第49話
半年。はい、半年です。
何も言いません。言えません、申し訳ありません。
稚拙な文章ですが読んでくださる方がおられるのであれば、どうぞ宜しくお願いします。
一触即発の空気が漂うイースの一室。
そこには憤怒に染められた獣人がおり、アイル達にただらぬ殺気を漲らせながら鋭利な目付きで睨む。それを受けているルキナとザザは僅かに体が恐怖に震えており、ザザはせめてルキナが落ち着けるように右手で左手を握り安心させようとしていた。
だが、そんなイースに動じる事のないアイルとキリエの二人は表情を崩さず対峙し続ける。
「ど、どうすんのよこれ……!」
「死ぬ、んじゃねえのかなこれって」
今更だが漸く自分達が立つ状況に固唾を飲むルキナとザザの小さな声が漏れた。アイルよりも年齢は上と言っても二人はアイルのように戦うことなど不可能。つまり、アイル達にとっては邪魔以外の何者でもない。
イースが醸し出す戦意に呑まれているルキナとザザを見て、イースは笑うだけ。
そんなイースを見たアイルは右足に力を込め踏み込もうとした瞬間、その子供の小さな体がイースの方ではなく右真横へと吹き飛ばされた。あまりにも突然の出来事にキリエ達は目を大きく見開き、吹き飛ばされたアイルを見る。
「い、今のは!?」
そこには壁に叩きつけられ左横腹に触れて周りを見回すアイル。自分に巻き込まれた警備兵を除けば部屋に居る人数は変わっていない。それなのに自分の状況に頭を悩ませるアイルは巻き込んでしまった警備兵に軽く謝りながら立ち上がろうとする。
「ぶはあっ!?」
激しい打撃音と共にアイルはさらに壁の外側へと吹き飛ばされた。壁は簡単に壊されてアイルは瓦礫と共に屋敷の外へと落下していく。
あまりにも突然の出来事。アイルの顔面が何者かに攻撃された瞬間を目撃しアイラは小さな悲鳴を上げて口を両手で塞ぐ。キリエは数本のタガーナイフを素早くアイルが吹き飛ばされた場所へと投棄する。
(何者かがアイル様を攻撃したのであれば何かしら行動をするはず)
投棄したナイフは何事もなく部屋の空間では何も邪魔されずに壁へと突き刺さる。しかし、その瞬間にキリエは小さく笑みを浮かべた。
(なるほど――魔法ですか。ここは一度、身を引いた方が懸命そうですね)
小さな音。そう、集中し気にしなければ聞こえないぐらいの些細な砂利音。
それを確かにキリエは聴いていた。確かに何者かがアイルに攻撃を行っていたという確信が持ち、魔法だと言うことを見抜いたが魔法を使用している人物がこの場に居ないと判断し、この場から離れようとする。
(逃げる先は外ですかね。たしか芝生でしたね)
視線の先はアイルが落ちた先も手入れされた庭園。だが、アイルが強行突破してきたせいでその庭園も半壊していて見る影もないが、だからこそキリエにとって都合が良いのかアイラを片手で抱える。
「ふいっ!? キリエさん!?」
「アイラ様、ルキナさん達を連れて外へ逃げるので援護を任せても大丈夫でしょうか?」
「え、援護ですか? だ、大丈夫ですけど」
「ありがとうございます。ここでは少々戦いにくいので――っ!」
周りに聞こえないよう小声でアイラに援護するように伝えているとイースが先にキリエへと飛び掛ていた。
急接近してくるイースに、目を見開き小さな舌打ちをしてキリエはアイラを片腕で抱えたまま後退し避ける。
「やはり逃がしてはくれないのですね?」
「ふん、貴様のような打算的な女は嫌いでな? この手で汚したくなるわ」
「あら、そうですか? 私も子供を殺してまで上を目指す弱い男は嫌いですけどもね」
煽り合いをするキリエとイースの間にいるようなアイラは冷や汗を僅かに額から流して気付く。
(ルキナさん達がここにいたらキリエさんは守りに入ってるんじゃ! それじゃあ、私が誘導した方が良いのかな……)
ブルゴーニュを初めて訪れた時にキリエ本人が自ら好戦的な部分があると称していたが今はどうだ。周囲に気を配れば、キリエは自分を抱えてルキナとザザから距離をあまり離さないよう立ち回っているだけで攻撃という攻撃をしていない。
しかも、あれからアイルを攻撃した見えない何かからの攻撃すらない。
(アイルの方に行ったのかな。きっとアイルがさっきのはどうにかするから、私は――うん、それしかないよね)
音沙汰もないのであればアイル方に狙いをつけたと判断し、自分が出来る事を考えたアイラは少し迷うが決意する。
そして、表情を変えずにイースの攻撃を捌くキリエへと視線を向けて口を開く。
「キリエさん、私を下ろしてください」
「え? わ、分かりました。しかし――なぜ急に?」
「こうするんです!」
刹那、天井に近い付近に拳三つ分程の蒼白い光球をアイラは発生させる。誰もがアイラの行動に釘付けになっていると、蒼白い光球は弾け兵士達に光子で生成された矢が掃射される。
蒼白い光球の真下にいるアイラ達は巻き込まれることはなく、巻き込まれるのは警備兵達ぐらいだ。イースは舌打ちを一つしてアイラが光子で精製された矢を避け続ける。それを見たアイラはキリエに自分の考えを告げる。
「キリエさんはイースを頼みます。私はルキナさん達を避難させるよ、その途中で多分、四獣に会うかもだけど心配はしないで」
「貴方が私達を避難させるって……たしかに凄いことをしてるけど」
「先程の攻撃を見れば四獣にも恐らく勝てるとは思いますが――ですが、本当に良いのですか?」
突然の発言に驚いたのはキリエよりもルキナ達の方であった。当然だ、自分達よりも年齢が明らかに下のまだ青年にも当て嵌らない程の子供が、と不安を感じるのも仕方がない。
だが、キリエは二人よりも納得はしていた。納得はしていたが本当に自分がイースに戦っても良いのかという小さな疑問を抱いていた。
「良いんだよ。油断してイースと戦えなくなったのはアイルのせいだもん、それに四獣だって数が多いし喜ぶと思う」
「それもそうですね。四獣で我慢してもらいましょうか、世の中にはまだまだ強者も居られますし、ねアイラ様?」
「えっと、その微笑みは一体? とても期待されている感じがするよ!?」
アイルには四獣で我慢してもらうと考えているアイラにどこか可笑しいのかキリエは頬を緩ませる。
そんなキリエの微笑みに何か意味を感じ取ってアイラは縮こまる。期待をされていると、期待をされるのは嬉しいがやはりアイラの性格上、期待されるのはとても胃が痛くなる思いである。
「あ、そろそろ行くね。キリエさんは無理したらダメだからね? それじゃ、ルキナさんとザザさんは私に着いてきて」
「ちょっ、待ちなさいよ!」
「これで良いのか本当に?」
話している間も続くアイラの攻撃に警備兵達の足や腕には裂かれたような創傷を残していく。イースは紙一重に避けてはいるがただ鍛えただけではとても回避出来る掃射速度でもない。それを話しながら見ていたアイラは話を切り上げて、誰もいない通路の方へと向いてルキナとザザに先導するように駆け出す。
アイラが放った攻撃はアイラの方へと掃射される事はなく、駆け出したアイラを見て慌てて追いかけるルキナとザザはやはりどこか納得はしていなかった。
光子の矢によって部屋には小さな穴が幾つも残り、壁も破壊されており外の景色を眺める事が出来る。
その部屋に立つのは獣人イースと吸血鬼キリエの二人だけで矢の雨は止んだ。それは発動者であるアイラがこの場から去ったからで、キリエは微笑みを崩さずにいた。
去ったアイラを黙って見続けていたイースは残虐な顔を見せる。
「まさか小娘が特異点とはな。ますます殺す意味が増えたわけだ?」
ただの小娘だと思っていた人物が世にも珍しい特異点だということに歓喜を覚えたイース。それと同時にディオールが双子を狙うのか、その理由も理解出来た。
そして、その理由を理解したのはキリエも同じみたいだった。
「それで私がおめおめと追わせるとでも思いですか? 寧ろ私が貴方を倒す理由が増えただけですよ?」
「ふんっ、口数の減らない女だなっ!!」
最早、問答などなくイースは生意気な態度ばかりをとるキリエに牙を向ける。
警備兵などとは比較にならない四肢の筋肉。その豪腕を受ければ人間など容易く壊れるだろうことは想像しやすい。
アイラの放った攻撃によって倒れこむ警備兵達は固唾を飲んでキリエとイースの動向を見るだけ。
※
僅かに揺れる巨大な屋敷。それでもアイラは足を動かすのを止めない。
「なんで建物がこんなに揺れるわけ? どんな力してんのよあの二人は!?」
「世の中にはまだ強い人が沢山いるんですね。きっとアイルはワクワクしちゃうんだろうな、はぁ~」
巨大な屋敷を揺らすほどの戦闘。恐らくはまだ本気ではないだろうが、常人からすればもう意味の分からない話だろう。ルキナとザザの二人はただ一心にアイラの後を追って走り続ける。
アイラだけは揺れを感じながらアイルが喜ぶのだろうと想像しながら溜め息を吐く。きっと、この先も続くのだろうと。だが、それも決して嫌という気持ちにはならなかった。
「ここまで順調だけど……。少し広すぎだよっ」
とにかく広い。さらに建物自体も5階建てと高さもあるのだ。ただ、普通に走っても外に出るのに時間が掛かる。
特にルキナとザザは一般人でアイラが走る速度を落とさなければならないという制限もある。そのため、アイラは広いと感じてしまっていた。
「ただの旅行者じゃなかったんだな。この子ら」
「み、みたいね。私、もう疲れてきたもの……」
追いかけるも差が縮まることはないアイラとの距離に疲れの色が見え始めたルキナとザザ。いくらレジスタンスのメンバーとして修練に励もうとも、走り続ければ体力は削れる。それ以上にアイラとの明確な差もあった。
魔法ではない事を出来て、身体能力という面だけを見ても少女というには余りにも疑問を抱くもの。
ルキナとザザがアイラの事を不思議に思っているとアイラ達の眼前から大人一人分の氷柱が砲弾のような速度で迫っていた。
「魔法っ! でも、これくらいなら!!」
気づくのが例え遅くとも魔法のように無駄な術式など使わないで対応出来るアイラは焦らずに握り拳程度の蒼白いスフィアを放つ。アイラの放ったスフィアと氷柱がぶつかり合うとスフィアが爆発し、氷柱が砕け散り床や壁を砕く。アイラ達の方へと飛び散った氷の破片は蒼白い障壁で防がれていた。
「うんっ、私の思った通りに発動できてる!」
防いだ事よりもそれは確かな確信を得たアイラはガッツポーズを決めた。
旅の始めは弓を使わないと出来ないものだと思い込んでいた。アイルの剣と同じように弓を紛失してしまったが、フォンニャの野党と戦った際、こういうことをしたいとアイラ自身が想像しただけでその攻撃になったのだ。だが、それはたまたまだとずっとアイラは思い込んでいた。
そして、四獣との遭遇でも同じように出来た。今のを含めてアイラは自由な攻撃が出来るのだと実感を感じていた。
そんなアイラの行動にルキナとザザの二人は目を丸くしていた。攻撃、防御どちらも出来ているのだ。
「この子、凄い……」
戦いなど争い事が苦手そうだと勝手な印象をアイラに抱いていたルキナとザザは今の出来事に目を丸くしてアイラに視線を注いでいた。
すると、女の声が耳に届き三人は声のした方向一点を見つめる。ヒールの足音が聞こえ、すぐに姿が見えた。
「全く騒々しいわねぇ。それに何で逃げてるのかしら」
現れたのは四獣内の一人で妖艶な女性だった。
「騒々しいのは貴方達だよ。何もしなかったらこんな事にはならなかったもん」
しかし、今度は脅える事なくアイラは言い返す。
戦うと決意した目色で視線を外さない。前回は未知の魔法に強制的に眠らされたが次は受けないといった挑戦的な目。それは、戦っている時のアイルに似たもの。
「そんな目は何時まで持つのかしらね?」
「貴方だけなら私でもどうにか出来るから。ルキナさん達は下がっていて」
前回は遅れをとったアイラだったが勝てると確信があり、ルキナに離れるように指示する。
アイラの背はまるでアイルのようで、妖艶の雰囲気を醸し出す女は呆れたように溜め息を吐く。
「はぁ~……貴方みたいな子供って痛い目を見るだけなのよ? 分からないのかしら、貴方みたいなのを馬鹿な子供って言うのよ?」
少し他の者より優れた力があるからそれに過信したようなアイラに呆れる彼女にアイラは一度だけ俯く。
「痛い目に遭う事もないと先になんか進めない。おじいちゃんとおばあちゃんが言ってたから――怖いのとか逃げないことにする。アイルのことを助けたいから、私は貴方と戦うの」
それでもアイラの覚悟は曲がらない。アイラの教養などは殆どが育て親から教わったもので、幼いアイラにとっては教科書のようなものである。
戦うとアイラが明確に口にすると眼前に大きさ真珠ぐらいの無数の蒼白いスフィアを発生させる。その数に眉を顰める妖艶な女性も自身の足元に魔法陣を展開させ、その瞬間にアイラは攻撃を仕掛けてきた。
「なっ!? 貴方のそれは――」
「魔法は魔法陣を展開させないと撃てない。だから、私は魔法を使う相手とは相性いいの」
発生させた蒼白いスフィアを容赦なく音よりも速く撃ち出されたそれらを紙一重に後ろへと倒れて避ける妖艶な女性。一方通行に放たれたそれは曲がり角を問題なく貫いて消えた。だが、アイラのこの力はアイラが想像する事に意味があり、今度は短刀のような物を妖艶な女性の首元に発生させた。
「だから言ったでしょ。魔法使いの人には相性良いんだよ私」
自分の方が有利に立てると証明してみせたアイラはそれ以上の追い討ちは掛けようとはしなかった。ただ、このまま降参してくれるのを待つだけ。そんなアイラに妖艶な女性は目を丸めて呆気にとられていた。
「ふふっ――」
「な、なんで笑うの? し、死にたくないよね?」
「甘いわ、甘すぎる。なんで貴方みたいな娘が戦うのかしらねえ?」
刹那、空気が震えた――
肌に寒気が感じるものでどんな攻撃にも対応出来るように幾つかのスフィアを自らの眼前に準備し迎撃体勢を取る。だが、攻撃する様子は見られず変化するはそう、女性自身にだった。
女性の全身から美しい金糸のような毛が現れ、それは図鑑で見た狐だった。だが、獣人というだけあって二足歩行でどちらかという全身を金糸で覆ったようにしか見えない。
「さてと。それじゃお仕置きね?」
人間態から獣人態へと変化した狐女は起き上がると軽く足に力を込める。その瞬間、アイラが準備していたスフィアを瞬く間に通り抜けてアイラの眼前へと迫った。
「は、速いっ!?」
なんとか捉えた一瞬でアイラは咄嗟に女性の右拳打を両腕をクロスにして防御する。
「無駄よ。獣人化すると人間の数倍以上になるのよ私達はねっ!」
「きゃあああっ!?」
腕の骨が軋む音がした時には体はその勢いに負けており後方へと吹き飛ばされ、強く壁に叩きつけられた。アイラが叩きつけられただけでも壁は大きく歪が生まれていた。
「どんなに力を持っていても倒す気がないのなら何の問題もないわ。それに、温室育ちのお嬢様には分からないわよね? 相手を追い詰めるっていうことを」
壁に強く打ち付け床に倒れ込んだアイラを冷やかな瞳に映す妖艶な女性は批難する。
「やめなさいよ! 獣人がどれだけ優れているか分からないけど、子供相手にそこまでするなんて最低じゃない!」
「そうだ! 誰だって相手を殺めたくないに決まってるだろ、特にこの子はまだ子供じゃないか!」
追い討ちをかけるように魔法陣を自らの足元に展開しひと思いに命を刈り取ろうとする妖艶な女性。それを見たルキナは大きな声で彼女を批難する。
甘い甘いとアイラを批難し続ける女性にルキナとザザは我慢しきれずに反論する。それが尚も気に食わないのか妖艶な女性は鋭い眼光で二人を睨みつけ黙らせる。
「煩いわねえ。殺し合いの中で子供とか大人なんて言い分が通じるなんて貴方達は思っているのかしら? 死にたくなかったら奴隷になりなさい、嫌なら逃げなさい。甘いことを抜かすんじゃないわよ下等生物風情が!」
一喝する美しい女狐。その言葉に反論する事が出来ないルキナとザザは逆に黙り込んでしまう。
そんな女狐の言葉の後に倒れ込んだままのアイラが言葉を吐く。
「そう――だね。死にたくないよ……怖いよ」
「気絶しなかったのね。していれば良かったのに」
ゆっくりと立ち上がるアイラにやや驚きを隠せない女狐は目を細めて見据える。
起き上がったアイラの口元からは赤い血が垂れており女狐の拳打を防いだ両腕は赤く腫れていた。僅かに目元には涙も溜まっており痛みから涙が出たのだろう。やはり、少女に戦闘など争いは向かないと誰もが思えた。
小さな深呼吸をし右腕で涙を拭くとアイラを囲むように守るように無数の鎖が発生する。そして、右手を壁に向けると一つの鎖が矢のように壁へと向かい貫いた。貫く瞬間に鎖の先端は戦斧の刃のような物へと変質をしていた。
「ほんとに特異点っていうのは何でもありなのねぇ」
自由自在に形を創り変える性質をも持つアイラの力に呆れ顔をする女狐とただ黙って見据えるアイラ。
※
「はぁ~っ! 驚いたもんなぁ、急に攻撃されるんだもん」
数m程上の階層から落とされたアイルは服に付着した埃を数度叩いて落とす動作を行う。そして、揺れる屋敷へと目を向けて羨ましそうに言葉を漏らす。
「キリエ良いなぁ。イースと戦えるんだもんな」
やはりアイル本人としては獣人の中でも強者と名高いイースと戦いたかったのが本音だろう。周りの警備兵など眼中にないのかジッと振動する屋敷に目を向けるも、後頭部を右手で掻いて庭園を見渡す。
アイルと一緒に落ちてきた瓦礫が幾つも転がり、小石も辺りに散らばっている。
ザッ――と砂利を踏みつけたような音がアイルの耳に届くと即座に後退する。
「おっととっ!」
後ろへと避けるも相手が見えず、そこからは止まることなく矢よりも速く周囲を駆け続ける。矢の初速よりも僅かに速い速度を維持しながらアイルは落ちた瓦礫の周辺を一心に見続け、ほんの僅かに砂利の音がアイルへと届き、アイルはその場から姿を消した。
「そこだああっ!!」
強烈な打撃音が庭園に響く。まるで砲弾でも直撃したような轟音の発生地はアイルの右足の底が何かを蹴ったような光景のまま固まっていた。
「ぐおおおっ!?」
「ぎあっ!?」
アイルの傍から聴こえるのは大人の悲鳴。同時にアイルもまた右横へと吹き飛ばされ、地面を勢い良く転がる。すぐさまに起き上がり迎撃の構えを取り、周囲に神経を集中する。
「またっ! 見えないのは二人ってわけか。それにしても見えないっていうのは本当にやりづらいな~!」
真っ向から戦えないという状況に悩むアイルは無闇に動こうとはせずに構えだけをとる。
周囲に気を向けながら迎撃体勢となり、くるであろう攻撃に備える。ふと感じられた突風にアイルは唇を釣り上げ―――
腕を振り抜く。
すると視認することが出来なかった相手を視認出来てアイルは軽やかな口調で告げる。
「見えないからって攻撃が出来ないわけじゃないよね。だって、動けば小さな風が吹くんだからさ!」
「がっ!? こ、この糞餓鬼がっ!」
アイルのカウンターをその身に受けたのは細身の男バルカッスの方でその強烈な打撃にアイルの足元に蹲る。そして、アイルとバルカッスより数m程離れた地点に驚き立つのはゴリアスだった。
「へぇ~、そういう事か」
姿を視認出来るようになったゴリアスとバルカッスを交互に見ながら一人で勝手に納得をするかのように小さく頷き、体を捻る運動をし始めた。
「んっ、くっ! よしっ、こっからは反撃だ!」
そして、最後に手首や足首を軽く回し準備運動を終わらせると笑顔で宣戦布告を両者に言い放った。




