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次元迷宮の迹  作者: 藤閏
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未知のエリア! 第三節

コマンドーネタをやりてえだけ?

とんでもねえ……ホマンドーもだ

当然だぜ。元魔法少女のおれ以外に書けるもんか

くたばれ、ティロ・フィナ○レ!




 操舵室の扉は金属製だったが、施錠はされていなかった。

 士官の業務・居住区画らしい五階の前部は、隔壁といったもので特段に仕切られてはおらず、警備は厳しくなかった。今は廊下のつきあたりまで飛んでいる金色の綱で、立ち入り禁止を示していただけだったらしい。

 有馬は操舵室を見まわし、錠を壊すために拾った、廊下に転がっていた金色のロープスタンドを捨てた。出入口あたりの床には、本棚から落ちたファイルが散乱していた。

 ウィング部と一体化している操舵室は広く、横幅は三〇メートル近い。

 緊急電源は正常に稼動しているらしく、窓の下や、操舵席まわりのモニター群は消灯していなかった。

 窓は大きいが破れていない。黒焦げになった肉片らしきものが混ざりこんでいる溶解しかけた窓ガラスも、破砕はしていなかった。そこへ焼けながら投げつけられた乗員が、窓に開いた異次元のシュレッダーへと消え、わずかな痕跡のみが残ったかのようだった。

 飾り舵輪がついた、なかなかに瀟洒な木製の海図机をまわり、礼佳がモニター列を覗きこんだ。


「わかります?」


 礼佳に問われ、複座の操舵席を囲む制御卓を、有馬も見た。最新鋭らしい統合ブリッジシステムだった。


「アジマスがフルスロットルになっている。二基で逆進をかけたな……ハンディサイズにしては充実した装備なのか」


 二基とも最大出力になっているアジマスポッドのレバーを停止まで引き下げたが、加速や転進などの運動の変化が、文綾丸に生じたとは感じられなかった。


「エンジンは緊急停止したようだ。警報が出ている。船体にも、かなり歪みが出ているらしい」

「船の底が、落下で水面を叩いたときに?」

「そうだろう。マイクを入れてくれ。船内放送できるはずだ」

「はい。――浸水は?」

「浸水センサーがどれかわからん……、水密扉はロックされている」


 文綾丸が空中高くから投げ出されたならば、想定を超えた剪断力が着水時にかかり、船体を割り裂いている可能性があった。大きな浸水や、火災になりかねない故障が生じていれば、おそらく監視機械が音声で警報を出しているはずだが、今のところ操舵室は静かだった。

 アジマスポッドはディーゼルエンジンに直結ではなく、発電機を経た電気駆動なのだろうが、その動力が切れたか、制御系が破損したか安全装置を作動させたかといった状態だと思われた。

 操舵手が機転を利かせたのか主軸スクリューはプロペラを翼角〇に操作されている。しかしこれも、空中でプロペラ・レーシングをおこせば、なんらかの安全装置がエンジンのほうまで自動停止させるのかもしれなかった。


「やはり動いていない。機関停止。微速後進、一.四ノットだ」

「後進? さっきまで前に流されていたのに」

「水の流れが船を追い越したらしい。船底の電磁計で、水流を計っていると思う」


 コニングモニターによると文綾丸は、やや旋回しつつ一.四ノットの微速で後進している。あの暗雲からの風か波に押されている程度の動きだった。

 操舵室の窓外も、やはり前へ流れる雲におおわれ、数メートルの視界しかなかった。


「各科、こちらブリッジ。持ち場の状況を知らせよ」

 船内放送用のマイクを、薄暗い海図机のそばで見つけた礼佳が、スイッチ類をいじりながら語りかけた。

 マイクの操作は適当な手探りだが、口調は熟練の下士官やオペレーターのようだった。

「こちらブリッジ。状況を報告せよ。――現在、本か、本船は機関停止。進路(ひと)‐六‐七へ一.五ノットで漂泊中。濃霧により視程、〇。総員、警戒を厳にせよ――」


 雷光が落ち、灰白色の霧雲のむこうに船首マストが照らされた。マストの先端が曲がってしまっていることに、一瞬の閃光で有馬は気づいた。

 制御卓のスピーカーが、バリバリと激しく雷ノイズを鳴らした。

 有馬はチューナーのそばに残っていたラジオ局の一覧表から、出力が強そうな那覇や福岡の放送局をいくつか選び、順に周波数を合わせた。


「……無線放送が消えている。一メガヘルツ帯ならば、AM放送や気象情報が入るはずだが……雷の大気ノイズだけだ。衛星電波も受信できていない」

「こうバリってると電波よんよんは難しいんじゃないですか? マイルドな作監を待ちましょう」


 雷鳴が長く轟くなか、礼佳は動じたようすもなく船内放送用の機器をいじりつづけていた。

 濡れた女物のシャツ(ブラウスというのか)から透けて見えていた礼佳の体は、カカシのような鍛えられていない素人のものだったが、有馬は彼女の総合的な能力の評価を一段、高めることにした。

 核爆発によって致命的な放射線を浴びたわけではない、と知った礼佳は、冷静さを急速に回復させていた。


「とにかくプロのクルーに来てもらわ――おおう、スピーカーついた」

 操舵室天井のスピーカーが、大きすぎて音割れしている礼佳の声を発した。音量を最大あたりへ動かしたらしい。

 ボリューム・ノブを絞ってから、ふたたび礼佳は船内に呼びかけた。国際航路の商船だからか、今度は英語だった。


「オールハンズ。ディス イズ コマンド・ポスト。リポート、ユア セクション オブ ザ プレゼント コンディション。ユーズ コーション。ザ シップ イズ エンジン・ストップ」


 壁に固定されている冷蔵庫へ移動し、内部の飲食物を有馬は確認した。

 サンドイッチや神戸土産らしい洋菓子は無事だった。生体といえる青果は瑞々しいままにパンのあいだに残っていたし、有機物が紙箱に焦げ痕を残して消えているといったこともなかった。

 地球測位システムの人工衛星や、大都市からの放送電波を受信できていないことは、大気に生じた妨害効果でも説明はつく。しかしこの船から、物質を透過したかのように人がどこかへ消し去られてしまっていることは、気象や兵器による現象では説明がつかなかった。

 それはつまり、軍隊などよりも手に負えぬ、なにか超常的な現象が文綾丸に作用したことを暗示しているはずだった。


「ナウ アンコントロールド。ビジビリティ イズ ゼロ。ヘディング、ワン‐シックス‐セブン。スピード、ワン ポイント ファイブ ノット。ディス イズ コマンド・ポスト。リポート、ユア ステータス。ユーズ コーション」


 慣例なのかブリッジを指揮所と言っている礼佳に目を戻し、『電波四四』とは専ら日本語を使う陸上自衛隊あたりの符丁だったか、と有馬は記憶を探った。

 船舶業者用語のアスターンではなく、航空業界で使うヘディングと言っていることからして、陸上自衛隊のヘリ部隊にでもいたのかもしれなかった。

 英語と日本語で呼びかける礼佳に、応答する船内電話やスピーカーはなかった。

 しばらくして溜め息をつき、礼佳はマイクを置いた。


「応答なしだお。五〇〇人も乗ってるのに」

「後ろの士官や機関部は全滅だろう。動けるならば必ず、ここへ連絡してくるはずだ」


 静まりかえったままの廊下に、礼佳は目を向けた。船楼からは、いまだに誰かがあらわれる気配もなかった。


「これは駄目かもわからんね」

「……ミサイルやドローンを喰らったわけではない。機械はほぼ無傷だ。人間だけが、焼けて消えている。それが不可解だ」


 礼佳は苦笑して有馬に指摘した。


「ジャンボジェットも落とせるファイアー・ビーは、支援艦なしには飛ばせませんけどね」

「詳しいな」

「これ系のネタ雑誌ですから」


 絨毯をしいた床から、礼佳は落ちている双眼鏡を拾った。

「そろそろ霧のむこうから大和かニミッツか、みら○があらわれる頃でしょうか。……それともエルドリッジか」



          

  ξゝ゜ヮ゜ノξ  〆カチッ

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