こんな夢を観た「ポイントカードで魔法を使う」

　いつものコンビニで、ハンバーグ弁当とペット・ボトルのお茶を買う。

「ポイント・カードはお持ちでしょうか？」店員に尋ねられ、わたしは財布の中からカードを抜いて差し出した。

「あ、お客様のポイントは1000MP貯まってますね。レベル８の魔法が使えますよ」

「えっ？」わたしは聞き返す。「魔法って何ですか」

　店員は、おや、という顔をした。

「魔法というのは、科学を超えた力の事じゃありませんか。ポイント・カードにMPを貯めると使えるんですよ」

　そうなんだ。知らなかった。

「使用方法とか書いたマニュアルってないですか？」とわたし。

「あります、あります。１冊、100円になります」

　わたしは買うことにした。10ページくらいの、薄っぺらい冊子だった。

　家に帰ると、弁当を食べることも忘れ、冊子をめくってみる。

　「はじめに」と書かれた最初のページには、「注意！　攻撃魔法は人に向けて使わないこと。範囲魔法は、十分に広い場所で発動させること。必ず大人がついて見ていること」とある。

　内心、（どうせ、初心者がいきなり魔法など使えるはずがない）と考えていた。それに、せいぜい花火のようなものだろう、とも。

　魔法にはレベルがあって、高位になるほど、消費するMPが増えていくらしい。

　「レベル８」というのはその中でも最大級のもので、１回の詠唱で900MPも消費してしまう。

　最後のページには、レベル８の魔法の一覧が載っていた。エセリアル空間から神獣を呼び出したり、四大元素の精霊を使役できるという。

　リストのおしまいにあるのは「アース・クエイク」という呪文だった。たぶん、地震を引き起こす魔法なのだろう。

　とはいえ、たかだかポイント・カードごときで、そんな大げさな技が使えるとは思えない。立て付けの悪い引き戸が、カタカタと音を立てれば上出来だ。

　わたしは、カードをかかげ、「アース・クエイクっ！」と叫んだ。

　とたんに、みしみしと部屋全体が揺れ初める。揺れは次第に大きくなり、立ち上がることすら困難になった。

　揺れているのはこの部屋だけではない。窓の外では電線が縄跳びのようにしなり、屋根からは瓦が落ち、駐車しているクルマが次々とアラームを鳴らし出す。

　そばにあったリモコンを引っつかんで、テレビを付けてみる。どの局でも緊急地震速報がフラッシュしていて、アナウンサーの緊迫した声が状況を繰り返し伝えていた。

　画面に表示されている震源地は、わたしのいる、まさにこの場所である！

「そんな……まさか……」この成功がほかのことなら、小躍りをして喜んでいるところだが、今はただ、おろおろとするばかり。

　揺れは１分ほど続いたと思う。次第に収まっていき、ようやく止んだ。わたしの心臓は、ばくばくと打ち続けている。

　スマート・フォンからアニメの主題歌が流れ出す。着信だ。

「はい、もしもし……」

　電話の向こうで、都知事が憤慨した声で言う。

「お宅、やってくれるじゃないか。『アース・クエイク』の魔法、唱えちゃったでしょ。首都圏全域がゆらゆらしちゃったんだからねっ。いい？　もう２度とだめだかんね、こんなことしちゃ」

　あーあ、怒られちゃった。

　ポイント・カードは、使いどころがほんとうに難しい。