予備練習/遥希の豹変
遥希ってこんな、性格なのね…
稽古場所にたどり着くと練習している人達が様々。
愛姫と同じくオーディションで合格して新人デビューした人も居れば元々芸能活動してた人もいる。
愛姫はテレビで見かけた事がある人を見つけた。
「すみません、朝ドラに出てました?」
と一声かけた。
声をかけた相手は目時礼空という人物だった。
「俺の事知ってるんですね。朝ドラなんて、この歳で見ないでしょうに」
苦笑いをしながら答える礼空。
礼空はOverTheRainbowという朝の連続ドラマの子役を演じているのだった。
「お母さんが見てたのたまたま見てたんだ。うわー、テレビで見てた人が間近で見られるなんて」
少し嬉しそうに話す愛姫。
「愛姫ちゃん、俺のこと忘れてない?」
と愛姫の肩をツンツンと叩いた。
肩を叩いたのはずっと愛姫の隣に居た遥希だった。
「あ、ごめんごめん、」
目の前に物珍しい人物が居たのでそこに気を取られていた。
そして遥希はムッとした表情をし、礼空に威嚇をし、そのまま愛姫の腕を引っ張り違う場所に移動し、物置部屋に連れていかれる愛姫。
「え?ちょっ、は、離して!は、な、離してって言ってるでしょー!」
何故物置部屋に連れていかれたのかが分からなかった愛姫は、大きな声を出し、遥希を突き飛ばしてしまった。
「あ!ご、ごめんなさい、つい…」
と言い、遥希に近づこうとすると急に顔を上げ愛姫の顔をじっと見て手を愛姫の顎に当てる。
「愛姫ちゃん、無防備すぎん?」
何か企んでいそうな顔付きで愛姫の顔を見ている遥希。
遥希のその言葉に恐怖を感じた愛姫は一瞬ビクッとする。
愛姫は何が無防備なのかが分からず考えている。
「こうしている間にも俺は愛姫ちゃんに抵抗させる間もなくキスする事が出来るよ。」
──え?どういう事?──
何が何だか分からなくなっている愛姫。
恐る恐る遥希から遠ざかろうと足を後ろに…また一歩後ろに…引くのだった。
「な、何で私を此処に連れてきたの?」
遥希の態度の急変に怖がっているのか声が震えている愛姫。
「決まってるじゃん、此処に2人っきりだよ?愛姫ちゃんをめちゃくちゃにしたいって思ってるんだよ」
そう遥希が言った瞬間にゾワッとする愛姫。
鳥肌が目立つ感じになっていた。
──怖い…誰か、助けて──
そう心の中で思っているがこんな稽古場所から離れた物置部屋の所に人なんて通るわけがない。
「だ、だれかぁぁ」
愛姫は叫んで助けを呼ぼうとするが、物置部屋は防音対策されている為、声が通らない。
「助けを呼んだって無駄だよ。だって、愛姫ちゃんがいけないんだよ。目時礼空に媚び売っちゃってさー、愛姫ちゃんは俺の獲物だから」
そう言いながら愛姫にどんどん近づいてくる。
「嫌!来ないで!!」
愛姫は怖がりながらも声を出す。
「そ~の顔がたっまんないわ~」
ニヤニヤしながら近づき、物置部屋の鍵を閉めつつ愛姫の腕を引っ張り、自分の所に引き寄せる。
「い、いやぁぁあ!颯!りっくん!!」
怖くなった愛姫は幼馴染の2人の名前を出してしまった。
ハッと気づいた時にはもう口からその二人の名前が出ていた。
「誰それ?彼氏?そ~う?りっくん?どっちが本命よ」
愛姫が答える間もなく無理矢理キスをする。
無理矢理キスをされたがそこまで嫌だとは思わなかった。
何故なら優しいキスの仕方だったから。
だが、好きでもない人にされたって事が嫌だったみたい。
…バシッ──
遥希の頬を叩く愛姫。
「何考えてんの?颯やりっくんがどーだっていーじゃない。私がいつ目時礼空に媚び売ったって?勘違いにも程があんでしょ!!!第1私は獲物なんかじゃない。勝手に獲物扱いしないでくれる?」
そう、言い捨ててドアの鍵を開け、部屋を出て1人で稽古場所に戻ろうとする。
だが、来た道を覚えていない愛姫はただ1人、敷地内をウロウロと探検するのだった。
「…益々気に入ったよ、愛姫ちゃん…」
叩かれた頬を触りながら独り言を言う。
愛姫の反応が面白くてからかっているようにも見えるが、内心礼空に対して嫉妬をしているんじゃないかと。
一瞬だけでも自分の存在を忘れられていた事に相手に対してライバル心を抱いてしまっている遥希だった。
強引さがたまらん!!