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困惑と混乱(2)

 オオトリ・ゲンマ。

 それは私が高校生になってから一度も帰っていなかった家に帰省した理由。

 あの本を見つけて手に取るきっかけになった、亡くなった人の名前。

 私の母方の祖父。


(おじいちゃんが……この本の【支配者】の一人だった……?)


 ——同姓同名の別人?


 声にならない動揺と、信じられないものから目を逸らすかの如く別の可能性を思い浮かべる。けれど、こんなことが偶然起こるなんて確率的にどれだけ低いかなんて、よく考えなくても分かる話。つまり私の祖父がこの本を持っていて、それの【支配者】の権限を過去に持っていた。そっちの方が高い確率で真実となりえる。


 私はそう考える。

 ……しかし、それだと疑問が残ってしまう。


(でもおじいちゃんは魔力が発見される前の時代の人……魔力を扱うことは出来なかった。この本は魔力を流さないと、魔力を制御出来て初めて使えるはず)


 魔力を使える人は幼い頃より魔法具を通して触れる機会のあった若い方に圧倒的に多くおり、19歳以下とそれより上の歳では制御能力に顕著な差がある。魔力発見の年に生まれてた40歳をも超えるとなれば、感覚での理解が出来ないさえ言われるほどにキツい。祖父も「魔法は使えない」と言っていたと記憶している。


 使えるはずがない。

 祖父の世代では極めて難しいか不可能に等しい行為を、祖父に出来るはずが。


(落ち着け……落ち着こう……)


 冷静なつもりでいるが、自分が相当にショックを受けているのは分かった。

 地に足がつかないようなグラグラとする感覚が足のつま先から頭の天辺にまで上ってきている。どこかで一旦この衝撃から立ち直る必要があると私は思い、すぐ傍で心配そうな顔のサヤに頼む。


「ごめん……ちょっと横になってもいい? 少し、びっくりしていて……フラフラしそうで」

「別にいいわよそれくらい。早く横になって、落ち着きましょう?」

「なら私が本を預かっておきます」


 サヤが自分のベッドを空けて整えると、私は枕に頭を乗せ横になった。本はラシェルに一旦預け、動揺が静まるまでしばらく過ごす。そうして何分後か、大丈夫だと思うくらい回復すると身体を半分起こした。


「もういいんですか?」

「うん。お騒がせしました」


 平気なのかと問うラシェル。それに頷いて答える私は、ベッドから下りてすくっと立って見せる。さっきまであった動揺からは回復出来た。そのことは感覚を通して自分で分かった。


「ツカサ、聞いてもいいかしら」


 回復したのを見届けて、サヤは真摯な目を向けてくる。

 手にはラシェルに預けておいた本を持っており、白紙のページが開かれた状態。私は何を聞かれるかおおよそ察しつつ、彼女の言葉に「うん」と答える。


「ツカサがこの本でやっていたことを遡って確認したわ。最後に質問した内容も。ツカサは一体、何にあんなにショックを受けたの?」

「……【支配者】だった人の中に、オオトリ・ゲンマって名前があったよね」

「ええ、そうね」

「…………私の、死んだおじいちゃんの名前と同じなんだ」


 そう言った時、サヤは大きく目を見開き、言葉になってない声を漏らす。


「それって、ツカサのおじいさんがこの本と何か関係があるってこと? なぜ——どういうことラシェルさん」


 生じた疑問に一番答えを持っている相手、ラシェルの方を向いてサヤは尋ねた。


「どう、とは?」

「なんでツカサの祖父の名前が出てくるのかってこと。しかもただ持っていたとかじゃない、この本の【支配者】なんて重要そうな権限を持っていた人として。なんでなの?」


 語気を少し荒げながら問い詰めるサヤに、ラシェルは毅然とした態度で向き合っていた。さっきまでショックを受けていた私と感情を昂らせ出したサヤ、それと対照的なまでに静かな様子で。他所へ視線を移しながらラシェルは喋る。


「その疑問への話はするから、落ち着いてください。ツェレンが起きてしまいます」


 その視線の先には今も寝ているツェレン。幸いなことに起きていないようだ。

 けれどサヤが大声を出せばその音で起きてしまうのはすぐ想像出来る。サヤにとってもそれは望んだことではなく、咄嗟に声を殺すと後ろへ下がった。


「機能の制限も解かれたことですし、本の中に戻しておきますね。あそこなら外がいくら騒がしくても静かですから」


 ラシェルは左手で『静かに』という動きをしたあと、逆側の手の上に本を出現させる。そして少女を戻す命令を出したのだろう。ツェレンの下に発生した魔法紋が沈むように少女を吸い込んでいく。それを見届けたあとにサヤの疑問に答えた。


「質問について答えます。なぜツカサさんの祖父の名前が出てくるのか、それは貴方の祖父であるゲンマは私達イグノーツの一人だからです」

「本当におじいちゃんが……イグノーツの一人……?」

「はい。間違いなくツカサさんの祖父は私達と同じイグノーツです。彼が生まれた頃より、貴方が生まれる以前の記憶を彼を通じて得ています。私達は彼から日本語を理解し、日本という国やウチュウのことを知りました。彼が生まれてから死ぬまでの間に」


 念のため心を読みながら受け応えしていた私だけど、彼女の思考には遅れがある。

 この遅れとは、記憶したことを思い出し言葉に整理するまでのラグだ。大体の人は何かを思い出すときにこの遅れを生じさせる。だから遅れることは別に変ではない。重要なのはその過程、記憶想起や言語化以外の不要な思考が混じるかどうか。これで嘘をついているかが見えてくる。


 その上でラシェルが本当のことを言っているかは……私の判断では白だった。


「ならツカサのおじいさんが見聞きした程度の知識は持っていたのね。逆にツカサのおじいさんも……」

「私達の世界のことや、そこで話されている言葉、魔法、文化、歴史などの知識を自然と覚えていきました」

「魔法も……つまり魔力も使えたの?」

「貴方達が生まれてくるずっと前から、使いこなしていましたよ」


 サヤの疑問にラシェルが答えていく中、私はその話をあまり聞いていなかった。

 それよりも気になることがあって、聞いていなかったというべきか。


(おじいちゃんが……ラシェルさんやザガムさんと同じ……)


 自分の祖父がイグノーツだったということをラシェルが肯定し、その確認に使った魔法でも嘘を言ってないだろうことが分かった以上、祖父がイグノーツの一人だったことはもう否定する気はない。例えすぐには信じられないような事実だとしても、いつかは飲み込む。


 けれどもしそれが本当なら——


(あの本の中に、おじいちゃんも……?)


 ザガムやツェレン同様この中におじいちゃんもデータとして保存されている。イグノーツの一人だというならきっとそうだろう。ならもしかすれば、いつか会えるときがくるのだろうか。あのとき二度と会うことは出来なくなったと思っていた祖父に。

 サヤが持ったままの収集録を見ながら、その可能性に気付く。


「ツカサ、何か考え事?」

「うん、ちょっと……。ねえサヤ、その本……」

「あ、ごめんなさい。返すわね」


 返して欲しそうと受け取ったサヤは、手に持っていたそれを差し出した。本を受け取ったあと、私はラシェルの顔を真っ直ぐ見つめ、残された疑問を尋ねる。


「どうしておじいちゃんは、【支配者】って権限を持っていたんですか?」


 支配者という管理者の上の権限。そんなものになっていた理由。

 イグノーツの一人だからという言葉以外で知りたい。


(本の管理システムを通した場合【管理者】が動かないとも限らないし、聞けそうな人に聞けるならそうしたい)


 そんな私の考えを知ってか知らずか、或いは読んでいるのか、ラシェルはじっと見つめ返す。数度の瞬きをして耽るように顔を逸らした彼女は、再度こちらに向き直った。


「分かりました。その前に、【支配者】がどういう権限なのかを話しておいた方が理解も進むでしょうから、ツカサさんが管理システムに聞いた質問から【支配者】について聞いたものを共有します。ツカサさん、サヤさん用に本のページを二枚外して」

「……これって外せるの?」


 見た目は紙だから千切れそうな気はしなくもない。が、そんなこと想定したものなのか、コレ?

 戸惑いながら収集録のページをつまむ。


「引きちぎるんじゃないの?」

「なんか嫌だなあ。ノートとかなら気にしないんだけど…………命令でなんとか出来ないかな」


 私は心の中で命令を出し、ページを二枚切り離すよう告げてみる。

 すると本は中から二枚分だけ綺麗に切り離し、サヤの方へ一人でに飛んでいかせた。飛んでいかせろとまでは命令していないはずだが。


(もしかして管理システムが、今の話を聞いていたのかな)


「収集録のページは紙の形をした表示装置で、ディスプレイみたいなものよ。それが本に最大700ページ付けられている。これを破いても本体へのダメージにはならないし再生成も可能だから、多少雑に扱っても平気です。サヤさんは二枚を一つに繋げて一枚のページにして。それで一つの画面として機能するようになります」

「ディスプレイを繋げられるのね。画面を大きく出来るのは有り難いわ」

「ではまずログから、ツカサさんが聞いていた支配者に関する質問とその回答を出しましょう」


 ラシェルの言葉とともに開かれたページと宙に浮く紙に文字が浮かんでくる。それは私が支配者について聞いたときのものだ。


 回答が長いので要約も最後に入れておくけれど——




 質問:なぜ【支配者】という権限が用意されているんですか? 本の管理であれば【管理者】の権限があれば十分なように思えます。【支配者】がその権限より上にある理由も含めて教えてください。


 回答:複数の質問と解釈出来るため個別に回答します。

 なぜ【支配者】という権限があるのか:

 【支配者】には管理者以下も持つ権限の他に、当収集録へ保存された全データへの【削除権】を有しており、それは【支配者】のみに与えられた権限です。これは本設計者が一人のアーノルドより、『データの削除は情報に対する死刑である』という思想を汲み、意味なき情報の削除以外でこれを推奨しないとし、【管理者】以下には与えられませんでした。そのため万一の場合に削除することが出来る権限として【支配者】はあります。


 なぜ【支配者】の権限レベルは【管理者】より上にあるか:

 前述の回答と併せ、【支配者】の持つ【削除権】は各権限保有者に大きく影響します。これは【支配者】が権限を有している状態のデータを消すことでその権限を失効させられるからであり、それゆえに【管理者】以下の暴走を抑えることと、その抑止的役割を見かけ上でも示せるよう最上位の権限と位置付けられているからです。




 つまり——【支配者】には他にない唯一無二のデータを消す力が与えられており、それで他権限の保有状況を削除出来る。だから一番おっかなくてやばいものとして一番上に置かれてある、ということだ。私はこの回答をそう解釈している。


「……というのが【支配者】という権限の特徴。私が敢えて補足しないといけない点もなさそうですけど、分からない部分はありますか?」


 ラシェルはこの回答を初めて見ているサヤの理解度を確かめる。対するサヤは「特に」と今のところは問題なさげに返した。


「そんな大事な権限が空席になっているなんてね。いや誰がいても怖いんだけど、問題ないの?」

「あらゆるデータを削除出来ないという意味では問題ですが、それ以外のことは支障がないようになってますので。書いてある通り削除権以外は【管理者】も持っていますから」


 聞く話の通りであれば、データ削除以外のことは管理者でも出来るようなので大丈夫なように見える。けれど不要なデータを削除しないというのは容量を圧迫するばかりでそこらへん問題に繋がらないかが気になる話にも思えてしまう。


 ……そう思っていたらラシェルと目が合った。


「【削除権】がなくとも困らない記憶容量を持ち、運用には【管理者】の権限でほぼ足りる。【管理者】が暴走でもしない限り必要になるタイミングがないんです。早い話がお飾りなんですよ。過去にその権限を持った人も、念の為くらいの感覚で選ばれた人に過ぎない。ツカサさんの祖父も、そういう経緯で【支配者】の権限を持っていた」


 こちらの思った疑問に素早く答えられてしまい、目をぱちくりとする。まあ、イグノーツはこういう人達だ。こっちの常識やプライバシーを考えても通用する相手じゃないし、文句を言う気ももう起きない。


 とりあえずラシェルの言ったことから、おじいちゃんが【支配者】の権限を持っていた理由を知る。


(おじいちゃんは【支配者】だった時期があるけどそれはほぼ何もする必要がない役目で、その間中に問題になるようなことはなかったってことなのかな。なった理由も、他の人に選ばれたから……)


 思ったより受け身な形でなっていた、そして何もしていなかったと知った私は、そのことを受け止めつつ考えを広げていく。


「おじいちゃんはそれに合意してなったんですか? 仕方なくとか、選ばされたとかじゃなくて」

「私の覚えている限りそういったことはなかったかしら。彼は自分の意思をしっかり表明出来る人でしたし。残っていた人選的に仕方がなかった点はありますけど、無理強いではなかったかと。その時の記録も残っているので、ツカサさんも確認してみます?」

「お願いします」


 私はラシェルの命令により表示される記録に目を通した。【支配者】になったときのデータと、そのときの過程が省略を入れつつまとめられており、こう書かれている。



 【オオトリ・ゲンマへの支配者権限の付与】

 管理システムと二代目管理者の承認、前支配者シームル・ヒルドル、及び残りイグノーツ10名中10名による賛成を受け、【支配者】権限を与える。この権限はオオトリ・ゲンマの死去をもって無効となる。



「確かツカサのおじいさんが亡くなったのは……」

「……三ヶ月くらい前」


 私はサヤの言葉にそう答える。


 死去をもって無効とあるので、【支配者】がいなくなったのも同じ時期だろう。そこから今日までその状態が続いている。これが短いのか長いのかは私には判断がつかめない。ただイグノーツ達にとって問題視するような状況にはなってないということは確か。管理システムもそれがいないことに注意を促してこないのが、いなくても平気な存在だということを裏付けているように思えた。


「代わりを立てる気はないの? 支配者っていうくらいだし誰でもいいわけじゃないんでしょうけど」

「申請を出す人がいませんでしたから。支配者の権限は管理システムと現管理者の同意、イグノーツの半数以上の賛同が必要なほか、生きている人が条件なんです。そしてその人が【所有者】として認められている必要があります。現在認められている【所有者】は一人だけ……」


 二人の視線が私に向けられる。


(え、まさか私……?)


 確かに私は所有者として扱われているみたいだし、生きている。条件には合致するだろう。けどこの流れだと……


「よしツカサ、今やりましょう。この本の支配者になって、こいつの最高権限を獲得するのよ」

「そうなるよねー……」


 読めていたが、やはりサヤは【支配者】へなるよう私に勧めてきた。

 予想通りで項垂れながら苦笑してしまったあと、向き直る。


「でも待ってよ。なんで私がその【支配者】にならないといけないの?」

「そんなもの、いざってときにこれが使えるようでいて欲しいからよ。所有者の権限じゃあ使うことは出来る。でも【管理者】が規制してきた場合それにクレームすることも話し合うことも出来ない。まして勝手な気分で雑に制限されることも出来るし、そのタイミングが命の危機だったら悪霊になる自信があるわ」


 そう言ってペチンと、宙に浮いたページを叩くサヤ。


「ラシェルさんはこの本にメンテナンスは要らないって言った。それが本当なら、機能制限かけるような理由が思い浮かばない。障害が発生して全体の機能が上手く動かなくなるとかあるならともかく、多分私達が知ってるコンピューターよりも高度な障害耐性を持っているんでしょう?」


 すると私達の前にあった本やページの表示が書き換わり、サヤの発言を質問と受け取った回答が表示される。


 回答:はい。当システムを完全に停止させる障害はまず起こりえません。復旧においてもそちらの利用へ影響を及ぼすことはありません。こちらが何らかの理由で動かなくなる確率より、地球上のコンピューターが一つ残らず動かなくなる確率の方が高いでしょう。


 随分と自信たっぷりな回答だ。そして同じ機械を挑発するかのような文言まで。思わず苦笑する私。


 同じ文を見ているサヤもじーっと内容を読んだ。「随分と感情のありそうな回答をするのね」と目を細めつつ、会話を続ける。


「これの言うことを信じるなら、システム的な不備を直すために制限をかける必要はない。となると制限をかける理由は絞られる。管理者がどういうやつかは……さっきの回答にあったわね」

「私達と色々違うんだよね」


 特異的で、結節点であると同時に中継点、その価値観は非地球人的。感情を持たないように動く者。

 システムが答えた内容をそのまま思い出す。


(曖昧だけど、感情を持たないようにって論理的な思考中心に動くってこと? 感情を優先して動いたり理由にする人でないなら、昨日から今日までの制限は管理者なりの理があってしたことになる。ならどんな理由が?)


「ラシェルさん。その理由に心当たりはないかしら? 管理者のことは私とツカサよりも詳しいはず」

「管理者就任に立ち会っていますので知らない相手ではありませんが……正直なところ、彼が何を考えているのかはあまり、心当たりについても…………」

「あんまり話したことってないの?」


 心を読む魔法を使うことに抵抗のないイグノーツ達で、考えていることが分からないというのがどういうことなのか想像出来ない。私が不思議に思い聞いてみると、彼女は思考を整理するように答え出す。


「話したことは何度もあるんですけど、その、まるで思考が読めないというか、ノイズだらけになるんです。知らない外国の言葉を一切翻訳せず聞いているような感じで、何を言ってるのかもよく分からない……」

「それは心を読む魔法を使った上で?」


 サヤの確認にラシェルは「はい」と肯定。


「よくそんな人を管理者に就任させられるわね、アンタら……」


(なにか理由があるんだろうけど……)


 サヤは頭に手を当てながら呆れ顔を浮かべた。一方で何かしらの事情があるのだろうと想像する私。

 そんなこちらの反応にラシェルは慌てて補足し出す。


「普段はちゃんと分かるように話してくれるんですよ? 心を読んだ時だけ翻訳なしの原文を見ることになるだけで、気遣いもしてくれる良い人なんです。でもそれとは別に、心の奥で何を考えてるかは見えてこないという感じで」

「なるほどね。なら管理者のことは一旦置いておくしかないか。そうなるともう実際にやってみるのが一番早いと思うけど……ツカサ、頼める?」

「うーん、まだ気は進まないんだけど……わかったよ」


 正直結果がどうなるのか予想出来ない。やろうと思うと緊張するし、他のイグノーツや管理システム、管理者がどう反応するか……それが気になってしまう。


(とはいえ、サヤのいうように一度やってみるしかない)


「今から申請するけど、これどうなってもデメリットはないよね? 実は取り返しのつかないことがありますなんてこと話し忘れてないよね?」

「仮に申請が通ってツカサさんが【支配者】になっても、困ることはありません。嫌だったらいつでも降りれる。逆に申請が通らなくてもツカサさんは【所有者】のまま、今までどおり本を使えますから」

「じゃあ、やってみるよ……」


 私は胸がドキドキするのを抑えつつ、本に向かって【支配者】の権限を自分に付与して欲しいと申請した。

 まもなく、本からそれに関連したメッセージが表示されていく。



 ——【支配者】権限の付与申請を受理。条件を確認。

 申請人:ツカサ

 権限レベル:所有者

 ステータス:生者

 条件:クリア



 最低限受けるために必要な条件が審査され、通っていく。メッセージが古い方から上へと順に流れ、ページの縁あたりで消える。さながら電子機器の画面みたく。


(なんかドキドキする……)


 ここまでは問題なく通過出来る。気になるのはここからだ。



 ——管理システム、管理者、全イグノーツの判断を確認します。



 そのメッセージの直後、ラシェルの持つ本に確認の文が出たようで、彼女はその場で答える。


「では私は賛成に入れます」

「これツェレンはどうなるの? 寝てるんでしょあの子」

「多分無回答になりますね」

 

 これで全員、というか全部の賛否状態が入力されれば決定し、表示されるということか。


(どうなるのかな……)


 私が固唾を飲んで待つ傍ら、サヤも組んでいる腕の先にギュッと力が入る。

 そうして一分近く経ったとき、内容が一気に更新されて新たなメッセージが表示された。



 ——結果が出たのでお伝えします。

 管理システム:反対

 現管理者:反対

 イグノーツ(賛成):3人

 イグノーツ(反対):6人

 イグノーツ(どちらでもない):2人

 イグノーツ(無回答):1人


 以上に基づき、【支配者】権限の付与は拒否されました。

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