陸の優しさ
「たっつんが此処に来るか、来ないか。賭けてたんだ。たっつんが来なかったら僕があーちゃんを東京で守ろうと思って」
愛姫と手を繋いでいたままだったので手を離し言う。
「賭け?何それ…皆して何なの、もうやだ」
嫌になった愛姫は陸の顔が見れなくて後ろを向いた。
「あーちゃん、ごめんだけどたっつんは此処にはもう来ないよ、諦めて次の恋探そ?」
陸は本気で好きなら此処に来ると思っていたため、自分が先に行動してしまった事により、颯が此処へは来ない事を伝える。
「りっくんに言われたくなんかないよ…私は颯が好きなんだもん。それは今も昔も変わらない」
愛姫がそう答えると陸は後ろから抱き締める。
「こういう事されても?」
陸にまでこういう事をさせてしまう愛姫は罪だとも感じた。
これが遥希の言う無防備という事なんだろうとも思っていた。
「りっくん…ごめん…りっくんにはこういう事して欲しくない…お願いだから離して…」
愛姫は陸が無理して悪者になろうとしているのだと思っていた。
「あーちゃん、僕だって男だよ?」
と言いながら愛姫から離れた。
「りっくんは頼れるお兄さん!っていう私のイメージ壊したくないの」
陸の顔を見ながら言った。
陸はハッとした表情をする。
「あーちゃんは僕の事そう見ててくれてたんだね、そこから昇格…しないか…」
少し残念そうな顔をする陸。
「ごめん、りっくんの事お兄ちゃん的存在しかずっと思ってなかったの…」
つくづく感じてはいたが、本人から言われてしまうと胸がズキズキと痛んでしまう。
「僕の…賭けは…外れかな…」
陸は携帯を見ながらそう答える。
どういう事なのかさっぱり分かっていない愛姫は首を傾げながら陸の顔を見る。
「たっつんのLINE見てみ?」
そう言って愛姫に携帯を見せた。
そこには颯が陸に果たし状かのような口調で文が打ってあるのと、トプ画には愛姫との思い出の写真。
一言には、愛姫は誰にも渡さねぇ。と書いてあるのであった。
「何これ?公開処刑?」
苦笑いをしながらLINEの内容を見ていた。
「僕もあーちゃんの事気になってたの、たっつん知ってたからかな…あーちゃんの魅力…芸能人になるともっと人気になって、遠くに行ってしまうのが嫌だったんじゃないかな。不安なのは僕もなんだけどね」
陸のその言葉に驚いている愛姫。
初めて陸が愛姫の事を気になっていると言ったからだ。
本人には気づかれないように振舞っていたが、今回の件があり、制御しきれなくなったのであろう。
「あーちゃんは本人が気づかない程魅了する物があるよ。だから、僕もたっつんも不安なんだ。僕達から離れて行かないで」
そう言って、1人受付の場所に行き、鍵を貰う。
──私の魅力?なんじゃそりゃ…──
自分で考えていても分からないい。どんな魅力があるのか。
「あーちゃんは、可愛いだけじゃないでしょ、方向音痴で、ドジでほっとけない人だよ。男の人達が守ってあげたくなるような。包み込みたい。陽だまりのような女性だよ。」
そう言って、愛姫の手を引く。
その手は強引ではなく、優しくリードしてくれるような感じの引き方だった。
「私、皆が思うような女じゃないよ?」
小声でボソッと言う愛姫。
「あーちゃんは何にも染まってないでしょ。真っ白。汚したくないタイプだと僕は思ってるけど」
そう言いながら【207】と書かれてある部屋に入る。愛姫も続いてその部屋に入る事にした。
「わぁ~豪邸みたい!!ホテルもお金持ちさんが泊まるような感じ…ってりっくんお金持ち1家だった…」
見た事もない物や窓から見える風景、圧倒的な広さに感動している愛姫。
一瞬陸の家が大金持ちな事を忘れていた。
「ここなら、安心だね」
遥希が着いてきていると分かってから不安に思ったがこのホテルの中なら安全だとも思っていた愛姫だった。
「あの男の名前なんて言うの?」
愛姫の後ろから着いてきていた男性の事が気になっていた陸。
「佐倉遥希ってゆう人だと思う。その人しか考えられない」
愛姫はそう答えた。
名前を聞いた陸は早速携帯を開き、何やら調べ物をしている。
Wikipediaにて、調べていた。
Wikipediaには、子役時代に活躍していた、略歴。
その他にも生誕や出身地、職業、活動期間、所属事務所など、遥希に関連するものばかりが書いていた。
下の方を見てみると公式サイトが載ってあった。
公式サイトは見ずに、Wikipediaを閉じる陸。
佐倉遥希の関連する記事などがあり、(佐倉遥希 彼女)(佐倉遥希 熱愛)(佐倉遥希 モデル)等と女性関係の事が色々と書かれてあるのを見つけた。
愛姫にバレまいと携帯を隠しながら記事を見た。
すると、去年の12月24日に遥希ともう1人、サングラスをかけた女性とのツーショット画像を見つける。
他にもその女性以外との熱愛報道があったのか次々と画像が出てくる。
その画像を見て、怪しいと思った陸は、次は愛姫が狙われていると予測したのであった。
颯が居ない今、自分しか愛姫を守る事が出来ないと悟ったのであろう。
検索履歴を消し、携帯を閉じる陸。
「あーちゃんに忠告する。アイツは危険だ。気をつけた方がいいよ」
そう言いながらシャワー室に入る陸であった。
「何よもう…どうしたらいいって言うの?」
益々どうしたらいいのかが分からない愛姫。
1人、ベッドの上で横になり、考えているのだった。
考えていている事20分。
シャワー室から出てきた陸。
なんと、出てきた姿があまりにも衝撃で目を隠す愛姫。
──キャッ──
「も、もう、りっくん…驚かさないでよ…」
なんと、陸の姿は上半身が裸…。
衝撃的過ぎて後ろを向く愛姫。
「は、早く着替えてよ!!」
と言いながらソワソワしている様子。
「大丈夫…すぐ着替えるよ…暑かったんだ…」
そう言いながら着替える陸だった。
ピロロン…と携帯のLINEの通知が鳴る。
それは陸の親からのLINEだった。
LINEを読んだ後に愛姫に一声かけた。
「あーちゃん、今日は泊まってったら?明日にはあーちゃんの今まで泊まってたホテルチェックアウトしてもらえれば、僕の親が僕の住む場所とあーちゃんの住む場所、確保してくれてるみたいだから」
お金持ちの人が言う言葉は凄いなと関心する。
陸は東京に来る前に予め親に頼んでいたのであった。
確保出来た。とのLINEが入ったのである。
「え?何でそこまで…」
自分で何とかしようと思っていた愛姫は陸が東京に来たことにも吃驚しているが、住む場所の確保まで、陸の親がするという、何ともいえない状況に驚いているのであった。
「あーちゃんがほっとけないからに決まってるよ」
そう言って、携帯の電源を切り布団に入って寝る陸だった。
「何よ…そんなの…ズルいよ」
ボソッと言いながら陸の顔を見る、愛姫。
今日の陸はいつもと違うくらい愛姫に対して優しかった。
元々優しい性格なのが陸だが、いつも以上に思っていること以外の事もしてくれて、尚且つ嫌われても構わないかのように悪者になってしまう陸に感謝していた愛姫であった。