせるか、その二択を選べと。




