再生の物語
ジーヤの(爺やの)部屋の扉を開ける。
明らかに、部屋の中に緊迫した空気があり、ジーヤ、王子、ミオ、アカリナがそっと中に入り、ばあちゃん、ムサシ、ジル、ユーノは開けたままでドアの外に待機した。
ミオ達が部屋の中を見渡しよく見ると、ベッドの中に丸まってブルブル震えている何かがいる。そこから時折黒い霧が溢れそうになりまた引いていく。
王子が近づこうとすると、ジーヤが、
「私に行かせてください」
と、ベッドに近づき、そっと毛布を捲る。
やはり。
そこには、燃え尽きたように黒ずんで丸くなっている鳥がいた。大きさは人間の子供ほどはありそうだった。体から黒い霧が滲み出て、腹の辺りで渦巻いている。それを必死に両手で抑え込んでいるように見える。
「お前、助けを求めに来たのか?」
ジーヤがジーヤではない様な、地面に響く低い声で問う。
しかしその途端に黒い霧が体から噴き出し、黒い鳥を覆い尽くした。そして霧が盛り上がり、人の形をとった。それは醜悪な笑いを浮かべたごてごてと飾り立てた男の姿だった。
男のもつ杖に紋章が付いているのが見える。
「ビルト国の紋章……。」
王子がハッとして呟く。やはり悪名高いビルト国の王は暗殺されたのではなかった。ここにいるのだ。何かに吸収されたのか、吸収したのか。
急に、霧の塊が盛り上がる。男は叫び声を上げる。
「魔王は俺だ!力を手に入れた!邪魔をするな!すべてを俺の思いのままに出来るのだ!」
そして、ジーヤに襲いかかった。
そこからのジーヤは凄かった。
攻撃を軽くかわすと、
「お前、誰に物を言ってるんだ?」
と地を這うような声を轟かせ、あっという間に霧の男を握り潰し蹴散らして、すっかり霧散させてしまったのだ。
「魔王…」
とアカリナが呟く。
振り返ったジーヤが、
「いやあ、皆さんがだいぶ霧を退治した後ですから、助かりましたねえ。」
と、てへっという感じでごまかしていたが、そこにいる誰もが、ジーヤには絶対に逆らわないでおこうと心に決めていたのだった。
皆が近づきベッドの上を見ると、黒く焦げてさっきよりずっと小さくなった鳥が…『あの子』が、虫の息になって横たわっていた。
「この子はきっと、ずっと力一杯抵抗していたんですね」
星と一緒に落ちてきたこの子は、身体の中で暴れるビルト国の王と闘っていたのだ。外へ出さないようにと霧を必死で押し込みながら、同じ匂いのする者を求めてここまで来て、絶望のまま飲み込まれようとしていたのだろう。
ミオが、一歩、近づく。
「危ないよ、ミオ!」
王子が心配して止めようとするが、ミオは構わずフラフラと近づき、ーそっと、小さな黒い鳥を抱き上げ、壊れ物を扱うかの様に柔らかく、でもぎゅっと抱きしめた。
ーーーこの子が、助かりますように。
どうか。一人きりで闘っていたこの子が癒されますように。
ずっと、ずっと、寂しくて心細かったよね。
君が頑張ったお陰で、みんな助かったんだよ。
もう、大丈夫。もう、頑張らなくていいよ。
どうか、このまま消えてしまわないで。
いつかきっと、楽しくて騒がしい時がやってくるから。ーーー
ミオと、黒い鳥は、暖かな光に包まれた。
光の中で鳥がミオにつぶやく。
「僕はここで生きていっていいの?」
「もちろんよ!一緒にりんごパイを食べようよ」
「りんごパイ…何それ…」
それから、黒い鳥は銀色に輝きだし、眩ゆいばかりになる。
「でもまだ僕の中に、あいつのカケラが小さく残っているんだ。どうしたらいい」
すると、急にジーヤが地を這う声で答える。
「だからここに来たんだろう。覚悟は出来ているか」
「……」
銀色に輝きだした鳥は、黙ったままミオの腕から降り、ジーヤの傍に近づく。ジーヤは共鳴するかのように赤い炎の鳥の姿になった。
ジーヤは王子に向かって、いつもの優しいジーヤの声で、
「そろそろ、再生の時期だったんですよ。しばらく、お休みをいただいてもよろしいでしょうか」
と言うと、銀色の鳥を包み込み、そしてそのまま、いつもとは違う激しい焔で身体を燃やし始めた。
眩しい程のその焔は、部屋やベッドは全く燃やさないまま、赤と銀の鳥だけを焼き尽くし、7日間燃え続けた。
その間、ジーヤの部屋は閉めきりにし、交代で時々様子を見に行った。城の皆や、王や王妃は目を覚まし、また元通り働き始めたが、王子達が帰ってきているのに気が付くと喜び、親切にもてなしてくれた。特に会いたがっていたミオに会えて感激した王と王妃は、質問責めにしてミオを困らせて、王子に制止されたりしていた。
厨房の戸棚だけでかろうじて繋がっていた城は元に戻り、戸棚の前や城の外で待っていた面々も、本当の城の中に入る事ができた。
王子は今までの経緯を皆に話し、王と王妃は感謝の宴を開き皆をもてなした。
ジーヤの事だけは王族と現場にいた少数だけのシークレットとなったが、7日後、いつも通りの様子で
「いやあ、お休みをありがとうございました」
と、ニコニコしながらいつも通りの城にいる時の爺やの姿で甲斐甲斐しく働き始め、あまりにも普段通りだったのだが、王や王妃、王子達から涙ながらの抱擁を受け、爺やもホロリと涙を流した。
ーーさて、あの子は。
何年か後。
ケルリア国のすぐ隣、とある島に新しい小さな城がある。
そこにドラゴンの子供やら動物の子供やら人間の子供や妖精達までが集まってきている。まるで幼稚園の様相だ。実際、安全なこの島に子供を預けたい人が目白押しだった。
城にいるのは王子とミオ。
最近爆発的に本の売れたユーノも城の中の別室で執筆を続けている。助手に妖精が一人ついている。
ジルも無事城の警備に騎士として採用されている。あの戦いに参加した勇者としてメイドさん達にもてもてだ。しかし常にドラゴン達がついて回るので、近づき難いらしい。
爺やは王子についてこちらの城に来たが、皆のリクエストで学園での若いジーヤ仕様で働いている。こんなに優しいジーヤなのに誰も一言も逆らわない事に疑問を感じる新しい使用人達だったが、皆優しいジーヤが大好きだった。
魔王とドラゴンに守られた城。最強です。ジルでいいなら勇者もいます。
ばあちゃんとムサシは、ヤマトイ国に戻っていたが、龍に乗ってちょくちょく遊びに来ている。いつもヤマトイ国のお土産を沢山持って来てくれるので、ミオは楽しみにしている。
「美味しい!もっと、食べる!」
「こぼれてるよ!あ、コップが倒れる!」
食べているのはりんごパイ。そのテーブルにいるのはミオと王子、それから丸くてふわふわと小さい、銀色な羽の生えた何かだった。
「銀ちゃん、りんごパイ、気に入った?」
「うん!」
銀色のふわふわは、ーーかつて『あの子』だった銀ちゃんは、小さく飛ぶとミオの頬にキスをし、
「ありがとう」
と呟いた。
ミオと王子は視線を交わし微笑む。
ジーヤがドラゴンの子供達や動物の子供達、人間の子供から妖精達も連れてホールに入ってくる。
次々と運ばれてくるりんごパイ。りんごはヤマトイ国からばあちゃん達が持ってきてくれたお土産だ。
「みんな、ゆっくり食べてね。」
ホールをジーヤや、子供のお世話に長けたメイドさん達に任せ、ミオと王子は散歩に出る。
城から少し歩き、森から海辺へ出る。
王子は久しぶりの休日。いつもはここから王宮まで通い、王の片腕として働いている。交通手段は翼で飛行。ミオは、便利でいいなあと思っている。
「ミィ。やっと、二人きりになれたね。僕の大事なミィ。」
「クリス。」
もう、照れずに名前を呼べるようになった。
クリスは、ミィに、そっと、キスをした。
海から上がってきたばかりの銀色の満月が、二人を淡く照らしキラキラと輝いた。
FIN
やっと、完結までたどり着きました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
忙しさの中で、なかなか書けずに止まってしまいそうな時もありましたが、何人かの続けて読んでくださっている方が励みになりここまで来られました。
読んでくださった、会った事のない、名前も知らない方々。
本当にありがとうございました。
書ききれなかった部分をいつか番外編で書こうと思っています。いつになるかはわかりません。
もし、良かったら、感想や、好きなキャラを教えていただければ泣いて喜びます。
それでは。
皆様に幸せが訪れますように。




