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転生した異世界が、オレの「小説家になろう」作品だった件

作者: 北佳凡人

小説を書くって、本当に難しいですね。

シンプルに書いた短編ですが、面白くできているでしょうか?

「今日も疲れたなぁ」


 俺は目をつむり、

 ふあーっと大きく伸びをして、

 後ろ向きに自分の布団に倒れこんだ。


ぽふっ


「おや?」


 心地よい良い弾力を背中に感じる。

 この、不自然に寝心地の良い感触。

 慣れ親しんだいつもの布団とは違うぞ。


 驚いて目を開くと、天井が見えた。


 天井があるのは当たり前だが、模様に見覚えが無い。

 端っこに青カビの生えた特徴のない白ではない。

 裸婦が描かれている金細工の豪華な天井だ。

 シャンデリアもぶら下がっている。


「こ、これは・・・」


 キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 転生だ転生!!!


 トラックにも撥ねられてない。

 コンビニで買い物もしてない

 ましてや、飛行機事故にも遭遇していない。

 心も身体もきれいなまま、貴族のお屋敷っぽいトコロへ移送された!


 異世界転生だ。

 それ以外には、この事態を説明できない。


「オレ、やったぜぃ」


 どんなチートが約束されてるんだ?

 魔法か? 肉体増強か?

 それとも、知恵を使った開発チートでもやれってか?

 ハーレムもつくれってかぁ?


 いいぞ、やってやる、なんでもドンと来いだ!

 いや。テンション高すぎる。慌ててもいいことはない。


「お、落ち着けオレ」


 まずは、この世界を知らなきゃいかん。

 誰が呼んだのか?

 召還魔法か? まったくの偶発事故か?

 ここはどこなのか。

 で、オレの立場はナニ様か。


 その時、ムダに豪華で重厚な扉が開けられた。


「お目覚めでございますか、ゲスモル様」

「げすもる?」


 テンションが急降下。

 アドレナリンがひいて行くのかわかった。


 げすもる。

 下種盛る。

 

 これがオレの名前か、ずいぶんと気分の悪くなる名前だな。

 どうぜなら、ハインリッヒとか、ウィルアムとか、崇高な名前が欲しかった。

 この際、ジョージでもいい、ゴンゾウでもマシだろう。

 げすもる。どう前向きに解釈しても、正義の名前とは思えない。悪の臭いがプンプンする。


「すまん、オレの立場を教えてくれ」

「また、でございますか……」


 すっげー哀れむ目をされてしまった。

 栄養失調で死に掛けたネズミを見るような、この目つき。

 どこかで――。


 滑り止めの高校に落ちたときの、母親の目だ。

いいじゃねぇか補欠で受かったんだから。

 本番に弱いタイプなんだよー。

 

 異世界にきてさえも、バカ息子扱いって酷い。

 どこへいってもそこが現実なのだとは、誰が言ったセリフだったか。

 orz


「あなた様は、男爵でいらっしゃる、ギャズモル様のご嫡男であらせられる」


 男爵?

 ギャズモル?

 ギャズモル男爵かぁ。

 そいつが、オレの親らしい。男爵むふ。貴族は悪くないぞ。

 領地で政チートができそうだ。


 ギャズモル男爵って、どっかで聞いたことがある名前だなぁ。


 最近やったスマホゲームだったか?

 ちがう。

 ほかのゲームか?

 ここ5年は、スマホ意外やってない。


 アニメの適役?

 もっと、センスのある名前をつけるよなぁ。

 ラノベか、ネット小説か?


 ん?


 ネット小説――【小説家になろう】の投稿小説?


 あ。





 …… オレの投稿した小説のキャラだった ……



「あの~、執事さん?」

「ゴロボッタとお呼びください、いいかげん覚えてください」


「ご、ゴロボッタさん」

「呼び捨てで」


「ゴロボッタ」

「なんなりと」


 疲れる。


「この国の名前はなんという?」


 沈黙。哀しい目。

 それ、もういいから。


「クレセントでございます」


 間違いない!

 オレが書いた【異世界のイージス】の設定だ。

 すると、今の月日はいつごろになる。

 ギャズモルは、どの辺りにいるんだろう。


「ギャズモル様は、先月おでかけになられてます。辺境にある村落を視察なさるとか」


 ツェルト村へ行ったってことか?


「わ、わかった。考え事をしたい、一人にしてくれ」

「朝食の用意ができてます。もっとも、すでに昼食の時間であるのですが。御用があればおよびください」


 昼間まで寝てたのかオレ。

 実際は、布団に倒れこんだだけだから睡眠ゼロなんだが。


「よーく考えないと」


【異世界のイージス】は、たしかにオレの作品だ。

 しかし、読者はほとんどいないぞ。

 一所懸命考えて書いてはいるが、

 ほとんど自己満足でできているって言ってもいい。

 悲しいけど、これ現実なのよね。

 

 見向きもされないストーリーが異世界として誕生したってか。

 人知れず、誰かが書いたものがいちいち異世界になっていたりしたら。

 そして作者が取り込まれていたりしたら。


「そんなの、恐ろしくて小説なんか作れないだろ!」


 読者数が少ないってことは、ほかの日本人がここにやってくる可能性は、極めて低い。自力でなんとかしないと、世界に取り込まれて、死んでしまうかも。


 この異世界が、夢なのか現実の別空間なのかは知らん。

 読者数の少なさに、責任を取らされて物語に閉じ込められたのかもしれない。

 なんかそんな気がしてきた。

 戻るにしても留まるにしても、どっちにしても、方法を模索する必用があるな。


 まずは、設定とストーリーの進行を思い出さんと。

 ギャズモル男爵は、ツェルト村を訪問して何をするんだっけ?

 えっと、たしか……村人の拉致。


「悪役じゃねーか!!」


 主人公の二人、芝桜藻琴とフェアバール・グレイフェーダーとは敵対する関係にある。

 つまり、話しが順調に進行していけば、いずれ失脚することが確定している。

 このままでは、嫡男であるオレも、一緒に没落ってか。


 最悪だ。

 なんとかしなきゃ、自分の作品で自滅してしまう。

 なんで、こんな作品を書いたんだろ。

 もっとみんながハッピーになるような設定を、なぜ考えなかった。

 万が一異世界に転落した人間のことを考えて、敵も味方も幸せになるストーリーを作るべきだった。

 

失敗だ。失敗してしまった。

やはりオレは、出来ない子だったのか。


でも、まてよ。

 オレって作者なんだよな?

 

 なんで作者がこんなに困ってんだ?

 作者ってのは想像主。世界の神だ。

 なら、自分で自分に都合のいいように書き直してしまえばいいんじゃね?


「オレって天才!」


 何かないか?

 投稿サイトへ直結しているメディアは?

 こういうのって、救済措置があるってお約束だが?

 キーボード、スマホ、タブレッド、PC。

 部屋の中を隅々探しまわるが、ネット投稿につながりそうなものが、ない!


 ベッドに倒れこんで、うなだれる。


 オレの没落は確定した!

 せめて、よき嫡男として、親を抹殺するか?

 悪の領主なら領民も喜ぼうというもの。

 そのとき、机の上ある何かを発見した。


「あれは?」


 ノートが乗っているな。ノートPCでなく大学ノートだ。

 電子機器ばかり探してたから、ありきたり過ぎて見落としていた。

 いつも使っている安っぽいノートと0.3ミリのシャーペン!

 これだ、きっとこれに違いない。

 異世界からネット投稿を可能にするアイテムだ!


 ページを開く おお!

 これまでの投稿話が全てかいてある。三章まで投稿済みな。


 投稿はPCでやったのにノートで登場とは、さすがわ異世界・・・なのか?


 よし、考えよう。

 オレが没落しないような、ハッピーなストーリーを。



 ――――


 

 できたっ 「投稿」って書けばいいのか?

 書いた文字が上から順に、踊っていくよ。

 これで投稿完了?

 おや? 文字が消えてくぞ?

 待て待て、大丈夫か? 投稿されたのか?

 

『メッセージ: 文字が汚くて判読不能です』


 おい。

 おい?

 そうなの?

 オレの高度なデザインが、読めなかったようだ。

 仕方ない。書き直し……これでどうだ「投稿」っと。

 また文字が消えた。


『メッセージ: 誤字脱字の数が許容範囲外です』


 うわ。今度は誤字かぁ。

 漢字は、PCの自動変換機能に頼ってたからなぁ。

 あやふやな文字が多いのはしょうがない。

 よし、自信のない文字は平仮名でいこう。

 「投稿」


『メッセージ: ストーリー展開に無理があります』


 なんじゃあ?

 なんで、そこまで口出しできる?

 なろうのHPはAI仕様か?


 主人公を誘拐しにいったギャズモルが、主人公と仲良くなってしまうって展開にしたんだが、不自然だと? 不自然か。そう不自然だな。

 じゃ、主人公は無視して、ギャズモルを領地に戻そう。

 「投稿」


『メッセージ: 面白くありません』


 やかましいわっ!!!!

床にノートを叩きつけた。


 はぁはぁはぁ。


 疲れた。

 少し頭を冷やそう。

 ゴロボッタは朝食ができてるって言ってたな。

 そういえばお腹もすいてるし、食べれば落ち着くかもしれない。


「おーい 誰かいない……」


 しゃべり終わる前に扉が開いて、ゴロボッタが入ってきた。

 ずっとそこにいたのか?


「ゲスモル様」


 やっぱその名前、やだな。


「心を落ち着いて、聞いてください。たったいま連絡が入りまして――」


 ん? なにか悪い知らせか?

 領主の不在中に領民が氾濫したとか?


「――当家の主、ギャズモル様が、お亡くなり遊ばされました」


 え? いま、なんと?


「お父上が、亡くなったのです」


 ええ?失脚早っ

 いや。返り討ちにあったんだろうな、主人公チームはチート設定だし。


「詳細は不明ですが、御気を確かに。これからは貴方様が、当家の主です」


 おお。いきなりの領主かぁ。

 悪いことではない。


 でもまて。

 

 オヤジは、誘拐に失敗したわけだ。

 遅かれ早かれ、名誉は地に落ちることになる。

 そうなると、オレにとっても、良い未来は巡ってこなくなるか。


「このこと、王家は知っているのか?」

「いえ、おそらくはまだ伝わっていないものかと」


 よりそれなら手はある。

 もう、事態は動いてる。

 小説なんか頼ってる場合ではない。


「たしか、王家の三女って、メルクリートだったよな?」

「その通りでございます」

 

 むっふっふ。

 みてろよ主人公ども。

 想像主の手腕、とくと味わうといい。


……………


 後日、中途投稿ページの後文に、以下の文章が追加された。


 ――

 ギャズモル男爵の長男(名前不詳)は、王家三女のメルクリート姫との婚姻を画策するも失敗。そのあまりにも強引かつ陰鬱なやり口に、王家のみならず他の貴族が反発される。さらに、醜聞を耳にした自領の民が氾濫。逃亡を余儀なくされるも、あっさり捕らえられて領地の片隅に幽閉となる。才も運も無く、囚われの一生を送った。

 ――


 しかし人気のない作品ゆえに、誰の目にも留まることがなかったという。


読んでくださって、ありがとうございまます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 発想が新しくておもしろいです!。 [一言] 異世界イージスの読者ここにいるぞー。
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