怖い話(パート1) トカゲ君のストーリー
その一家は、代々男が駄目になる家系だった。
始まりは何代か前の先祖に遡る。男は異常なほどの浮気者で、次々と女を変えた。何度も結婚し、飽きると他の女に手を出し、女を家に連れてきては、子供は置いていけ、おまえは出て行けと、妻を無一文で追い出していた。
二人目の妻までは、男を恨みながらも反抗すると暴力を奮われるのが怖くて、泣く泣く家を出て行った。三人目の妻は、今までの妻たちとは違いかなり気が強く、少々の暴力には屈しなかった。浮気相手を家に連れてきても、相手に殴りかかって髪を引っ張りまわして外に追いやるほどだった。男は何とか妻を追い出そうと、姦通罪の既成事実を裏工作した。タチの悪い連中に頼み、妻を暴行させた。そして男は、堂々と妻を追い出すことに成功した。妻の悪い噂は村中が知るところとなり、妻は実家にすら帰られなくなった。誰も妻の言い分を信じようとはしなかった。妻は身も心もボロボロになり、町の外れをさ迷い歩いた。歩いていると、飲み屋の裏で、妻に暴力を働いた男たちがいるのに気付いた。男たちは、妻に暴力を働く事で、夫からたくさん金をせしめたと大笑いしていた。
妻の心は壊れた。
妻は一目散に夫と住んでいた家に向かって走った。あまりに速く走ったので、途中で何度も転び、ぞうりは脱げ、足は血だらけになった。髪は乱れて落ち武者のようになった。
あの男、許すまじ!
家に着いた。窓から中を除くと、女が鏡に向かって化粧をしていた。女は振り向いた。妻と目があった。妻は復讐を晴らせる喜びから、満面の笑みで女を見た。落ち武者のような髪で、着崩れた着物の妻を見て、女は背筋が凍りついた。妻は入り口の戸を蹴り破り、中へ押し入った。女は半狂乱になって逃げ回った。妻は台所にあった包丁を握り締め女を追いかけた。女の髪を掴んで床に倒した。妻は女を滅多刺しにした。すでに事切れている女の上にまたがり、妻は死体をひたすら刺し続けた。そこへ男が帰ってきた。女の上にまたがり血だらけになって顔には笑みを浮かべながら、包丁を振りかざしている元妻の姿を見て、体が凍りついた。男に気付いた妻は、ゆっくりと顔を夫の方に向け、血だらけの笑顔で夫を見た。その瞬間妻が夫に襲い掛かってきた。二人は揉みあいになった。夫は妻から包丁を奪うと、妻の腹を刺した。悲鳴を上げる妻。夫はその隙に、一目散に逃げた。妻は夫を追いかけてトドメを刺そうとしたが、痛みと腹から流れ出る大量の血で気絶しそうになり、泣く泣く諦めた。しかし妻の怒りはこんな事では到底おさまる筈が無い。妻は、家から少し歩いていった所にある、男の一族の墓へ向かった。重い体を引きずるように血を流しながら歩いた。一歩進むたびに怒りと憎しみが増幅していった。妻は男の一族の墓に辿り着いた。安堵で笑いが出てきた。大笑いした。悲鳴にも似た笑い声だった。そして妻は、自分の血を指に付けて、墓に書いた。
この一族の子孫の男に祟りあれ。
我が恨み、未来永劫続く。
そして妻は、持っていた包丁で胸を一突きし、絶命した。