(5)必死なお誘い
マサルの携帯番号を登録してから3日が経った。
テレビ局の楽屋にいる恭子は、何度も携帯を開きマサルの番号を表示するが電話を
掛ける口実が見つからない。
―――シャワー使いますか?…うっ、ダメだわ、そんなこと言えない。
この間は誘ったものの、思い出すと自分の発言に恥ずかしくなる。
また携帯を閉じた。
坪井が楽屋に入ってきた。
「恭ちゃん、来週の月曜日なんだけど急にスケジュール変更になっちゃって
月曜日はオフになるから、よろしくね」
「そう……」
恭子は少し考えて
「あっ、ちょっとトイレ行ってきます」 と楽屋を出た。
人気のない場所を見つけて、ドキドキしながら思い切ってマサルの番号を押した。
5コール鳴っても出ない。
―――バイト中かなぁ…。でもバイトは夜だけって言ってたよね…
マサルがコールに出ないことに少しホッとしながら、切ろうとした時、
「もし…もし…」
ねぼけた声のマサルが出た。
「…も、もしもし!」 あせった恭子の声はものすごく大きかった。
「ぅわぁ~、デケー声ださなくても聞こえてるよ。誰だよ!」
「きょ、恭子です!!」 また大きい声を出してしまった。
「…ぶっ、なんでおまえそんなに声大きいの?」
恭子は腹式呼吸だった。女優なので…。
「ご、ごめんなさい。寝てました?」 時間的には午後2時だ。
「んぁ?んー、なんか小説書いてると、たまに寝ちゃってる時があるんだよね」
マサルの本を読んで読者が寝てしまうように、執筆している本人も寝てしまうようだ。
自分の小説の所為だと、マサルはきっと一生気がつかないであろう。
「あっ、どうかしたかぁ?」
「あ、あの、げ、げ、げ、」
電話越しとは言え、耳元から入ってくるマサルの声に恭子の心臓はドキドキしていた。
「げ、げ、げ」 恭子は(げ)しか言っていない。
「げげげ…って、おまえは妖怪かー!なにかようかい?なんちってぇ。
で、「げ」が、どうした?ん?」
「……」
マサルのくだらないギャグは無視して恭子は言った。
「げ、月曜日!ひまだったら…ご、ご飯行きませんか!私ご馳走しますから!」
恭子は言った後、胸を押さえた。
―――はぁ、言っちゃった。
「月曜日?おごり?!いいよ~バイトも休みだし」
マサルの返事にホッし、月曜の夜会う約束をした。
それからの4日間恭子はご機嫌で、共演者の広瀬の問いかけに対しての微笑返しは
いつもの倍以上になり、広瀬を勘違いの夢の世界に放り込んだが、残念なことに広瀬の
思いは叶う事はない。




