学園(ミオ)5
背中に吹雪を背負っていた王子は、ふと、私と目が合うと、少し困ったように微笑んだ。
さっきまで吹き荒んでいた吹雪が、ちらちらと小降りになる。
少し急ぎ足で近づいてきた王子は、ぽふ、と私を抱きしめた。その途端、吹雪がおさまり、そして少し控えめに、小さな花びらが舞う。
「大丈夫?ミオ。」
「う、うん。」
優しい腕に囲まれて、安心する。でもやっぱりドキドキして顔が熱くなる。
でもそれからすぐ、王子は氷点下の表情でジルに話があるとかで何処かに行ってしまった。
教室に戻ると、ユーノが、
「ウヒヒ美味しい…。」
とかブツブツいいながら、何か書いていた。謎だ。
何だか気持ちが色々な方面に振り切れたせいで、どっと疲れた。ジルは何であんな顔をしてたんだろう。まあ、心配だったんだろうな。また辛い結末を迎えるだろう馬鹿なご近所さんの事が。
「ミオさん。」
優しく声をかけられて振り返る。
「サユリさん。」
あ、ちょっと心臓が痛い。なんでこんなに可憐で可愛いんだろう。
サユリさんはまだこちらの教室にいたが、もうムサシさんの耳は解放されていた。ムサシさんはブツブツいいながらも珍しく近くにいて、消えなかった。
「何も、心配する事はないのよ。ミオさん。そんな事は気にせず、来たるべき時に備えればいいのよ。」
来たるべき時ってなんですか。そして私の気持ち、読まれているのでしょうか。
「だって丸わかりじゃからの。」
―じゃからの
時々サユリさんは不思議な言い回しをする。
ふふっと愛くるしく微笑んで、少し首を傾げると、小さい声で、
「おぬしも罪よのう。」
ええっ?サユリさん。…あなたは誰?悪代官?
ガッシャーーーーン!!!!バリバリバリ!!!
突然の大音響にビックリする。何かが倒れたか壊れたか、教室にいた友達も一瞬キョトンとしている。
さっき、王子とジルが行った方。何か事故でも起きたのかと焦って音のした方に駆け出す。
奥の空き教室に、王子とジルは睨み合っていた。
窓が割れて、飛び散っている。
二人共、倒れこんだまま上半身を起こして、肩で息をしている。王子の頬には殴られたような跡が、ジルは左右の腕にガラスがかすった様なキズがあり、血が滲んでいた。
「王子!ジル!」
駆け寄ろうとするが、
誰かに腕を掴まれる。ユーノだ。
「ガラスが危ないから。」
スッと、王子とジルの間に入った人がいた。ジーヤさんだ。
「さて、この辺りにしておきませんか。」
と、どうって事ないかの様に冷静に微笑む。
ジーヤさんの声にハッと我に返ったのか、王子も、ジルもちょっと困った様な、慌てた様な顔になった。
ジーヤさんさすが。素敵。でももっと早く止めて。
「じゃあ、片付けは私が手伝うね。」
と、悪戯っぽく笑うアカリナさんが、一歩前に出てくると、撫でるように空に手を滑らした。すると、フワッとガラスが空中に浮き上がり、一旦停止した後、吸い込まれる様に窓枠に集まっていき、ピシーン!と一度光ると、もう何もなかったようにつるっとしたガラスが窓枠に収まっていた。
ひゅーとかハァーとか小さい声がして、息を止めていたみんな―の呼吸が戻ってきた。それから、割れんばかりの拍手。
「あら、あらあら。」
と、アカリナさんは嬉しそうに拍手に応えて手を振っている。
ジーヤさんがそれを見届けてから、また王子に向き直る。
「王子、怒ったらガラス割れちゃったんですねえ。子どもの時以来ですねえ。でも、大怪我にならないように、保護魔法で人を守って、素晴らしいです。」
と、ニコニコしている。
攻撃されたと思っていたのに、守られていたと知ってジルが目を見開く。
「でも、何で腕だけ保護が効かなかったんでしょう。」
「それはっ…。ジルの腕は、…ミオを囲ったから、…許せなくて無意識に…。」
「保護が薄くなったと。」
「…はい。」
「ジーヤは、王子が好きですよ。こんな時、どうすればいいのか分かっていますね?」
王子は、ぎゅっと一度目を閉じると、ジルに向かって手を差し伸べた。
「すまなかった、ジル。」
「え、い、いや、いいぜ。」
王子は、ジルを立たせると、腕のキズに手の平をかざす。血の滲んだ腕の怪我の部分が光り、怪我が消えていく。
そして、ギャラリーから再びのため息と割れんばかりの拍手。
王子は、ちょっと困ったように、苦笑いをしている。
ジルは、ツルツルになった腕を不思議そうに見て、それから王子の頬を見た。
「あー、いや、頬、ごめん。」
「ああ、お互いさまだ。」
顔を見合って、フッと笑う二人。漢同士。ああ心配して損した。男子はほんと分からん。ジルは結局いつもの事だった。なんと王子まで。
その後、王子の頬はジーヤさんがスルッと撫でて治してしまった。早技。
「じゃ、何も壊れていない、怪我もない、喧嘩している生徒ももういない。何もなかったって事でいいでしょうか。」
ジーヤさんが綺麗にまとめる。
廊下から教室に入ってこようとして立ち止まっていたウエノ先生が、ブンブンと頭を縦に振って頷いていた。
ジーヤさん。ファンクラブ増員決定。
ユーノが隣で呟いている。
「ジーヤさん。シブイ。カッコイイ。老成。魔王でもついていく。」
ユーノが末期だ。




