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エピローグ

 あれから俺は救急車で病院に運ばれたらしい。何日間か意識不明だったそうだ。男は逮捕された。そしてタヌ子の消息は依然としてわからなかった。あの後、内田とエマが家に帰って、タヌ子が寝ていた部屋に行ってみると、タヌ子はいなかったそうだ。

 退院後、居酒屋ぽんぽこを訪ねた。すでに「大人の隠れ家ワインバー Rifugio・リフージョ」への改装準備が行われていた。中にあった物が次々に運び出され、処分場へと向かうトラックに積み込まれていた。ふと見ると、そのトラックに、信楽焼のタヌキの置物が乗せられてあった!俺は急いでトラックの運転手に言って、タヌキを救出した。

「あんたがもらってくれるなんて、おりゃ嬉しくて泣けてくるぜ!」

大将はそう言って、涙を流して喜んでくれた。

 俺は、信楽焼のタヌキを事務所に連れ帰り、通り沿いの窓辺に目立つように飾った。

信楽焼のタヌキは、あれ以来何も語りかけてこない。それからというもの、出先で信楽焼のタヌキを見つけると、つい買ってしまって、大ダヌキの横に並べるようになってしまった。外から見たら、うちの事務所はタヌキだらけだ。一体、何の事務所なのかもわからない感じだ。

「センス的には微妙…ッスけど、自分は好きですよ。」

内田は苦笑いしてそう言う。

俺は毎日タヌ子を探すが、全然見つからない。内田に俺はタヌ子が本当に信楽焼のタヌキにしか見えなくて、人間の時の姿がわからないと言っているのだが、なかなか信じてもらえなかった。でもなんとか信じてもらい、タヌ子の似顔絵を描いてもらったのだが、コイツはデザイナーにあるまじきヘタクソな似顔絵しか描けない! 他の物はすごく上手く描けるのだが、どうも人物を描く才能は全く無いようだ。内田はアテに出来ない。自分の直感でタヌ子を探すしかない。日がたつと、タヌ子と過ごした時間は、本当は夢だったんじゃないか、という気がしてきた。


タヌ子の笑顔が見たい。

タヌ子のフカフカのお腹に顔をうずめたい。

タヌ子に会いたい。


その時、窓辺で信楽焼のタヌキにハンディモップをかけていた内田が慌てふためいて俺を呼んだ。

「ヒ、ヒロキさん!」

内田は外を指差している。その指は震えて、目にはうっすら涙が浮かんでいた。

「外にめっちゃキレイな人がこっち見て立ってるんスけどー。」

俺は外に飛び出していった。

焦りすぎて階段から転げ落ちそうになった。事務所の前の歩道に出ると、女の人が、俺の事務所の信楽焼のタヌキを見て微笑んでいた。

 マジかよ…!

その姿を見て、俺は腰を抜かしそうになった。まさに俺好みドストライクの女の子が立っている!

え? 

ほんとにこの子がタヌ子なの? 

風に揺れるサラサラの髪がなびくのを見て、心臓がドキドキしだした。多分顔も真っ赤だ。タヌキの時の姿とのギャップがありすぎて信じられない。事務所の窓に張り付いている内田に身振り手振りで「ほんとにこの子タヌ子なの?」と聞くと、内田は「そうですよ!何もたもたしてんだ!早く話しかけて!」と、大きなリアクションでバタバタしている。

迷っている暇は無い!


「あ、あの…。」

タヌ子に声をかけたが、何を言っていいかわからなくてしどろもどろしていると、タヌ子が俺の方に振り返り、ニコーっと満面の笑みをした。

タヌ子だ! 

見た目は全然タヌキじゃないけど、めっちゃくちゃキレイな女の子だけど、この笑顔はタヌ子だ!

「あのタヌキの置物、私が知ってるタヌキさんにそっくりで、思わず見とれてしまったんです。」

タヌ子はウフッと笑ってそう言った。


タヌ子、無事だったんだね。

よかった。

タヌ子、ほんとはこんなにかわいい女の子だったんだね。

ペット扱いしてごめんね。

タヌキの時から、本当に大好きだよ。

会いたくてたまらなかったよ。


堪えても堪えても、涙が勝手に溢れ出てくる。俺との記憶を無くしてしまったタヌ子からしたら、なんて気持ち悪い男だと思うだろう。

「あの、大丈夫ですか? これよかったら。」

タヌ子は俺を心配してくれて、肉球じゃない、白いきれいな手でハンカチを渡してくれた。

「あ、ありがとう。ごめんね。俺、ちょっと今おかしくて。気にしないで!」

タヌ子はかわいい大きな目で俺を心配そうに見ている。

「じゃあ、私はこれで。」

タヌ子はおじぎをしてその場を去ろうとした。

「待って!」

俺が呼び止めると、タヌ子は振り返った。

「あの…よかったら、信楽焼のタヌキ、見ていかないかな? 多分、君の知ってるタヌキだと思うんだ…。俺、美味しいたい焼きたくさん買ってくるからさ!」

俺はなんとかタヌ子を引き止めたくて必死だった。

初対面の男から「タヌキ見ていかない?たい焼きあげるからさ!」なんて言われたら、さぞかし不気味だろうけど、他に何て言っていいか思いも付かない。

タヌ子をチラリと見ると、タヌキだった頃と同じしぐさで、もじもじ恥ずかしそうにしていた。

「ご迷惑でないなら…。」

タヌ子は嬉しそうに慢面の笑みで言った。

俺も涙にまみれながら笑った。

内田も窓越しに号泣している。


 これからまた一つ一つ、大切に日々を積み重ねていこう。

 この笑顔を絶やさないように。

 大事に大事に、守っていくから。


ふと信楽焼の大タヌキを見ると、タヌキは俺たちに向かってウインクした。

                                    



終わり

最後まで見ていただき、本当にありがとうございました。^^

番外編もあるので、準備でき次第投稿しようと思っています。^^

そちらも読んでいただけたら嬉しいです。^^

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