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癒しタヌキ  この生活、まんざら悪くないかも

 このところずっと雨続きだ。梅雨だからしょうがない。ドンヨリとした空と同じように、俺の気持ちも沈んでいた。最近ついてない。仕事でのがんばりが空回りしている。しかも今日は最悪だった。完全に先方の勘違いをこっちの間違えにされて、途中まですすんでいる工事を1からやり直しにさせられた。イライラするけど、いつまでも凹んでいたらダメだな。相手がつけいるスキがないようにしていなかった俺も甘かった……って、去年まで付き合っていた彼女によく言われたものだ。


「ヒロキは、詰めが甘いのよ!」

「相手を恨むより、まず自分に非がなかったか反省しなきゃ!」

「自分で選んだ仕事なんだから、がんばんなさいよ!」

「落ち込んでる暇あったらもっと勉強するとか、参考になるもの見て回るとか!自分を追い込まないと上には上がれないよ!」


 サキはとても上昇志向の高い年上の女で、人にも厳しいが、自分には人一倍厳しかった。がんばっている彼女を見ていると、俺もがんばんなきゃなって思えて、いい刺激をもらっていた。彼女に誉められたい、バカにされたくないと思って、ひたすら仕事をがんばった。実際の自分以上に背伸びもしてた。仕事が出来るバリキャリの彼女だったが、とにかくマイペースで些細なことでお互いよく衝突した。別れた理由は未だによくわからないが、何か小さなことが原因でケンカになり、

“さようなら。お元気で。”

と、ラインが来て姿を消した。その後何度か連絡したが返事は無し。3ヶ月を過ぎたあたりから、別れたんだ、と実感するようになった。俺にいつもダメ出しする彼女から捨てられるというトドメのダメ出しをくらって、俺はますます自己評価が低くなってしまった。


「ヒロキ、なんだか元気ないね?なんかあった?」

丸々ポッテリフッサフサのタヌキがソファに座っている俺の前のテーブルに頬杖をついてそう聞いてきた。

俺はそんなタヌ子を見て、そのフサフサのあごの下や頭を無言で撫でた。タヌ子はくすぐったそうにキャッキャッと言っている。撫でるのをやめると、タヌ子は大きな丸い目でじっとこっちを見つめている。

「…俺は、ダメだなぁ。」

ポツリと呟くと、タヌ子は横に座って俺の頭をナデナデし始めた。大きな丸い目が心配そうにこっちを見ている。

普段、あまり弱音を吐かないようにしているのだが、タヌ子の大きな丸い目に見守られながら頭を撫でられていると、溜まっている事を吐き出してしまいたくなった。

「タヌ子―。俺さ、仕事ですっごい嫌なことがあって…。

俺は、堰を切ったように一部始終をタヌ子に話した。


 話を聞いたタヌ子は、怒りの炎で燃え上がるような、まるで不動明王のような顔になり全身の毛を逆立てて叫びだした。

「このクソおやじがぁぁぁぁぁぁーーーーー!顔もクソならやり方もクソやな!おまえなんか人に会うたびゲリになれ!あーゲリや!ゲリやーーー!クソまみれになりやがれーーーーー!」

タヌ子は世にもえげつない言葉で相手を罵りまくっている。

「しばいたろかわれぇ。きさまの鼻毛全部抜いたろか!!!!」

「タ、タヌ子、もういいから。」

怒りでフーフー言ってるタヌ子の逆立った毛を撫でてなだめた。

「タヌ子、よしよし。」

タヌ子はまだフーフー言っている。初めはここまで感情を剥き出しにするタヌ子に面食らったが、タヌ子が言っていること、俺は実はそれ以上に心の中で悪口を言っていた。俺が自分で認めたくなかった本心をタヌ子が代弁してくれて、何故か心が落ち着いてきて、穏やかな気持ちになってきた。それと同時に、逆毛を立てて怒り狂い汚い言葉使いをしているタヌキが、むしょうに愛しくなってきた。

俺はタヌ子のまあるいフサフサのお腹に抱きついて顔を埋めた。タヌ子はあったかい肉球で俺の頭を撫でた。

「タヌ子ありがと。タヌ子が代わりに怒ってくれたから、怒りが治まったよ。」


 サキの言うように、弱音を吐かず、相手を悪く思う前に自分を省みるように努めてきたけど、本当の俺はそんなことが出来るほど大人でもなく立派でもなく、真っ黒い感情を、自分の中に溜め込んでいただけだったんだ。自分に嘘ついて無理して背伸びしてがんばってきただけだったんだ。

あー、なんか、ありのままの小さくてダメな自分でいられるって、楽だなぁ。


「そいつの頭に脱毛クリーム塗ってきてやろうか?」

「つか、ブラジリアン脱毛してやろうか???」

タヌ子は、どうも毛に執着しているようだ。

「じゃ、ついでに胸に育毛クリームを塗ってきてくれる?」

「まかせといてっ!」

タヌ子はギラギラと目を光らせていた。

いかん、まんざら冗談でも無さそうだ。(汗!)



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