はじめに
はじめに 技術史のはじまり
今日、人々は鳥や鳥族、そして竜のように自由に空を飛ぶことができる技術を開発し、ついにはヒトを宇宙に送り込んだ。この先人類の活動圏がどこまで広がるのか、残念ながらその手の専門家でない私にはとても推し量ることができない。
ところで、そうした技術の発展はどのようにしてはじまったのだろう?
人々の魔法・科学技術の歴史は、はるか昔、聡明なる蛇族の人々が魔法の体系的な研究に着手した時にスタートした。
彼らはその旺盛な探究心を発揮し、当時としては驚くほど先進的な研究を成し遂げ、一族で伝承し受け継いだ。彼らは魔法・科学の両方の分野においてすぐれたセンスと洞察力を持っていた。チャルム銅でできた正確で精巧な魔道機械たちが現在にそれを伝えている。
一方、大陸では獣人族や人間が、製鉄技術を手にしていた。はじめは露頭に輝く鉱物の塊を、高温で熱するとどろどろ(・・・・)に溶けることを見つけたところから始まった。まごうことなき銅だった。やがて彼らはそれを粘土で作った型に流し込み成形することをおぼえ、やがてそれらは矢じりや槍先の製造に応用された。それら銅器は従来の黒曜石などで作られた武器や、いくつかの種族が生まれ持っているするどい爪や牙をしのぐ切れ味を持っていた。そのため、銅で鋳込まれた剣や銅そのもののインゴットは重要な交易資源となりえた。
同じようにして鉄も発見され、利用されるようになったが、鉄は銅よりも融点となる温度が高い。そのため、武器や装飾品に加工するためには高温を発生させることができる炉が必要だった。そしてこれら鉄を扱うための技術の有無は、そのままその国の軍事力に直結した。そのことがよく表れている好例が、一期838年ごろに起こった有名な戦いであるトゥルカド大紛争だ。
これは虎人族のチストルム(ツィストルム)と鳥人族のカンダツルム(カンダトゥルム)の大陸における覇権争いの末起こった戦争だったが、このとき勝利したチストルムは最先端の武器である鉄器を製造、装備していた。
このチストルムの鉄器はカンダツルムの銅よりも切れ味がよく、硬く、軽かった。兵器として圧倒的に優れていたのである。
こうして、虎人族特有の勇猛さ、獲物をしとめるために進化した器官たちの働きに、鉄器が装備として加わったおかげもあって、チストルムはこの戦いに勝利するのであった。なお、これはカンダツルムが技術的に後進であった証左にはならない。本来鳥人族は優れた知能を有する種族だ。そんな人々がなぜ鉄器を(少なくとも大々的には)製造しておらず、虎人族たちの国のみがその技術を有していたのかというと、それは単純に鉄鉱石そのものとその加工方法が発見される幸運な(・)偶然が起こっていなかった、というだけであった。
さて、技術の進歩が歴史の表舞台においてはっきりと表れるのは、(いくつかの例外を除けば)戦争の時である。この後、初歩的な機械工学や物理学から生み出されたクロスボウガン・攻城用バリスタ(投石器)が大々的に使用され、使用したアルホリスタ避難民で構成される反乱軍が勝利した168年のエランガストーレン戦争などがおこるのだが、これは二期に入ってからの話である。これはまた別の機会に話そう。
さて、まえがきの形をかりて、第一期以前の世界と技術の進歩について説明をした。しかたがないことなのだが、高度に技術が発達した現代とは文明の水準が違いすぎるがゆえに、第一期以前の世界は、過剰に原始的に描かれることが多いような感じを受ける。
しかし、実際はそればかりでもない、ということが理解してもらえたら幸いだ。
「ヤルクンド大陸の第一期以前の技術」という切り口だけでもこれだけ興味深い事実が出てくるのだ。ならば、大陸史全体を俯瞰したらどんなに楽しく、知的興奮を誘われるのか。考えただけでもわくわくしては来ないだろうか。
さあ、私と一緒に大陸史の旅に出よう。