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空を駆ける(ミオ)1

「ミオ、寒くない?」

 クリストファー王子が心配そうに尋ねてくる。

「大丈夫ですよ。ありがとう。」

 とニッコリ笑って見せたのに、

「いや、寒そうだから。」

 と背中から抱きしめてくる。背中、あったかいです。そしてもう恥ずかしいのでいっぱいいっぱいです。


 今、私はモフモフの白い大きな犬の背中に乗って空を飛んで運ばれている。クリストファー王子は、何故か自分で飛ばすに一緒に乗ると言い張って、犬に嫌がられながら、何か一言二言犬を説得して(脅して?)一緒に乗って来た。


 私達の前や後ろには、使役の動物達や妖精達が同じ様に空を飛んで移動している。翼が生えていない動物はどうやって飛んでいるんだろう?今乗っている白いモフモフちゃんにも翼はない。王子にきいてみると、契約した相手の魔力で飛んでいる者と、もともと魔力があって飛べる動物とがいるそうだ。


「クリストファー王子は物知りですね。」

「いや僕の国では誰でもが知ってる事だから……、それより、……」

「……?…どうかしましたか?」

「いや、えっと、あのさ……あのね……」


 王子が急に口籠もるので、振り向いて様子を見ると、目を泳がせたり何か言おうとして止めたり、挙動不審になっている。

 背中に乗せてくれているモフモフちゃんが振り向いて、まどろっこしいんだよと言うように「バフォッ」と鳴いた。全部聞こえてるらしい。


「うるさい、タロ。……あのね、ミオ。ぼ、僕の事は、クリストファー王子って言うと長いから、それに、ちょっと他人行儀だからって言うか、えっと、あの……く、…」

「く?」

「クリスって、呼んで……」

 

 王子は、顔を真っ赤にして横を向いてしまった。

 ええー。王子、か、可愛い。じゃなくて、そんな真っ赤になられると、かえって言いにくいっていうか、こっちまで顔が熱くなってきてしまう。


「え、えっと、……ク、クリス?」

「!!!」

 顔を片手で押さえて、はああ〜っと横に倒れこんで何かを耐えている王子は、しばらく悶絶した後、今度は少し持ち直して座り直し、さっきの体勢に戻る。そして、深呼吸している。何故。

 さっきと同じ様に背中を暖めてくれながら、後ろからささやく。


「ミオの事は、僕だけは、……ミィって呼んでいい?」

「は、は、は、はいい?い、いいです。何でも何とでもっ。ミィでもミィさんでもミィ蔵でもミィ太郎でもっ」


 もう私は何を言ってるんだろう。恥ずかしい。キャパオーバーだ。覚悟を決めて出てきたのにもうすでに骨抜きだ。いいんだろうかこんな話してて。もう真っ赤になっている自覚がある。


「えと………………ミィ?」

「!!!」


 も、もう耐えられません。顔を両手で押さえて横に倒れると、王子がギュッと後ろから抱きしめる。

 もう、息も絶え絶えです。着く前から命の危機です。


 突然、モフモフちゃんがバフフォー!と鳴くと、背中をブルブルと振り回して、器用に王子だけを振り落とした。王子は大して抵抗もせず、ニコニコしながら空中に放り出され、そのままクルクルっと回ると翼の生えた猫に姿を変え、嬉しくてしょうがないというようにモフモフちゃんの周りをすごいスピードで周ると、


「ミィ!僕が、絶対守る!」

 と叫び、やったあーとか言って跳ねるように駆けて先頭の方へ行ってしまった。

 王子、可愛い。クリス。クリス。ちゃんと呼べるかな。恥ずかしい。


 モフモフちゃんは、様子を伺うように振り向いてバフ?と小さく鳴いたが、私は

「いいの。ありがとう。」

 と背中を撫ぜた。安心したように前を向くモフモフちゃんは、さっき王子がタロと呼んでいたので、そういう名前らしいが、もうモフモフちゃんとしか思えない。このままいこうと思う。


 モフモフちゃんの周りには、細かい光を振りまきながら、フワフワと舞う妖精達が付いてくる。後ろからは、ジーヤさん達が来ているはずだ。ジーヤさんは屋上で、クルリと火の鳥に変身して、皆の度肝を抜いた。何食わぬ顔で(鳥の顔だけど)飛べない方はお乗せしますよと言うと、ユーノが真っ先に飛びついて行った。熱くないように調節しているそうだ。多分ジルも一緒だろう。


 私の方が先に飛び立ってしまったので、ばあちゃんさんとムサシさんがどうしたのか見ていない。

 あの時、ウエノ先生が心配そうに気をつけてと言ってくれ、屋上にいる皆や、別校舎の窓から顔を出している皆が、モフモフちゃんに乗っている私に向かって手を振ってくれた。


『ミオちゃーん!頑張ってー!』

『いざとなったら飛び膝蹴りよー!』

『まだ嫁にはやらーーん!』 


 皆の声援が嬉しかった。無事に戻って来られると信じている。


 モフモフちゃんと飛んでいると、後ろから中々のスピードで近づいてきた物があった。

「おう、来たぜ。」

「ふぉっふぉっふぉっ、良き良き。」


 ムサシさんとばあちゃんさんだった。


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