プロローグ
…今夜は月がキレイだなぁ。
バルコニーの椅子に座ってビールを飲みながら、いつになく大きな月を眺めていた。
さっきから遠くでサイレンの音が聞こえている。部屋の中のつけっぱなしになっているテレビでは、たった今入った物騒なニュースを報道している。こんなキレイな月夜に、事件なんかおこすなよ…と思いながら、気を取り直してのんびりしているところだった。
「ピンポーン」
ドアのチャイムが鳴り、モニターを見てみると、タヌキが立っていた。
「ヒロキ君に会いたくて、もう一日中一緒にいたくて、押しかけ女房しちゃいましたー!」
タヌキは嬉しそうに満面の笑みでそう言って、びっくりして固まっている俺に考える隙も与えぬまま抱きついてきた。
“なんなんだ!このタヌキは!”
「いつでも来てイイよって、言ってくれてすっごく嬉しかった。あんまりすぐ行くのもガッついてるって思われそうで怖かったんだけど、なんだか来ずにはいられなかったの。」
タヌキはほんの少し涙目になってそう言った。
タヌキは背中に唐草模様の大きな風呂敷を背負っていて、カチャカチャ音をさせている。風呂敷の隙間から、鍋やらやかんやらがチラリと見えている。おたままでつっこんでいる。
“こんな引越し姿、いつの時代なんだよ…。ってか、そもそもなんでタヌキなんだよ?なんで俺んち来てんだ?
俺、ビールの飲みすぎか?
酔っ払って幻覚見てるのか?
というか、これは夢だ、絶対!