お手伝いタヌキ 初めてのおつかい
タヌ子は、占いの仕事があるときは家にいて、仕事の合間に家事をこなしてくれている。家事が得意みたいで、タヌ子が来る前に比べて家の中がすごくキレイになった。料理もバランスのとれた食事を毎日作ってくれる。
「私、家事できますよ的なアピールみたいで逆にあざといって思われるかなって思うんだけど、逆に全く出来ないと思われるのも嫌だし、逆に実際得意な訳だし、ありのままでいる方が逆に自然な気もするよね?」
タヌ子は自分の長所を話す時、「逆に」が多い。自慢するみたいで恥ずかしいのかな?謙虚だな。一生懸命に家事をがんばっているポッテリしたタヌキの姿を想像するだけで、健気でかわいくて顔がホッコリしてしまう。
仕事が暇なときは、俺の事務所にきて、雑用を手伝ってくれている。内田ともいつの間にか仲良くなっている。二人で楽しそうに話しているところを見ると、なぜかイラっとしてしまう。お腹のポッコリと出た、毛がフサフサの信楽焼きのようなタヌキと部下が話しているという、普通だったら異様な光景なんだが。
「タヌ子―!これ郵便局に出しに行ってくれるー?」
タヌ子にお使いを頼んだ。
「タヌ子の本気、見せたるわー!」
タヌ子は目と眉をシャキーンとして、尻尾をピーンとたてて俺から封筒を受け取ると、猛々しく出て行った。郵便物持って行くのにそこまで本気出さなくてもいいんだけど。
「ヒロキさん、なんで彼女さんのこと、タヌ子って呼んでるんですか?」
「ん?だって、タヌキじゃん。タヌキだからタヌ子」
「何でタヌキなのか謎なんスけど、あんなにキレイなのに。失礼じゃないスか?」
「お前の目には、タヌ子はどう見えてるの?」
「どうって、背もスラっとしててスタイル良くて、髪もサラサラで、めちゃ美人。」
「ん、信楽焼きのタヌキみたいにお腹プックリ出てない?」
「…。ヒロキさん、いっぺん眼科行った方がいんじゃないスか?」
「んー。俺も最近そんな気がしてきた。」
タヌ子は事務所を出てから一時間近くたっても帰ってこなかった。ここから郵便局までは、10分もあれば着く。さすがに少し心配になってきたら、やっとタヌ子は帰ってきた。ニコニコしながら、鯛焼きがたくさん入った包みを大事そうに抱えて。
「この辺って、いろいろお店あるんだねー!いい匂いにつられて行ったら、鯛焼き屋さん発見したの!なんか有名店みたいで、人いっぱい並んでたんだけど、がんばって買ってきたよっ!」
鼻息まじりで得意げに言っている。
「白、黒、カスタード、チョコもあるよー。どれがいいー?」
「タヌ子…郵便出してくれた?」
「! ! !」
タヌ子は全身の毛を逆立てて、郵便局に向かってまっしぐらに走っていった。