HR DESIGN OFFICE 俺の仕事場
気持ちを仕事モードに切り替えて事務所のドアを開けた。俺は小さなデザイン事務所をやっている。仕事は主に、スーパーやいろんな店なんかの内装デザインだ。集客アップにつながるようなお客さんの動線などを考えながら、効果的な配置や展示や照明など、店全体をデザインする仕事をしている。小さな事務所なので、従業員も俺の他には一人だけ。二つ年下の内田。初めは一人でやっていたのだが、手が回らなくなって募集をしたら、彼がひょっこり現れた。
その時が初対面のはずなんだが、何故か昔会った事があるような、どこか懐かしい友人にあったようなデジャヴのような、泣きたいような嬉しいような、そんな気持ちになる自分もキモッ!って思ってしまうが、もう訳わかんない気持ちになった。
何故か…。
何故なんだろう…。
うちを志望した動機は、きっと自分の家にすごく近かったから…というのが本音っぽいが、性格も悪くなさそうだし、今までの経歴も持っている技術も断る理由がなかったので採用することにした。ちょっとそっけないところはあるが、仕事は真面目でそつなくこなしてくれている。仕事のパートナーとして、俺たちはうまくいっていると思う。
事務所は、俺の住んでいるマンションから歩いて10分くらいのところにある。駅からすぐの大通り沿いにたっているビルの2階で、通りに面している壁は、一面ガラス張りの窓で明るい。そのガラス張りの隅に大きなウンベラータの木を置いている。前面真っ白な壁からは、ところどころにツタ系の観葉植物を垂らしている。癒しがほしいんだな、俺は。
午前中、二人でパソコンに向かって仕事をしていたが、正午前になって、内田が窓の方を気にし始めて、その後窓の前でしばらく立ったまま、外を見下ろしていた。
「ヒロキさーん。外にめっちゃキレイな人がこっち見て立ってるんスけどー。」
「え、誰?」
「自分、見たことないんスけどー。」
俺は席を立って窓の方へ行き、下の通りを見た。
「……内田―。キレイって、あれ?」
タヌキがこっちを見上げて立っている!
「う、内田、おまえアレが何に見える?」
「え?何に見えるって、めっちゃキレイな人じゃないッスか!」
「タ、タヌキには、見えない…よね?」
「ヒロキさん、ちょっと何言ってるかわかんないッス。」
タヌキは俺を見つけて、めちゃめちゃ嬉しそうに手を振った。かと思いきや、猛ダッシュでビルの入り口の方に走っていった。その直後、事務所のチャイムがけたたましく鳴った!
タヌ子足速っ!つかタヌキに見えてんの、もしかして俺だけ???
ドアを開けると、タヌ子はもじもじと恥ずかしそうな笑顔でフッサフサの大きな尻尾をブンブン振っていた。
「お昼一緒に食べられないかなーっと思って来てみたの。」
タヌ子はウフっと笑っている。
「ヒロキさん、俺あとやっとくんで、ゆっくりランチ行ってきてください。」
内田がニヤニヤしながら言う。
「いつの間にこんなキレイな人と…、俺ちょっと今ジェラってます。」
俺の耳元で内田がささやいた。