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CHENGE LIFE   作者: 北野 小雪
1/1

0,プロローグ

天使。

悪魔と何ら変わり無い、人に好かれた存在。

明るく綺麗な純白の羽に神々しいまでの後輪、

純粋たる至極の笑顔。神の右腕となりし、何をどう盗ろうにも完璧を極めし存在。

しかし、全てがその美しい姿だと思っていると時に苦しめられることもある。

美しい存在であることに疑問を抱き、その意識さえ捨ててしまう人間で言うところの不良に陥ってしまう者も多く。

死者を神の元へ導かずに大空から力を乱用し、息絶え絶えそうな生き物の死を早め、気にくわない者には無感情の苦しみを味あわせる。これを人間は天使のイタズラ、悪魔の遊びと一様に称しているらしい。


天使のイタズラ.....。まぁ、あながち間違いではない。

ただ、語弊がある。「天使と悪魔」この言葉だ。

「堕天使の事を下界の全生態たちは知らないんだな。塵め」

私たちは堕天使だ、天使でも悪魔?とかいう奴等でもない。

生き方を少し逸らしただけの奴等だ。

その行いを私たちは「堕天使の仕事」だと一様に称しておこう。

その仕事は自由で愉しく、楽だ。だからこそ辞められない。

天使の時のように同じ作業を繰り返しさせられるわけでも、時間に縛られる事も無く、良い子ぶる必要も無い。

しかし、その中でも神に必要だとされる時もある。勿論、堕天使として。

最良の子供たちの死があるときだ。

そこに堕天使が行き、嫌がる天使共の変わりに魂を回収しに行く。

「....正直....辛い....」

しかし、それを私たちがやらなかったら恐らく、その子供は地底へ吸い込まれ、死して尚も苦しみに犯される。まったく、どちらの方が堕天使(愚か者)か分かったものではない。大方、一度神を裏切った心無き()()()ならば、何も感じないで回収出来るとでも思ったのだろうね。

まぁ、自由にはそれなりの苦しみがある。皆、覚悟していた。

「ルシファー!大変だよ!大変!」

赤い縁の眼鏡を掛けたを持つ少女が勢い任せに黒い羽を広げ、突っ込んで来るのが見えた。

「グザファン?どうした?」

「落ち着いてる場合じゃないって!大変なんだよ!」

慌ただしく手をばたばたとさせ、少女は息を整えた。

「ミカエル様がね!ルシファーに会いたいって、天界を物凄い勢いで飛び回ってるらしいんだよぉ!」

私はその言葉によって、少し身震いをさせられた。

七大天使の一人、ミカエル様。七大天使のリーダー的存在で神に最も近しい存在の方だ。

「また、反逆でもやっちゃったの?そしたら今度こそは天界を...」

「私はそんなこと、もう二度としない!」

ピタリとグザファンの言葉は止まり、じゃあ何故と問わんばかりの視線を私へ向ける。言葉はもう出てこない。いや、諦めと言うべきか。私たちは今度こそ抹消される。天界を追放されて尚も今、天界に来ている性か......。

「待って....。私たち堕天使は天界への出入許可があの一件以来、許されてるはずだ」

確かにと頷き、グザファンはもっと深く考え込んだ。数秒の間の後、もしかしたらと口を開く。

「頼みごとかなぁ?」

冗談混じりにグザファンの口から放たれたその言葉が響く間も無く、後ろから突風が音無く吹く。

「もし、その()()()だとしたら貴女方はうむと頷いて頂けますか?」

高貴ある美しい輝きを放つ者が私たちへとハープのような音色()でそう尋ねて来る。うざったくて、甘ったるくて、口からヘドどころか全てが出てきそうだ。

「勿論、お前個人の願いならば聞かぬだろうな」

その返事にフフと微笑を浮かべて、ではと繋げる。

()()と言う言葉は貴女のお耳にお入りになられますか?」

嫌みったらしいその言葉は私たちの心臓に止めでも指したいのだろうか。痛々しいまでに体に証印刻み付けられた。

「....っ!」

首に焼き付けられたような紋章。これが私たちの世界の絶対王の天命の印。グザファンの事が心配になり、さっとグザファンの首元を確認する。

「ルシファー....嘘でしょ?何で....ルシファーだけなの?」

目には溢れ零れる大粒の涙が浮かんでいた。しかし、証印は無く安心した。となると、私だけを指名していることから考えると少なからずは天罰ではないか。天命を使ってまで私を神の元へ連れていくのは一体何故なんだ....?

「取り合えず、御同行お頼みしますよ?」

「...」

同行しなきゃ、存在抹消....それで済めば良いが。ここは大人しく、言うことを聞いた方が良さそうだ。

「その前にちょっとだけで良いから時間の御容赦を願いたいのだが」

ニッコリとしかし何処か無機質な声でええ、勿論良いですよと応えるミカエル。

その時に泣いているグザファンの耳元へ行きこそこそと要件を伝える。それに大きく頷き涙を拭った後、もうスピードで街に消えていった。

「要件は御済みですか?」

「あぁ、済んだよ。じゃあ、行こうか?」

そう言うと翼をばっと広げ直し大きく一羽ばたきをすると、街に二つの突風が音無く通る。言うまでもなくそのようなスピードで飛び回れば、天界で名高い天使と堕天使二人が街中の支店へ多大なる迷惑をかける事に直結する。

まものく、神殿へ着く。雲の上で一番高い建造物。私には無駄にでかい建造物にしか思えない。誰がどう言おうとバカでかい塔。こんなにでかくしたところで一体何になるというのか。神獣でも召還する気か?だとしてもでかすぎる。

「何をそんなにムスッとしているのです?」

「こんな高い塔を、わざわざ私が上に向かって飛んでいる事に疑問を抱いているだけだ」

「時期に分かりますよ」

ニッコリとまた嫌みな笑顔で私を見もせずに言う。

数分後、神交室に着く。

「流石に空気が薄い....」

「おや?ルシファーたる御方がここに来て息苦しいとは....。ふふ....皮肉ですね?」

流石にキレて良いかどうかを確認したくなった。

何百年前にここに使えてたが、反逆を犯し追放されて以来、ここには来たことがなかった。否、来たくもなかった。

「つい最近のことのように思い出しますね....」

「私は思い出したくない」

ここの全員を殺そうと企んだこと....。それに失敗し、堕天使(反逆者)と歌われるようになったのも....。

私は全て忘れたい。

そこに轟く天使のラッパとハープの音。そして、神の現れを示す声と共に私の心はぎゅっと締め付けられた。

「大空神アイテール様が参られた!我々の絶対神様に忠誠を示せ!」

一同が一斉に膝間付き、声をあげる。

我等が主に忠誠を!(ピスティス)

私はとうに忠誠を誓う義理は無くなっている為に棒立ちだ。

死んでも膝間付くことはもう無いだろう。

「面を上げ、楽にしろ」

重々しい声は神殿の壁に反響する。

アイテール様は私を見るなり、孫を見るような目付きで優しく。

おお、良く来てくれたと言ってきた。

「何故私を天命まで使って呼び寄せた」

昔話は絶対させない。私は食いぎみに体をのりだし、理由を早急に提示するようにと言った。

その一言につれないなぁと愚痴を溢し、話し始める。

「それはさておき御主に....いや、ルシファー殿に頼みたいことがあるのだ」

「裏切り者の私に何を願うと?」

じとっとした視線をわざとらしくアイテールへ送る。今となっては信用置けない奴だと認識しているだろう。なのに何故名前まで呼んでいるのか?アイテールは何を企んでいるんだ?

私は今までに無い程の嫌な予感に襲われた。反逆時以上の恐怖とは無いと思っていたが....あったか....。

「御主に是非力の習得の儀式をして貰いたい」

「は?......えっは?....?」

ニタニタと愉快そうなアイテールとは打って変わって苦笑いすら浮かべられず困っている私、そして、その周りを囲うように立っている衛兵と七大天使のリーダーミカエルたちの唖然とした表情が静かな空間に豊かさを演出する。

「力の習得って一旦、力がリセットされて解放条件を突破出来ないと永遠的に天界へ戻ってこられないやつか⁉」

「そうだ、それだ!」

「アイテール様!それはまた急過ぎます!我々、七大天使等も何も知らされていないではないですか⁉」

ミカエルは取り乱したようにわたわたと話す。

「ふむ、今伝えた。準備を宜しく頼む」

いつもの笑顔で御意と応えると後輪が激しく光り、その光りと共にミカエルは消えた。

「さぁ!今宵に出発だ!分かったなルシファー?」

「ちょっ!ふざけ....っ⁉」

反論をしようとすることはつまり、天命への反逆行為。

首元の証印が黒い小さな光を放つと同時、首に激しい痛みを覚えそのまま膝間付くように崩れる。しかし、何故⁉ここに来るまでが天命の効力ではないのか⁉

顔にどす黒い影を落とし、アイテールはフフフと嗤う。

「天命....。ミカエルはここに来るまでだと言っていたのか?」

「....っ」

確かに言っていない。しかし、天命の効力はそう長くは持たないはずだ。その時にアイテールは掌でサイコロのようなものを弄んでいるのが見えた。

「それは....奴隷執行の昔に作られた奴隷のサイコロ(スクラヴォスキューブ)....お前は本当に嫌いだ....」

神のみぞ持つことが許される、究極の奥義。これはどんな神でも一生に一度しか使えることのできないものだ。完全にこの天界から追放させられるわけか。

「このキューブを全ての力をもう一度習得して、この天界へ帰ってこれたら破壊してやろう。しかし出来なかったときは御主にここから完全に立ち去ってもらおうか?仲間共々な」

成る程、私だけだったのは大掛かりな手を使う為だったって訳か。そして、運命と言うプレッシャーで押し潰そうってことか....嗤わしてくれる。

「残りの堕落者共にはお前の天命証印が万一外れたときの為の予備策だと言っておこう」

「何がなんでもやれと言うことか....分かった」

くそ!この天命さえなければ....くそっ!口に出せない敗北感、まさにあの時のようだ。白い私たちが黒く塗られたあの日。反逆に失敗し、私の関係者が次々に黒く塗られ、天界から追放された。

息が詰まりそうだ......。

私はそんな敗北感とプレッシャーを背負い、グザファンの元へ向かった。

「お帰り!頼まれてた品、出来たよぉ!」

飛んでいた私に向かって、嬉しそうに庭から通信機をブンブンと振っていた。

庭に降り立ち、私は第一声を上げることが出来なかった。

「....」

様子がおかしいことに気づき、わたわたとしているグザファン。

その様子を家の中から見ていた堕天使たちが庭に集まって来た。

「お帰りです!何か元気ないです....。どうしたです?」

狼の使い魔を優しく撫でながらこちらを心配そうに見つめるべリアル。

「そんなに怖い顔してるところを見ると、ただ事じゃなさそうですね」

冷静に判断し、淡々と言うカスピエル。

「良くわかりませんが、嫌なことがあったら相談にでものりますよ?ルシファー?」

優しく語りかけるように問うシェムハザ。

「ほら、私の様に笑いなさい」

見下すように慰めるアザゼル。

「ルシファーを心配して集まった訳じゃないから....」

小さな声で否定的に心配してイブリースは言う。

「いつまでも黙ってないの‼そう言うのだいっきらい!」

ベルゼブブは少しキレ気味に言う。

私は仲間全員の心配している声を聞き、漸く口を開くことが出来た。

「習得の儀式を、私は下界にて行わなければならない....」

一同が水を打つように静かになった。

後に嘘だと皆が思い思いに口走っていたので、長いカラスの濡れ羽色の髪をさっと捲り上げる。一同はまたも沈黙した。

事情を話し終える頃にはベルゼブブは口から炎を吐き、狼のように吠え、べリアルがその炎を纏い、鎌を掲げていた。

それに制止をかけるシェムハザが少し気の毒に見えた。

「その儀式は私たちへの当て付けと言うわけですね?」

カスピエルは淡々と私に問うて来たが、声に怒りの色が伺えた。

そうなるなとしか言えない。私に任しておけと言いたいが、追放されて以来、自信が無くなっているからだ。

「その儀式を成功させなさい!私の仲間でしょ!」

アザゼルが私へ向かい強くが言う。確かにそうだ。成功させろ。それだけだ、私が自信を無くしていれば仲間も不安になる。何故だろう?反逆の仲間たちに言われるとやはり勇気が湧く。私は大きく息をつき、高笑いをした。

「あぁ!そうだな!成功させて皆のところへ戻ってくる!必ずな!」

高らかと声を上げて放った私の言葉は大空神に届いただろうか?そんなのは関係無いがな!

「流石だよ!ルシファー!それでこそ私の好きなルシファーだよぉ!」

嬉しそうにグザファンがぴょんぴょんと私に跳び着く。

そして、皆が顔を見合わせ次々に私へ跳び着いてきた。この瞬間に私はしっかりとした目的を持つことが出来た。

「となると、今日はお祝いですね。私、頑張って御馳走を作ります!」

カスピエルは嬉しそうに微笑み、ガッツポーズをした。

私も手伝うよぉ!とグザファンもガッツポーズをとる。

「じゃあ、僕はこの子と一緒に飾り付けするです!」

狼の使い魔と手を合わせてニッコリと笑うべリアル。

私も....飾り付けしてやる....とセロハンテープをビーと伸ばして張り切るイブリース。

「じゃあ、|私は買い出しに行きます!」

籠のバックを片手にメモ用紙を持つシェムハザと仕方ないわねぇ。私も行くわ!とベルゼブブ。

(わたくし)は貴女みたいな低脳が儀式に向かう準備を手伝って上げるから、感謝しなさい?」

いつもながらに偉そうに言うアザゼル。

「ありがとう!皆!」

こうして夜を迎え、私はアイテールがいる神殿へと向かった。

瞬間移動を使おうか迷ったが、体力消費が激しいのでその能力は使わず、翼だけで移動した。

神交室に着くと既に七大天使等が陣を形成し、アイテールが呪文を唱え始めていた。この呪文の性か羽の抜けかたが異常だ。

「どうした?陣に入るのが怖いか?」

ミカエルが得意の嫌みを飛ばしてきた。怖いかどうかではなく、準備がいいか聞けと言いたくなった。

少しずつ陣に足を踏み入れる。天命の強力化。

この陣ではそれが行われ、呪文で力を封じられる。移動力、魂と話し浄化・癒しの力、守攻力。一つ一つ消えていくのが分かった。

呪文が終盤になると何故か気分が良くなる。味わったことの無いような気持ちなのに、息が切れるようになる。体の内側からとても熱い何かが込み上げてくる。

「ねぇ....これなに....?」

「守攻力が先に失われたことで身体への何らかの異変だろう?死にはしない」

ミカエルは珍しく目を見て応えずに後ろを見据えていた。

気遣いだろうか?または私のこんな姿を見ることを拒んでいるのか?どちらにせよ....意外と優しい....。

「この者へ天命の元、力の習得儀式を下界にて行いたまえ!」

アイテールの声が響くと真っ白な光りに体が包まれ始めた。

そこからの記憶は何もない。

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