第7話
更新ペースは一週間に一度ぐらいですね。私の気分によって全く違うと思いますけど。
今回はアイラが初めて攻撃しますがこれがアイラの特別な力です。まだその本質は全て出ていないですし、書いていませんが物語の中盤ではその本質を描こうとは考えています。そこまで後何ヶ月掛かるのか不明ですけども!
さて、今回も皆さまの暇潰し程度になってくだされば幸いです。
一日かけて山奥の村からファゴット王国の城下町へ移動した双子は一般的な宿屋で一泊し夜が更けた。
ふかふかのベッドの上で熟睡しているアイル。既にアイラは起床しており洗面台で身だしなみを整えている途中であった。冷えた水で顔を洗いいまだに残る眠気を払おうとしていた。
「あんまり眠れなかった…けど旅をしてるから大丈夫かな」
毎日使用していた布団や枕とは違うので早起きしてしまったが旅をしているので早く目覚めて正解だったと思いながら熟睡しているアイルへと視線を向ける。何時でも何処でも安眠出来、今回も起こさなければ寝
っぱなしだろう。
朝早くから行動すれば出来る事は格段に増すのでアイラはアイルの体を揺すって起こそうとする。
「起きてもう朝だよ」
「むにゃむにゃっ…ふわぁ…どうしたの?」
「早く顔を洗ってご飯食べよ。町を探索するんでしょ?」
「あっ、そうだった! 急いで準備しないと!!」
アイラに起こされてアイルは両目を擦って欠伸をしながら首を傾げるとアイラが町を探索をしないのかと言う。すると思い出したようにアイルは飛びあがって洗面所へと向かっていった。
そして整容を終えると双子は荷物を持って部屋を出て一階の食堂へと足を運んだ。食事はバイキング形式で他にも宿屋で宿泊していた客もいた。食べる時は荷物を置いているが他の宿泊客はアイルが持つ剣に視線が皆いっていた。子供が持つにはあまりに立派で何故、子供が大層な武器を持っているのかと気になっている。
「子供があんな武器をなんで持ってるんだ…?」
「良家の息子じゃないのか。身なりはそうは見えないけど」
騎士の家系に生まれ将来王国を守護する事を夢みた少年なのかと思う反面、服装は田舎くさくとても良家の子供には見えない。勿論、双子はそんな大層な生まれかどうかも不明なままではあるが。
周囲からの視線や小言を全く気にせずアイルはスクランブルエッグやベーコン、中に塗られているバターパンをお皿に置いて荷物を置いている椅子に座る。向かい合うようにアイラも椅子に座って手と手を合わせる。
「「いただきまーす」」
昨日は夕食もとってないので双子は結構お腹をすかせており量も多い。朝食を食べながら双子は次は何をするのか話し合っていた。
「道具屋に行ってこの大陸の地図を買わないと迷うよね」
「この大陸には二つの国があるんだっけ? ファゴット王国とコル…なんだっけ?」
「コルネット王国だよ。関所を挟んでるけど国同士は仲は悪くないんだよ。でも最近はコルネット王国はごたごたしてるみたいだけど」
「へえー! アイラはよくそういうの知ってるね」
「先生が現代史で教えてくれたよ。アイルは何時も寝てるんだもん」
山奥の村の学校とは言えきちんとした知識は教えられているのだが居眠り常習犯だったアイルはあまり歴史について詳しくない。逆に成績優秀なアイラは詳しい。
この大陸にはファゴット王国とコルネット王国の二つの国があり関所を挟んで互いの国の交流を深めている。しかし、最近はコルネット王国内で問題がありピリピリしているという噂がたっておりファゴットとコルネット両国の関係も以前に比べて希薄化している。もっとも双子にとってとても難しい問題なのでこれ以上の詮索はしなかった。国について話しているとアイルが珍しく大切な事に気付いてアイラに聞く。
「そう言えばさどうやってお父さんとお母さんを探せば良いんだろ!? 見た目とか全然知らないよボク!」
「全然考えてなかった……」
それは両親を探す方法だった。様々な国に足を訪れれば僅かながら両親の情報が手に入る可能性がある。もっとも双子が持っている両親の情報は“アイルが所有している剣に類似した剣を所有している男性”という情報の一つだけでこれも憶測の域を出ない確実な情報というわけではない。故にどうすれば良いのか分からず手詰まりである。
つまり双子の両親探しは前途多難、無理難題に近い状態。とは言え両親を探す事だけが目的ではなく世界を見て回る事も大きな目的の一つで見付からなくとも成長出来る、そう祈りグランが旅立たせた。
「やっぱり聞きこみが一番なのかな…う~、知らない人と話すの苦手なのに……」
人見知りがあるアイラにとって聞き込みが一番苦手な事なので憂鬱になっていた。
「ボクが一緒に居るからだいじょうぶだよアイラ!」
「けど旅をしてるから…頑張る」
「そっか頑張るのなら応援するよ! ごちそさまー」
「ふええっ!? もう食べ終わったの!?」
困っているアイラを見てアイルは頼りにしてと胸を張って言うがアイラは頼ってばかりでは成長出来ないと思い頑張ると答えた。やる気になっているのでアイルは何も言わずに応援すると伝えて同時に朝食も食べ終わっていた。まだ半分は残っているアイラは驚嘆としながら食べるペースを速くした。
※
宿屋を出た後に双子は町を探索しながら道具屋に立ち寄った。必要最低限の道具を買いに来ていた薬草や魔物が寄らなくなる聖水を買いに来ていた。ただし聖水は効力もまちまちで絶対に効くようなものではないのであまり多くは買わないで一番高い地図を買う。
「これくらいで大丈夫かな。でも、これも欲しいよ」
「買い過ぎても重くなるだけだから。それに一番は地図だよアイル」
「だって他の道具も見てみたい! 山奥の村にはない物だってあるんだよ?」
羊皮紙に描かれた大陸の地図を買う事が道具屋での目的なので不必要な物は買わないようにしているのだが、山奥の村では見ない道具もあるので買って試したくなる衝動に駆られるアイル。しかし、金銭面では決して余裕があるわけではないのでアイラはアイルが手にしている不必要そうな道具を見て駄目だと言う。
「それは煙玉だよ。魔物から逃げたい時に使えば逃げれる確率が上がるそこそこ優れモノ」
「これ買ったら駄目?」
「もう……それじゃ一つだけだからね買うの」
「やったー! 大事に扱うからね!」
アイルが持っている道具の説明をする店主。煙玉と呼称されている道具は逃亡の確率を飛躍的に上げる道具で欲しいと言うアイルに負けてアイラは一つだけ買うのを許した。買ってもらったアイルは嬉しそうに革袋にしまい込む。
「毎度あり。道中では魔物には気を付けるんだよ」
「はーい!」
「ありがとう、ございます」
薬草類やカンテラ、地図など旅に必要な道具を揃えた双子は道具屋を出た。
夜の城下町とは違い双子と同じ年代の子供同士が走り回っていたり犬の散歩をしている老人が多くみられ商人が声を出して客引きしているのも聞こえる。しかし、既に武器を持っているので双子は余計な物を買わずに済んでいる。
城下町の広場で椅子に座って大陸全体の地図を広げて双子は見ていた。地図の上部分にはセレナーデ大陸と記載されており国の名前と町の名前が描かれている。
「う~ん…ファゴット王国ってそんなに大きな国じゃないのかな。山奥の村とこの城下町ぐらいしかないよね」
「元々、ファゴット王国とコルネット王国は元々一つの王国だったんだよ。だけどずっと昔に滅びて二つの国になったのが今なの」
「そうなんだー。国って繁栄してもいつかは滅びる運命なんだね」
ちょっとした国の歴史をアイラから教えてもらったアイルは納得していた。もっとも理解したのかどうかは別問題である。
「それじゃ関所に通ってコルネット王国に行ってみる?」
「でもお父さん達の事を誰にも聞いてないよ?」
「だってボク達はお父さんたちの顔とか全然知らないじゃん」
「……うん、確かに」
町の人達に両親の事を聞かないのかとアイラに指摘されるもアイルは両親の詳細を知らないと語る。それを聞いたアイラもまた本当の事なので言葉に詰まり頷いてしまった。
情報を持たない双子は町を一旦出て東の関所へと向かう事にした。道中は整備されているらしく関所までは今までと同じ一本道だが剣を装備した人型のトカゲが三体現れて双子は臨戦態勢に入った。リザードマン魔法を使う事はあまりなく人間よりも優れた身体能力ぐらいが特筆した点だろう。
「三体なんて卑怯じゃん! ボク達は二人しか居ないんだよ!!」
「グッ!?」
数は一人分足りずにアイルは卑怯だと喚きながらも先に攻撃を仕掛けていた。リザードマンよりも瞬発力が高く剣で攻撃する前に一体のリザードマンの足を蹴り転ばせていた。さらに転ばせたリザードマンの腹部を足場にして高く跳躍し距離を取る。その時には空色に輝く数本の矢が放たれており残り二体のリザードマンを襲っていた。空色の矢リザードマンの肩や腕を貫いておりその痛みで雄叫びを上げている中、アイルは容赦なく剣を振り下げた。
「このっ、邪魔するなよ!」
「アイル、危ない!」
転ばせていたリザードマンに邪魔されたアイルは鍔迫り合いを行いながら邪魔するなと文句を言いながら押し倒そうとする。残りのリザードマンもアイルを狙いサーベルを大きく振り翳して殺そうとしているがそれを見てアイラはさらに圧縮された一本の矢を生成し放った。その速度は非常に速く瞬く間にリザードマンを貫きその速度を保ちリザードマンを貫いたまま数m先まで飛ばす程であった。
それを見てアイルは凄いなぁと口を開けアイラの攻撃を感心しながらリザードマンと斬り合っていた。もっともアイルが優勢で金属音が鳴り続けていたがアイルは一歩後ろに下がり距離を取るとリザードマンは追うように一歩踏み込んできた。それを待っていたかのように今まで攻めだった攻撃から流す攻撃へと切り替わりリザードマンの斬撃は空を切った。隙と言わんばかりにアイルはリザードマンの胸部を突いた。
「魔物って集団できたりするんだね~」
「囲まれたら危険だよ……今回は運が良かったね」
魔物を倒し終わると集団で出現してきた事に驚いた事を話していた。決して凶悪な魔物ではないので安心出来る部分はあるが集団でこられるやはり厄介なもので今回は囲まれなかったのは運が良かったとアイラは胸を撫でおろした。
その後も魔物と何度か遭遇し戦闘したり逃亡しながらも双子は目的の関所へと向かう。
関所はそれ程立派なものではなく川を挟んでいるので石橋を渡る必要があるのだが双子は特にアイルは不満そうに兵士を見上げていた。
「なんで通してくれないんだよー! 別に良いじゃん関所を通るぐらい!」
「駄目だ駄目だ。王様から許可を得た者や行商人だけが許されているのだからな」
「そんなぁ、コルネット地方にも行きたかったのにー!!」
関所を通れば未知の地方だという期待は裏切られアイルはぶうたれていた。関所を通り抜けるには王様の許可が必要でそれを持たない双子は通る事は許されない。
「仕方ないよアイル。一度ファゴット王国に戻って王様から許可を貰おうよ」
「むうっ……分かった」
文句を言っても通る事は出来ない事を悟ったアイラは王様から通過の許可を貰おうとアイルに説得する。アイルは不満そうに口を尖らせたままだがそれ以外に方法がないので素直に関所を後にした。
※
関所を通過する事が出来なかった双子はファゴット王国に戻って来た。だが、夕暮れ時を過ぎているので流石にもう会えないのではないかと双子は思っていた。そもそも双子は一旅人でなおかつ子供なので大人の旅人と比べると国王と謁見出来る確率は極端に低くくなる。それ位はアイルでも容易に察する事が出来る。国王の仕事は非常に大変なものなのだから旅人にはそうそう会わない。否、会えない。なにせ門前払いにされたのだから。
「どうしよっかアイラ」
「兵士さんに聞いてみるのが一番。予約すれば一ヶ月後ぐらいには会える筈だもん」
「一ヶ月!? 王様ってそんなに忙しいのかぁ、そんなに待てないよ~」
「そうだけどやっぱり仕事とかあるんだよ」
一ヶ月という期間にアイルは自分の耳を疑い、そんな長い期間はいくらなんでも待てないと愚痴を零す。アイルの気持ちも分かるが王様の仕事は想像以上に大変なのではないかと思うのでアイラはアイルのように愚痴は言わなかった。
談義をしていると突然、扉が乱暴に開く音がした。少し離れた大きな屋敷。そこから屈強そうな男達が集団で出てきた。あまりにも急な出来事に双子は歩くのを止めてその場所を黙って見ていた。すると城下町を警備していた兵士達が男達を追い掛け始めた。
「どけどけえっ! 道を塞ぐんなら容赦しねえぞおおっ!!」
「金品は全て俺達の物だああ!!」
「「「お前達、止まれっ!!!」」」
「な、なんだろ急に!? っていうかあの人達はなに!?」
「賊…だよ。怖そうな人達だもん…!」
「って、こっちに来てるじゃん!」
唐突な事件に双子は道のど真ん中に立っていたのだが双子が立つ道は城下町の出入り口がある通り道だ。そして、賊は双子が突っ立っている場所に向かって走ってきている。それに気付いたのはアイルでアイラの手を握ってすぐに横へと避けた。
もう少し反応が遅れていれば二人とも賊たちに巻き込まれていただろう。壁側に避けていた双子は賊と兵士の言葉を聞きながら見ていた。
「あぶなかったー! 丁度ボク達が戻って来た頃に事件が起きたんだね」
「うん…あのアイル。もう、離しても大丈夫だよ…」
「あっ! ごめん苦しかったよね」
「そ、そんな事ないよっ! それになんだか嬉しかった……」
「えっと最後が良く聞こえないんだけど」
「き、気にしなくて良いの」
自分達が関所に向かって帰って来た頃に強奪事件があったんだとアイラに言うと頬を紅潮させていたアイラが離しても大丈夫だと言葉にした。アイラが頬を紅潮させているのはアイルから抱きしめられているという形になっているからで、それに気付いたアイルは謝りながらアイラを離した。もっともアイラはそんな事はないと言い小声で寧ろ嬉しかったと述べるがアイルには聞こえておらず首を傾げられる。