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居酒屋ぽんぽこ(パート1)  たぬき先生との出会い

「ヒロキさーん、こないだの居酒屋のデザイン、こんなイメージでやってみたんですけど見てもらえます?」

内田がデザイン画をもってきた。

 隣町、といっても路線が違うので乗り換えしていかないといけない、近くて遠い隣町にある居酒屋さんから改装の依頼がきた。70代の大将が長年営んできた居酒屋で、店構えは地味だが料理はどれも旨く、庶民的で常連さんもたくさんいて、老若男女に愛されてきた店だ。その町はうちの事務所のあるこの町とは対照的で、昔ながらの下町の雰囲気が漂い、高齢者も多く、元気な老人パワーに支えられている。大将夫妻が高齢になってきたのもあって、40代の息子さん夫婦に後を任せることになった。息子さんは、古い店を改装して、自分の趣味をいかした店作りをしたいそうだ。


「大人の隠れ家ワインバー Rifugio・リフージョ」

外観は一面暗めな色合いのアンティークレンガで、真ん中に石の枠組み、そこから1歩入って、重厚感のある分厚いこげ茶の木のドア。ドアノブは黒の鉄製の棒状の物がついている。石枠とドアの間の壁はガラス張りになっている。入り口上からアンティークなスポットライトがついている。店の看板は無く、アイアンでRifugioとかたどったものがレンガの壁にさりげなくついているだけ。

中には大きく真っ赤なバーカウンター。バーカウンターの奥の壁は黒で、ガラスの棚が取り付けられていて、そこにお酒やグラスが飾るように置かれる。他の壁はレンガで、ソファのボックス席が二つ。二人用のテーブル席が二つ。入り口上の天井には大きなクリスタルのシャンデリア。店内はいくつかの間接照明。全体的に暗くしてある。


「どうです?」

「……んー…。悪くないんだけど……、あそこには合わないよね。」

「ですよね…。自分もそう思うんスけど…息子さんの依頼に沿ってやってたら、こうなってしまって…。」


 二日前、内田と二人で、「居酒屋ぽんぽこ」を訪れた。

大将は、時々見せる笑顔が可愛い小柄でじゃがいものような顔をした人だった。おかみさんは、大将とは反対に、よくしゃべる愛嬌のある人で、こちらもまた小柄で少し小太りだった。

「俺はね、まだまだ現役でバリバリ働けるって言うんだけど、コイツがもう年なんだからサトシ夫婦に店はゆずって隠居しなさいよって言うんだよ。半人前のアイツがやってけんのかね?おりゃまだ早いと思うね!」

「あんたが出しゃばり過ぎるから、いつまでたってもサトシは一人前になれないのよ!」

老夫婦はギャーギャー言い合ってて、しまいにはケンカになりそうだった。

「…どうしましょ?」

恐る恐る声をかけた。

「やっちまってください!」

おかみさんは、クルっとこちらを向いてキリっと言った。

「そうですか?…では…」

カウンターの向こうでは、大将が恨みがましく上目使いでこっちを見ている。

「息子さんのイメージをお聞きしたいのですが。」

話していると、奥から息子のサトシさんが現れた。顔は大将ソックリのじゃがいも顔で、体型はおかみさんにソックリの小太りだった。服装は、ものすごくよく見るとオシャレなブランドの物を着ているが、顔と体型が地味すぎるので、全くオシャレに見えない。


「とりあえず、大人の癒しの空間なわけよ。わかる?ストレスがぶっ飛ぶ空間よ!

まずね、言っとくけど、俺は隠れ家の裏の裏をいきたいから! あ、ちゃんとメモっといてよ!俺の話すこと全部大事なコンセプトだから!」

サトシさんは、前置きも無しにペラペラと話し出した。隠れ家の裏の裏って、それは表、そのまんまじゃねえのか?という疑問があるが、こういうタイプには、あまりつつくとロクな事が無いというのを経験上学んでいるのでスルーしとこう。

「ま、おやじの料理は旨い。けっこうがんばってたと思うよ。でもさ、こういう居酒屋って、どこでもあんじゃん!まんまじゃん!サプライズが無いわけよ。」

大将の血管が膨らんでいくのがわかりながらも、俺は戦々恐々とサトシさんの話をおとなしく聞いているしかない。

「内装も外観も、ドバーっと変えなきゃなんねえよな。このしみったれた町には無かったようなオシャレで癒しの大人の男女が集う空間を!こんな夜でも昼間みたいな明るいとこじゃ、癒しもなんもないもんな。……」

サトシさんの毒舌は延々と続く。

「き、きさま、何をぬかしとんじゃー!!!!」

大将は叫ぶと気分が悪くなって、おかみさんに支えられて奥に行ってしまった。おかみさんが私らに構わずどうぞ、というので会議は続行された。会議と言ってもサトシさんが延々と理想を語るだけだった。


「看板とか、既存の家具とか小物とか、どうされますか?リフォームする場合、昔の店の看板など、オシャレに飾って昔の面影を残したりすることも多いんですけど。」

内田がサトシさんに聞いた。

「全撤去。決まってんじゃぁーん!ちょっと君、俺の話ちゃんと聞いてた?コンセプトわかってる?大人の隠れ家の裏の裏よ! あぁ?」

「この辺りの地区ですと、圧倒的に高齢者が多くてサトシさんの求めておられる客層とは、若干合致しないところもあるかとは思うのですが…。」

内田が攻めた。

「いい! 場所は関係ないわけ。いい店があると客は遠くからでもやってくるの。ってか、こんなところにこんな店が!って、宝物探しする感覚ねっ! そういうのが町探検の楽しさでしょ、わかってないなー。」

サトシさんはため息をついている。

ため息つきたいのはこっちの方だ。しかし内田は果敢に攻めた。

「しかし、今までのお客様は高齢の方が多いようですし、年金生活の方も多いと聞いています。このコンセプトだと、費用も高めになってしまいそうですし、それを回収するとなると、客単価も上げざるをえないわけで、常連さんが来られなくなってしまう恐れもありますが…。」

「上げるよ!もちろん。当たり前でしょ。俺は上質なサービスを提供する。お客様からはそれに見合った対価をもらう。当然のことでしょ。他のどの店でもそうしてる。お互いウィンウィンな関係でしょ?」

サトシさんはだんだんイライラしてきた。

「じゃ、俺約束あるからもう行くわ。ちゃんとやっといてよ!」

サトシさんは行ってしまった。

残された俺たちは、お互いを見合ってため息をついた。


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