タヌ子とデート いや、タヌキの散歩か?
今日は休日。タヌ子は朝から鏡の前で毛づくろいをしている。もとい、ヘアーセットをしているのだそうだ。いつも家事をしてくれたり、仕事を手伝ってくれるお礼に、タヌ子の欲しいものを買いに行こうと誘ったのだ。
「どうかな?」
タヌ子は俺の前に立って、クルックルッと回りながら聞いてくる。毛並みが二割増しフサフサになっているようだ。あまり違いがわからないにしても、こういう時は誉めておくものだ。
「いいね。かわいいじゃん。」
タヌ子はニコニコウキウキでスキップをしている。
繁華街の並木道を歩いている。
ビルのガラスに俺とタヌキが仲良く腕組して歩いている姿が映っている。最近では、この姿も慣れてきた。
「タヌ子、一番欲しい物って、何?」
「金塊。」
即答かよ!。
冗談だと思いつつもタヌ子をチラ見すると、目の奥がギラギラ輝いて、それはそれは悪い笑みを浮かべている。これは冗談ではなく本気だ…。
「ま、金塊は今度にして…なんかもっと普通な物ない?」
「じゃあ、さすまた!あと木刀もほしい。防弾ベスト、盗聴盗撮器探知機、防犯カメラ、…モーニングスター…まではいらないか。」
どこが普通なんだよ!
タヌ子は般若のような形相で、次々に防犯グッズや武器をあげている。防犯グッズマニアか?
「タヌ子君…俺のことからかってる?」
タヌ子はぶんぶん首を振っている。
「じゃ、それは今度買っとくから、今日は普通に洋服とか靴とか見よっか?」
「守りは鉄壁にしてよ! じゃ、お言葉に甘えて洋服見に行く。」
嬉しそうにしてるのでホっとした。
流行のブティックに行って、タヌ子に似合いそうな洋服を探した。
が、さっぱりわからない。タヌキに似合う洋服って何だ?
そもそも、このタヌキの体型で、普通の洋服が入るのか?
しかし、そんな俺の心配をよそに、タヌ子はいろんな洋服を試着している。
入るらしい!
着たところを自慢げに見せてくるが、俺には全く見えない。タヌ子が洋服を着たとたん、透明になったみたいにタヌ子の毛並みと同化している。
店員は、
「わー、モデルみたいですねー!お似合いですー!」
と言っているので、似合っているのだろう。
タヌ子は意見を聞きたそうに大きな目で俺を見ている。
「いいんじゃない。かわいいよ。」
と、言っとくしかない。
「じゃあ、これにしますー!」
タヌ子は嬉しそうだ。よかったよかった。
買い物が終わって、大通りのオープンテラスのカフェでお茶にした。
「ヒロキ、ありがとっ!」
タヌ子はニコニコしてる。嬉しそうだ。
「ヒロキ、何でタヌ子にこんなによくしてくれるの?そんなにタヌ子のこと好き?一度聞いてみたかったんだけど、ヒロキ、タヌ子のどんなとこが好きなの?」
「んー……、そだな…。目がクリクリしてて可愛いよね。それから…毛並みがいい!フッサフサ!撫でてて癒される!」
何だそれは?というようなクリクリの目でじっとこっちを見ている。
「あ!散歩がいらないのがすごくいいよね!忙しい時とか雨とか雪だと、散歩連れていくの大変じゃん!トイレトレーニングもいらないし、ほんとお世話いらないっていうのが、すごいよね!」
「…タヌ子ペットじゃありません…。」
そうだった。タヌキに見えているのは俺だけで、ほんとは美女らしい。
「じょ、冗談だよ。タヌ子は可愛いし性格もいいし、料理も上手いし、一緒にいると癒されるよ。」
「それほどでも~。」
タヌ子は満足したらしく、照れながらパフェを食べ始めた。
最初はいきなり押しかけてきて戸惑ったけど、一緒にいればいるほどタヌ子の良さがわかってくる。安心とか安定とか癒しとか。でもそれってペットってことだよな…。
タヌ子と俺は、恋人同士なのか?
同居人なのか?
飼い主とペットなのか???
「タヌ子は俺のどこがいいの?」
「いやだー!なんか、お互いノロケあってるバカップルみたいじゃーん!」
はぐらかされた…。
しかもタヌ子は口の回りに生クリームをつけたままケラケラ笑ってやがる。
かわいいんだけど、居心地最高なんだけど、俺たちこれからどうなるのだろう…。