いつか王子さまが(ミオ)3
結局クリストファー王子は私の席の隣に陣取り、ニコニコして私の顔を見ている。
…近いです。そして見過ぎです。何より授業中だから前を見てください。
そしてそんな王子をクラスの皆がチラチラと振り返ったりして見ている。
先生もたまに教科書のページを間違えたり、黒板の字が違っていたりしている。どうしても王子に目が行ってしまうようだ。
休み時間になると、他のクラスから人がわっと集まってきて、窓やドアから顔を覗かせてきた。鈴なりだ。
わぁとかキャーとか言いながら、あちらこちらの窓から大注目を集める。
王子は人から注目されるのは慣れているのか、全く動じない。
それどころか、相変わらず私の顔を見てニコニコしながら言う。
「ミオ。会いたかった。」
キャーと、周りから悲鳴のような声があがる。
…もう、この状況。どうしたらいいの。顔は勝手に熱くなってくる。王子を見ると、目が合ってパァァーと嬉しそうな顔をする。
グレーの柔らかそうな髪。緑の目。一見女の子にも見間違うような綺麗な顔に優しげな雰囲気。でも何処かに精悍な空気を隠している。そして何となく、昨日の猫を思い出す。
やっぱり、猫だったっていうのは本当だったんだろうか。もしそうなら、また猫になってみてくれないかな。…あのグレーの毛並みをモフモフして、ぎゅうぎゅうしたい。
ジロジロと観察しているうちに何となく妄想していると、だんだん王子の目が泳ぎ出して、とうとう両手で顔を覆ってしまった。耳が赤い。
「しゅ、修行が足りない。」
さすが王子、修行なんて。よくヤマトイ国の文化を理解している。
ギャラリーからは、「か、可愛い。」「うんうん。」とか声が聞こえてくる。何だか興味津々から生暖かい空気になってやしませんか。何故に。
そこに突然、空気をぶった切って王子に話かけて来た勇者がいた。ジルだ。
「き、昨日は勘違いして悪かったな。」
ジルも変質者と勘違いしてたのか。というか、敬語も何もないのだが。まあ先生も普通に接してみたいな事を言ってたからいいのかな?
他の男子はちょっと気遅れしてるようで、遠巻きに見ているが、ジルはぶっきらぼうではあるが雰囲気にのまれないで動けるのはエライと思う。ただ何にも考えてないだけともいうが。あと鈍感とも言う。
「ああ、あなたは昨日のナイトですね。」
「ナイトじゃない!俺はジルだ。よろしく。」
「こちらこそ宜しくお願いしますね。」
「のの、望むところだ!」
なんかジルの受け答えがおかしい。残念感がどうしようもない。しかし周りの男子が一斉に手を握りしめて頑張れオーラを出している。
「お、王子だろうが何だろうが特別扱いしないからな。あと、やたらに女子にいい顔するんじゃねぇ。」
周りの男子が、おお〜!と目を輝かせている。ジル、一気に男子の人望を集めている。
いや、自分達が照れて女子に素直になれないからって。ダメダメな男子達が残念すぎる。
女子達が呆れた様な顔でため息をつく。これだから野生のサル達は…と毒舌な誰かが呟く。
でも、クリストファー王子にしたら、私達も野生のメスザルかも。と思ってちょっとショックを受ける。やっぱり生きる世界が違うのは忘れないようにしよう。
クリストファー王子は、怒るかと思ったのに…ジルの言葉に目をまん丸にして、それからとても嬉しそうにふわりと微笑んだ。
「特別扱いしないでくれるんですね。ありがとう。」
おお、ギャラリーがみんな胸を押さえてのたうちまわっている。女子も、さっきまで手を握りしめていた男子まで。
王子、すごい殺傷能力だ。もうみんなキュン死寸前で息も絶え絶え。―王子は、学園の生徒を味方につけた。
「女子にも男子にも公平にすると誓いましょう。でも。」
でも?
「ミオは僕の特別なので…よろしくね?」
なんか可愛くお願いしてる。可愛いすぎて何言ってるか理解できない。周りの生徒たちもバッタバッタと倒れだした。保健室大変そう…。私の思考も迷走している。
ジルは硬直して王子をガン見、意識のある男子は同情めいた目でジルを見ている。
私はユーノを探した。何か言って!そして私を助けてー。と思ったら、人混みに紛れて、目をキラキラさせながら、ニシシと笑っていた。助ける気全くないな。それどころか面白がってる。もう。
ふと、前を見ると、王子がニコニコして私を見ていた。ミオ、好きな花何?と聞かれた気がするが、頭の中パニックで反応できない。
「ジル、ミオの好きな花って知ってる?」
王子がジルに聞いている。
「…すずらん。」
へー。よく覚えてるなジル。いつかそんな話したかも。さすがご近所さん。ヘビ持って追いかけて来た事も覚えているかな。許さん。
クリストファー王子は両手の平を私の前に差し出す。何も乗っていない手を見る。
急に、青みがかった虹色の光が淡く輝き周りに小さな銀の星がチラチラ漂う。それがとても綺麗で、あのビー玉を思い出す。
そしてそれがすっと消えると、花びらが白く輝くすずらんが1本現れていた。
「ミオ。あげる。」
ヤマトイ国ではほとんど見ない魔法。すごく、綺麗なものだった。