第1話 一目惚れ
10歳。
ヒーローになりたいと、思っていた。
15歳。
恋をした。
18歳。
俺は、
ヒーローになれなかった。
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.。*+ 15歳 +*。.
ガキを頃はただヒーローになるってバカみたいに言えたけど、10年もたてばそんなことさも言えなくなる。
現に今だって「進路希望調査」っつー取り調べを受けている。
やりたいことなんて無いし、夢なんかあるわけない。
誰かが呼び出される声を聞きながら、俺はただ逃げるための言い訳を考えていた。
自然にあくびがわいてくる。
そういや昨日2時に寝たんだよな…
病院みたいに感情の無い呼び出しの声と、しんとしずまった空気が眠気を誘う。
9月にしては涼しい廊下は俺を眠らせるには十分過ぎた。
「はいっ。」
やけに緊張気味の声に目をさました。
いつの間にか寝ていたようだ。
ふと顔を上げると、緊張した顔の女子が立っていた。
運命的でもない。
失礼かもだけど、超美少女な訳でもない。
でも、俺は君に
恋をした。
3年4組 吉田 悠美
知らなかった君の名前。
初めて知った好きな人の名前。
こんな乙女思考みたいになってしまうなんて、誰が思っただろう。
いや、誰も思わなかっただろう。
ポエムみたいな気味悪い文が頭に浮かぶ。
15歳。
俺は初めて恋をした。
.。*+ 悠美 視点+*。.
涼しい廊下を急ぎめに歩く。
あと15分、このペースなら間に合うだろう。
たくさんの椅子とそこに座る学生達。
ちらほらとある空席の番号を確認し8番の席に座る。
隣の人は寝ているらしく、下をむいて動かない。
下をむいていても、私よりはるかにでかい。
ピラッ
何かが動いたと思ったら、それは私の膝の上に見事なまでにのっかった。
「 きゅう…?」
そこに書いてあったのは、
『九 捺』
と言う変わった名前。
何て読むんだろ。
そんなことを考えていたら私の名前が呼ばれた。
ビックリして思わず
「はいっ。」
と叫ぶと、後ろで「ガタッ」と音がした。
起こしちゃったかな。
振り替えると顔立ちの綺麗な男の子がいた。
下をむかないと、やっぱり長身だった。
面接を終え、廊下に出ると
「いちじく なつさん。」
と、感情の無い呼び出しの声が響いた。
「はい。」
と落ち着いた声で返事をしたのは私の隣に座っていた長身の男の子だった。
…あれで「九」って読むんだ。
と、感心しながらも彼を見ていると目があってしまった。
急いでそらして、廊下を駆ける。
これが私の初めての一目惚れってやつだった。
.。*+ヒーローになれなかった男。 (1)終わり+*。.