お仕事タヌ子 がんばっております
仕事途中だったが、家に忘れ物をしてしまったので取りに帰ることになった。
今日はタヌ子は仕事があると言っていたので家にいるはずだ。
「ただいまー。タヌ子―、忘れ物しちゃったー。」
部屋に入ると、中はカーテンが閉められて暗かった。テーブルの上にはロウソクが灯っていた。そして奥にゆらゆらクルクルと動く人影が見える。
目を凝らしてみると、タヌ子が不思議な踊りをしていた。
「タ、タヌ子ちゃん?」
タヌ子は踊りながらクルっと振り向いて、指を口の前にたてて「シッ!」っと言った。そして踊り続けた。
なんか面白そうだったので、俺はソファにそっと座り、タヌ子の行動を観察することにした。一通り舞い終わると、タヌ子は頭から大きな布を被り、その上から頭にペンダントのような物を被った。
そして白目をを剥いて天を見上げたかと思ったら、
「フアァァァァァーーーーーーーー!」
と、叫んだ。俺も
「ウワアァァァァァーーーーーー!」
と、驚いて思わず悲鳴を上げてしまったが、口を押えて静かにした。
タヌ子はケータイを床に置き、その上で手をぐるぐる回し始めてまた、
「フアァァァァァーーーーーー!」
と、言った。
すると、電話がかかってきた!
「はい、もしもしぃー、アンドロメダリー・タマラですぅ~。本日のご相談は何だったりしますかぁ~?」
アンドロメダリーって!
しかもその話し方、JKかっ?
タヌ子の行動はふざけてるとしか見えなかったが、電話相談の受け答えはなかなかしっかりしていて、相談者も満足しているようだった。
「あぁぁぁぁぁーーーー。」
電話相談が終わり、タヌ子は疲れきった様子で、訳のわからない鳴声をあげていた。
「大丈夫?タヌ子?」
タヌ子は、ゼーハー言っていたが、冷たいお茶を飲んで少し気分もマシになったようだ。
「けっこうなエナジーヴァンパイアだったわ。」
タヌ子は眉間に皴を寄せて言った。
「エナジーヴァンパイア?」
タヌ子は、知らないの?って顔で、グビグビお茶を飲みながら横目で俺を見た。
「エナジーヴァンパイアってのはね、人のエネルギーを吸い取る恐ろしいモンスターだよ。そういう時はエネルギー使うから、私だけの儀式がいるんだよね。ラグビーの試合の前に踊るハカのような物だね、私にとって。普段は衣装まで付けないんだけど、今日は完全武装した。それでもかなりエネルギー吸い取られちゃった。ヒロキー疲れたよ~。」
「えっ!タヌ子、モンスターからお悩み相談受けてたの???」
タヌ子はクルっと振り返り、真剣な顔をして俺を見た。
「相談してきた人はね、普通の人だったんだけど、エナジーヴァンパイアに纏わりつかれて感染しちゃったの。人にうつるんだよ、コレ。」
「怖っ!」
俺はタヌ子にしがみついた。
「ねー、俺憑いてない?憑いてない?」
「大丈夫、憑いてない。」
タヌ子はハードボイルドな感じに言い放った。
「一緒にいるとすごくグッタリしたり、体調悪くなったりする人っていたりしない?そういう人って、エナジーヴァンパイアの場合が多くて、人のエネルギーを吸い取って自分だけ元気になるような人なんだよ。吸い取られた人も、エネルギーを求めてヴァンパイア化することもあるの。」
「……。」
「心当たりあるの?」
「前の彼女、そうだったかも…。」
「お気の毒に…。」
タヌ子は俺の頭をポンポンとした。俺は「うわーん」と、タヌ子のモッフモフなお腹に顔を埋めた。
「大丈夫、大丈夫。」
タヌ子は俺の頭を撫でながらそう言った。
この肉球とポヨンポヨンでフサフサなお腹があれば、どんな物も怖くないような気がしてきた。