いつか王子さまが(ミオ)4
転入してからクリストファー王子は、何かと話し掛けてくるようになった。
「あ、ミオ、おはよう!」
朝登校すると、大勢の女子やら男子やらに囲まれていた王子が、ぱっと振り向き、駆け寄ってくる。
グレーの髪は今日もツヤツヤのキラキラ。顔も綺麗すぎて一見中性的にも見えるけれど、駆け寄って来て近くに立つと、身長も結構あって細身なのに鍛えている逞しさを感じる。姿勢や仕草や身のこなしに品があって、何が違うのかつい見入ってしまう。さっきまで王子の周りにいた皆もきっとうっとりとキラキラ笑顔に見とれていたんだろう。
「ミオ?どうしたの?大丈夫?」
身長差を埋めるようにちょっと体をかがめて王子が顔をのぞき込んでくる。
「あ、お、おはよう!」
ぼーっとしてました。いつもの事です。
そして王子、相変わらず近いです。眩しいです。
クリストファー王子は、ふふっと嬉しそうに笑うと、
「ミオ、今日はずっと一緒だね。」
と、私の手を取ると、席までエスコートしてくれるのでした。…って、教室の中エスコート必要ないし!机や椅子があるだけだから!っていうかヤマトイ国にエスコートの文化ないから!
…と心の中でツッコミを入れつつ、ギクシャクと席まで行く。それを皆ニヤニヤして見ている。
何か今日、王子の背中に花びら舞ってます。見間違いではないです。
もう皆、生暖かく見守る方向で一致団結してしまったらしい。最初牽制していた男子達も、何故か骨抜きになっている。むしろ忠誠を誓う勢いだ。恐るべし王子の魅力。
女子も、私よりずっと可愛い子や美人な子もいるのに、嫌味を言われたりライバル視されたりが全く無いのはなぜだろう。…
王子が綺麗すぎて現実味がないからかもしれない。王子を全面的に応援しますオーラが出ている。そして、スケッチしたり、ここぞと言う言動をメモしたりしている。何で。
授業が始まると、クリストファー王子はほとんどの教科でまんべんなく優秀だった。難解といわれる問題もサラサラと解く。学園に来る必要ないんじゃないかと思うくらいだ。
体育も、猫並みの瞬発力としなやかさで、誰も敵わなかった。今日の単元は室内のボールを使ったスポーツだったが、ジルだけがなんとか最後まで食い下がっていたが負けた。悔しそうな顔でボールを壁に叩きつけていた。頑張れ。
女子はおもむろにスケッチしている子が何人かいた。みんな上手い。そして花が舞っている…。
体育が終わり、更衣室で女子だけになると、わっと皆が集まってくる。
「ミオちゃん応援してるからね。王子と上手くいってね!」
「王子かっこいいよね!まるで王子さまみたい!」
「いやだから王子さまだし!」
とか大騒ぎだ。
ユーノがずいっと一番近くに来る。
「で、どうなの。ミオは。」
「ど、どうって。」
急に小さい声になって聞いてくる。
「王子の事、どう思ってるの?」
女子のみなさん、シーンとしてごくりとつばを飲み込んで聞いている。みんな目がキラキラしている。
「かっ、かっこいいとは思ってるけど…」
「きゃーーーーー!!!!」
「そうだよね!かっこいいよね!」
壁や床をばんばん叩いて喜んでる女子のみなさん、応援ありがとう。
「それで、それで?」
また声をひそめてユーノが聞く。
「王子の事、す、好き?」
またシーン。キラキラ。
「突然すぎて、何がなんだか。」
「ああ〜。」
何で皆が残念そうなのか。
「会ったばっかりだし、どうして私なのかさっぱりだし、住む世界も違うし。きっと今だけだよ。」
「でも、ミオ。王子が特別って言ってくれたり、ミオに会いたかったって言ってくれたのは?嫌だった?嬉しかった?」
ユーノ。尋問ですか。
「う、嬉しかった、よ。」
「きゃーーーーー!!!!」
「だよね!だよね!」
「王子素敵!」
バンバンバン!更衣室壊れます。
大興奮の女子更衣室、みんなで次の授業に遅れて、ウエノ先生に叱られたのでした。