君と私の事(ミオ)1
夕食が終わり、自分の部屋に戻って来たミオは、窓を何かがカリカリと引っ掻く用な音に気がついた。
何だろう。虫だろうかとカーテンを開けて見るが何も見当たらない。
気のせいかと思い、また閉めようとして思いとどまる。
今日は流星が多く観測されるはずだと担任のウエノ先生が言っていたのを思い出したのだ。少しの間眺めていたら星が流れるかもしれない。そう思ってミオはカギを開け、窓を開け放つ。
空には銀色の月が出ていて、ほのかな明るさを放っている。流れ星は見えるだろうか。
ミオはふうとため息をつきながら空を見上げた。
今日も、賑やかな一日だった。ちょっととんでもなかった。朝から度肝を抜かれてしまった。
―――今朝は少し寝坊してしまって、早くに玄関先まで来てたユーノには2階から声をかけて先に登校してもらった。
大急ぎで支度を終わらせるが、タイムリミットも近い。ここから学園までノンストップでダッシュしないと間に合わない。記録更新にチャレンジか?と慌てながら玄関を飛び出る。ああこんな時、空を飛んで学校まで行きたい。
それなのに、走り出す気満々だった私は、びっくりして立ち止まってしまった。
『ミオ、おはよう。迎えに来たよ。乗って!』
玄関前には、白馬に乗って、輝くような笑顔を浮かべたクリストファー王子がいて、ミオに手を差し伸べて来た。グレーの髪が朝の光に透けて輝いている。緑の目にはいたずらっぽさが浮かんでいるのに、表情はちょっとはにかんで、恥ずかしそうでもある。
『お、お、おはよう…!?』
『時間がないから、すぐ乗って!』
『ど、どうやって?』
すると、すっと現れた長身の男子が、
『俺が手伝うぜ。ほら。』
と、ヒョイと持ち上げてくれる。王子は私の手を引き、私を前に乗せてくれた。
王子は手伝ってくれた男子に
『ありがとう、ムサシ』
と言うと、学園まで颯爽と駆けた。
家の家族もご近所さんも、目を丸くして見送ってくれた。めっちゃ目立ってます。後で何で説明したらいいの。
学園は、余裕で間に合った。門の中まで馬で入ったので、先生方も目を丸くしていたけれど何も言われなかった。
基本、通学は徒歩なのだ。う、馬で来る人なんていないのだ。
馬から降りると、ムサシさんが現れて馬を引いて行ってくれた。え?馬で来たのになぜムサシさんがもういるの?馬より早く走った?そんな無茶な。しかも息も切れていない。
びっくりしてムサシさんを目で追った視線を遮るように、すこし拗ねたような笑顔で私の前に王子が立った。
『間に合って、良かったね』
『あ、ありがとうございました!』
『ムサシが…気になるの?』
『えええ?…どうやって来たのか驚いただけですよ?』
『そう…っか。うん。ならいいんだ。』
何か、王子がちょっと動揺している。それからあああーっと言って顔を押さえて向こうを向いてしまった。
どこか茂みの陰から『尊い…』とか聞こえてきたような気がするがそれどころじゃない。
しまった。親切にしてもらったのに、ムサシさんに気を取られた上恥ずかしさを誤魔化し切れなくて王子を落ち込ませてしまったかもしれない。あせって王子の前に回り込む。
お礼は、ちゃんと、目を見て、心を込めて言う。
背の高い王子の視界に入るように、少し背伸びをして目を合わせる。横を向いてちょっと泳いでいた緑の綺麗な目がこちらを向く。
『本当にありがとう。う、嬉しかった、よ。』
緑の目がびっくりしたように見開かれ、それから優しげに嬉しそうに細められる。少し眩しそうなその表情がキラキラと私にも眩しくて、急に恥ずかしくなってくる。
『良かった。ミオ。ミオがすごく可愛い』
『!!!!』
キャー!!! と、周りから大音量が聴こえて来る。みんないつから見てたの。女子は身悶え、男子はよく頑張ったみたいに握りこぶしを作っている。ユーノはうんうんと頷いていた。
これだけの事なのに、息が止まりそうだった。頬が熱い。王子の頬も、赤かった。
その後、朝のホームルームで、ムサシさんが新しい転入生だと知った。
今日の転入生はもう2人いて、アカリナさんという赤毛の元気な女の子と、ジーヤさんという優しそうな男子だった。
ーーー今日の出来事を思いおこしながら星を眺める。
「それにしても、遅刻のピンチに駆けつける白馬の王子様なんて」
ふふっと笑う。
その時。
―――星が、流れた。銀色の月の近くから。
ハッとして、目を凝らして見る。
バチバチと弾けるような白い長い尾を引いて、山の近くまで流れていく。
「わぁーー!すごい!」
ウエノ先生に明日報告しよう!と思う。火球、というやつだろうか。たまにすごく大きな流れ星をそういうらしい。
少し冷えてきて、身震いする。そろそろ窓を閉めようかと腕を動かすと、ふわりと柔らかい物がまとわりついてきた。
「ニャーン」
グレーの、フワフワした毛並み。緑の目。屋根を伝って来たのだろうか。
可愛い。可愛い子猫!
思わず抱き上げ、撫で撫でとモフモフを堪能する。柔らかくて、暖かい。うう。可愛すぎる。たまらず、ぎゅーと抱きしめる。ごめん。愛が溢れてしまうのよ。
大抵、あんまりぎゅーぎゅーすると、猫は嫌がって逃げ出してしまうんだけど。この猫は嫌がらない。
あれ?最近もこんな事あったっけ?
…なんだかドキドキしてきた。




