遥希の欲望
愛姫がシティーホールから走って出てきている様子を遠目で見ていた遥希。
愛姫が何やら男性と待ち合わせしている所を目撃してしまう。
「どっちだよ…」
そう、一人でボソッと言いながら携帯の画面を開く。
そして、カメラ機能を選択して、愛姫が男性と会っている所の写真を撮るのであった。
──パシャリ──
「よく、撮れてる…」
ボヤけやブレている可能性もあり、5、6枚写真を撮ったのであった。
この写真を何に使うのかは分からない。
遥希が居ることに気づいた陸は愛姫を誘ってホテルへと駆け込んだ。
ホテルの名前は『ロイヤルホテル』だ。
そのホテルの中に入ったと証拠になるように2人が入って行く様子の写真とホテルの名前も撮っている遥希。
まるでストーカー気質丸出しのような感じである。
愛姫を陥れようとしてるのか、愛姫を手に入れたいのか、全く検討がつかない。
「俺って重症…?」
撮った写真を眺めながらとぼとぼと歩いて帰る遥希。
帰りの途中でまた、2人と遭遇してしまう。
「遥希、最寄り反対じゃね?」
不思議そうに奏多が声をかける。
「携帯ずっと眺めてるし、変だよ!」
そう言って奈々未は遥希の携帯を取ったのであった。
すると驚く奈々未。
「何これ…愛姫ちゃんじゃない…」
そして、奏多に見せる。
奈々未は遥希の行動に恐怖を覚える。
「これじゃ、ストーカーじゃない。バレたら通報だよ?まだ、有名になる前だからパパラッチは居ないだろうけど、愛姫ちゃんファン第1号かのようなストーカー辞めたら?」
遥希に言うが遥希は全く話を聞いていなかった。
携帯を取られた挙句撮った写真を見られてしまったからである。
「重症どころじゃねーよな、これ、愛姫さんのプライベート写真まで…遥希は何がしたいんだ?」
そう言いながら男同志の話がしたいと訴えるかのように奈々未に違う場所に移動するようにジェスチャーで伝えた。
奈々未には伝わっていたらしく、奈々未は言われた場所に一人で待つのであった。
「何よ…見つけたの私なのに…何も出来なかった…愛姫ちゃん。。私、失格かな。どうすることも出来ないよ…あんな怖い男性初めて…今までの子達にも同じようにしてきたのかな…」
同じ事務所の先輩なだけに、ここまで酷いと思っていなかった奈々未は涙しながら自分の弱さに痛感する。
自分は無力だと思い知らされる瞬間だった。
「愛姫ちゃん…ごめんね…」
奈々未が移動した事を見届けた奏多。
「ここから本題だよ、遥希。」
そう切り出すと何やら伝えたそうにしている遥希。
「俺の携帯とりあえず返してくんね?」
携帯を返すのを忘れていた奏多は慌てて携帯を返した。
「俺の嫉妬…俺の欲望…俺の…物に…したかった」
一緒に稽古練習する予定だったにも関わらず突然現れた目時礼空に夢中で自分の事を忘れられていた事にカチンときて、嫉妬してしまい、自分の嫉妬心を抑えきれずに一日目で手を出してしまい、嫌われてしまう事を覚悟の上で普通に話しかけたが避けられてしまい、颯や陸との関係が気になってしまったが愛姫に関係ないと言われてしまいショックを受け、愛姫を独り占めしたい欲望が増してストーカー行為をしてしまい、一緒にホテルに行った男に逆恨みをしようと考えてしまって写真を撮ってしまったと。
自分のこれまでの愛姫に対する行動を振り返り奏多に説明をする。
「奈々未には分かって貰えんと思ってるが、俺は…本気…」
その言葉を聞いた奏多はこう言った。
「奈々未が分かんなくても俺が理解する。ストーカーやりすぎると、前のような後悔しかねないからなー。遥希は。」
奏多は前の本気の恋愛相手を知っていて、同じ過ちを犯して後悔して欲しくないと思っていたのだった。
「撮影前にゴタゴタは辞めろよ?撮影終えるまではその気持ち抑えておかないとな。俺たちが気まづくなっちまうよ」
応援してると同時に気まづくなる事も嫌な奏多。
「愛姫ちゃんと会うと俺何しちゃうかわかんね」
もはや理性が効かない遥希。
「なら、この役辞退しないとダメじゃね?」
芸能人の恋愛ってこういうものでしたっけ?というくらい稽古初日から色々問題が起こってしまった。
「俺は辞退するつもりもないし、戦隊ものに出て、子ども達を勇気づけたい。俺の願いはそれだけ。恋愛は別。そもそも俺のこの行為が恋愛かもわからねぇ」
嫉妬と欲望が混ざり合い気持ちに落ち着いていない様子の遥希。
すると肩をトントンと叩いてきた奏多。
まるで、頑張れよ!と伝えているかのような感じだった。
「遥希の本気を見せてくれよな。わりぃ俺、奈々未待たせてるから。そんじゃ」
と言いながら立ち去る奏多。
奏多には伝わっていると感じとった遥希は少しほっとしていた。
そして、携帯を開き、今日撮った写真の履歴を見て、削除ボタンを押す。
──本当に削除しますか?──
『はい』
今日の写真を消したのであった。
遥希の中で嫉妬心と欲望が奏多と話したことによって少し消えていったのであった。
「俺が頑張る事はただ1つ…」
そう言いながら家に帰るのだった。
その頃奈々未と合流した奏多はと言いますと、奈々未からどんな話をしたのか質問攻めされているのであった。
「奈々未もしつけーよ!男同志の会話は女には関係ない」
の一点張りだった。
教えてくれない奏多にムッとした顔をする奈々未であった。
「愛姫ちゃん可愛いもんねー」
と愛姫に対して嫉妬しているかのような奈々未。
「何、俺があの子の事気になってるとでも?俺は顔で判断しない」
奈々未が嫉妬している事を勘づいた奏多はそう言葉を返した。
「愛姫ちゃんを巡ってこれからもバチバチだろうな~~~」
奏多の言葉を聞かないようにしているのか空を見ながら一人でボヤいている奈々未。
「あの子には人を惹きつける何かを持っているからね。奈々未が嫉妬する必要なくね?」
奈々未は奏多の気持ちを探ろうとしていたのであった。
奈々未の気持ちを知っているはずなのに何もしてこないし、離そうともしてこない。
保険扱いなのではないかと、ずっとモヤモヤしていたのである。
「愛姫ちゃんて好きな人いるのかなー?」
その話題から離れない事を不思議に思う奏多。
「結局奈々未は俺の何が知りたいの?愛姫さんの事を好きかどうか?俺には好きな人居るかどうかが知りたいの?」
そんな事を、知ったって何も得にならない奈々未は首を振る。
結局は自分の事をどう思っているのかが知りたいだけ。
でも、聞くのが怖いのが本音。
「首振っただけじゃわかんねぇ。俺に何か聞きたい事があるんじゃないの?」
奈々未の顔をじっと見る奏多。
その瞳が眩しかった。
「私は奏多が、好き。奏多は…??」
本音を聞くのが怖かったが、今しかないと思った奈々未は気持ちを伝えたのであった。
奈々未が言った途端沈黙が続いた。
「俺は奈々未の事を恋愛として見たことはない。良き後輩と仲間だと思ってる」
その答えが返ってくるのは奈々未の中でも分かっていたつもりだった。
あまりの辛さに泣くのを堪える奈々未。
「ごめん…帰るね…」
今にも泣き出しそうな奈々未は奏多の前で泣けないと思い、帰ることにした。
奏多はそんな奈々未を無理に引き止めようとはしなかった。
「俺の気持ちは俺が今一番知りたいくらいわかんねぇ」
胸の奥のズキズキが治まらない奏多。
「俺の好きな奴は…」
そう言いながら噴水の側で倒れ込む奏多。
眠さのピークで倒れ込んでしまった。
そして噴水の側で寝ること3時間が経ち、起きて帰る事にした。
「悩むより行動のみだな」
そう言いながら遥希の行動を見習おうとしていたのであった。
そして、とても濃い1日が終わりを迎えた。