僕は猫(クリストファー)4
茂みから出てきたのは、黒い犬だった。
銀色の満月の光を浴びて、黒く艶めく。精悍な黒い瞳。
右目のすぐ上には、ひきつれた様な傷がはしっている。
「お前、見ない顔だな。行く所が無ければ、来い。」
うわ、超カッコいい。
と思ったまま、意識がふわふわと何処かにとんでしまった。
「おい、そろそろ起きろ。これ、食えるか?」
眩しい朝の光の中、柔らかい物に包まれて意識が戻ってくる。腹痛もだいぶ良くなっていた。
ふわふわの毛布に包まれてる。城に戻ったんだっけ?
とまだボケボケしながら目を開ける。脇に林檎やら魚やらが置かれている。
―僕は、黒い犬にくっついて、包まれて寝ていた。
どきゅん。何これカッコイイ。俺が温めてやるぜってやつ?勝手に愛情センサーが作動。目の前の空間に数字が浮かぶ。
クルクルクルクルーピコンピコンピコン。一の位から数字が並ぶ。555!数字も何かかっこいい。初めて会ったのにこの数字、見かけによらず面倒見が良い親分肌なのかな?
そして、1000いかなくてちょっとホッとする。変な扉を開けなくて良かった。僕は王子です。
黒い犬は立ち上がる。そこは、小さな小屋の中。窓の外は、小さな集落だった。
「ありがとう。だいぶ良くなりました。ここは、どこですか?」
「!!!お!猫が喋った!」
いえいえ、あなたも犬だけど喋ってますし。
それから、精悍な黒い瞳をキラキラさせながら教えてくれた。昨日は死にそうな子猫(僕)を咥えて自分達の集落に連れて来た事。ここはシノビの里という所で、一般市民は辿り着けない事、里の皆はニンジャという内緒のお仕事をしている事。普段は犬型だけど、人間型にもなれるんだそうだ。
いやいやいや、そんなトップシークレット、初めて会った僕にする事じゃないでしょう?
そう聞くと、面白そうに片眉をあげて笑った。
「お前は大丈夫だ。匂いで分かる。敵意も計算もない、裏切ったり陥れたりする匂いもない。約束すれば、絶対漏らさないだろう。それに、ちょっと変わった匂いもするからな。魔法の匂い。猫なのに話せるし、口調も品がある。まぁ、どっかの王子か貴族か。この国には魔法は少ないから、海の向こうの隣の国か、そのまた隣くらいか。」
ガタガタブルブル。恐い。何これほとんど当たってます。凄いです親分!
「僕は、ケルリア国の第三王子、クリストファーです。助けていただいてありがとうございました。秘密は漏らさないと約束します。」
「俺は、ムサシだ。」
黒い瞳をキラキラさせて言う。右目の上の斜めにはしったキズが精悍な雰囲気を更に引き立てる。めっちゃカッコイイ。でも良く見ると後ろで尻尾をブンブン振っていた。嬉しいんだね。可愛いです。
バタン!と小屋を開けてお婆さんが入って来た。こちらは人型だ。カカカッと後ろの壁に何か刺さる。
「げ!ばあちゃん!」
ムサシ、僕を庇いながら煙の出る魂を投げて凌ぎ、壁に駆け上り、小さい何かを投げ返す。ばあちゃんの後ろの壁にカカカッと刺さる。
「ムサシ!また何か拾って来て!捨てて来なさい!」
「え、嫌だよ。ちゃんと面倒見るから。俺が責任持つ!」
ばあちゃん、いつの間にか2人に、3人に、4人になって囲んでくる。ばあちゃんがいっぱい。
「そうやって節操なく色々拾ってくるから、牧場ひとつ一杯だよ。結局ばあちゃんが餌やってるだろ!」
「そういうばあちゃんだって俺を拾ったじゃないか!俺はばあちゃんにもらった幸せを他のヤツにも分けてあげてるだけだぜ!」
ムサシ、壁の中に消える。同時にばあちゃんの足元が爆発する。
「小僧、こしゃくな!」
ばあちゃん飛び上がる。ヒュンヒュンと飛び回り、着地。
ムサシ、気がつくと、お縄になってました。残念。ばあちゃんかっこいい。
「ちぇ、しょうがねえな。」
精悍なムサシもばあちゃんにかかるとただの悪ガキ…駄犬にしか見えない。
「全く、今後は何拾ってきたんだい?―おや?」
と、ばあちゃん僕の顔を見る。
「猫ちゃんお前さん…ケルリア国かい?だとするとクリストファーかな?」
「!!」
ガクブル。この人達凄すぎる。
「いやなに。ケルリア国の気配がするしね。第三王子がまだ帰ってないって聞いてたし、魂が感じられないのも滅多にないからねぇ。それに王宮の魔女アカリナの匂いがするから間違いないさね。アカリナは元気かねぇ。」
僕は、自己紹介と、アカリナが僕を猫にしてちょっと恨んでる事(兄さん達みたいにかっこいいのが良かった)まだ魂を探している事を話した。
「懐かしいねぇ。アカリナはここにも修行に来てたんだよ。まだまだ弱っちくてねえ。悪ガキ共に背中にイモムシを入れられたりして泣いてたねえ。」
あ、もしかして、僕トラウマえぐっちゃってたかな。ごめんアカリナ。自業自得でした。
ばあちゃんは、この前魂落ちてるの見かけたのうーと、軽い調子で話してくれた。ええー。
「良かったら案内しようかの?」
とか言ってくれるのでお願いした。
ちょっと、魔力の込もった水たまりの中にあって、取り出せなくなってるらしい。無理に手を入れたらビリビリくるんだって。どうするかは自分で考えなとばあちゃんは言った。
僕は、ムサシと堅い握手を交わし(肉球同士)別れを告げた。ばあちゃんに案内され、シノビの里を出た。
街に出て、水たまりの近くまでくると、ばあちゃんはドロンと消えた。
煙の中にばあちゃんの声だけがする。
「アカリナによろしくの!」
ありがとう。ばあちゃん。
そうして、僕はやっと魂を見つけた。やっと、ここまで来た。嬉しくて、何も考えずに水たまりに手を入れて取り出そうとした。
10万ボルトの電流が流れた。骨までビリビリして、気絶しそうになった。僕、ヨロヨロです。
僕はこの後すぐ、ビリビリに負けないで水たまりに手を突っ込む凄いヤツに会う。本人平気そうだったのが謎だ。いつかケルリア国の騎士にスカウトしようか。
そして、…ずっと探してた運命の人に出会う。
やっと、会えたよ。大切にする。
僕は、運命の人に跪き、手にキスをした。