秋
不思議なこと?
異常気象?
ぜんぶぜーんぶ、
"かれら"のせいに、"あれら"のせいにしてしまいましょう?
何故かって?
いやはや、だってその方が面白いじゃぁないですか!!
さてさて…今回はなんだったっけかなー…
あっ…そうそう。これこれ!
染井吉野が散り、豪華な八重桜が満開になった頃ーー
なんの前触れもなく、日本の全てが薄氷に覆われた。
交通網が麻痺し、かろうじて動く社会の中、
研究者は原因を突き止めようとあらゆる手段を使い、
オカルト界はなにかの怪奇現象だと新たな都市伝説を模索し、
宗教家は神の怒りだと祈りを捧げ、黙示録を読み返した。
全ての人が原因の究明と春の再来を待つなか、世界の裏の裏、湖の底の澱に接する者だけがその理由を感じていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
チリンチリン…
寒さを煽る涼しい音を立て、小洒落た扉を開けると、綺麗に展示された暖かい雑貨屋に入る。
「おやあ?久方ぶりのご来店ですねぇ?楓様、いらっしゃいませ!」
店の奥に設置されたカウンターから店主が顔を出す。
癖なのかわざとなのか、キレイに整えたヒゲをピンと弾いてニコニコと笑う。
「本日は何をご所望で?」
ーー胡散臭い
万人にそう思わせる笑顔はむしろ才能だろう。
私は店の中を一瞥すると、店主の背後の扉へ向かう。
男は慣れた手付きで扉を開き、私を招き入れる。
息を吐いて気を引き絞め、扉の中へ足を入れる。
瞬間、ビリッとした重い空気に全身が逆撫でされる。
ここにあるのは全て本物だ。表にある偽物とは違う。
『アーティファクト専門店・魅惑のヒゲ』
ふざけた名前だが、品揃えが優秀であることは間違いない。
これでも世界中に店舗があり、信頼の置ける男なのだ。
「ごゆっくりどーぞ(ハート)」
そういうと男は私の背後で扉を閉め、表へ戻って行った。
目的の物は特にないが、息も凍る外を歩いてきたのだ、品を見るついでに温まって行こう。
外観より広すぎる店の中で、それぞれが異様で独特な空気を放つ"商品"を眺めながら歩く。
こういった"本物"のアイテムの中には外の異常気象に似た現象を引き起こす物もある。が、沖縄を除いた日本全国が氷漬けだ。
この規模で事象を起こすなら、原因は一つしか思い当たらない。
天狗の血を引く我が高垣家に代々継承される山荷葉の打掛け。
本来、跡目争いを嫌い旅に出た温厚な兄が持っているはずだ。
しかし、賢い兄が使い方を間違えるとはとても思えない…
ーーそうなると…美しく力の籠った打掛け。悪用を狙う輩に奪われたのかも…
ふと、陳列された一振りの短刀が目に入る。
恐らく桐の木で作られたであろうシンプルな鞘、
ぐにゃりと奇妙な形をしたツカに白い木目が波打っている。
持つと不思議と手によく馴染み、すらりと引き抜くと白く輝く透き通った刀身が現れた。
一目で業物だと理解する。
「良いものを見つけましたな?もちろんここには良いものしかありませんが。」
店主が扉をくぐり、こちらへ歩みながら自慢気に話す。
「不思議な刀でしょう?
ある宝石職人が作った刀でして…
ツカはかのガウディ作品よりも持ちやすく、
この世ならざる鉱石で作られた刀身は傷も汚れも受け付けません。」
そういってヒゲを弾く。
「本当に一介の宝石職人がこれを…?」と呟き、
陳列場所の商品プレートで刀の情報を確認する。
【一ノ宮紅 無銘】
「お気に召したなら差し上げましょう。」
「私、寒いのが苦手でして…」
店主はそういってニヤリと笑う。
「この寒さ、なんとかしてくださるんでしょ?」
ーー刀より、この店主の方が得体がしれないな…
服の下に短刀をしまい、なるべく丁寧に礼を言う。
「まいどありー(ハート)」
声を背に表の店を通りすぎ、道に出る。
白い息を吐いて振り返れば、そこに店などない。
ただの空き地だ。
「お前こそ一介の店主ではないな。うん。」
緩んだマフラーを巻き直し、氷に覆われた道を踏みしめる。
ーー兄になにかあったのなら…私が助けねば。
いやー。
彼の作品はいつも美しい。
手に入れるのは困難極まりないんですがねぇ…
まぁ、いつもご利用頂いてるということで。
まぁーあ、それにしても寒い寒い…