表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

賢者の塔の最上階~スライムの強さがまちまちなのってどうして?

設定集に地の文と会話が付いただけの駄文です。

 この世界には数々の魔境が存在する。ある場所は広大な森林であり、ある場所は最古の王都の地下に広がっている。

 そんな魔境の数々は、基本的には力ある魔王や超常の力を持つ物が中央に座し、その力を発揮するがゆえに常識すらも改変してしまうものである。

 それゆえに本来ならば人間に御しきれるものではない。だがしかし、この世界で唯一人間側が完全に制御し、運用している魔境が存在する。


 それが賢者の塔、4000階層が魔術的な繋がりで連結された巨大建築物であり、冒険者ギルドの創始者にして全ギルドを統括するグランドマスタ―、賢者カークの居住地である。


 そんな賢者の塔にはいくつかの機能が存在する。ここは魔物を倒すためのギルド、冒険者ギルドの創設者の塔だけあって、冒険者が得をする機能が多い。

 例えば、冒険者ギルドの各支部から転移できるようにする機能。

 例えば、たとえ塔内部致命傷を受けたとしても、特定の条件さえそろえば死亡せずに塔の外に強制転移させられるだけで済む復活機能。

 例えば、途中で塔の攻略を止めたとしても、次回訪れた際は、最終到達階層以下の階層を指定して転移できる機能。


 そんな様々な機能がある賢者の塔は、もはや賢者の塔を攻略することを冒険の目的とする冒険者”塔登り(タワークライマー)”などを生み出しつつ、今日もまた大量の冒険者を受け入れていた。


 そんな賢者の塔の最上階、はるか高みで様々な料理を堪能しつつ、水晶モニターで塔内部での冒険者の活躍を見つめる一人の女性がいた。見た目の歳は若く、恐らくは20~30前後、濃い紺色をした髪は地面に着くほど長く、服装はまるで東洋の神職が身に纏うような衣装だった。


 そんな彼女は食事に手を付けつつ、水晶モニターをじっと見つめている。


「カーク様、追加のお食事を持て参りま……おや、それは現在攻略中の?」


「ええ、2100階層。中央村を超えた後初めての中ボス戦の映像よ」


 片手にサンドイッチを持ちながら、この塔の主であり冒険者ギルドのグランドマスターである彼女は、追加の食事を持ってきた少女に頷いた。


「ボスは……おや、ゴールデンスライム……ではないですね。あの金に似た光沢、ヒヒイロノカネスライム、と言ったところですか」


 そこに映し出されたのは、少し赤みを足した黄金に近い見た目をしたスライムが、どんな魔法をも吸収し、どんな攻撃にも身をへこまながらもすぐさま元通りになり、何事もなかったかのように突き進む光景だった。


「そうねマナの凝縮によって生み出されたあの金色の体は、まさにヒヒイロノカネと同質のものよ」


 ヒヒイロノカネ。それはオリハルコンやミスリル、アダマンタイトといった伝説の金属に勝るとも劣らない魔法金属の一つである。それぞれ、反射能力、魔力伝導率、硬度といった強みを持つ魔法金属の中で、ヒヒイロノカネが持つ特性は吸収である。

 ヒヒイロノカネは他の金属と比べればそれほど魔力であろうと物理的な衝撃であろうと吸収し、その脅威の復元能力で元通りになると言った性質を持つ。要するに武器にしたならばなまくらになるが、防具にすれば許容範囲を超えなければどんな攻撃も無効化する逸品になるということだ。

 それを突破するためには、許容量を超えるために一点突破するか、その吸収効果を逆手に取り、温度変化等蓄積する攻撃をするのが有効とされている。


「とはいえ、初見でそれを見破れっていうのも酷な話ですけどね」


 少女の嘆息に、カークはサラダを抓みながら苦笑を返す。


「2000階層を超えた猛者だもの。これくらいは何とかしてもらわないと。あの子のランクはエルダードラゴン級中位、最高ランクのフェンリル級にはまだまだ足りないわ」


「本来、エルダードラゴン級ですら他の魔境には殆どいないはずなんですけどね。エルダードラゴン級と言ったら、一度の行動で一国が丸まる滅びかねないほどの脅威度でしょう?なのにこの塔ってフェンリル級が掃いて捨てるほどいるんですよね……」


 カークは唐揚げを箸で口に運び、幸せそうに咀嚼した後に、気の無いような返事をする。彼女にとってこの塔の住人である魔物たちは、彼女に従ってこの塔に移住した従魔やその子どもなのだ、そこに実力の優劣はあれど、かける愛情に優劣はない。強さに関わらず愛を注いでいる彼女にとって、脅威度の話など今更な話であった。


「と、いうか、よく見たらこのスライムって10年くらい前に40階層のボスしてたやつじゃないですか?行動パターンとか、スライム核の模様が見覚え有る気がするんですけど」


「ん?あぁ、ええと、確かにこの子は塔で産まれた子だから1階層から上がってきた子ね。というか、よくわかったわね。10年前って、確かあなたが塔に来たくらいでしょ?」


「いえ、あのスライム、多分私が行き詰って何十回と挑戦した個体なので」


「あぁー」


 なんだか申し訳ない顔をしながら少女の方を見るカークに、少女は気にしていませんよと笑みをうかべた。


「ところで……10年で40階層のスライムが2000階層以上の中ボスになるって、成長率どうなってるんですか?かなり異常だと思うんですけど」


「……それ、鏡見てから言ってくれるかな?10年前に40階層で苦戦してたのに、その6年後には最上階まで到達したテュフラさん?」


 因みにであるが、賢者の塔内は戦闘に発展する一般フロア(カークの従魔の住処)以外にも生活フロアや謎解きフロア、それに2000階には、攻略を諦めたものの塔を去るのも心もとない者達が作り上げた塔の村、通称"中央村"などが存在する。

 また、極端に生息する魔物の強さが変化することはなく、フロアを上がっていくにつれ少しづつ難易度が上がっていくシステムなので、一日に何度も最高階層を更新することは不可能ではない。


 とはいえ、流石に2000日弱の日数で4000階層を攻略しつくすというのは異例なことだ。


 カークは直弟子の言葉に呆れつつも、手に持っていたおにぎりを口に放り込んでから彼女の疑問への言葉を返す。


「まあ、確かにあなたの言う通り、10年であそこまで強くなるというのは異常よ。とはいえ、この塔の中ならあり得ないということもないのだけれど」


 そう言うと、カークは座っていた椅子から立ち、巨大な水晶モニターに魔法で文字を描きながらテュフラに向き合う。


「そもそも、なぜ私たちが戦闘経験を積んでレベルを上げれば、それに付随して肉体性能まで上がるかは、前に説明したわよね?」


「ええ、無意識化で行われる強化魔法の強度が更新されるから、でしたね」


「そう、この世界の生物は、殆どの生物が強化術式というものを持っている。この強化術式は術式所持者の余剰魔力を使って発動するもので、同心円複合術式。つまりはマナが少ないうちは小さな術式として発動し、マナが十分に足りるようになれば小さな術式を一部とした大きな術式が発動する。これがいわゆるレベルアップというものね」


 中心を同じとする円を描いたカークは、その手でフライドポテトをつまみ、先を続ける。


「つまり、どれだけ強くなるかというのに重要なのは強化術式の性能と余剰マナの量になるの。その点で言えば、スライムって他の種族に比べてかなり優秀なのよ。強化術式が変化することもあるし、マナの保有能力が高いからね。」


 そう言って、書いていた円を消し去ると、今度はスライムの絵が浮き出てくる。


「スライムはマナの保有率が高いのだけど、それは保有方法が関わってくるの。テュフラ、わかるかしら?」


「ええっと。確か、人間は圧縮法。取り込んだマナを丹田に取り込み、そこから必要な分を取り出す方法でしたね。他には……たしか、ドラゴンなんかは全身にマナをため込む性質があるという話もありましたし……。スライムは……どちらも、ですか?」


 それを聞いて、カークは手に持ったミートパイを差し出してくる。


「その通り。圧縮法を重視した代表的な魔物はメタルスライム、全身にため込む……膨張法を使っているのはキングスライムなんかが有名ね。マナは同じくマナを持っている相手を倒せばその相手の持っていたマナが自分に流れ込んでくる。

 だけど、マナを貯め込める場所がなければそれは大気に霧散してしまう。だからこそマナを貯める場所が重要なんだけど、スライム種は体の殆どがマナだから魔力を収束するのはお手の物、そして体が固定された物体ではないためにその膨張率は普通の生物とは比べ物にならない。だからこそ成長しきればスライム種は強化率がとんでもないことになるのよ」


「なるほど……しかし、そんな種族なら最初から強くてもおかしくないような気が……最初は最弱と言われるくらい弱いのはなぜなんですか?」


「まあ、それは筋肉も何もない魔物だからね。そもそもの出力は大したことないのよ」


 それを聞いて、ふむふむと頷いたテュフラは、ふと水晶モニターを覗き込み、ため息を吐いた。


「あ、挑戦者の方、やられちゃいましたね」


「あら本当ね、でも、どうやら中央村でもう一度準備して挑むみたいよ」


「……なるほど、魔力の供給手段……ですか」


 本来なら、野生化でレベルはさほど上がらない。自分も死ぬリスクがあるし、獲物も無尽蔵ではない。そのため野生に住む生物は、自分よりもはるかに弱い相手と戦い、あるいは運悪く出会ってしまった相応の実力を持つ相手とは戦いを避けようとするのである。

 さらに言えばそんな相手に出会える確率はそれほど高いわけではないため、レベルが低い場所で安定することになる。


 一方で、賢者の塔は冒険者に復活の奇跡があるのは当然として、魔物側にも実は復活の奇跡が適用される。というかすべてがカークの従魔だけあって、サポートとしてはこちらの方が手厚いまである。そんな中、自分と同格かやや強いくらいの挑戦者がひっきりなしにやってくる。

 それは鍛えられるはずである。


 納得したテュフラはふとカークのデスクを覗き込む。そこには綺麗に平らげられた食事の皿が重ねられていた。


「おや、食事が……おかわりをお持ちしましょうか?」


「そうね、お願いするわ」


 その言葉に応じて、大量の皿を抱えて退出したテュフラを見て、ふとカークは思いついたように呟いた。


「そう言えばあの子、今日はビキニアーマーじゃないのね」


 魔法剣士テュフラ、魔法剣を操り、賢者の塔を僅か6年で攻略した彼女は人々から"痴女剣聖""半裸装備のやべーやつ""ツルペタ筆頭様"など散々な汚名を持つ賢者の弟子筆頭であった。

 

 ただ、彼女がビキニアーマーを着ていようといまいと、賢者の塔での生活はそれほど変わるわけではない。今日もまた、賢者の塔の平穏な日常が過ぎて行くのだった。

※冒険者ランクについて

冒険者は何でも屋であり、複数の職業の人物が利用するため、ランクに関してもそれぞれの部門でその称号が分かれています。ギルドカードには


 〈名前〉 年齢  職業

 モンスターランク スライム  商業ランク 銅貨  制作ランク 見習い  


 のように各種部門でランクが設定されており、得意分野によって細かく補助ランクが設定されています。(例えば制作ランクの補助ランクには「製薬ランク1」「鍛冶ランク1」などがあります)

 モンスターランクは「パーティを組んだ場合その魔物を安定して収入源にすることができる」ことを示すものであり、冒険者でなくモンスターに対してモンスターランクが使われた場合は、「一般的にそのモンスターがどのランクのモンスターに強さが一番近いか」が基準になります。

 フェンリル級は一国を即座に滅ぼせるレベルであり、エンシェントドラゴン級は暴れ出すことを察知した瞬間賢者が行動を開始するレベルの脅威です。もし暴れた場合は大陸全土が焦土化しかねない被害を与えると言われます。幸いなことに、現在までそのような大惨事があったとの伝承は存在しません。



※賢者の塔

 賢者の塔は、賢者カークが長い時間をかけて建設した巨大な塔です。実際に見てみると、4000階層はなく、せいぜいが500階層ほどの建物に見えます。これは、内部が魔術的なリンクで繋がっているため、実際に塔の中に部屋があるというだけでなく、いくつもの亜空間を接続した場所だからです。

 魔術的なリンクで移動を可能にしているという特性を利用したギミックも存在し、実のところ4000階をちまちま登らずとも、賢者の塔を攻略することはできます。と、いうかテュフラも1000階層くらいはギミックを使ってすっ飛ばしています。

フロアの内訳は

 モンスターとの通常戦闘フロア 3000

 モンスターとのボス戦闘フロア 中ボス39(100層毎) 魔将4(1001、2001、3001、3999階層)

 謎解きフロア         400

 トラップフロア        200

 採集フロア(休憩地点)    254

 宿・商店           100

 中央村            3

 最上階(冒険者ギルド本部+カークの居住地)2

 強さによって魔物たちも階層を移動するため、ボスも定期的に変わる。以前ガチガチの対策装備をした戦士が、ボスの交代時期に挑んでみたこともないボスにぼっこぼこに負けたという悲劇も起こりました。


※レベルについて

 この世界において肉体レベルというのは、無意識に発動している強化魔法の強度のことです。この強化魔法は特殊なもので、保有する余剰マナによって強化率が変化します。

 例えばですが

「マナよ灯を我に与えよ、灯は糧を得て大火となる、その身は地獄を顕現しその劫火で敵を焼き尽くすだろう!」

 みたいな術式があったとして、最初の一文が"ファイア"最初の2文が"ファイアボール"文章全体が"ヘルファイア"の魔法を表している、とすると、ファイア分のマナを注げばファイアが、ファイアボール分のマナを注げばファイアボールが、ヘルファイア分の魔力を注げばヘルファイアが発動する。というイメージのことが無意識の自己強化魔法では起こっています。

 要するにレベルアップするまで強さがそのままなのは、自己強化魔法が更新されるほどの余剰魔力が溜まっていないから、ということです。

 なお、自己強化魔法にも拡張性の限界があるため、いくら魔物を倒しても、成長しなくなった場合はそれが自己強化魔法が拡張性を失ったか、あるいは体内にため込めるマナが限界に達し、余剰マナが現状以上に増えなくなったことが原因だと考えられます。人間は一般的に100が限界値だとされていますが、例外も存在するようです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ