俺とタヌキの出会い 一目会った、その日から
朝、目を覚ましたとき、ハっと横を見ると、そこには誰もいなかった。俺一人だった。
“そうだよなぁ。タヌキが風呂敷包み背負って押しかけ女房にやってくるなんて、ありえるわけないじゃん!変な夢を見たもんだ。”
と、安心したその時、味噌汁のいい匂いがキッチンから漂ってきた!
「えーーーーーーー!」
キッチンではエプロンをつけたタヌキが嬉しそうに朝食を作っていた。
“夢じゃなかった!”
「すぐ出来るからねー!テレビでも見て待っててー!」
タヌキはニコーっと微笑みながら俺に言った。
ソファーに座りテレビをつけてみるが、俺はタヌキが気になってしょうがない。横目でタヌキをチラチラ見る。見れば見るほどタヌキだ。動物のタヌキというより、信楽焼きのタヌキだ。でも毛はフサフサしている。撫でたら気持ち良さそうではある。
「できたよー!」
満面の笑みに誘導され、タヌキの作った朝飯を食べる。豆腐とアゲとわかめの味噌汁。塩鮭、キンピラごぼう、冷奴と納豆、それに十八穀米のごはん。
…うまい…
ウムム…こいつタヌキのくせしてやるな!
「えー、タヌキくん、料理上手ですね。」
「なにー!タヌキって、私タヌキに似てるのー?ウケるんですけどー!」
は?コイツ自分がタヌキだという自覚が無いのか?
「んー、でもそれはタヌキみたいに目がクリっとしてるって意味かな?ヒロキがそう呼びたいんだったら、それでもいいよー。あ、でもタヌキじゃなんだから、タヌ子って呼んで。うん!タヌ子って、なんか可愛くなーい?」
タヌキは一人でウケて一人で喜んでいる。しかもいつの間にか俺の名前はもう呼び捨てになっとる。「もー仕事遅れちゃうよー!」と背中をどんどん押され、あれよあれよという間に家を追い出された。
「いってらっしゃーい!」
笑顔でタヌキに見送られて、まやかしにかかったような状態で家を後にした。
しかし何故こんなことになったのか?
落ち着いて記憶を掘り返さねば。
あれはたしか二日前の夜。その日は高校のクラス会で、旧友との久しぶりの再会に盛り上がって、かなり飲みすぎてしまっていた。二次会、いや、三次会だったかな?
仲のよかったグループで行った先のバーで、俺はタヌ子と出会ったんだ。
その時はもうかなり酔っ払っていて、目も回っていた。ろれつが回らない状態だった。喋り疲れてボーしていたら、前のテーブル席のグループにタヌキが座っていた。最初着ぐるみを着ているのかと思っていたが、よく見れば見るほどそうでない事がわかった。目をこすってもタヌキにしかみえない。タヌキは泣いたり笑ったりしながら女友達と話をしている。女友達はタヌキに全く違和感を感じていないようだ。何故だ?ドッキリか?俺はこの状況が理解できなくて、つい身を乗り出すようにしてタヌキをガンミしてしまっていた。その視線に気付いたのか、女友達の一人がタヌキに俺を見るように目で促した。タヌキは俺の方を見た。しばらく俺をポケーっと見ていた。俺もタヌキから目が離せないでいた。タヌキはクルっと女友達の方に向きなおした。そうかと思いきや、また俺の方に振り向いて、ニコーっと笑いかけてきた。その笑顔がめちゃくちゃ可愛くて面白くて、その後俺とタヌキは夜を明かして語り合った。何を話したかは酔っ払っていてあまり覚えてないが…。
それが出会い。で、夕べの押しかけタヌキとなる…。
どうもその時につい同居の話までまとめ上げてしまっていたようだ。
事務所に向かいながら、俺とタヌキの関係。いや、そもそもなんでタヌキなんだ?といいう事を考えた。考えれば考えるほどわけがわからなくなってきた。