チート能力があれば、救世主になれたのに 上
初投稿です!拙作ですが、どうぞよろしくお願いします。
とりあえず、全三回予定です。
俺には何もできなかった。
努力をしていなかった訳じゃない。自分のできる最善を尽くそうとしていたし、むしろ人一倍頑張っていたはずだ。
でも駄目だった。いつでも俺より遥かに覚えが早い奴はいたし、いくら練習したってできなかったことを最初からあっさりできてしまう奴もいた。
努力したコトは一つや二つじゃない。でもどれも駄目だった。全てを手に入れる人もいるというのにだ。
天は二物を与えるとか与えずとかいうが、どちらもきっとずれている。与えた一物が重要なのだ。それがすべてを可能にしているんだろう。
いろいろかっこつけて言ってみたが、つまるところ才能がなかったのである。
チート能力―――いや、それなりの才能に恵まれていさえすれば―――きっと輝かしい現在があったはずだというのに。
そして、俺は死んだ。お約束の異世界転生ってやつだ。
チート能力があれば、救世主になれたのに
いやいやちょっとまて、そして、とかいったけど死ぬの唐突すぎじゃね?死んだシーンカットとかまじかよ。ああ、俺は中島哀人、華の17歳。帰り道に自転車に轢かれて死んだ。
…あれ、異世界転生ものって普通猫とか子供とか助けようとしてトラックに轢かれて死ぬのがお約束はずなんだが…あれか?トラックじゃないのは伏線なのか?カットされたのも実は訳ありなのか?え、一話完結で文字数足りないからカットしろ?いやいや、だって変じゃ…それ伏線じゃないからとっとと進めろって…?くそっ、なら普通にトラックにしとけや!
……て、……さい!
ん、?何か聞こえる?こっちはツッコミで忙しいってのに…
お…て、……さい!
だから忙しいんだってーー訪問販売なら結構ですよー!
「いい加減起きてください!!!」
「 !? 」
「ああ!ようやく起きました、久々の転生者だっていうのになんか寝てるし、全然起きないし、ぶつぶつ寝言言ってるしもう、疲れました…」
強引に起こされたせいで頭ががんがんする。死んでからもたたき起こされるとか勘弁してほしいぜ…死んだんだから安らかに眠らせてください。
「せっかく心地よく寝てたのに…」
起こしたのは見覚えのない聖職者風の男性だった。顔立ちも着ている服も少なくとも日本の物ではないだろう。間違いなく人間なのだが、少し人間というには顔が整いすぎている気もする。
「ああ、それはすみません、こちらも急ぎでしたので…」
「ええっと、ここは?」
「ここはダイセール聖堂、そうですね、言ってしまえば転生用の事務所みたいなものです!そして僕が南南西の神様アセルです!これでもとっても偉いんですよ?えへん!!」
「寝起きにこのテンションはきっついな…」
「そして、君、中島哀人君ですね?えへん!」
「えっ、それ語尾なん?」
「語尾ですよ?それが何か?えへん?」
「………つーか最初の方、そのえへん、っての、いってなかったよな?」
「………え?」
§
「ということで哀人君、とってもラッキーですよ?日本で3年ぶりの転生者に選ばれました!えへん!」
「転生!?転生ってあのよくあるアレ?ほんとのほんとに、マジで?」
アセルと名乗る神様もいっていたが、ここは死後の世界の辺境(?)、転生を行う神殿だった。どうもこの語尾がウザい神様がいうにはいわゆる「転生者」に選ばれたそうだ。
だとすればこれを喜ばずにいられるものがいるだろうか。もう一度生を受けられるのは勿論、そしてこの手のことによくあるオマケあるに違いない。
「ほんとのほんと、マジですよ!それも今回もらえる能力はとってもすごい奴ばっかです!そう、チートです!!激強ですよ!?えへん!」
「……マジかよ…!」
非常に優れた才能。思った通りのオマケだ。これが欲しかったのである。日本生きていた時は才能に恵まれなかった。その才能故、努力しても届かないものがあった。このオマケこそ求めてやまなかったものだ。
まあ、強すぎて余裕しゃくしゃくとかだったらそれはそれでつまらないが、無いよりかはましなはずである。
「それで、転生して、その世界でやる事とかあるのか?」
「転生先では何をしてもらっても構いませんよ!ただ少し危機が迫っていてですね…世界の救世主になっていただきたいのです!えへん!」
「救世主か…」
口角が僅かに上がるのを感じる。救世主。断る理由なんて無い。日本では全てを諦めていた。余りにも、余りにも甘美な響きだ。
「ええ、やりますよ。俺に任せてください。」
そうして、俺の戦いは始まった。
§
「それで、もらえる能力はこんな感じでいいですか?えへん!」
「うん、もうどれがどれだかわからないけどいいんじゃないか?」
取得スキル一覧
言語が理解できるすごい力
ステータスが見れるミラクルパワー Lv1/10
攻撃アップ 極大 Lv1/10
防御アップ 極大 Lv1/10
雷系魔法 極大 Lv1/10
アイテムメイクスーパー Lv1/10
超成長 極大 Lv1/10
見切り Lv1/10
他にも色々!!
「他にも色々!!ってなにさ?」
「本編で使わない奴はカットです!あと30行ぐらい続くんですけど読むのだるいでしょ?ゆーざーふれんどりーなのです!えへん!」
「まあ…それは確かに。これだけあれば魔王ってのは余裕なのか?」
「レベルを上げれば、ですね。スキルのレベルも哀人さん自身のレベルも最初は1ですからねー、でも、このスキルすごくてですね?これ!攻撃アップと防御アップの極大がありますから、その辺の戦士ぐらいならレベル1でも余裕ですよ?えへん!」
「へぇ…」
「ステータスが見れるミラクルパワーもすごいですよ!?条件によって見れる能力は変わりますが…ステータスは敵のでも見れますし…HPが0になれば死ぬのであとどれくらいで倒せるかわかって便利ですよ!…えへん!」
「あとは正に最強チートの代名詞、超成長ですね!うまくやれば並みの魔王なら一か月ぐらいで倒せる最強能力です!他にも適正者が0.1%もいない雷魔法に、想像力次第で何でも作れちゃうアイテムメイクスーパー…はっきり言って負ける気がしませんね!えへん!、ということでそろそろ行きましょうか!えへん!」
転生地点へ向かう最中、どうでもいいが、どうしても気になっていたことを尋ねる。
「…なあ、一ついいか?」
「?何ですか??えへん!」
「なんでアセル様は男の神様なんだ?普通転生物って女神様じゃないのか?」
「ええー、そこ触れちゃいますかあー。それにはとてもとても、深遠な理由があるのですが…あの、哀人さん、文字数足りないんで早くいきません?えへん!」
「くそっ!どうせ伏線じゃないんだろ?なら女神にしとけや!!あとえへんが一番無駄だ!!」
どうでもいいけどエヘン系女神様って可愛くない?こいつなんで男なんだよ…
つーかここって字数制限あったっけ…?
§
重々しく歩みを進める。鬱蒼とした森がどこまでも続く。体中が熱を帯びている。もう何時間歩いただろうか。いくら進んでも変わらない光景に嫌気が差す。
異世界転生するよーって言われたのも既に数時間前。俺の異世界転生デビューは森のど真ん中でした。服も制服のままだし異世界というより林間学校かなんかですねこれは。林間学校なつかし。異世界転生って転生して早々美少女が襲われてるとかそういうのじゃないの?数時間森の中歩くだけってどういうこと?
…あの神様もしかしなくても無能だよなぁ………エヘンエヘンいってる暇があったらせめて街に転生させてくれ!!
ようやく森を抜けると眼下には石の壁に囲まれた街が広がっていた。とても高い塀だ。その時頭にぼんやりとイメージが浮かぶ。
(はじまりの街 カリーナ か。それに街の人口やら特産品やらなんやらね…これがステータスが見えるミラクルパワーってやつか?こりゃまじでミラクルじゃん。あの神様にもミラクルとか極とかつけてほしかったな…)
眼前に写る冒険の予感。その時哀人は心の高鳴りを確かに感じていた。
~はじまりの街 カリーナ~
その街に入ってすぐさま感じた空気はこの世界に来たばかりの哀人にもわかる、明らかに異様なものであった。
メインストリートには人一人いなかった。だが、生活感はある。人が住んでいない訳ではない。恐らく皆建物に閉じこもっているのだろう。
石造りの建物が整然と並ぶ、まさに異世界に相応しい、美しい街並みだ。普段なら多くの人で賑わっていたのだろう。
「もしや、旅のお方ですか?」
不意に声を掛けられる。老人だ。その顔に写るのが怯えや恐怖の類であることが哀人にも感じられた。
「ええ、そうですが…」
「やはり!その腕を見込んでお願いがあるのです!あの憎き魚人どもを倒していただきたいのです!いま街の傭兵所が襲われていてこのままでは…!!」
腕披露した覚えないんですけど…このおじいちゃんの目効きどうなってんの?実は昔は歴戦の傭兵とか?
「分かりました。やりましょう!」
「ありがとうございます!傭兵所はここから北にいけばあります。どうかご無事で…!」
「ええ、行ってきます。」
振り返った時脳内に再びイメージが浮かんだ。
★重要! ミッション 魚人から街を救え! 重要!★
……もしかしてこれステータスが見れるミラクルの力か…?もはやゲームだなこれ…
☆★重要! 重要!☆★ ミッション ☆★ 魚人から街を救え!! ☆★重要! 重要!☆★ ※見たら必ずやること!!
「そんなに強調しなくてもやるわ!!」
「旅のお方、どうかしましたか?」
「ん?!?え?いや、あは、あはははは~~」
おじいちゃんいるの忘れてた…早く倒しに行こ………
恥ずかしさに走り出すとチート能力お陰か、マッハでその場を後にできた。全然嬉しくねえ!
§
これは…血の匂い、か…
辿り着いた傭兵所にはあまりに悲惨な光景が広がっていた。たくさんの傭兵らしき人々が倒れている。残りの人もその看病に手一杯だ。残念ながら回復メインの能力はもらっていない。(人によって能力の適性があるらしい。適正外の能力は効果が劇的に下がるのだ。)俺にできることはこれじゃない。
「ちょっと上、通りますよ」
哀人が思いっきり地面を蹴る。怪我人たちの数メートル上を飛び越えてゆく。それを見る人々の視線は驚きがあらわれていた。
(やっぱりできた。レベル1でこれか…!)
飛び降りた先には少年と一体の魚人が対峙していた。少年は全身傷だらけで全身が血に染まっている。既に継戦は難しいだろう。対峙する魚人の後ろには多くの魚人が倒れている、だが立っていた一体の魚人とは色が違う。倒れているのは水色で無傷で立っているのが黄色だ。こいつが親玉ということだろう。
「あとは俺がやる。さがってていいぞ。」
「ちょっとまて!こいつは俺の獲物だ!」
「え? いやいや無理だろ! もうボロボロじゃねえか!勝てねえだろ!!」
無鉄砲にもほどがあるだろ…てかこいつ耳あるじゃん!しかも犬耳!もしかして獣人…?
「こいつ、傭兵団の仲間をぼろぼろにしやがったんだ。勝つか負けるかじゃねえ、やるかやらねえかだ!!!うおおおおおぉぉぉぉ!!!」
嘘っ!!突っ込んでいきやがった!!!
黄色い魚人は冷たい声でつぶやいた。
「ザコめ…」
一撃。一撃だった。耳のある少年の拳は届かず魚人の槍が少年を吹き飛ばした。
少年が倒れ伏す。大丈夫だ。やっぱり倒れていない。
「よしっ、次は俺の番だ。」
「貴様この街の者じゃないな……だがどうでもいいか。ここで皆殺しだ。」
「いいや無理だ。お前はワンパンだ。」
「ははっ!この俺様を一撃だと。俺を誰だと思ってい―――」
「まだだ!!俺の番は終わってねえぞ!!!」
耳の少年がまた立ち上がる。こいつの執念どうなってんの!?…あれ、これヤバいんじゃ!?
「!? おい待て!やめとけ!次はまじで死ぬぞ!!」
耳の少年は止まらない。魚人も迎撃するつもりだ。くそ!!こうなりゃやられる前にやるしかねえ!!
「雷魔法―――」
魔力を込める感覚。
精神を集中する。直感が使い方を語り掛ける。体の中で蠢く巨大なエネルギーを鎮め顕在させんとする。
当てれば確実に倒せる。こっちは直勘や予想ではない。そして魚人の攻撃が少年に届けば少年は死ぬ。これも確実だ。何故なら―――
中島 哀人 Lv1
HP 79/79 (10+69)
攻撃 45 (7+38)
魔法攻撃 81 (12+69)
防御 43 (6+37)
魔法防御 59 (5+54)
移動速度 34 (4+30)
(+部分はスキル補正)
耳の少年 Lv8
HP 8/60
攻撃 50
魔法攻撃 35
防御 39
魔法防御 39
移動速度 45
中級マーマン Lv10
HP 77/92
攻撃 57
魔法攻撃 37
防御 46
魔法防御 28
移動速度 37
哀人 雷閃(雷系魔法 極大 Lv1/10) → 中級マーマン 推定ダメージ 101~105
中級マーマン 攻撃 → 耳の少年 推定ダメージ 10~12
相手の強さも、与えるダメージも見れる!奥さん、これがステータスが見れるミラクルパワーの力です!一家に一台!いかがですか!?
……まじでぶっ壊れじゃん。
「雷閃」
光が一瞬、大地を駆け巡った。
§
「アイトさん、この度は本当にありがとうございます!」
傭兵所の一室、応接室らしき部屋に哀人は案内されていた。少し古めかしいが清潔感のある部屋だ。今お礼を言っているのは所長のミシェルさんだ。先ほどの戦闘のお礼がしたいとのことで招かれた。
…それはそうと何か音が聞こえる。
「頼むから入れてくれって!!」
「駄目ですよ!今所長が面会中なんですから」
外が騒がしい。これ絶対あの犬耳じゃん。想像はしてたけど騒がしいやつだなあ。
「…ワンコーさん、何か話したいようですね…よろしいでしょうか」
え?今ワンコって言った?
その時ドアがぶち破られる。
「アイト!ありがとな!!アイトお前マジでいい奴だな!アイトのおかげでカタキが取れたぜ!!!」
「うお!いきなり飛びつくな!!びっくりするじゃねえかよ!!」
「おう!わりい!!」
満面の笑みで言われてもな…
§
「てことはワンコーなのか?ワンコじゃなくて」
「おう、そうだぞ。」
「でもやっぱ耳があるってことは獣人ってやつなのか?」
「違うぞ?フツーの人間だぞ?」
「ええ…」
「ところでアイトさん、アイトさんはこの街では見た覚えがありませんが…何をされてるのでしょうか?」
うーん。そういやあの無能アセル様に転生のことはなるだけゆうなって言われてたしな…まあ適当でいいか。
「きままに一人旅ですねー」
「「え!?」」
あれ!?これ不正解!?何でそんな反応なん!?
……話を聞くとこういうことだった。この世界では魔王が勢力を強める前から魔物は人間と比べて遥かに強かった。その魔物たちの侵攻を阻むため、それぞれの街は『結界の塀』で囲まれ守られている。そして魔王軍が勢力を広げる今、街の間を移動するときは多数の傭兵を雇い、決死の覚悟で移動するのが定石だそうだ。つまり一人旅をするのは自殺志願者か超歴戦の傭兵だけって訳だ。さっきのおじいちゃんの反応は当たり前だったのだ。
…え?なんでこんな「この世界の常識100選!」みたいな話を聞けたかって?
そりゃー………転生者だってバラしたからですね()
アセルサマサイコー、アセルサマハミラクルサイコーカミサマデース。
「となるとレベル1で中級マーマン討伐ですか…これはこれは…」
「めちゃくちゃスゲエじゃねえかアイト!!」
「そうですね…レベル1でここまでの実力とは。これが転生者の実力ですか…」
「そうだ!なあアイト!俺と一緒にザダイ討伐にいかねえか!俺とアイトならザダイを倒せる!」
「ワンコーさん、最近また負けたばっかりじゃないですか……ですが…」
「? ザダイ?ですか?」
「ええ。今回撃退してくださったマーマン達のリーダー、そして魔王軍幹部の上級マーマンです。彼はザダイと名乗っています。ここ数か月、そのザダイ率いるマーマン軍と何度か交戦しているのです。我々傭兵でなんとか撃退を繰り返しているのですが今日は街の中心部まで攻め込まれてしまい…正直このままでは…」
「『結界の塀』ではダメなんですか?」
「魔物たちにも結界を壊す技術があるのです。とはいえそれにも時間はかかるのですが……結界もかなり壊されついに今回のように街の中心まで攻め込まれるまでに…」
「ザダイの軍はそんなに強いんですか。」
「ええ、特にリーダーのザダイは推定レベル15以上、純人種でいえばレベル20の人間に相当……あるいはそれすら超えるかも知れません。とはいえ、数はこちらが上です。それに多少壊されていますが結界内では魔物の弱体化します。この街の全戦力をつぎ込めば勝てる可能性は十分にあります。…ですが、少なくない死者が出るかと―――」
「でも、俺と、アイトなら倒せる!頼む!協力してくれ!」
レベル15程度のボス、RPGでいうならさながら最初のボスといったところだろう。転生して初めての街で倒すには正におあつらえ向きの敵だ。つまりこの街に転生したのは大正解という訳だ。これはアセル様を見直した方がいいのかも知れない。まあ転生したのは近くの森なのだが。
「ワンコはそんなにザダイを倒したいのか?」
「ああ!ザダイだけじゃない!魔王軍のやつはみんな倒して救世主になるんだ!」
……救世主。
「あいつらを追い払って、街を、世界を守るんだ!」
……………救世主。
そうか。ワンコも救世主になりたいのか。そうか、そうか。一緒に行くのは構わない。ちょっと騒がしすぎるが、この世界のことは余りにも知らないし、戦闘も一人ではきついこともあるかも知れない。だが、その称号だけは俺の物だ。だいいち、中級マーマンに苦戦するようではその称号は得られないだろう。
この世界がどんな世界かはまだ知らない。だがそれは才能なしで得られるものではないのだ。
「私からもぜひ、お願いします。あなたならきっとこの窮地を変えられる…!」
ミシェルさんからもお願いされる。あとあのクソしつこいミッション画面もでている。勿論、断る理由なんてない。
「ああ。いいぜ。ワンコ、一緒にいこうか。」
「やった!!そうと決まれば早速行こうぜ!」
「待ってください!流石にアイトさんでもレベル1では厳しいと思います。ザダイは相当な強者ですからしっかりレベルあげをしてくださいね?」
「ええ、もちろん。ミシェルさんは来てくれないのですか?」
「私ですか?」
「レベル、結構ありますよね?」
ステータスが見える(以下略)でみたところミシェルのレベル11だ。レベル8のワンコでさえこの街では猛者に分類されているそうだから恐らく最も強いのは彼女だろう。
「よく気づきますね…ですが私は薬の調合が本職で、戦闘メインの職じゃないので…。それに私が居なくなると街を守る者がいなくなりますから。」
「そうですか…残念ですね…」
レベル11となればきっと戦力になるのだろう。残念だ。それに結構かわいい。そう、結構かわいいのだ。大事なことなので2回言ってみた。
「よし!そうときまれば行こう!」
「その前に…ワンコーさん!」
「ン?なんだ?」
ワンコがミシェルさんの近くによる。
「ワンコーさん!お手!」
「ワン!」
「 !? …………やっぱ犬じゃねえか!!」
「ワンコーさん、なでなで~~」
「くぅーん!」
「やっぱ犬じゃねえかよっ!!!」
後で俺もやろう。
§
「アイト、お前やっぱりスッゲエ強いな!もうオレの一月分は倒したぞ!どうしたらそんな強くなれるんだ?」
「うーん、俺は転生者だからな…」
はじまりの街 カリーナ周辺でのレベル上げは非常に順調だった。戦闘を開始して数時間、「はじまりの街」というだけあって現れる魔物はいずれも脆弱で相手にならなかった。
ときたま現れる下級マーマンこそそれなりにタフだがそれだけだ。武闘派で前衛職のワンコが敵を翻弄し、魔法攻撃力に優れ、強力なスキルを持つ俺が遠距離から仕留める。前衛のワンコこそ多少は傷を負っているが後衛の俺に至っては無傷である。戦力差は歴然だった。
「それにしてもワンコもなかなかやるな」
「へへっ、なんてったって世界を救うんだからな!」
これはお世辞ではない。実際連携し、戦ってみて実感したことだ。ステータスでは劣るはずのワンコだがその動きには俺にはないキレがあった。素人が見ても分かる、その一挙手一投足には無駄がなく、確実に相手の弱点を狙っている。町有数の実力者なのも頷ける。これまで培ってきた戦闘の技術ということなのだろう。
俺の参加で物凄いペースで敵を倒せているのは事実だが一人ではこうはいかなかっただろう。
だからこそ気になるのだが…
「うーーーん…」
「アイト、どうかしたか?……くぅーん」
困り顔する俺に寄ってきたワンコをなでながら考える。どうしても気になる点があった。その原因がこれだ。
中島 哀人 Lv8
HP 108/108 (39+69)
攻撃 65 (27+38)
魔法攻撃 131 (52+69)
防御 63 (26+37)
魔法防御 89 (35+54)
移動速度 54 (24+30)
(+部分はスキル補正)
ワンコー Lv8
HP 56/60
攻撃 50
魔法攻撃 35
防御 39
魔法防御 39
移動速度 45
レベルが、もう追いついてしまった。大量の魔物を倒し、たったのレベル8と思うかもしれないが、ワンコはこの稼業を始めてもう5年以上は経つのだ。5年でレベル8と聞いた時はこの世界のレベルの上がりづらさには驚いたものだ。だがもう追いついたとなればさらに驚きだ。
まあ、はじまりの街だし経験値がゴミ、とかレベル8より先はめっちゃ上がりづらいとかそういう可能性もあるが、それにしたって俺とワンコの成長スピードがちぐはぐだ。経験値(正確にはその魔物の生命エネルギーのことらしいが、)は近くにいる者に等分配されるらしいし(さらに正確に言えば前衛、つまりワンコのほうが若干多いそうだ)、やはり辻褄が合わない。
考えられるとしたら…
所持スキル一覧
言語が理解できるすごい力
ステータスが見れるミラクルパワー Lv1/10
攻撃アップ 極大 Lv1/10
防御アップ 極大 Lv1/10
雷系魔法 極大 Lv1/10
アイテムメイクスーパー Lv1/10
超成長 極大 Lv1/10
見切り Lv1/10
他にも色々!!
(超成長…か…)
あの神様にもらったスキル、超成長。考えられるとしたらこれの効果なのだろう。ステータスが見れ(ry)でも詳しい効果がわからないのが惜しまれるがこれの効果がめちゃくちゃ大きいのかも知れない。
もしそうならもらったスキルぶっ壊ればっかだな…
ただ、“ステ見え”でスキルの性能がわからないことからも分かる通り、もらった能力は何でもできる、という訳ではない。スキルレベルの上げ方は未だに分からないし、ワンコをはじめ自分以外の人のスキルは見えない。敵のステータスとなるとその制約はさらに大きくなる。
それこそスキルレベルが上がれば可能になるのかも知れないし、或いはそういうことを可能にする『裏技』があるのかもしれないが、現時点では望みは薄いだろう。
いずれにしてもどの能力も『ぶっ壊れ』ではあるが『万能』では無いのだ。何というかそういう小説と比べると現実的な気もする。まあ異世界に来て魔法使ってる時点で現実感なんてくそくらえなのだが。
「なあ、アイトはほかにどんな能力が使えるんだ?」
「ほかに、か…」
雷以外にも火や水とかの攻撃魔法は既に披露済みだ。ほかにといわれると…
「そうだ、こんなこともできるぞ」
その場にしゃがみ込むと胡坐をかいて両手を地面にかざし魔力を込める。するとかざしたところから小さな人形があらわれた。
「ほれ!ワンコ人形だ!」
「これ、オレか?すげえ!ちょっと動いてるぞ!」
「アイテムメイクの能力なんだけど…さすがに戦闘には役に立たないよなあ。」
俺が作ったのはワンコの1/10スケール人形だ。しかも両手が自動で動くおまけ付きだ。ちなみにやろうと思えば等身大もオッケーだ。
「なあ、この人形でなんかできたりしないのか?例えばバトルさせたりとか、火をふかせたりとか!」
「バトルはきついなあ、でも火なら吹かせられるぞ」
「ほんとか!?」
火の魔法を唱える。キャンプファイヤーような大きな火があらわれる。その全てがおもむろにワンコ人形に吸い込まれる。
「よし、ワンコ人形!火をふけ!」
「おお!…おお?」
「やっぱりちっちゃいよなあ」
ワンコ人形が小さな、小さな火をふく。吸収させた火がどこに行ってしまったのかと思えるほど小さな火だ。ライターの火より少し大きいだろうか?とにかくそういうレベルだ。
どうやら、アイテムメイクで魔力だけから作れるものの材質は限られているようだった。火のようなものを起こすにはそれ自体が原料に必要だった。その上、使用した量と比べると出せる量はごく僅かになってしまうのだ。
アイテムメイクのレベルが上がればもっと性能も上がるのだろうし、この能力にも『裏技』があるのかもしれない。だが今の段階では実用性は無いだろう。
とはいえザダイは人間でレベル20相当と聞いた。ステータス補正があるので攻撃魔法だけでももう少しで十分倒せるレベルになるはずだ。
俺はこの世界を救わねばならないのだ。はじまりの街などさっさとクリアしてしまおう。
「ワン!ワン!ワン!」
………?あれ、ワンコの声じゃないぞ??
「ワン!ワン!ワン!」
「!? 人形が喋った!?ワンコ、お前がやったのか??」
「すげえ!この人形、声吹き込んだら喋るぞ!?ワン!ワン!ワン!」
…………これがアイテムメイクの裏技なのだろうか…?
§
―次の日 滝の洞窟 奥地―
「ここにザダイがいるのか。」
「ああ、あいつのことだからもう気づいてると思うぞ」
「ワンコはもう3回も負けてるんだっけか」
「4回だぞ?でもこんどはオレたちが勝つ!」
凄い意志だな…。というかどうやって生き延びたんだよ……それはともかく、昨日の大量討伐から一夜明け、俺たちはザダイがいるという洞窟の奥地の前にいた。
この洞窟に入って気づいたことだが、どうもこの魚人たちは野生というよりも軍隊の一員らしい。それぞれの魚人はまるで洞窟の奥地を守るように待ち構えていたが、全く敵にならなかった。つまりこの洞窟奥地は敵の拠点という訳だ。ワンコが挑んだ時はこのような様相ではなかったらしいが…
だが、大量討伐で少なからず消耗した体力も、すっかり回復し、万全の状態だ。怖れるものは何もない。
中島 哀人 Lv10
HP 110/110 (41+69)
攻撃 65 (27+38)
魔法攻撃 140 (71+69)
防御 65 (28+37)
魔法防御 90 (36+54)
移動速度 52 (22+30)
(+部分はスキル補正)
ワンコー Lv8
HP 60/60
攻撃 50
魔法攻撃 35
防御 39
魔法防御 39
移動速度 45
あの後も相当数の魔物を狩ったがやはりワンコのレベルは上がらなかった。それでも俺のレベルは10まであがり、街一のミシェルさんに迫るレベルだ。強力なスキル、それにステータス補正もあるわけで、レベルに関してもこれだけ上げれば十分だろう。
レベルの変化はあったがワンコ前衛、俺後衛の作戦は変えていない。やはり、前衛は経験と勘がものを言うようで、攻撃の決定打こそ欠けるが、これだけステータスが勝っていてもワンコの方が向いているようだ。ただステータスがステータスなのでいざという時に俺が壁になる必要はあるかもしれないが…
「よし!いくぞ!」
「ああ」
「たのもー!!」
「…って道場破りじゃあるまいし…」
何はともあれ、ザダイの待つ部屋に突入する。そこは一室というにはあまりに広く、最奥に巨大な滝を構える部屋だった。だが、注目すべきはそこではない。その前に待ち構える魚人は明らかに異質だった。
それは黒い鎧を纏っていた。そして岩の一つに胡坐をかくその姿はただ座っているだけだというのにその力を示すような凄みを持っていた。
「また貴様か……と言いたいところだが、隣の男、何者だ。」
「あんたがザダイか。」
「いかにも。我が名はザダイ。魚人族最強の武人にして魔王様に我が身を捧げた戦士なり。」
「うっし!今日こそ勝ってやるからな!!」
(こいつ、強いな…)
ザダイ Lv15
HP 206/206
攻撃 87
魔法攻撃 70
防御 68
魔法防御 66
移動速度 57
中島 哀人 Lv10
HP 110/110 (41+69)
攻撃 65 (27+38)
魔法攻撃 140 (71+69)
防御 65 (28+37)
魔法防御 90 (36+54)
移動速度 52 (22+30)
ワンコー Lv8
HP 60/60
攻撃 50
魔法攻撃 35
防御 39
魔法防御 39
移動速度 45
ステー (ry)で見ながら確認する。ワンコと比べればその差は瞭然、何なら補正の乗っている俺と比べても顕色ないステータスだ。ワンコをそのまま二回り強くしたような物理型のステータスだが、目を見張るのはその高いHPだろう。他の魚人にそのような特徴は無かったのでボス補正ということだろうか?
ただこちらが魔法火力特化で助かった。精々2~3発も当てれば倒せるだろう。はっきり言って余裕だろう。
「よし!アイト、行くぞ!」
「おう!」
ワンコが駆け出す。突っ込むワンコをザダイが捌く。ワンコが引き付けている間に俺が魔法を当てて倒す。いたってシンプルな作戦だ。だが、シンプル故、どうしようもないはずだ。
「これで、どうだ!」
「ふん、相変わらずだな、だが…」
ワンコとザダイが交戦する。ワンコの連撃をザダイが軽々と捌く。ザダイは右手に持つ槍を使うことなくただひたすら躱し続ける。どうやら遊ばれているようだ。
(追えないスピードじゃないな、一撃当てればワンコでも戦えるはずだろ。それで終わりだ。)
素早い攻防だがその動きは十分に追えるものだった。その動体視力は間違いなくステータスの高さが与える恩恵だった。日本にいたころでは攻防の概要さえ終えなかっただろう。スキル「見切り」のお陰かもしれない。
いつものように魔力を込める。未だこの世界を訪れ数日だがもう慣れたものだ。体中で力が蠢くのを感じる。熱が、衝動が、体中を埋め尽くす。もうすぐだ。もうすぐ、力が、世界に、顕在する。
「いくぞ!! 雷閃!!!」
煌きが、閃光が、世界を包む。超速の一撃が部屋中の時間を飲み込んだ。
「力ある者の気配…やはり貴様か。」
「!? そんな、よけられた、...!!」
確実に当たったはずだった。雷閃の速度は文字通り超速だ。そして狙いも言うまでも無く正確だった。「見切り」による補正もかかっているはずだ。なのに、どうして避けられた!??
「くそっ、次は、当てる!!」
「これは、少し厄介だ。先に仕留めさせてもらうぞ。」
「喰らえ、雷閃!!」
「ふんっ!!」
「また避けられた!? くそっ!! 雷閃! 雷閃!!」
次も、その次も難なく回避される。それどころか回避しながら徐々に距離を詰められる。移動速度は俺よりたった少し速いだけなのに、「見切り」で敵の動きを読んでいるはずなのにどうして当たらない!?雷閃がどれだけ速いと思ってるんだ!!
「ザダイ!俺が相手だ!!」
「貴様に用は無い!!」
「ぐっっ!」
ワンコの一撃とザダイの一撃が衝突する。槍を抑え込むワンコの顔が歪む。ステータス差は歴然だ。ステータスを確認する余裕などないが、ワンコの体力がゴリゴリと削られているのが分かる。
(だけど、今なら当てられる!!)
大丈夫だ。雷閃は直線状しか焼かない。ワンコを巻き込む心配もない。
「行けぇぇ!!!雷ッ閃ッ!!!!」
最大最速の雷閃。絶対に躱せない!!!
「甘いな。素人よ」
「うっ!???」
貫かれていたのは俺の右腹だった。
§
……痛い…?
痛いッッ!!
痛い、、痛い、痛い痛い痛い!!血がっ!!痛い痛い痛い痛い痛い!!!駄目だッ!死ぬ!!っ!、死ぬ!!痛い、痛い、殺される!!痛い、痛いっ!駄目だ、痛い!!!
…また、死ぬのか…?
激痛に身悶える。脇腹から血が流れ止まらない。死が、二度目の死が、まるで微笑んでいるよう感じる。血の抜け続ける痛みが体を、思考を支配する。確かあったはずの一度目の死もこんなに痛かったのか、思い出す余裕さえない。
痛い……痛い………
ザダイが攻撃を止める。血を流し倒れ伏す哀人を見おろす視線に込められたのはただ侮蔑の感情だけだった。
「大丈夫か!アイト!」
ワンコが駆けよる。買ってきていた応急薬を哀人に飲ませる。応急薬を飲む口元さえ覚束ない。
「この程度で終わりか…力にそぐわぬ振る舞いだとは感じていたが、まさかこれほどとは………技と心があまりに不釣り合いだ」
ザダイの声は余りにも落胆していた。
(はあ、はあ、なんとか、生きてるっ、くそ、体力、は、たぶん残ってない…撤退して…)
「いやまだ終わりじゃないぞ、アイトはまだやれるぞ!な、アイト?」
「???」
ワンコは一体何を言っているのだろうか。痛みで幻聴でも聞こえているのだろうか?だってもうHPは残っていな……
暫くの沈黙の後小さく口を開く。
「ワンコ、撤退、だ。」
「え?アイト、まだいけるだろ?」
「ごめん、撤退…撤退、…だ。」
「おう…?分かったよ。ザダイ!次こそ倒してやるからな!!」
ワンコがまだ脇腹に激痛が走る俺を抱える。そしてその俊足で撤退する。
ワンコの言っていることは正しかった。だから撤退せざるを得なかった。
次回、次々回は今日24時更新予定です。