俺から離れんな
愛姫の肩をトントンとし、
「珍しく今日は颯くんと登校しなかったんだね」
と、耳元で言う。
何があったかを教えたくなかった愛姫は
「たまたま登校する時間が違ったんだよ。幼馴染だからってそんな毎日一緒に登校するわけじゃないよ」
と答えたのだ。
朝のHRも終え、1限目、2限目と次々に時間が過ぎてゆく。
昼休みの時間になると颯が愛姫の教室に入ってきた。
愛姫の前に立ち、
「朝はごめん。ちょっと話がある。屋上に来て。」
と言いながら愛姫の腕を引っ張り屋上に連れて行こうとする。
「ね、ねぇ!!ちょっと…痛いって、は、離して!!」
掴まれた腕を解こうとするが、力が強くて振り解けない。
「いいから、話あるから着いてこいよ。文句は受け付けない」
と言いながら愛姫の腕を引っ張り屋上に連れ込み、屋上の入口のドアを閉めた。
掴まれた腕を解かれた時、ホッとした愛姫。
「な、なに?話って」
と颯に聞くと颯は愛姫の顔を見ながら答えた。
「本当に芸能人になんのか?」
突如の言葉に意味が分からないと思った。何故そう聞いてきたのか、不思議に思う。
「そりゃあ、受かったからなるよ?」
と颯の質問に答えたのだ。
目的はただ1つ。
応募した時と気持ちは変わっていない。
自分が強くなれる理由が欲しい。
それを見つける為に応募したのだから。
「そうか…お前の気持ちは揺らがないんだな?」
どんな答えを期待しているのか、相手の気持ちが見えてこないい愛姫。
「だから、なるっ!って言ってんじゃん!揺らぐも揺らがないも颯には関係ない!」
と大きな声を出し、その台詞だけ残し屋上から出ようとすると、後ろから抱きしめてきた。
「行くなって…俺から離れんなって…」
抱きしめられたことに驚きを隠せない愛姫。
「ね、ねぇ。颯?私の事好きなの?好きじゃないならこんな事するの止めて」
と手を振り解こうとする。
「ま、だ…分かんねぇの?俺の気持ち」
とボソっと愛姫に言い、顔を見てみると少し悲しげそうな顔をしていた。
幼馴染なだけあってずっと一緒に居たものだから相手の気持ちすら気づけていなかった。
「ごめん。颯の気持ちには応えられない」
と颯の手を振りほどき、屋上から出た。
ドンッと大きなドアが閉まる音だけが鳴り響いた。