続々々々・帰ってきたイケメン妖怪ハンターリックの冒険
いつものリックです。
リックは古今無双のスケベな妖怪ハンターです。
でも、電撃鬼娘の彼女は断じていません。
先日の大食い大会の賞金の金貨で、美人幼な妻の遊魔のご機嫌を取るために高級またたびを一年分購入したので、すっからかんになってしまいました。
命より金のリックには、つらい決断でした。
「そんな事ないにゃん! 遊魔のためなら、何だってするにゃん!」
地の文のホームズもびっくりの名推理に理不尽に切れるリックです。
「お前様、遊魔は嬉しゅうございます」
リックの腹の内を知らない純粋な遊魔は目をキラキラさせて言いました。
「そうにゃんですか」
思わずあるお師匠様の口癖で応じてしまうリックです。
「とにかく、お金が必要にゃん。賞金首の妖怪を探すにゃん」
リックは遊魔のキラキラ瞳を見るのがきついので、そう言って歩き出しました。
大きな町に入る砦付きの門の脇に賞金の懸かった妖怪の人相書きが貼られています。
「お前様、賞金は金貨五千枚だそうですよ」
遊魔が人相書きを見て言いましたが、リックは賞金より人相書きが気になりました。
(この顔、どこかで見た事がある気がするにゃん……)
ジッと人相書きを見つめるリックですが、思い出せません。
「お前様!」
何故か遊魔がムッとして、リックのほっぺを強く抓りました。
「い、いひゃいにゃん、ひゅうは(い、痛いにゃん、遊魔)」
リックは涙ぐんで遊魔を見ました。すると遊魔は、
「お前様はその女と何かあったのですか?」
グッと詰め寄ってリックの襟首を捩じ上げました。
「へ?」
零れそうになった涙を拭って、リックはもう一度人相書きを見ました。
その人相書きは、女の妖怪だったのです。
(遊魔、嫉妬が酷過ぎるにゃん……)
そこまで思った時、ようやくその妖怪の事を思い出しました。
「違うにゃん、遊魔! これは、以前、天竺まで一緒に旅をした亜梨沙しゃんにゃん!」
リックは遊魔の手を握って告げました。
「亜梨沙さん、ですか?」
首を傾げる遊魔です。
(遊魔はちょっとおバカしゃんだから、もう忘れたのかにゃん?)
心の中で遊魔をディスるリックです。遊魔に教えようと思う地の文です。
「余計な事はしなくていいにゃん!」
嫌な汗をナイアガラのように流して、地の文に抗議するリックです。
(それにしても、亜梨沙しゃんは、狼男のイケメンと静かに暮らしているって聞いてるにゃん。何があったにゃん?)
もし、狼男と別れたのであれば、愛人にしようと思うリックです。
「思わないにゃん! あんな女、いくらお金を積まれても願い下げにゃん!」
かつて、亜梨沙にされた数々の仕打ちを思い出し、涙を流して地の文に切れるリックです。
(それにしても、金貨五千枚とは、破格にゃん。何か裏があるにゃんね?)
リックはそう判断し、人相書きを剥がすと、そこに書かれている場所に向かう事にしました。
町に入り、しばらく進むと、その町を治めている行政官の邸が見えてきました。
「この人相書きを見て来たにゃん。訊きたい事があるにゃん」
リックが門番に人相書きを見せると、門番はリックと遊魔を邸の中に通しました。
「私がこの町の行政官のネールだ。何が知りたいのだ?」
行政官は筋骨隆々で、顎鬚を生やした男くさい人物でした。リックは、
「賞金が破格だと思いましたにゃん。その理由を教えて欲しいのですにゃん」
すると行政官はニヤリとし、
「何だ、そんな事か? その女は、この国の国王陛下を騙して、全財産を奪って逃走したのだ」
「えええ!?」
リックは仰天しました。遊魔はボオッとしたままです。
(国王の全財産を奪って逃げたのにゃら、金貨五千枚の賞金はむしろ少ないにゃん)
亜梨沙を見つけて脅迫し、金貨一万枚をせしめようと企むリックです。
「そ、そんな事は思っていないにゃん!」
あからさまに動揺し、図星感丸出しのリックです。
(脅かしたりしないにゃん。旅の仲間のよしみで、金貨を六千枚くらい譲って欲しいだけにゃん)
外道な事を考えるスケベです。
「おい、まさか、その妖怪からいくらかせしめようと考えてはいないだろうな?」
行政官の鋭い指摘に嫌な汗が止まらなくなるリックです。
「そ、そんな事、考えていないですにゃん。妖怪を捕まえて、国王陛下の全財産を取り戻して、賞金をもらう所存ですにゃん」
リックは膝をガタガタと揺らしながら、嘘八百を並べました。
「嘘じゃないにゃん!」
地の文の見事な分析をすかさず否定するリックです。
「ならば早く探しに行け! 賞金稼ぎはお前だけではないぞ。早くしないと、先を越されるぞ」
行政官はニヤリとして告げました。
「は、はいにゃん!」
リックは遊魔を引き摺るようにして邸を出ました。
「お前様、お話したい事があるのですが」
遊魔が先を急いでいるリックに言いました。
「遊魔、今は一刻を争うのにゃん! 後にして欲しいにゃん」
リックはクンクンと臭いを嗅ぎながら言いました。
「そうなんですかあ」
遊魔は寂しそうに応じました。それを見たリックは胸が締め付けられましたが、
(今は賞金が先にゃん!)
リックは亜梨沙の臭いを覚えているのです。それを便りに探すつもりなのです。
さすが、古今無双のスケベです。
(微妙に昔と臭いが違うにゃんけど、加齢臭が混じってきたのかにゃん?)
リックは亜梨沙らしき臭いを嗅ぎつけて、その先にある森へと走りました。
森の奥には例によって洞窟があり、臭いはその中から漂っていました。
「ここが根城にゃん!」
リックは歓喜して叫ぶと、洞窟へと飛び込みました。遊魔もそれに続きました。
「こっちにゃん!」
臭いは洞窟に入ると更に強くなり、分かれ道でも迷う事なく進めました。
やがて、開けた所に出ました。そこにはたくさんの山賊がいました。
彼らは一斉にリックと遊魔を睨みつけました。ちょっとビビッてしまったリックですが、山賊達の向こうに片膝を立てて座っている亜梨沙を見つけました。
「亜梨沙しゃん、久しぶりにゃん! 僕、リックにゃんよ! それで、こっちが妻の遊魔にゃん!」
これでもかという低姿勢、猫撫で声で言うリックです。すると亜梨沙は面倒臭そうに立ち上がり、
「はあ? リック? 遊魔? 知らないね。第一、私は亜梨沙じゃなくて麻梨亜だよ」
「えええええ!?」
驚き過ぎて、目が飛び出そうになるリックです。
「でも、臭いが……」
リックは亜梨沙が嘘を吐いていると思って言いました。ところが、
「似ているのかい? 当たり前だよ。亜梨沙は私の双子の姉だからね」
「そ、そんな!」
リックは計り知れないショックを受けました。
「それで、亜梨沙じゃない私に、何の用だい?」
麻梨亜がニヤリとして尋ねました。周囲の山賊達も不敵な笑みを浮かべて武器を構えました。
(まずいにゃん、この数では勝ち目がないにゃん)
リックは苦笑いをして、
「人違いでしたにゃん! 失礼しましたにゃん!」
遊魔をまた引き摺るようにしてそこから逃げ出しました。
山賊達が追いかけて来ると思ったリックは、洞窟を出ても走り続け、町まで戻ってようやく止まりました。
「お前様、遊魔のお話を聞いてくれますか?」
ヘロヘロになって仰向けに寝転んでいるリックに息一つ乱していない遊魔が尋ねました。
「聞くにゃん。どういう話にゃん?」
リックは呼吸を整えながら言いました。
「この町の手前の町で、亜梨沙さんに偶然会ったんですよ。赤ちゃんを抱いていて、幸せそうでしたよ」
「何ーーーッ!?」
腰が砕けてしまいそうになる事を聞かされ、リックは気を失ってしまいました。
「早く言って欲しかったにゃん……」
気絶しながらも、愚痴を呟くリックです。
めでたし、めでたし。