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双天のステルラ  作者: なまけもの
変わり始めた世界
48/49

第48話

二度目の謝罪ですね。

また3ヶ月ほどの更新を怠っていました。こればかりは作者の怠慢さが招いた結果です。言い訳のしようもありません。


それでは、48話もどうぞ!!( ´ ▽ ` )ノ

 四獣襲撃から約三時間後に戻ってきたアイルは、ザザから襲撃の件を聞けば今から乗り込むと宣言し屈伸運動などをして体を解す。そんなあまりにも楽観的な姿に顔を顰めていた若者達やルキナの父親は唖然とした。

 話を聞いていなかったのか。そう疑問を抱くぐらいには可笑しな発言と行動をアイルはしていたわけで。

 体側を行っているアイルについ言葉を荒げてしまうルキナの父親。


「君は話を聞いていなかったのか? 獣人が襲撃に来たとザザは言ったはずだが、それとも単に耳が悪いのか!?」


 このままでは、アイルの未来は死という終わり。それしか頭から離れないルキナの父親は説得しようとする。外部から来た子供だ、放っておく事も出来るのだがルキナの父親はそれを許さなかった。


「もちろん聞いてたさ、だからこそ助けに行く。それにこれでもボクはちょっとは強いんだ!」


 きちんと話を聞いていたからこそのアイルの答え。止められるなんて事は百も承知なわけで、それでもアイルの決意は揺らぐこともなくニッと年相応の笑みをルキナの父親に見せる。周りには今のアイルからは緊張感を感じさせないどころか、ワクワクといった風に心躍らせているようにも見えていた。


「な、なあ! お前、本当にあのクレセリア帝国の王ディオールと戦ったのかよ?」


 そんなアイルを見て、少し目つきの悪い若者がアイルに一つ質問をする。

 本当にゴリアスが言っていた事は、真実なのかそれとも偽りなのかそれだけが気になって仕方がなかったのだ。若者から聞かれたアイルは、やはり迷いもなく答えを返した。


「戦ったよ。けど、ボロ負け完敗だった」


 肯定して敗北した事も隠さずに告げて軽く笑う。だが、そこに悲しみなど感じられずに若者達は僅かに動揺を見せる。

 負けた。そう、目の前の少年は負けを認めているのだ。だが、どうだ? その言葉とは裏腹に見せる表情は。


「負けたのに、戦う気なのか!? ボロ負けって事は酷い怪我とかしたんだろ!?」

「うん、したね。結構、寝てたって言ってたけな」


 それでも、笑っているだけ。負けた事に関しては特にそれ以外の感想はアイルから出てくることはなかった。


「さてとっ、無駄話はこれくらいにして急がないとね。アイラ達が連れて行かれて時間も経ってるみたいだし」


 若者達からすればアイルに聞きたい事は山ほどあるのだが、アイルにとってそれ以上に語ることはなにもない。その為、一人だけさっさと外へと足を運ぶ。

 そんなアイルの背を見つめながら拳を握っていたザザは、僅かに震えた声で呼び止める。


「ま、待ってくれ!」

「おっ? どうかした?」

「お、俺も一緒に行く! ルキナを助けたいんだ!!」

「別に構わないけど、戦えるの?」


 ザザから呼び止められたアイルは足を止めて振り返る。

 呼び止めた理由はザザもルキナを助けに行くために同行するためで、それを聞いたアイルは構わないと思いつつも一つだけ確かめる。それは、ザザが戦えるのかということだけ。

 荒れている集会所と傷が見当たらないザザ達を見比べれば獣人と交戦したのはアイラ達だという事ぐらいはアイルの頭でも容易に考えられる範疇で、だからこそ戦えるのかをザザに確認だけでもした。


「少しぐらいなら戦える、けど……そのお前ほどそんな自信は……」

「まっ、良いや。それじゃ、もう行くから背中に寄りかかって」

「馬で行くんじゃないのか!?」

「あんな遅いのじゃ時間が掛かるからボクが背負った方が余程速いよ」

「はっ、えっ、ちょっ!?」


 アイルからザザに近寄ると背中に乗りかかるように指示すると、ザザはその言動に戸惑い迷ってしまう。

 当然だ。馬よりも速く走れる人間はそうは居ない。騎士団の主な移動手段さえ馬や飼い慣らした翼竜で、子供がそれを上回る速力を出せるとは考えない。そんなザザの戸惑いは可笑しくはないのだが、焦れったくなったアイルは無理矢理にザザの右腕を掴むと背負った。

 背負ったのだが、やはり身長差という物理的な壁がありアイルがザザを背負ってもザザの両足が床に当たってしまう。

 それを実感したアイルはザザの方を向いて口を開く。


「ねえ、置いていっていいかな。やっぱり邪魔だよ」

「おまっ! ひどくねえかそれは!?」


 体格差までは流石にどうしようもない。ザザの腰に腕を回そうにもアイルの腕の長さではやはり届かないので、正直にアイルは言い放つ。邪魔だから置いていって良いのかと。

 それを聞くと酷い奴だなとザザもストレートに口走る。


「それならこうするしかないかな!」

「なっ、ちょっ!? 俺は男だぞ!?」

「五月蝿いな、こうするしか連れて行けないだから我慢してよ」


 色々と連れて行く方法をアイルが思案すると名案と言いたげな表情で行動に移る。その動きにザザは目を丸くしながら、抵抗する間もなくアイルにお姫様抱っこされた。

 少なくともお姫様抱っこは夢見る乙女がされたい抱かれ方だ。男のザザは求めてないだろうし、相手は自分よりも体の小さな子供という事もあって男としてのプライドに傷がつく。そんなザザの格好を見て笑いを堪えていた。


「ぷくくっ!」

「少年×青年……アリだわ!」

「なにがっ!? 今の不吉な言葉はなんだよ!?」


 笑いを堪える者や何やら不気味な笑顔を浮かべる者などいるが先程までの陰鬱な空気はどこかへと消えていた。


「よしっ、それじゃダッシュでブルゴーニュまで走るよ。舌を噛みたくなかったら喋らないこと」

「あ、ああっ! って、ぎゃああああっ!!?」


 外に出るとアイルは足腰に力を込めて地面を蹴る。刹那、強い突風が吹きアイルは瞬く間に集会所から去って行く。

 その余りの速度に驚愕の声を漏らすザザの声だけが虚しくレジスタンスに属する面々の耳に残る。豆粒ほどにも視認し難い程の距離を広げる姿にアイルに対して良い印象を持っていなかった青年達の印象が変化していた。


「あの餓鬼ってあんなに凄い速度で動けるのかよ……」

「メイドと同じぐらい? もしかしたらそれを超えてるかも、けどやっぱり生意気な餓鬼よ」


 少なくとも生意気な子供という印象は消えてはいないが。

 一気に外へと駆け出したアイル達は言うとほんの数秒で夕日が沈む背景をバックに草原を駆け抜けていた。当の本人はただ一心にブルゴーニュを目指しており、横抱きされているザザは唖然としてアイルの顔を見ていた。

 速い。そう余りにも人間離れしているスピードでザザは口を開ける事が出来ずにいる。


「獣人がいる場所はザザが知ってるでしょ? ブルゴーニュに着いたら案内よろしく!」

「っ!」


 アイルとてイースの居場所の居住地は知らないのでブルゴーニュに到着した後の案内を依頼する。

 言葉では返事が返せそうにないザザは二度頷き了承の意を示すと、アイルは一つ笑みを落としてさらに加速した。色々と吐き気さえしてきたザザは右手で口を抑えて吐かないようにする。


(まだスピードが上がるのか!? うえっ、なんか気持ち悪くなってきた……)


 風景はまるで色とりどりの無数の線のようでザザの目では目まぐるしく世界が変化しているようにさえ感じ吐き気を催していた。勿論、胃のほうも実際に気持ち悪いのだろう。そんなザザの事などお構いなしのアイルは駆けていく。



 都市ブルゴーニュを現在、束ねている獣人のイースの前には鋼鉄の手錠で両手首を縛られているアイラ達が膝まづいていた。アイラはイースを眼前にし体は小刻みに震えている。それでも、今は視線をイースから外そうとはしない。

 だが、イースの視線はアイラではなくキリエの方へと向けられている。まるでキリエを品定めするかのように頭から爪先まで見る。


「貴様が吸血鬼か。伝承通り美しいな」

「そうですか。それで、貴方の目的はなんでしょうか? アイラ様達を狙っているようですが、しょうじき邪魔なのですけれども」


 キリエのその美しい顔と肢体を見終えるとイースは賛辞する。しかし、興味のないキリエはそれをさらりと流してさっさと本題へと入る。

 言葉遣いは良いが声色には怒気が含まれているようで、目が笑っていない。それはイースに伝わっており口許は不敵に釣り上げられていた。


「ゴリアス達から聞いておらんのか? 俺の目的はアイルという餓鬼を捕まえて献上する事なんだよ、無論――殺してな。そうすればさらに俺は上の地位へと行ける。そして、いずれは獣人という種族の素晴らしさを世に知らしめる!!」


 高らかに己が野望を語るイースに顔を顰めてしまうアイラ。あまりにも理不尽な発言に耳を塞ぎたくなっていた。


「もっともその小僧はここには居なかった。クハハッ、臆病風に吹かれて逃げだしたか?」

「なっ!? アイルが逃げるわけないよっ、どうせもうこっちに来てるもん!!」


 アイルの事を虚仮にするイースに食ってかかるアイラは確信めいた表情で向かっていると発言する。

 そう来るのだ。アイルの性格を一番理解しているのは間違いなくアイラで、それはアイラ自身も自負をしている。

 レストランでルキナとザザの二人から話をイースが獣人で強者(つわもの)だと聞かされた時なんか、非常に興味を示し特攻しようと宣言するぐらいだったのだ。勿論、それはキリエのお陰で阻止することが出来た。しかしだ、次はもう誰も阻止する者が居ないのだアイルのことを。自ずとそういう風に至ってしまったアイラは苦笑いを浮かべずにはいられなかった。


「小娘、何がそんなに可笑しい?」


 どこか安心を感じており、凡そ見た目や性格、さらには現在の状況からは結びつかない表情を見せているアイラに怪訝な表情を向けるイース。


「もうすぐかなって」

「もうすぐ、ですか?」

「なにがあるのアイラ?」


 跪いた状態ではアイラの体格からでは窓の外は見えないのだが、窓を黙って見続けていた。それに釣られてなのかキリエやルキナも窓の方へと視線を向ける。

 刹那、大砲でも撃ったかのような爆発音を轟かせ建物を小さく揺るがした。小刻みに震える窓ガラスに小さな亀裂が走る。


「まさかっ!?」


 有り得ない。そう言いたげな表情で窓から外を眺める。

 そこには魔法をや弓矢を放つ部下など見てとれるが誰一人として的に当てる事が出来ていない光景。微かに見える金色の髪が部下たちの横を通り抜け、すぐさま別の部下が倒れ込んでいく。


「な、なんだこのガキはああっ!?」

「く、来るっ!? ぎやあああっ!!」


 外から聞こえる部下たちの悲鳴。それを耳にする度にイースの体が震える。

 それは子供に言いように遊ばれているからなのか、それとも部下が情けなさから湧き出る怒りなのか。少なくとも気分は良好ではない。

 爆音から破壊音へと変わる。そして、(たけ)るアイルの声に歯軋りをするイース。


「だりゃあああっ!! どうした、獣人ってこんなもんなのかあっ!!」

「よ、よく俺を抱いたまま戦えるよなっお前って!?」

「んんっ、この人達の行動が遅いんだよ。魔法だって完成される前に攻撃しちゃえば防げるしね!!」


 魔法相手は撃たれる前に撃つを実行しているアイル。これはコルネット王国でセルシルに指南されたこと。

 特に近距離戦闘が主体のアイルには遠距離戦闘が得意な相手が一番の難敵。だが、魔法を撃つには必ず数秒のタイムラグがある為、他者よりも飛び抜けてスピードがあるアイルには然程問題にはならない。

 それでも魔法を放たれる事はあるが、全て紙一重で避けてはイースが住まう屋敷の中庭が魔法によって破壊されていく。獅子を模して作られた噴水もアイルによって蹴り飛ばされた警備兵との衝突で粉砕し水が飛び散りアイルやザザにもシャワーのように降りかかる。


「一気に飛ぶからね!!」

「ちょっ、まさかおまえっ!?」

「そのまさかさっ」


 このまま警備兵の相手をしても埒があかないと悟ると、アイルはやはり横抱きしているザザに跳躍する事だけをにこにこと笑みを浮かべて伝達する。

 もう嫌な予感しかしないザザは顔を青褪めるしかなく。ザザの気持ちなど無視してさらに素敵な笑みを一つ零して、足腰に力を込め一気に跳ぶ。青年一人など重しにも感じないアイルはイースが居るであろう階へと跳躍すると、バルコニーに立ち壁を右足で蹴り破壊する。そして、そのまま何事もなくザザを連れて再び赤い絨毯が敷かれた廊下を駆けて行く。


「ほらね。アイルが恐怖なんて抱くなんてないよ、だって私の――だもん」


 爆発音と破壊音の協奏曲をその耳に入れながらアイラが小さく微笑む。

 そして、話す声を妨げる音の数々にアイラの言葉がかき消される。


「アイラ様、ルキナさん、この場から立ち去りますよ。アイル様が来た以上、人質になる理由などないのですから」


 まさかアイラの言葉が現実になるとは思いもしなかったキリエはつい苦笑いを浮かべてしまうが、人質のままでいる方が余程に不利になると感じ、即座に鋼鉄の手錠を無理矢理に千切り破壊した。

 簡単に鋼鉄の手錠を千切るキリエにルキナは目を点にしてしまう。分厚く、まず斬れそうにない程の堅さを誇るそれを難なくするものだから余計に信じがたいのだ。


 解放された手首を解放したキリエはアイラとルキナの手錠も手で握り潰して粉々にすると、扉に立つ警備兵の足を狙いタガーを放つ。


「まさか……わざと人質になったとでも言うのか従者風情が!?」


 子供一人に自分が築き上げてきたもの崩されていく様を見て苛立ちを隠せないイースはキリエに声を荒げて問いかける。


「それはどうでしょうかね?」


 イースの問いにはきちんと答えずにキリエはクスクスと笑うだけ。

 その態度がイースのカンに触る。しかし、ここで怒りに任せてキリエに殴りかかるなんて野蛮なことはしなかった。

 目的はあくまでもアイルを殺し、その死体を献上すること。そう、その本人がここに自ら訪れようとしているのだわざわざ他人の相手をする必要はない。


「あれっ!? アイラ達、連れて行かれたんじゃなかったの?」


 もう既に着いていたアイルはアイラ達を見て、あり?っと首を傾げてしまう。


「も、もう良いだろう? お、おろしてくれ恥ずかしいんだが……」

「あははっ、ごめんごめん」


 ようやく足を止めたアイルに下ろすよう告げるザザの顔は赤い。いまだに彼はアイルからお姫様抱っこされた状態なのだ。言われた通りアイルは軽く謝りながらザザを下ろす。

 そして、そんな可笑しな登場の仕方をしたザザに怪訝な表情で見るルキナは問う。


「ザザッ!? な、何してるのよ……それに何でそんな?」

「頼む、聞かないでくれよ……!」

「そ、そう? あの子に振り回されたのね、同情するわ」

「すまねえ。それよりも何もされなのかったのか?」


 ルキナはルキナでザザがアイルと一緒に居る事にも驚きが大きかったのだが、お姫様抱っこされていた姿の方ばかりに視線がいっていたが、ザザの恥ずかしそうにする姿を見て深くは聞かなかった。と言うよりもアイルが居る時点で、ああ、振り回されたのかと察することが出来ていた。

 恥ずかしがっていたザザも自分がここに来た事をすぐに思い出し、ルキナに安否を確認する。


「え、ええ。もしかして、私の事が心配で来たのかしら?」


 慌てたような少し強めに腕を掴むザザに驚きながらも、見るからに心配している姿がルキナの悪戯心を擽ってしまい。少し挑発気味に聞き返してしまう。


「当たり前だろ! 勝手に一人で決めがって、心配させんなよ!!」

「そ、そうね。あ、ありがとう……」


 そんなルキナの反応に少し怒った口調で答えるザザ。

 だが、それ程に心配していたことが伝わっておりルキナはつい場所を気にせず頬を赤く染めてしまう。


「これが恋愛なんだ、はわぁー」


 ルキナとザザのやり取りを見て若干、興奮気味なのはアイラただ一人。周りには多くの警備兵によって囲まれているなど既に意識すらしていない。

 それを意識しているのアイルとキリエの二人だけ。なのだが、アイルはあいも変わらず楽しそうにしておりキリエは淡々と迎撃の準備だけを黙ってしていた。


「集まってきたな~。まだまだ、沢山いるんだ」

「みたいですね。それに、四獣も集まっておられませんし」

「そう! くっそー、ボクも戦いたかったなー」


 囲うように集まる警備兵を見て呑気な会話を繰り広げるアイルとキリエに警備兵達は訝しげに視線を向けるも、アイルの視線は一向にぶれない。


「君がイース? ほんとに獣人なの? 見るからに人間なんだけどなあ」


 躊躇いもなく右足を一歩、イースの方へと進める。その度に警備兵が僅かに反応する。

 目を細めてイースを凝視するアイル。目を擦っても毛皮なんて見当たらない。尾も見当たらない、そんなイースの姿をアイルは疑う。


「体はデカいね。ボクの倍以上はあるんじゃないの?」

「その呑気な言葉は余裕のつもりか、小僧?」


 恐れなど知らぬアイルはイースへと歩み寄り見上げる。圧倒的に体格差に感嘆の言葉を口にするアイルはどこか楽しそうで、そんなアイルの態度が何よりも気に食わないイースは拳を強く握りしめている。


「ねえ、船を出して欲しいんだけどさ。やっぱり駄目なの?」


 イースの内なる怒りなど気にもしなければ気付きもしないアイルは図々しくも船の出港を求めた。

 自分が居る場所や周りの状況など眼中にないのかマイペースさを崩さずイースに自分の要求を口にする姿に、アイラは苦笑いを浮かべ、キリエは小さく溜め息を吐き捨て呆れ表情を向ける。そして、ルキナとザザは急いでアイルの方へと駆け出しては口を無理矢理塞ぐ。

 そんな三者三様の光景に警備兵らは困惑してはただ黙って見過ごすだけ。そもそも、全員が全員、イースの事を慕っているわけではない上に仕方なくイースの下にいるだけの者も多い。


「ククッ、ハハハッ! どこまでも俺を舐めくさった餓鬼だな!! それ程までに切り刻まれて死にたいか!?」

「もう、苦しいなっ。 さーて、そんな簡単に上手くいくかな?」


 たった一人の少年にここまで場の空気すら虚仮にされたイースは怒りの形相で床を強く蹴り周囲を恐嚇(きょうかく)する。その激しい振動にアイラは小さな悲鳴を上げ背筋が伸び、ザザとルキナもまた同じように怯えてはアイルの口を塞いでいた手を離してしまう。

 口を塞がられていたアイルはザザとルキナにもうっと言った感じで不満をぶつけると、再びイースを見上げる形で睨む。普段はあまり真剣な表情を見せるような性格ではないが、今ばかりは凛としている。それでも、その表情に興奮に似た何かが見え隠れしていた。

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