第9話
もうすぐ双天のステルラを執筆し始めて一ヶ月が経つんですね。月日が経つのは早いもので今にもオッサンになってしまいそうですな。
さて今回は仕事が休みだったので頑張りましたよ!!その努力はどうなのかと思われますけど。
それでは今回も読者さんの暇潰しになれば。
盗賊団を二人で捕まえるとハヴァン王の眼前で大見栄を切ったアイルはアイラと共に城下町を歩いていた。大見栄を切ったからには必ず成し遂げたいという気持ちが湧くアイルはやる気が燃え上がっているが、反対にアイラは不安で一杯だった。
「絶対に捕まえて見せるぞーっ!!」
「ほんとに大丈夫なのかなぁ……それに何処に居るのかも分からないよ」
「うっ、確かに肝心のアジトが分からないや」
一番の問題点を何気なく呟いたアイラだがアイルはその盲点に歩みを止めた。
捕まえる以前に盗賊団の隠れ家の場所が不明なのでどれだけ頑張っても捕まえる事は根本的に不可能で、何も考えずに大見栄を切ったアイルにアイラは心なしか頭を抱えてしまう。
「ハヴァン王が言うには盗賊はこの国から出てないみたいだから近くにアジトがあると思うんだよ」
「うん、それに森や荒野が一番アジトにしやすいってお爺ちゃんが言ってたもんね」
「関所は通れないと思うから今日は宿屋で一泊しようよ。夜も遅い頃だし」
「ハヴァン王もきっと関所が通れないようにしてるもんねきっと」
今ある情報とグランから培った知識で居場所を特定していこうとする双子。さらに関所を通過してコルネット国領へ行く事も難しいと予測されるので一先ず今日はもう遅い事もあり再び昨日と同じ宿屋に宿泊しようとアイルが提案した。他国に逃れられると国の信用問題に関わるので関所には厳重な警備がされているだろうとアイラも同じ考えに至っており賛成した。
流石に二日目は値段を半額にしてもらえる事はなかったが他の宿屋と比べて安い事もあり金銭面に不安を覚える双子には充分で布団も悪くなく庶民的な二人には丁度合っている。
「この地図を見る限りでは森の方を探索してみるのが良いのかもしれないよ。えっと西ファゴットの森かな」
「う~…森なんだ。虫とか一杯、やだな……」
ファゴット城下町より西に十数km先の進むと点在する森林地帯が一番怪しいとアイルが推測するとアイラは強い拒絶感を抱いた。それは森の中には生理的に受け付けない虫が多々生息しているからだ。ゴブリンやリザードマンみたな魔物より余程アイラの天敵の部類に入る。特に蜘蛛など見ただけで気分を害する程で、森が近くにあった事もあり余計にトラウマになっている。
逆にアイルはアイラみたいに虫が嫌いではなくカブトムシの幼虫から育てていた事もあるが、それに関してアイラと大喧嘩した事も以前にはあった。
「聖水買ってるからあんまり近付いてくる事はないよ。それじゃ、明日の為にしっかりと眠ろう!」
「そうだけど…ぅぅっ、すぐに盗賊が見付かりますように……」
朝早くから西の森林地帯を探索する事に決めた決めると双子は布団を被って寝入った。アイラは寝る前にすぐに盗賊が見付かるようにと祈りながら眠る。
盗賊には怖いという気持ちを抱いてはいるものの気持ち悪い虫に出会うより断然マシだとアイラは思っていた。
※
朝方は少しばかり冷たい風が双子の肌を通り抜ける。朝早くに起きたので眠気が残っており二人とも目を擦ったり大きく欠伸をしている。荷物は宿屋に預けており双子は武器と最低限の道具だけを用意して探索に行こうとしていた。
「それじゃ盗賊を必ず見付けるぞー!」
「お、おー……」
アイルと比べるとやはりアイラは憂鬱ではあった。そもそも嫌悪する虫がいる場所に誰が好き好んで森に行くのだろうか。もっとも関所を通るという目的とアイルが一緒でなければアイラは全力で逃げていただろう。
西の森林地帯までは約十数km程度なので双子はのんびりと向かう事にした。急いで向かい無駄な体力を使うよりも普段のペースで体力を温存させていた方が余程効率が良いからだ。肝心な時に動けなくては意味も無い。
草木が盛んに生い茂る森林に到着するとアイルは何の躊躇いも無く足を踏み込んで行く。そんなアイルを見てアイラは慌てて追いかける。
「森の中は空気が美味しいよね。水も他と比べて凄い潤ってるし」
「そうだけど…虫がいるから嫌い」
「そっか、アイラはカブトムシの幼虫とかも嫌いだもんね」
「だって気持ち悪いもん……。ミミズとか毛虫とかにょろにょろしながら動いてるもん」
盗賊を探しに来ている双子だが昔の話で花を咲かせていた。アイラはアイラで頬を膨らませて動き方が気持ち悪いと嫌いな理由を教える。
「シャァァッ…!」
「話してる傍から蛇が出てきたね。蛇って魔物も殺せる生物なんだよね毒を持ってたりするから」
「そ、そうだよ…即効性の強い毒を持ってる蛇も居るから…って、そんなぁ」
別の方角に逃げようとしていたアイラは困った表情を見せた。既に双子は同種の蛇に逃げ道を塞がれており今にも飛び掛かってきそうな勢いであったのだが一番最初に攻撃を仕掛けたのはアイルだった。容赦なく蛇の口を剣で突き刺していた。咬まれれば猛毒を受ける可能性も否めないので先に動いたのだが、殆ど一瞬の内に倒していた。
「蛇に咬まれると痛いから先に倒す」
二年ぐらい前に蛇に咬まれた事があるのでアイルは蛇に全く情けをかけずに斬り裂く。斬った箇所からは気色悪い紫色の血が飛び散ったりするがアイルとアイラは蛇を全滅させようと戦闘へと雪崩こむ。
「敵が多いのなら…これが一番」
「おおっ、全体攻撃も出来るんだね」
青白く輝く矢を一発だけ上空へと放ったアイラ。すると一本の矢は弾けて無数の矢の雨と化して数体の蛇へと降り注ぐ。速度や威力もあるので蛇を倒すのは簡単だった。さらにほんの一瞬あれば無数の矢を生成出来るのでアイルは感激していた。
アイルもアイラの攻撃に関しての知識はゼロなので全体攻撃が出来る事に驚いていた。
「今の魔法じゃないんだよね。たしか魔法を放つ時は魔法陣が展開されるってお爺ちゃんが言ってた気がするもん」
「そうだね、私のは魔法じゃないよ、詳しくは分からないけど……」
アイラの攻撃方法は魔法とは違う工程をしているのだがその理由はアイラ自身も分からないと言う。
魔法を使う時は人が持つ魔力を消費して放つのだがその際に必ず足下に魔法陣が展開されるようになっている。どのような魔法かは使用した本人しか分からないが魔法を放つ予兆としては相手から認識されやすく対策をとられる事が多いのだが、アイラにその工程が一切ない。無論、アイルとアイラにも魔力を内包されており向上させようと訓練すれば伸ばす事は出来る。もっとも魔法は勉学の領域にも近いのでアイルは不得意だ。
蛇を退治し終えるとさらに森の奥地へと進んで行くと小川があり双子は一先ずここで休憩する事にした。手頃な石に腰を下ろして靴を脱いで足を川に浸ける。
「ひゃ~、冷たくて気持ち良いーっ!!」
「ここは良い休息場所……。アイル、盗賊の人…だよね…倒れてるけど」
「えっ!? あ、ホントだ。なんで倒れてるんだろ」
少し離れた地点には盗賊団の一員だと思われる者が倒れていたのをアイラが見付けた。何故、盗賊がこの場で倒れているのか不思議に思い双子は倒れている盗賊に近付く。
「この人怪我をしてる……魔物とかに襲われたのかな?」
腕や足に怪我を追っている盗賊団の一員を見てアイラは止血し包帯を巻く事にした。盗賊を捕まえにきた筈なのだがそこは深く考えては駄目だろう。
「う~ん! どうなんだろうね魔物も結構出るから、それはないとは言えないけど」
だが魔物に負ける程弱くは無い筈だとアイルは感じていた。盗賊というぐらいなのだから少しは戦闘能力は持ち合わせている筈ではと認識していた。アイラが止血をしていると盗賊団の一員は目を覚ました。
「ううっ……」
「あ、起きた。あの…大丈夫ですか…?」
「お、お前達は一体?」
このような森林地帯に何故子供が来ているのか不思議に思い首を傾げてしまう。
「あ、私達はちょっと…。あのなんで倒れてたの……?」
「そ、そうだ…お頭に伝えにいかなければっ!!」
「追いかけるよアイラ!」
「で、でもこの森になにか居るんじゃないの…? こんなに慌ててるんだもん」
「そうかもしれないけど折角のチャンスだもん!」
さすがに盗賊を捕まえに来ましたとは言えないアイラははぐらかせながら倒れていた理由を聞く。
倒れていた理由をアイラに聞かれると思い出したかのように立ち上がり例も言わずに盗賊団のアジトがあるようでアイルとアイラは急いで子供用の皮ブーツを履いて追い掛ける。長く育った邪魔な枝を剣で斬り払いながら進んで行く。
追いかけ続けると大きな岩場が多い場所に到着した。地面には雑草が生えているものの森というには少しばかり違っていた。さすがに森の中みたいに蛇や蛾みたいな蝶は出現せず、盗賊団の一人が岩場の一つに空いている穴へと向かう。
「頭、大変だ!」
「ぁあっ? いったいどうしたってんだ?」
「森に化け物みたいな蜘蛛が現れたんだっ! あれは危険だ!!」
酒をの瓶を持っている盗賊団の頭に説明をする盗賊。
それを影からこっそりと双子は聞き耳をたてていた。そして盗賊の一人が言葉にした化け物みたいな蜘蛛をつい想像してしまう。
「あんまり出会いたくないね。想像したら鳥肌がたったよ」
「絶対に会いたくない…気持ち悪い…」
想像してしまい流石のアイルも気持ち悪さに鳥肌がたっているのだが、双子が居る場所は盗賊のアジトなわけで、つまり他にも盗賊の一員が居る。
「餓鬼が何しに来てんだよ」
「知るかよ。森の中に入って迷い込んだじゃねえの?」
そして当然の様に双子を中心に盗賊が集まって行き、一先ず逃げようとするも物影からぞろぞろと現れてくるので双子は冷や汗をかく。
「これって…ちょっとヤバいんじゃないのかな?」
「ちょっとじゃなくて…かなりだよアイル」
十数人の盗賊達は男ばかりで構成されており年齢は十代後半から四十代とバラバラである。とは言え不利なのには変わりなくアイルは鞘から剣を抜き、アイルも弓を構える。
「ほう餓鬼の癖にいっちょまえに良い剣を使ってるじゃねえか。それをこっちに渡せ餓鬼」
「えー、やだよ。だってボクにしか扱えない剣なのに」
盗賊というだけあって物の品定めのスキルは高くアイルの持つ剣が高価な物だと判断し寄越すように命令する。だからと言ってアイルが素直に渡すわけも無く、さらに誰も扱えないと言い加える。
「なんだとっ!? 餓鬼が扱えて俺が扱えないだとふざけた事を言いやがって!!」
さすがに子供から馬鹿にされたような物言いを言われれば頭にくるだろう。さらに盗賊なのだから普通にスルーする事はなく勢い良く殴りかかった。
殴りかかってきたのでアイルは反射的に素早く剣を振り盗賊の首筋に切っ先を近付けた。もしもこれが初めて振ったのであればアイルは上手く制御出来ずに首を斬っていただろう。さらに兵士よりも遥かにレベルの高い一振りに盗賊達は驚き固まってしまう。
「な…にっ?」
「ボクだって戦えるんだから子供だからって舐めないでよね。それじゃ、アイラ一旦逃げよう!!」
「そ、そうだね! ここじゃ不利だもん」
「ちっ、待て餓鬼どもっ!!」
戸惑っている隙に双子はその場から急いで逃げだした。向かう先は森の中であの場所ならば隠れる事もあるので迷わず双子はそこを選んだ。当然、盗賊達も追ってくるのだが双子の方が通りやすい道も多々あるので非常に逃げやすい。
「くそーっ…盗賊の頭だけを連れていけば良いのかな?!」
「分からないけど今は逃げながら対策をたてようよ。全員を連れて行く必要はないだろうし無理だと思う……」
一応捕えた時の紐は用意してあるが流石に十数人もの盗賊を拘束する事は出来ないので逃亡しながら対策をたてようとアイラが提案する。
「げげっ、全員できてるよ!?」
「ど、どうしよう…全然思い浮かばないよ…ってアイル前を見て、あぶ…ぁ……」
「ぶへっ!?」
走りながら後ろを向くと怒涛の勢いで盗賊達が追い掛けてきておりアイルはげんなりとした表情を見せ、アイラは何も良案が浮かばない事に焦りを覚えていたが後ろを向いているアイルに前方の注意をしようとするが既に遅かった。注意しようとした時には遅くアイルは思いっ切り樹に激突しそのまま仰向けに倒れ込んでしまった。
「だ、大丈夫アイル!?」
「は、鼻打った…い、いたいーーーっ!!」
結構な速度で駆けていたので激突すれば相当痛いだろう。寧ろ鼻が折れない事の方が余程運が良い。
だが盗賊は既にその場まで来ており追い付かれてしまい、アイルは鼻を左手で押さえたまま立ち上がり剣を構える。
「鬼ごっこは終わりだ餓鬼ども。その武器を置いていけば痛い目に遭わずにすむんだぞ?」
「そういうこった。お前達だって痛い目には遭いたくないだろ」
「うぅっ……」
今度は逃がさないように双子を囲んでいく盗賊達。へらへらと薄気味悪く笑っているの盗賊を見てアイラは身が拘縮してしまい動けない。アイルはなんとかしようと柄を握る力が強くなっていく。
とにかく戦おうとアイルが足腰に力を入れようとした時、衝撃音が響き幾つもの木々が薙ぎ倒されているのが分かった。特にこちらに近付いているのは微かに振動する地面から把握する事が可能なので皆の視線は一点に集まる。そう、嫌な予感しかしないのだ。
「な、なんだかすげえ嫌な予感がするんだけど」
「お、お前もか…? 俺もだよ寧ろ嫌な予感しかしねえよ!」
強盗を主にして生きていた盗賊が嫌な予感しかしないと口にして双子は互いに顔を見合わせる。
「な、なんだろうねアイラ」
「ただ凄い大きな物がこっちに来てるよね……」
地面を微かに揺らせる程に大きな生物だという事は誰にでも分かる事だった。
そして振動がより激しくなり視覚出来るようになると盗賊達は言葉を失う。それは双子も同じで先ず足らしきものでも大人よりも大きくそれが何本もあり色は灰色っぽいが気持ち悪い。
「か、頭…コイツです…コイツが例の蜘蛛っす!!」
「ば、化け物だろっ!? こんなの倒せるわけねえだろ!!」
そう盗賊団の一人を襲った巨大な蜘蛛である。頭部と腹部に境界はなく脚の数は八本で鋏角は鎌の様で先端は尖っているがこの大きさだと一撃でも受ければ体を串刺しにされるだろう。腹部は袋状になっており毛が生えているのだが正直気持ち悪い。さらに巨体という事もあって気持ち悪さが跳ね上がっており、盗賊団は皆顔を青褪めていた。
「これが盗賊の言ってた蜘蛛なのか。こんな大きさ見たことないや、めちゃくちゃ気持ち悪いけど」
「あわわわっ……これは夢…夢だよねアイル?!」
「えっ、夢じゃないと思うけど」
「うわぁ~んっ! 気持ち悪いよ~……」
盗賊の話に出てきた蜘蛛なのかと納得しながらも気持ち悪いと正直に発言した。隣のアイラは完全に戦意を削がれており今にも泣きそうな程である。