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短編  作者:
1/11

兄と妹①

「おかえり」


「……ただいま」


 今日も顔を暗くした兄が家に帰ってきた。

 一度は帰っているのだから二回目のおかえりなのだけれど。

 だらだらに汗を流し、ジャージ姿の兄は夜に走っているらしい。

 走る人、というのは爽やかに帰ってくると思うのだけれど兄はいつも暗い顔で帰ってくる。


 高校時代はスポーツで名を馳せたらしい兄の表情はもっと、もっと明るかった気がするのだけれど。


 卒業して、社会人になってもまだ半年もスポーツを行おうとする様子は褒められた物だけれど。

 暗い顔で帰ってくるのなら、止めればいいのに、と思う。


「ねぇ何でいつも走ってるの?」


 思い切って聞いてみた。


 玄関越しでタオルで汗を拭く兄は私に視線を向ける。


「……探し物してるんだよ」


「探し物? 夜に?」


「うん」


 暗がりでは見つけるのは大変そうだ。


「見つかるの? それ?」


「高校の時は見つけられたから」


 おや。どういう事だろう。


「高校の時は持ってたんだ?」


「うん、いつの間にか離しちゃっててさ」


「お兄ちゃんはドジっ子さんだね」


「アハハ、そうかも」

 おっと久しぶりに見たぞ貴重な兄の笑顔だ。


「ねえ見つかるの?」


「見つかるのかなぁ」


「そんな曖昧な感じで毎日探してるの?」


「大切な物だからね」


「大切な物なのに曖昧なんだ?」


「うーん確かに」

 うんうん、と頷かれてしまった。


「そんなに見つからないなら買っちゃえば?」


「買える人も居るらしいけどね」

 ううん余計に解らなくなってしまったぞ。

 人によって買えないって事かな? よっぽど高い物なのかな 


「ねえそれって私は持ってる?」


「15歳なんだから持っててもおかしく無いんじゃない?」


「え、年齢によるの?」


「若い方が持ってるんだよ」


「社会人になった瞬間大人ぶんの止めてよー」


「それぐらいしか特権ないんだもん社会人ってー」


 こりゃ何言っても教えてくれなさそうだ。

 兄に背を向ける。


「見つかると良いねー」


 それだけ言うと私は自分の部屋に戻る事にする。

 唸る兄の声が離れていく。


「ううん見つからないなー『自信』おかしいなー高校の時はがむしゃらに走ってたら見つけてたんだけどなー」


 社会人って、大変らしい。


 私もいつか手にして、そして無くしちゃうのかな。


 一度手にしていたそれを見つけるまで、兄は毎日探すのを止めないのだろう。


 暗がりの中で、いつか光が見えると信じて。

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